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小学校社会科における産業社会認識形成の授業開発

第三章 「都市化する地域社会」の教育内容と授業モデル

第三部  小学校社会科における産業社会認識形成の授業開発

第六章「近代化する農業社会」の教育内容と授業モデル 第一節「近代化する農業社会」の教育内容

一 問題の所在

(1 )『学習指導要領社会』および教科書の内容編成原理

農業は、これまでも、今も、そしてこれからも,わが国における重要な産業であること ば間違いない。では、これまで一般的に行われてきた農業学習には、問題はないのだろう か。まず、教科書の内容編成を分析することを通して、農業学習の問題を明らかにしたい。

はじめに、教科書の内容編成を分析する前に、教科書が準拠している『学習指導要領社 会』 1'の構成を確かめておきたい。以下に、第5学年の産業学習に関わる目標と、農業学 習にかかわる内容を示す。

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:rl 目 標      …

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: (1)我が国の産業の様子、産業と国民生活との関連について理解できるようにし、我;

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; が国の産業の発展に関心をもつようにする。       ;

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2 内 容       ;

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( 1 )我が国の農業や水産業について、次のことを調査したり地図や地球儀、資料など:

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を活用したりして調べ、それらは国民の食料を確保する重要な役割を果たしている;

ことや自然琴境と深いかかわりをもって営まれていることを考えるようにする。 …

l l

ア 様々な食料生産が国民の食生活を支えていること、食料の中には外国から輸入;

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しているものがあること。       :

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イ 我が国の主な食料生産物の分布や土地利用の特色など         :

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ウ 食料生産に従事している人々の工夫や努力、生産地と消費地を結ぶ運輸の働き;

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第5学年で最終的にねらうものは、 「我が国の産業の発展に関心をもつ」ことである。

こういった態度目標を達成するために、 「我が国の産業の様子、産業と国民生活との関連

、 l

について理解できる」という理解目標がある。そして、児童に理解させるべき内容は、農 業に関していえば、我が国の農業が「国民の食料を確保する重要な役割を果たしているこ と」であり、農業が「自然環境と深いかかわりをもって営まれていること」である。ただ

し、具体的な内容として挙げられるア・イ・りは並列的な関係ではない。 「食料生産に従 事している人々の工夫や努力」の結果、 「国民生活の維持と向上や産業の発展が図られて いることを理解できるようにするとともに、我が国の産業の発展に関心をもつようにする」

のである2'。すなわち、 「食料生産に従事している人々の工夫や努力」を内容として学ぶ ならば、農業が「国民の食料を確保する重要な役割を果たしていること」が理解でき、同

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時に「我が国の産業の発展に関心をもつ」ことができるであろうという構成になっている。

この態度目標のめざすも甲は「自らが社会生活に適応し,地域社会や国家の発展に貢献し ようとする態度」 3)であるため、実際の授業で取り扱う人々の「工夫や努力」はそういっ た態度形成にふさわしいものであろうと考えられるが、 『小学校学習指導要領解説 社会 編』 (62頁)には「生産を高める」 「消費者の需要に応え、新鮮で良質な物を生産し出荷 する」という目的のための「工夫や努力」としか書かれていないため、教科書分析を通し て、さらに具体的に内容編成原理を追求していきたい。

図6‑ 1は、東京書籍の教科書『新しい社会5上』 4'における農業学習単元「米づくり のさかんな庄内平野」の内容編成を示している。

この教科書の構成は、平成10年版『学習指導要領社会』の内容編成に準じており, 2 つの内容に分けることができる。すなわち、我が国の農業は、 「自然環境と深いかかわり をもって営まれている」という地形条件や気候条件などの自然環境に対する人々の働きか けと「国民の食料を確保する」ための「人々の工夫や努力」である。

「自然環境と深いかかわりをもって営まれていること」を理解する内容については、平 野の広さや標高、川、気温、日照時間といった自然環境が米づくりに適しているというこ と、不適当な自然環境は先人が克服したという歴史的条件によって庄内平野では米づくり がさかんであることを原因・結果の関係で記述している。

「人々の工夫や努力」を理解する内容については、庄内平野で米づくりがさかんである 理由を、目的・手段の関係で記述している。庄内平野の農業に従事している人々は、 「お いしくて安全な米をつくって消費者へ届ける」といった目的を達成するために、さまざま な「工夫や努力」を手段として実行する。たとえば、種もみを塩水につけてよいもみを選 んだり、ハウスの中で苗を育てたり、さまざまな「工夫や努力」を重ねる。それは,事例 農家の伊藤さんに限らない。農業協同組合の石原さんも農業試験場の佐藤さんも、同じ目 的に向かって、 「工夫や努力」を重ねるのである。もちろん、稲作農家に問題がないわけ ではない。米消費量の減少や米の輸入といった問題に農家は直面している。ただし、農家 の人々は耕地の整備や機械化、農作業の共同化といった「工夫や努力」によって問題の解 決に取り組んでいるのである。こういった目的の達成に向けての人々の「工夫や努力」の 記述に本単元のほとんどのページが割かれている。

授業は表右側の具体的事実(原因、手段)を児童に提示して考えさせながら、表左側の 先人の業績や農家の願い(結果、目的)を理解させるように構成されるであろう。さらに 農家に寄り添って理解できるように、具体的事例農家・伊藤さんを家族写真とともに登場

させる。

さて、この教科書記述に沿って学習した場合、 3つの問題を生じるであろう。

第一の問題には、児童の社会の見方を、事例農家など個人の「工夫や努力」といった行 為レベルにとどめてしまう危険性があることが挙げられる。農業に従事している人々の「工 夫や努力」の追求は、児童にとってわかりやすい。しかし、約1血aの平均的な耕地面積 の農家では経営が成り立たないこと、農村(農業)から都市(工業)へと労働力の流出が 続き、農業は女性と高齢者によって支えられていることなど、社会構造の中での‑農家を 捉えさせることができなければ、社会の一側面しか認識させることはできない。

学習問題:庄内平野の自然環境と米づくりとのかかわりについて,調べてみましょう。

(結 果)

庄 内 平 野   で   は 米 づ   く り が さ か ん   で あ る

庄内平野の自然 環境は、米づく

りに適している

先人は米づくり に不適切な自然 環境を克服した

(原 因)

広いところで東西16km、南北50kmもの広さがある 標高15m以下の平らな土地が多い

最上川、赤川、日向川などたくさんの川が、豊富な水と栄 養分の豊かな土を平野に運んできた

夏は気温が高く、日照時間が長い

土地が低く平らなため、かえって川から水を引くのに苦労

した′

季節風などによって運ばれてくる砂との長い戦いが続いた 学習問題:庄内平野の農家の人々は.どのようなくふうや努力をして,米づくりをして

いるのでしょう。

(目 的) おいしくて安全 な米をつくって 消費者へ届ける

工夫・努力 (手 段)

種もみを塩水につけてよいもみを選ぶ ハウスの中で苗を育てる

水を管理する

用水路と排水路を分ける 田に溝をつくる

水を出したり抜いたり深さを調整する 複数の川から水を得る

化学肥料の使用 堆肥の使用

農薬散布回数の削減

農業試験場での品種改良や育成方法の研究 農業試験場での農家の研修

温度と湿度を一恵に保った米の保管 高速自動車国道を使用したトラック輸送

学習問題:伊藤さんたち庄内平野の稲作農家は.米づくりにおきている問題に対し て.どのようなくふうをしているのでしょう。

(目 的) 米消費量の減少

や米の輸入とい う問題に対処す るために効率よ く米をつくる

工夫・努力 (手 段)

国の援助のもと耕地を整備する より大型で性能のよい機械を使用する

大型機械の使用を初めとした農作業の共同で行う

図6‑1 「米づくりのさかんな庄内平野」『新しい社会5上』東京書籍の内容編成

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第二の問題は、この学習で習得された知識は、応用の利く範囲が狭いことにある。さま ざまな農家の「工夫や努力」は、庄内平野以外の稲作農家でもみられることかもしれない。

しかし農業の他の分野(野菜づくりや畜産)、ましてや工業には適用できないものがほと んどである。

第三の問題は、特定の態度形成がめざされていることにある。事例農家の伊藤さんも農 業協同組合の石原さんも農業試験場の佐藤さんも、それぞれがそれぞれの立場で「おいし くて安全な米をつくって消費者へ届ける」という目的の達成に向けて、さまざまな「工夫 や努力」を重ねる。その具体的な様子は、農業の発展に貢献する姿そのものである。伊藤 さんや石原さん、佐藤さんが、なぜそのようなことをしているのか、 3人の行為は自分た ち国民の生活にとってどのような社会的意味があるのか、について児童に考えさせれば、

児童は共感的に理解し、 「3人を、ひいては農業を、応援したい」という想いを持つこと になるであろう。つまり、伊藤さんたち3人の行為を扱えば、児童は「我が国の産業の発 展に関心をもつ」ことが期待でき、さらには「地域社会や国家の発展に貢献する態度」を 育成することができるであろう。すなわち、目的・手段の関係のもと、ここに挙げられた

ような人物を扱うことは、学習指導要領がめざす態度形成にふさわしいのである。

『学習指導要領社会』およびそれに準拠した教科書にみられる内容編成原理の特色は、

このようにめざすべき態度形成‑価値観にふさわしい内容が選択され、それを児童に教え 込むことが意図されているところにある。そのため内容は、 ‑農家の「工夫や努力」の枠

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組みにとどまり、社会の枠組みを教えるにはきわめて弱いものになっている。つまり、 「社 会科は、社会認識形成を通して市民的資質を育成する教科である」といわれながら、その 実態は、 「市民的資質‑態度を形成するために、社会認識を形成する」という逆転された 構図になっていると考えられる5)0

(2)個人の視点からの社会認識形成

特定の態度形成をめざす社会科は、態度主義社会科と言っていいだろう。これまでの授 業実践をみると、あまりに態度主義社会科が多いことに気づく。そして、その原因には、

特定の視点からの授業づくりが挙げられる。なお、ここで分析対象とした授業は、次の視 点から選んだ。

○ 米づくり農家のみを扱っていること。

○ ‑単元数時間にわたる実践において、目標・内容・方法さらには、児童が習得したで あろう知識および農家が農業を続けていく理由が明らかであるか、または推測可能であ ること。

既に明らかにされている農業学習の授業実践は、数多いが,以上2点に当てはまる実践 は少ない。その中から、代表的な実践として、以下のものを挙げることができる。

資料6‑1 : 「「わたしたちの生活と農業(日本の農業の変化)の教え方」歓喜隆司編『子どもを生 かす社会の教え方・小学5年』 (明治図書)の授業構成

目標:農民たちがいかに「自然条件を生かしながら、技術の改良、経営の改善に努めてき たか」を理解させ、生産向上のための農民たちの苦労や悩み、喜びを感じ取らせる。

内容:戦前の佐賀段階と,戦後昭和40年代の新佐賀段階,そして、新佐賀段階以後の現

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