III. 第 二 章
III.4 考 察
膜と間質細胞及び顆粒膜細胞における
Nmu
の発現が検出され,卵胞膜と間質細胞に発現する
NMU2R
を介してプロゲステロンを促進することが報告されている(38)
。卵巣の卵胞成長と成熟は種々の因子により調節されている。
FSH
とLH
は2
次卵胞の時期に現 れて,卵胞の成長及び黄体の発達維持には必須である(66)
。さらに,以前に報告された ように,NMU
の脳室内投与は性腺及び光周期の影響によってGnRH
軸の異なる機能を 作用し,特にLH
分泌の抑制を明確であった(22)
。一方,Nmu
−/− マウスは可育性がある が,膣開口は早く発生し,LH/FSH
比は高くなることも報告されている(23)
ことから,NMU
はLH
とFSH
を介して発情周期及び卵巣の発達に関与することが示唆されている。本研究では,
Nmu
−/−雌ラットの発情周期及び卵胞の発達には異常は見られなかったので,内因性
NMU
は性成熟には関与しないと考えられる。さらに,
Nmu
−/− 雌ラットの繁殖行動,出産前後の母性行動及び出産後の養育行動を検 討した結果により,Nmu
−/−雌ラットの出産時間帯及び仔をまとめる行動に違いが見られ た。Nmu
−/−雌ラットの出産時間帯はNmu
+/+雌ラットに比べばらつきが見られと仔をま とめる行動の遅い傾向が見られた。光周期及び摂食リズムがラットの出生時間に影響を 与えることはよく知られている(67-69)
。げっ歯類では,妊娠後期及び出産初期に母体の 視床下部SCN
の概日時計のタイミングを明暗周期に合わせ,胎児が出生前及び出生後 の両方の期間における母性行動の必要な要素であることを示している(70-72)
。さらに,マウスにおいて概日リズムの破壊(
Circadian Disruption
)により母マウスは出産初期段 階の巣作り行動の欠陥及び仔をまとめる行動が延遅することが報告されている(73,74)
。 さらに,ウサギの授乳行動は概日リズムの破壊及び時計遺伝子のリズムの乱れにより問 題が引き起こされる(75)
。これらの報告より,出産時間と母性行動が概日リズムに深く 関与することが示唆されている。ラットにおいてNmu mRNA
発現に概日リズムがある ことから,NMU
はリズムをもった生理機能の制御に関わっていることが示唆されてい る。Nmu
−/−雌ラットで出産時間帯のばらつきと仔をまとめる行動の遅延が観察されたこ とから,内因性NMU
はラットにおいてこれら生理機能の概日リズム形成に関与するの かもしれない。同じく,
Nmu
−/− 母ラットの仔ラットの生存率を検討した結果は,母親に依存して顕著 な低下を示した。特に,出産初期の1
日齢から2
日齢にかけて大幅に仔ラットの死亡率 が上昇した。この原因の1つとして母性行動の問題が考えられる。哺乳動物は仔の生存 のために,分娩後に経験的なものやホルモンや出産に伴う母性行動など様々な要素があ る(76)
。出産直後の仔ラットは体温調節機能が未発達であり,母親から身体を清潔に保るの概日リズムが乱れ,不規律的な活動であることが考えられるため,仔ラットをまと める時間が遅く,仔ラットは生存に大事な時期である出生
1
日齢から2
日齢に素早く保 温されなかったため,仔ラットの死亡率が高いことが考えられた。2
つ目は,乳汁分泌 の問題が考えられる。分娩直前から乳汁分泌の開始は始まる。乳汁分泌の開始・維持に 最も大切なホルモンはPRL
であることがよく知られており,泌乳の開始にPRL
受容体(
Prlr
)遺伝子が高発現し,受容体数が増加する(77,78)
。また,Prlr
−/− マウスの乳腺はPrlr
+/+ マウスの乳腺により発達レベルは低下し,乳管の分岐が大幅に減少した(78,79)
ことから,PRL
が乳腺の発達に必要であることを示している。さらに,ラットのNMU
脳室内投与により血漿のPRL
濃度が有意に減少することが報告されている(39)
。ラットNURP
脳室内投与により血漿のPRL
濃度が有意に増加することも報告されている(63)
。 これらの報告より,NMU
はPRL
を介して乳腺の発達に関与することが考えられる。本 研究で用いたNmu
−/− ラットではPRL
レベルに影響が見られる可能性が高い。Nmu
−/− 雌 ラットの乳腺の発達に異常が生じ,それによって初期に母乳の出が遅い,出にくい,量 が足りないといった可能性が考えるかもしれない。それ故,仔ラットは素早く母乳を取 れずに,1
日齢目と2
日齢目に死亡率が高かったかもしれない。この可能性は今後の研 究で乳腺の発達や,血中PRL
濃度への影響を検討することで明らかにしたい。3
つ目は ストレスとの関連が考えられる。NMU
がストレス応答に関与することはよく報告され ており,ラットのNMU
脳室内投与は,ACTH
とコルチコステロンを増加する(39,80,81)
。 そのため本研究で使用したNmu
−/− 母ラットは,出産直後にストレスと不安を感じにく い可能性が考えられる。仔ラットの身を守る緊張感が低くなり,母性行動が遅延し,仔 ラットの生存率が低くなったのかもしれない。この可能性については,今後の研究でPVN
におけるCrh
の発現及び血中コルチコステロンの濃度を検討し明らかにしていき たい。以上の結果より,本研究では
Nmu
−/− ラットを世界で初めて作成した。また,ラット においては内因性のNMU
は摂食抑制作用やエネルギーホメオスタシスに関与していな いことが示唆された。さらに,Nmu
−/−母ラットでは出産の時間帯が乱れ,また仔ラット の生存率が低くなることが初めて明らかとなり,NMU
は概日リズムと養育行動に関与 することが示唆された。今後は雌ラットを用いてNMU
の出産や養育行動における機能 を解明することで,将来的にヒトにおける乳児死亡の改善や理解,支援に繋がるものと 期待される。
ドキュメント内
ラットにおけるニューロメジン U の発現制御機構 及び生理機能の解析
(ページ 36-39)