第2章 重加算税の賦課要件
第2節 認識の要否
4 客観的行為で足りるとする説
上記二説と異なり、認識自体不要とする見解がある。すなわち、国税通則 法の立法関係者は、「事実の隠ぺいは、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入 若しくは架空経費の計上、たな卸資産の一部除外等によるものをその典型的
(74) その他、租税を免れる認識が必要とされる裁判例として、京都地裁平成4年3月 23 日判決(訟月 39 巻5号 899 頁)、横浜地裁平成 16 年2月4日判決(税資 254 号順 号 9548)など。
(75) 碓井光明「重加算税賦課の構造」税理 22 巻 12 号4頁(1979)。 (76) 松沢・前掲注(51)、336 頁。
なものとする。事実の仮装は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等をその 典型的なものとする。いずれも、行為が客観的にみて隠ぺい又は仮装と判断 されるものであればたり、納税者の故意の立証まで要求しているものではな い。」と述べ(77)、罰則における「偽りその他不正の行為」との対比で判断基 準を客観的ならしめようとする趣旨であるとする。この見解は、「隠ぺい又は 仮装」とは行政上の制裁的措置として発動可能な法文形態を採っており、「隠 ぺい又は仮装」行為が認定されれば、同時にその行為につき認識を有してい ることが認定されることとなるから認識の立証までは不要としているとも解 されるところである。
5 小括
重加算税は、課税要件事実を「隠ぺい又は仮装」する方法によって納税義 務違反が行なわれた場合に、行政機関の手続のみで違反者に課せられる行政 上の制裁的措置であり、租税として徴収されるものである。この租税という 点に着目して見れば、租税が課される要件は客観的で明確なものでなければ ならず、抽象的で裁量性のある規定は許されないものと解される。そして、
重加算税がこのような租税として徴収されるものであることからすると、そ の賦課要件も客観的で明確でなければならず、このことから租税を免れる認 識までは要しないと解されるのである。加えて、ほ脱犯は「偽りその他不正 の行為」により税を免れることを構成要件に、故意(犯意)を厳密に必要と し、故意の成立には、納税義務の認識、偽りその他不正行為の認識及び租税 を免れること(ほ脱の結果)の各認識がいずれも必要とされるが(78)、このよ うな認識を重加算税の賦課要件にも必要とすることは、二重処罰との抵触の 観点はもちろん、租税としての性質を逸脱するものと考えられる。
また、後述するように(79)、重加算税が行政上の措置であることにかんがみ
(77) 志場喜徳郎ほか『国税通則法精解〔第 12 版〕』689 頁(大蔵財務協会、2007)。 (78) 大阪高裁平成4年4月8日判決(税資 212 号 2869 頁)。
(79) 住田・後掲注(121)、6 頁。
ると、多数の案件につき公平性・迅速性が要請されるとともに、執行上の均 一性を担保するため画一的処理が可能となるよう客観的で明確な賦課要件で あることが要請されるということからも租税を免れる認識を不要と解するの が相当であろう。
以上から、「隠ぺい又は仮装」には認識が必要であるが、租税を免れる認識 までは不要と解するのが正当と考える。ただし、「隠ぺい又は仮装」行為を行 う多くの場合が、租税を免れることを目的に行うものであると思われること からすれば、租税を免れる認識は、重加算税の賦課要件該当性判断における 重要な要素であることは間違いなかろう。この点、前記の碓井教授の見解に も首肯できる面があると言えるが、「隠ぺい又は仮装」行為の存在に重加算税 が課されるべき理由があるというもので十分であろう(80)。
ところで、品川芳宣教授は、前記の各税目における事務運営指針について、
外形的不正事実が存在すれば、当該不正事実形成の認識さえも要しないとい う説を採用しているものと解されるが、最高裁昭和 62 年判決に代表される判 例の考え方と齟齬が問題となると指摘され、法人税事務運営指針が掲げる「帳 簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の 収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること」について、棚卸 の現場担当者等が棚卸資産の除外を認識していない場合までも「隠ぺい又は 仮装」を問えるか否かについて疑問が残るとされる(81)。
しかしながら、この点については、「記録をせず」、「除外」に認識ある行為 としての意があると考えられるのではなかろうか。また、各税目における事 務運営指針が掲げる典型例についても、認識を持って意図的に行わなければ 実現できない行為であることからすると、各事務運営指針は最高裁昭和 62 年判決に則した事実を示していると考えられる(82)。
(80) 酒井・前掲注(72)、306 頁。
(81) 品川・前掲注(1)、294 頁。
(82) この点については酒井克彦教授も、「現行の課税実務の取扱いは、納税者の故意・
認識を隠ぺい・仮装行為の前提としていると理解するのが素直であるように思われ る」と述べている(酒井・前掲注(72)、307 頁。)。