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対象特性 -1 高齢者

ドキュメント内 表紙(抜粋版) (ページ 138-180)

参考 2 栄養素の指標の概念と特徴

2 対象特性 -1 高齢者

1.はじめに

平成に入り日本では高齢者の数ならびに割合が急増し、現在では65歳以上の人口の割合 が総人口の1/4を占めるまでに至り、大きな人口構造の変動が起きている。今まではマイノ リティーであった特に75歳以上の後期高齢者層は、今後日本ではこの年代しか人口が増加 しないという、超高齢社会に突入している。それに伴い医療のターゲットになる年齢層も 上昇し、健康問題も生活習慣病予防だけではなく、寝たきり予防、健康寿命延伸、自立し た生活の維持、介護予防などの重要度が増して来ている。高度成長期以降、日本での少な くとも成人の栄養の問題は過栄養がクローズアップされてきた。しかし、今後超高齢社会 における栄養の問題は、先の過栄養の問題だけではなく、健康寿命の延伸、介護予防の視 点から後期高齢者が陥りやすい「低栄養」「栄養欠乏」の問題の重要性が高まっている。

超高齢社会に突入している我が国においては今後要介護高齢者を増やさない対策、すな わち介護予防対策は喫緊の課題である。もちろん脳卒中を初めとする疾病予防の重要性は 言うまでもないが、後期高齢者が要介護になる原因として無視できないのは、「認知症」「転 倒」とならんで「高齢による衰弱」である 1)。「高齢による衰弱」とはまさしく老年医学で 言うところの「虚弱:フレイルティ(frailty)」を含んでおり、低栄養との関連が極めて強 い。また、高齢者の身体機能障害のリスク因子、転倒リスク因子として加齢性筋肉減少(以 下、サルコペニア)も注目されている。この病態は栄養障害、虚弱(以下、フレイルティ)

とも関連が強く、今後転倒予防や介護予防の観点からも重要である。高齢者を対象とした 定期的な栄養評価により、早期にそれらのリスクを察知し、適切な介入によりフレイルテ ィやサルコペニアに至るプロセスを少しでも遅らせることが、今後の日本の医療には重要 な視点である。

認知症は要介護に至る原因のみならず、医療、介護、福祉、その他多くの分野に関わる 超高齢社会が抱える大問題である。最近の調査によると認知症の有病率は65歳以上の高齢

者では15%にも及び、日本には現在450万人以上の認知症患者が存在すると推定されてい

る。さらに高齢者の増加が予測されている我が国にとっては認知症予防の重要性は言うま でもない。昨今、認知機能ならびに認知症発症と種々の栄養素との関連が報告されてきて いる。

2.基本的事項

2-1. 対象となる高齢者

高齢者の定義は少なくとも先進国では65歳以上とされている。さらに高齢者を前期高齢者

(65歳から74歳まで)、後期高齢者(75歳以上、または75歳から84歳)、超高齢者(85 歳以上)と分けることもある。一方で、日本は言うに及ばず全世界的に平均寿命は延びて おり、高齢者の年齢基準を上げるべきであるとの議論もある。日本人の食事摂取基準(2015 年版)の年齢階級は50~69歳、70歳以上と、50歳以上では2階級しか存在しない。今後、

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後期高齢者が増加する我が国においては、将来50~64歳、65~79歳、80歳以上などの階 級に分けて考えるべき時期に来ているかもしれない。

平成25年度版の高齢社会白書によると、平成24年度の65歳以上の高齢者人口は、過去

最高の3,079万人(前年2,975万人)となり、総人口に占める割合(高齢化率)も24.1%

となった 2。その内、前期高齢者(65歳から74歳)12.2%、後期高齢者(75歳以上)は 11.9%であり、ほぼ半数が後期高齢者である。今後日本では総人口の減少が予測されている が、一方で、高齢者人口は「団塊の世代」が65歳以上となる平成27(2015)年には3,395 万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる平成37(2025)年には3,657万人に達する と見込まれている 2)。総人口が減少するなかで高齢者が増加することにより高齢化率は上 昇を続け、平成 47(2035)年に 33.4%で3人に1人となることが予測されている。平成

54(2042)年以降は高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、平成72(2060)

年には39.9%に達すると推計されている。高齢者人口のうち、65~74歳人口は「団塊の世

代」が高齢期に入った後の平成28(2016)年には1,761万人でピークを迎え、その後は減 少傾向となると推計されているが、75 歳以上人口は増加を続け、平成 29(2017)年には

65~74歳人口を上回り、その後も増加傾向が続くものと見込まれている。

2-2. 対象者の生活状況

平成25年版高齢社会白書によると、65歳以上のいる世帯でみると平成23(2011)年で は夫婦のみの世帯が30.0%で、単独世帯 (24.2%) と合わせると半数を超える状況であった。

高齢者が子供と同居して生活している割合は毎年少なくなってきており、高齢者のみで生 活している世帯が増加してきている 2)。経済的には「暮らし向き」に心配のない高齢者は 約7割ではあるが、生活保護受給者数は増加してきており、平成23(2011)年では65歳 以上の生活保護受給者は78万人で、65歳以上の人口に占める割合は2.63%であった。さ らに貧困率も男女とも高齢期に上昇する傾向がある2)

2-3. 高齢者の健康・介護状況

同白書によると65歳以上の高齢者の半数近くが何らかの自覚症状を訴えており、日常生 活になんらかの影響がある者の割合(入院中を除く)は平成22(2010)年において20.9%

にも及ぶ2)。この割合は年齢層が高いほど上昇し、75~79歳の男性では21.6%、女性では

22.9%、85歳以上になると男性で34.4%、女性では39.7%にも及ぶ。受療率(医療機関に

入院あるいか通院、あるいは往診を受けた割合)は65歳以上で平成 23(2011)年で高齢 者人口10万人当たり入院が3,136、外来が11,414で他の年齢層に比較し高い水準にある。

また日常生活に制限がない期間(健康寿命)は、平成22(2010)年の時点で男性が70.42 歳、女性が73.62歳となっている。

介護保険制度における要支援者又要介護者の認定を受けた数は平成22 (2010)年度末時点

で506.2万人となり、平成13 (2001) 年の認定者288万人と比較すると倍近くに増加した

ことになる2)。前期高齢者の要介護認定を受けている割合は3.0%だが、75歳以上の高齢者 ではその割合は 22.1%にも及び、今後後期高齢者数が増えることを考えると、要介護認定 者の増加が危惧されている。

これらの事実から、高齢者の食事摂取基準を考えるうえで、何らかの疾患を有する者や

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介護保険サービスや支援を要する者を除外することは、限られた一部の非常に健康な高齢 者のみを対象とした基準を策定するという問題をはらんでいる。今回、高齢者の項では健 康寿命、さらには要介護状態に至る過程を予防する観点を重視し、フレイルティとそれに 関連するサルコペニアの予防、さらには認知症ならびに認知機能障害の予防と栄養との関 連を主目的として文献的考察を基に記載する。従って、今回対象とする高齢者には、軽度 の介助を要する者やいくつかの慢性疾患を有する者も含まれているが、比較的健康状態を 保っており(何とか自立した生活が可能)、要介護状態ではない対象者とした。

3.加齢による消化・吸収・エネルギー代謝の変化 3-1. 消化・吸収

3-1-1.消化管の消化機能

胃において、胃酸の分泌は加齢による変化を受けやすく、高齢者では低酸症を来しやす い。しかし、これは加齢自体によるものよりは高齢者で高率に感染しているヘリコバクタ ピロリ菌の影響を受けることによる場合が多い。同様にペプシンの産生も健常高齢者では 大きな減少が無いとされるが、ヘリコバクタピロリ菌の感染により産生が低下することが 知られる3。膵臓の外分泌ホルモンの分泌量は加齢とともに減少することが言われているが、

大きく健康障害に関連するほどの低下ではない4

3-1-2.消化管の吸収能力

上記のようにヘリコバクタピロリ菌に伴う低酸症が存在すれば鉄欠乏や、小腸の細菌異 常増殖、また自己免疫性萎縮性胃炎や内因子を分泌する壁細胞の障害が存在するとビタミ ンB12欠乏に関連する場合がある。一方、小腸の栄養吸収能は加齢による変化がほとんどな いことが一般には知られる。加齢の影響を受ける可能性のある栄養素は報告されているが、

一般には臨床上の問題になるレベルの変化ではない。大腸は高齢者、特に80歳以上では便 の排出速度が遅くなることが報告されている5)。そのために水分の吸収が過度に起こり便秘 のリスクになる可能性がある。

3-2. エネルギー代謝

以前より基礎代謝は加齢とともに減少し、縦断調査の結果よりおおよそ10年の経過によ り1~3% 程度減少し、特に男性での減少率が大きいことが報告されている 6,7)。この現 象は加齢にともなう除脂肪組織の減少によることが想定されている。しかし、除脂肪組織 量で調整しても高齢者では若年者に比較し5%程度基礎代謝量が低いことが報告され、ま たその原因は十分解明はされていないが、可能性としては高齢者におけるエネルギーを消 費する上記の臓器機能の低下、またはエネルギー消費する筋肉、臓器あたりのエネルギー 消費が加齢とともに減少している可能性がある。また、加齢に付随する基礎代謝量の減少 は必ずしも直線的に変化する訳ではなく、男性では40 歳代、女性では50歳代に著しく減 少することが報告されている 8,9)。女性の場合は閉経後の除脂肪組織が減少するためと言わ れている。

食事誘発性体熱産生は総エネルギー消費の10%程度に相当する。今までのこの食事誘発 性体熱産生も加齢とともに減少するとの報告もあれば、加齢変化は受けないとする報告も

ドキュメント内 表紙(抜粋版) (ページ 138-180)

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