第 4 章 ネットワークとエンドホストの連携による遅延の増大への対応 47
4.3 FR-TCP の性能評価
4.3.2 帯域割当ての公平性
FR-TCPの基本的な動作を確認するため,2.2.1節で説明したシミュレーションとほぼ
同じ環境で,トランスポート層プロトコルとしてFR-TCPを利用した場合のシミュレー ションを行った.
シミュレーション条件を表4.1にまとめる.
ネットワーク内における各コネクションのスループットの測定結果RateF RをTCP Reno とFR-TCPに関して,図4.7に示す.
また,表4.2にTCP RenoとFR-TCPの場合の帯域使用量と公平性を示すFairness Index (F)[41]を示す.
表中のF より,提案するFR-TCPはTCP Renoと比較して帯域割当ての公平性が改善 されていることがわかる.またRateF Rより,FR-TCPを利用した各コネクションは全て FR以上の帯域で転送が行われていることがわかる.
表 4.1: シミュレーション条件(基本動作) 集約内のコネクション数 6本 (固定)
契約帯域量 9 Mbit/s
FR 1.5 Mbit/s
RTT 40 ms, 80 ms, 120 ms, 160 ms, 200 ms, 240 ms TCP輻輳制御機構 全てFR-TCPを使用
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
flow 1 flow 2 flow 3 flow 4 flow 5 flow 6
Achieved Rate [Mbit/s]
flow ID
TCP Reno TCP Reno FR-TCP FR-TCP Fair Rate
図 4.7: 測定結果(基本動作)
表 4.2: 測定結果(基本動作) RateReno RateF R Total 9.983 (Mbit/s) 9.999 (Mbit/s)
F 0.8355 0.9965
0 10 20 30 40 50 60 70 80
0 50 100 150 200
Window Size [segments]
Time [sec]
Flow 1 (RTT 40msec) Flow 6 (RTT 240msec)
図 4.8: 輻輳ウィンドウの時間変化
0 0.5 1 1.5 2 2.5
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
Achieved Rate [Mbit/s]
Time [sec]
Flow 1 (RTT 40msec) Flow 6 (RTT 240msec)
図 4.9: 送信側スループットの時間変化
表 4.3: シミュレーション条件 (公平性1)
集約内のコネクション数 6
契約帯域量 9 Mbit/s
FR 1.5 Mbit/s
RTT 40 ms, 40 ms, 40 ms, 40 ms, 40 ms, 30〜1210 ms (T ms) TCP輻輳制御機構 全てFR-TCPを使用
図4.8にFlow 1 (RTT = 40 ms)とFlow 6 (RTT = 240ms)が含むTCPコネクションの 輻輳ウィンドウの時間変化を示す.また図4.9に各コネクションの送信側におけるスルー プットの時間変化を示す.
シミュレーション終了時のTCPが見積るRTTの平均値は,RTTが40 msのコネクショ ンで約96.8 ms, RTTが240 msのコネクションで約308.8 msであった§.これより,各コ ネクションがFRに合わせた送信を行うために必要なウィンドウサイズは,RTTが40 ms の場合は,
1.5×106(bit/s)×0.0968(sec)
1000×8.0(bit/M SS) = 18.2(セグメント) (4.6) と計算され,また,RTTが240 msの場合は,
1.5×106(bit/s)×0.3088(sec)
1000×8.0(bit/M SS) = 57.9(セグメント) (4.7) と計算される.図4.8において,各コネクションの輻輳ウィンドウはほぼ常に計算値を 上回っていることから,FR-TCPでは通知されるFRに対応する大きさで輻輳ウィンド ウが変化していることがわかる.そしてそのような輻輳ウィンドウの調節を行い,ECN 機能を利用することで,図4.9にあるように各コネクションがFRに近い帯域で安定した データ転送を行っていることがわかる.
次にFR-TCPがどの程度公平性を改善するかを評価するため,1コネクションだけRTT
が異なるようにコネクションを集約し,そのコネクションのRTTを変化させた場合の各 コネクションの帯域割当ての公平性を評価する.
シミュレーション条件を表4.3にまとめる.
図4.10に変化させたRTT (T)と当該コネクションのネットワーク内で測定したスルー プットの関係を示す.なお図には比較のため,同様の条件で輻輳制御にTCP Renoを用 いた場合についての結果も併せて示す.
図に示されるように,TCP Renoを利用した場合はRTTが増加するにつれそのスルー プットが低下し,RTTが他のコネクションと比べて約10倍の大きさ (410ms) になる場 合には,スループットはFRの約30%しか達成できていないことがわかる.それに対し
FR-TCPを利用した場合,RTTが他のコネクションよりも突出して大きくなった場合で
§実際のRTTにはキューイングによる遅延が含まれる
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
30 70 110 150 190 230 270 310 350 390
Achieved Rate [Mbit/s]
RTT [ms]
TCP Reno FR-TCP
図 4.10: RTTの変化に対するスループット特性
も常にFR以上の帯域で転送が行われていることがわかる.これより,FR-TCPは集約コ ネクション内でよりRTTの大きなコネクションに対して適用した場合に,その改善効果 が大きくなると考えられる.
更に図4.11に,変化させたRTT (T)と集約コネクションの公平性を示す指標F の関係 を示す.
図より明らかなように,FR-TCPは帯域割当ての公平性を大きく改善しており,変化 させたRTTが他のコネクションよりも大きくなるにつれてより大きな改善効果が得られ ていることがわかる.
また,図4.10のRTTが30 msの場合に注目すると,TCP Renoを用いた場合のスルー プットの方がFR-TCPのそれを上回っており,この環境では TCP Renoの方が優れた性 能を示しているように見える.
しかし,これは当該コネクションが他のコネクションよりもRTTが短くなったために割 当てられる帯域量が増した結果であり,公平性の点からは 図4.11にあるように,FR-TCP の方が優れた結果を示していることがわかる.
このようにFR-TCPは,既存のTCPを用いた場合にFR以上の帯域で転送を行うよう なコネクションが利用している帯域を,FR以下の帯域でしか転送を行うことができない コネクションに割当てることによって公平性を向上させている.これより,FR-TCPは集 約コネクション全体のスループットを落とすことなく公平性を向上させることができてい ると考えられる.また,全体のスループットが既存TCPと同様なことから,FR-TCPは
0.84 0.86 0.88 0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 1
200 400 600 800 1000 1200
Fairness
RTT [ms]
FR-TCP TCP Reno
図 4.11: RTTの変化に対する帯域割当ての公平性
集約以外のコネクションに影響を与えることなく集約内の公平性を向上させることができ ると考えられる.
更にFR-TCPの効果を検証する評価として,FRを固定したままでリンクの最大帯域量
を変化させた場合の帯域割当ての公平性を評価する.
シミュレーション条件を表4.4にまとめる.
図4.12にリンクの最大帯域量と帯域割当ての公平性の関係を示す.
図のように,リンクの最大帯域量が大きくなるにつれてF の値は減少しており,リン クの帯域量が50 Mbit/s以上の場合にはFR-TCPとTCP Renoの間の性能にほとんど差 がないことがわかる.
これは,FR-TCPはFR以上の帯域利用に関してはそのアルゴリズムに何の修正も行っ
表 4.4: シミュレーション条件 (公平性3)
集約内のコネクション数 6
契約帯域量 9 Mbit/s
FR 1.5 Mbit/s
RTT 40 ms, 80 ms, 120 ms, 160 ms, 200 ms, 240 ms TCP輻輳制御機構 全てFR-TCPを使用
リンクの最大帯域量 10 〜 100 Mbit/s
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
Fairness
Link Bandwidth [Mbit/s]
FR-TCP TCP Reno
図 4.12: リンクの最大帯域量と帯域割当ての公平性の関係
ておらず,従来のTCPと同様の動作をすることが原因として挙げられる.FR-TCPはFR までは積極的にデータを送信するが,FR以上のデータ送信に関してはネットワークへ与 える影響を考慮して従来のTCPと全く同じ制御を行う.そのため,今回の評価のように 契約帯域量以外に余剰な帯域が大量の存在する場合,FR-TCPは余剰帯域の割当ての公平 性を改善することができないので,RTTの短いコネクションほどより多くの余剰帯域を 獲得してしまう.結果として,余剰帯域に関しては,不公平に帯域が割当てられてしまっ ている.今回の評価結果は,そのような余剰帯域利用に関する不公平性が,FR-TCPに よる改善効果上回ったことが反映されていると考えられる.