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ドキュメント内 原 著 (ページ 76-117)

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中年期の時間的展望と精神的健康との関連

るが,本研究では50歳代,60歳代にこのような時間意 識の高まりが見られた。

2)年代別の中年期の身体的心理的変化への意識と過 去,現在,未来の時間的態度の関連

「中年期の身体的心理的変化の意識」に関するカテゴ リ名と内容,発言例,年代別の発言数.発言者,発言者 の割合を'Elble8に示す。

①40歳代:未来の目標を語る中で,そのきっかけと して,中年期の身体的心理的変化を語る流れが見られ た。例えば40‑Aは目標として以前は仕事の拡大を考え ていたが,今は現状維持でいいとした。その変容の要因 として,体力の衰えとともに,健康などもっと大事なも のを大切にしたいという気持ちが芽生え,自分の容量を しらないといけない,自分の気持ちが楽であることがい いと思うようになったことをあげている。また,40−,

や40‑Gは目標として次世代の子どもたちを育てると語 り,その要因に40‑,は体力の限界を感じ,指導者とし ての役割に新たな価値を見出したことをあげ,40‑Gは 自分の子ども以外への視野の広がりをあげている。40 歳前後で身体的心理的な変化を感じ始め,これらの気づ きが未来に対する態度の質的な変化を生じさせているこ とが示唆された。その中で,〈40‑C:形を残すことより,

何かに対して自分の全霊を傾けて充実していることがい い。〉など目標達成よりもその過程に価値を見出す発言 もあった。また,〈40‑B:内面的な意味では今の方がい い。〉やく40‑1:人との関わりの中で自分が作られていく のを意識するようになった。〉といった「自己の確立感や 成熟感」の語りも見られた。その一方で,一番精神的健 康度の低い40‑Jはく自分の好きなことがわからない〉〈高 校 生 や 大 学 生 の と き に 自 分 自 身 を 作 れ な か っ た 〉 と 話 し,過去を土台として意識できないことを語っている。

若本・無藤(2006)は加齢にともない老いが進行するに もかかわらず,自己評価などのwell‑beingの水準は上 昇・維持する現象をとらえ,老いの肯定面である 余裕 と成熟 がそれらに関係することを示している。本研究 においても,過去を「基礎・土台・原点」と意識し,現 在の自己の成熟感を感じることで心理的な安定を得てい ることが示唆された。

②50歳代:目標に対するきっかけとして,「衰えの気 づき」や「葛藤」の発言は見られず,自分を知ることの 大切さを述べる「自分の容量の自覚」の発言や,〈50‑,:

自 分 の 感 情 を 大 切 に , 素 直 な 生 き 方 を し て き た い 。 〉 と いう「あるがままの受容」の発言が語られた。例えば,

50‑Aは,自分を大切にしないといけない,素直になれ るようになったという意識の変化をのべ,さらに未来に 向 け て 心 の 成 長 を し て い き た い と 思 う よ う に な っ た と 語った。また,50歳代ではく50‑E:今勉強していること が,孫を育てることに役立てばそれでいい。〉など「限界

の意識による柔軟な思考」やく50‑A:人との出会いが大 切だと思う。〉〈50‑B:自分の存在で周りが成長するとい うのもその人の成長である。〉などの「新たな価値の気づ き」が社会や人との関わりによって生じていた。そのよ うな気づきから,社会との関わりの中で未来に対して

「自分磨き」やく50‑A:生涯学習を続け成長したい>,

<50‑,:ライフワークを深めたい〉という内面の充実を 目指す語りが見られた。また,過去に対しても自己を形 成したものとしての過去の受容が見られ,50歳代には自 己形成としての時間的態度が強いことが示された。

③60歳代:未来への時間的態度をたずねる中で,50 歳代では見られなかった「衰えの気づき」が再び語られ た(<60‑J:今からこうやりたいとか思っても体力的に 無理かな>)。それをきっかけとして,未来に対して「死 の準備」をしなければという意識が生じている者もいた (60‑B,60−,)。他の年代と同様に自己の容量を知らな いといけないという発言や,〈60‑G:自分の好きなもの に囲まれて過ごせればよいと思う。〉など「あるがままの 受容」の発言が見られたが,40歳代ではその意識から新 たな未来を志向していたが,60歳代ではその状態の維 持,あるいは生活面での 快適さなどが未来の目標として 語られた。60歳代では身体的な衰えを自覚することに よ り , 未 来 の 長 さ が 狭 ま っ て 意 識 さ れ る こ と が 推 測 さ れ そ れ に よ り , 過 去 の 振 り 返 り , 過 去 に 対 し て 区 切 り を つ け る 意 識 や , 現 在 の 自 己 の 状 態 を 把 握 し た 上 で , そ ろ そ ろ 自 分 の た め に 時 間 を 使 っ て も よ い と い う 未 来 へ の ポジティブな態度が生じていることが示唆された。

総 合 考 察

中年期の各年代における時間的展望の特徴,および適 応的な時間的展望をとらえた。40歳代では未来への志 向性が高いが,未来の目標は,身体的な衰えや自己の有 限 性に気づくことにより,従来の目標から自分が納得で き る 形 の 目 標 へ と 変 化 が 生 じ て い た 。 ま た , 現 在 に は 自 己 理 解 を 模 索 し , 希 求 す る 姿 が 見 ら れ た 。 時 間 的 態 度 と し て は 過 去 の 受 容 が 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え , 精 神 的 健 康 度 が 高 い 者 は , 過 去 の ネ ガ テ ィ ブ な 体 験 を と ら え 直 し,過去を土台として受容していることが示唆された。

50歳代では,未来への志向性が40歳代よりも弱まり,

過 去 や 現 在 に 対 す る 志 向 の 分 散 が 見 ら れ , 5 0 歳 代 で は 過 去 の 受 容 と 現 在 の 充 実 が 精 神 的 健 康 に 影 響 を 与 え た 。 中 年期の適応的な指向性は未来につながった ポジティブ な現在指向 であるとされている(白井,1991)。本研究 では,未来を志向する中で,50歳代に身体的心理的変化 か ら 自 分 を 知 る こ と へ の 意 識 が 高 ま り , 過 去 の 体 験 は 現 在 の 自 己 を 形 成 す る 上 で 必 然 で あ り , 自 己 形 成 過 程 と し て現在の出来事にも必然性を感じて深くコミットし,そ れ が 未 来 の 充 実 に つ な が る と 語 る 者 が 見 ら れ た 。 こ の よ

40.0%50.0%40.0%

発 達 心 理 学 研 究 第 1 9 巻 第 2 号

Table8申年期の身陶k的ノ心理的待質のカテゴリ名,内窓発言例年代別の発言数.発言毒発言者の割合

<40‑A:自分の気持ちが楽であることがいい かなと思うようになった〉

<60‑G:がんばらなくてもいいと思うように なった〉

発 言 数 発 言 者 , 発 言 者 の 割 合

カテゴリ名 内容

あ る が ま ま 自 然 体 の , 等 身 大 の 自 の 受 容 分 で い い と 思 う 。

発 言 例 40歳50歳60歳

代 代 代 40歳

50歳

瞭代

20.0%50.0%40.0%

<40‑A:体力的にも衰えるし,特に容姿は目 にみえるから実感する〉

<60‑B:60歳になって風邪をひいて,今まで は1日とかで治っていたのが治らなくって。〉

−BHAE

60‑

A,B,C,

D,EJ 体力の衰え,容姿の衰

え,体調の変化の気づ

衰 え の 気づき

9 0 6

身体的心理的変化の気づき

限 界 の 意 識 による柔軟 な 思 考

50.0%0.0%50.0%

身体的心理的変化への対応

<40‑C:これまで過ごしてきた分しかないん だっていう感覚はあって,後なにができる かって思ったりはするんですけど〉

<50‑C:私は死なないと思っていたんだけ ど,私も死ぬんだなって最近思うようになっ

40−

川 …WlbJ

5 4 4 H , I

限り有る命であること を意識する。余生の自

自己の有限 性の自覚

70.0%50.0%20.0%

50.0%33.3%30.0%

夫 婦 関 係 の 今 ま で の 夫 婦 の あ り 方 と ら え 直 し を も う 一 度 見 直 す 。

<40‑C:できるところまでやってみたいとい うのはあるかもしれないけど,でもこの年で みたいな感じもある〉

<60‑J:目標がないのは寂しいけど,今更努 力してという目標は立てられない〉

何かをやりたいと思う 意識と,限界を感じる ことの葛藤。

40− 0 6 0 − J 4 0 1 C , E , E I

葛藤(限界 の意識)

9 3 5 2 6 5

40.0%0.0%10.0%

40.0%16.7%20.0%

<40‑B:眼鏡もあるんだから,合わなくなっ た ら , 合 わ せ て く だ さ い っ て い け ば い い か

<50‑A:体力的にも限界が感じられることが あるから,老年期の準備をしていかないと〉

体 力 の 衰 え , 容 姿 の 衰

衰えの受容美;、繍書鰐豊

40‑A,B,50‑A0

8 1 0 , , F

<40‑B:まず,夫婦でコミュニケーションが とれて,まず二人の単位が基本だろうと私が 最近,ここ数年強く感じるようになった〉

<40‑E:一番大事なのは夫婦問だと思った〉

40.0%16.7%0.0%

経験によって今まで価 値 を お い て い た も の か ら そ れ と は 違 う も の に 価値を感じる。今まで と は 違 う も の の 見 方 が 生じる。

<40‑,:中学生や高校生と張り合おうという 気はないですね〉

<50‑,:自分は何かに一生懸命になってしま うタイプだから,自分でコントロールしなが ら,未来に向けて進んでいかないと〉

自分のことや能力を自 覚 し , 自 分 に も 限 界 が あ る こ と を 受 け 入 れ る。

40−

A,B,D,

60‑

A,B,C,

50‑

A,B,,

自分の容量

の自覚 8 8 8

50‑

A,B,C,

D,E,F

210 154

経 験 に よ る 新たな価値 の気づき

‑M班F…』

60−

3 5 6

<40‑E:今の社会は答えが一つと考えている けど,答えは一つではないと思うんです〉

<60‑A:生きがいを決めたってそれがどうな るかわからないし,それに縛られたくない。

来年桜が見れたらそれでいい〉

40.0%16.7%40.0%

合計

<50‑F:人との関わり方を自分なりに見直し ていこうかな〉

<60‑C:ゴルフでもやり残していたものが あ っ た 。 や は り 人 生 の 目 標 だ っ た ん で す か

<40‑B:途中でこれはなんか無理だなと思い ながら,だめなときはだめでとりあえず続け てみようかなと思っている〉

<60‑C:体力と気力で調整ながら楽しめれば いい〉

限界を意識する中で,

自 分 に 対 し て 柔 軟 な 思考ができるようにな る。

40−

, ,職j班 o丑。

90.0%100.0%100.0%

4 0A , B5 0 ‑ B 6 0 ‑ B , F

4 1 2 , , E

O50‑F60‑C,1,J 0 2 4

0 . 0 % 1 6 . 7 % 3 0 . 0 % 以前よりも内面的な成

熟 感 や 自 己 が 確 立 さ れていることを実感す る。

… 0‑.野,

8 2 6 , , G 40−

A,B,C,

2 9 2 3 2 6 D , E , G , ,1,

60‑

A,B,C,

D,E,E G,H,1,J

世 代 性

<40‑1:人とのかかわりの中で自分が作られ ていくというのを意識するようになった〉

<50‑E:やっと親から離れて自立できたか

先 代 か ら 受 け 継 ぎ , 次 の 世 代 に 伝 え た い と い う意識。

雛へ凝鴬;

く40‑,:自分がやってきたことを受け継いで や り た い し , 自 分 の 姿 を 見 て , 子 ど も た ち が がんばろうと思ってくれたら〉

<50‑,:子どもに良い体験をさせてあげた

40.0%33.3%0.0%

4 0 ‑ A , B5 0 ̲ B , E O

6 2 0 H , I 自己の確立,

成 熟 感

ドキュメント内 原 著 (ページ 76-117)

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