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第 4 章 K 2 MnF 6 赤色蛍光体の合成と光学特性

4.4 実験結果

4.4.1 発光の様子・SEM観察結果

Figure 4.1が合成した蛍光体の発光の様子である。励起は波長325 nmのHe-Cdレーザで

行っている。Figure 4.2が観察したSEM画像である。六方晶の構造を確認することができた。

粒径は~80mである。

4.4.2 KHF2添加による生成物の違い

フッ化水素酸カリウムを加えずに、過マンガン酸カリウム、フッ酸、シリコンのみで合 成を行った場合、よく知られた蛍光体である立方晶K2SiF6:Mn4+赤色蛍光体が合成される。

本研究では、そこにフッ化水素酸カリウムを加えることにより、六方晶K2MnF6赤色蛍光体 を合成されることが確認できた。フッ化水素酸カリウム添加による変化として、反応速度 の減尐と生成される蛍光体の量の減尐の2つのことが言える。フッ化水素酸カリウムを多 く添加すると、シリコンの溶ける速度が遅くなり、K2SiF6ができにくくなる傾向があった。

また、過マンガン酸カリウムとフッ化水素酸カリウムのモル比による生成物の変化をTable 4.1に示す。

過マンガン酸カリウムとフッ化水素酸カリウムの比で、4:1、2:1 の場合は K2SiF6が合成 され、1:2、1:4の場合は、K2MnF6が合成された。また、1:1で作製した場合、2種類の蛍光 体が混ざった試料が生成された。1:16で作製した場合は、不純物が多く合成されてしまい、

きれいなK2MnF6の結晶を得ることはできなかった。

Figure 4.1 発光の様子

Figure 4.2 SEM観察結果

Table 4.1 KMnO4とKHF2のmol比による生成物の変化

29

4.4.2 XRD測定結果

Int e ns it y (a rb. uni ts )

(a)測定データ  KHF

2

添加

(b) 測定データ   KHF

2

無し

2  (deg)

PDF(h-K

2

MnF

6

)

20 40 60 80

PDF(c-K

2

SiF

6

)

Figure 4.3(a)(b)はKHF2を添加した/してない試料のそれぞれのXRD測定結果と、K2MnF6、 K2SiF6のAmerican Society for Testing and Materials (ASTM) cardのXRDパターンである。そ

れぞれ10-90度の範囲の測定結果を示している。縦軸は任意強度を示している。

KHF2を添加した試料は六方晶K2MnF6と、添加していない試料は立方晶K2SiF6のパター ンと一致したため、それぞれの母体結晶が判明した。

Figure 4.3 XRD測定結果

30

4.4.3 XPS測定結果

K

2s

O

1s

F

KLL

F

1s

Si

2s

(b)

×5

Mn

2p1/2

Mn

2p3/2

Si

2p

K

LMM

K

2p3/2

K

2p3/2

K

2s

F

KLL

Mn

2p1/2

F

1s

Int e ns it y ( a rb. uni ts )

Binding energy (eV)

Mn

2p3/2

(a)

K

LMM

O

1s

Figure 4.4は、(a)K2MnF6赤色蛍光体、(b)K2SiF6:Mn4+赤色蛍光体のXPS 測定結果である。

横軸に束縛エネルギーを、縦軸に検出された電子の強度をとっている。図中にみられるピ ークの低運動エネルギー側でステップ状に増加するバックグラウンドは放出された電子の 一部が周りの原子と相互作用し、いくらかエネルギーを失ったものである。

測定の結果、KHF2を加えて作製したK2MnF6では炭素や酸素のスペクトルを除くとカリ ウム (K)、マンガン (Mn)、フッ素 (F)のピークが検出された。一方、KHF2を加えていない K2SiF6 :Mn4+蛍光体でのみ、シリコン(Si)のピークが現れることが確認できた。

Figure 4.4 XPS測定結果

31

4.4.4 PL測定結果

600 700 800

20 K 140 K

Wavelength (nm)

P L i nt e ns it y (a rb. uni ts )

低温でのPL測定結果をFigure 4.5に示す。~630 nmに現れるシャープな線スペクトルに 加えて、140 K以下において~680 nmにブロートなスペクトルが現れる。この発光は、他の A2BF6:Mn4+系蛍光体には見られない、K2MnF6赤色蛍光体の特徴である。

~630 nm、~680 nmの各スペクトルの温度による変化をFigure 4.6 4.7にそれぞれ示す。

Figure 4.6ではMn4+の発光特有のスペクトル変化が見られた。温度を下げるにつれて、半値

幅は狭くなりzero-phonon-lineははっきりと観測できるようになる。また、anti-Stokes側の

600 610 620 630 640 650

PL intensity (arb. units)

Wavelength (nm)

300 K

200 K

20 K 100 K

6 4

6 ZPL

4 3

Stokes lines anti-Stokes lines

600 700 800

Wavelength (nm)

PL intensity (arb. units)

20 K 60 K 100 K 140 K Figure 4.5 PL測定結果

Figure 4.6 ~630 nmスペクトル変化 Figure 4.7 ~680 nmスペクトル変化

32

ピークが減尐し、Stokes側のピークが増大しているのがわかる。これは、低温では格子振動 が尐なくなる。すなわち結晶中のフォノンが減尐し、それに伴ってフォノンの吸収過程で

あるanti-Stokes側のピークが減尐していることによる。

Figure 4.7の~680 nmのスペクトルは、温度を下げていくと140 Kあたりから現れはじめ、

低温になるにつれて強度が増加していくことがわかった。

4.4.5 PL積分強度

PL積分強度(20 K~450 K)をFigure 4.8に示す。解析は、600 nm~660 nmのスペクトルと660 nm以降のスペクトルで分けて行った。

0 100 200 300 400 500

10-1 100 101 102

T (K) IPL (normal.)

Red emission (~630 nm) Deep red emission

(~680 nm)

FIG. 10 Kasa

Eq. (9) Eq. (8)

Eq. (9)

温度依存の PL 強度は原則的に次のような式で表現できる。

 

 

  

 

 

 

 

2

1 2 1 2

1 2

| 1

| )

(

4 0

2 6

, 4 , 3

PL

j

j

j

f E n

M i c T

I

… [1]

/1

exp 1

B

h k T

n

j

j

… [2]

ここで c は比例定数、|<i|Mj|f>| は光学遷移子、E0 は ZPL のエネルギー、h はプランク定 数、kB はボルツマン定数、j は局所的な振動電子準位の周波数を示す。上の記号はストー クス、下の記号はアンチストークスを示している。nj はボース・アインシュタインの占有 数である。[1] を使って積分強度

I

PL

(T)

は以下のように書ける。

 

 

 

1 /

exp 1 2 )

(

B 0

PL PL

T k h I

T

I

… [3]

ここで、

v3v4、 v6 の加重平均周波数である。以下の発光強度比の式は良い近似 を示す。

Figure 4.8 PL積分強度

33

1 3 1 4 1

6

: :

: :

4 3 6

 

 

I I

I

… [4]

[4]

を用いて~630 nmのスペクトルの加重平均周波数

h

は65 meVであることがわかった。

また400 K以上の高温において、強い温度消光がみられる。

これは、以下の式でフィッティングを行った。

E k T

I T I

B PL q

PL

/ exp 1

1 )

0 (

) (

 

… [7]

ここで、Eqは活性化エネルギーである。

Figure 4.8の赤線は [7] を用いて計算された結果である。~630 nmの発光の活性化エネル

ギーはEq = 1.0 eV であることが分かった。また、~680 nmの発光の活性化エネルギーは

Eq = 9.0 meV, 100 meVであることが分かった。

34

4.4.6 PLE測定結果

300 400 500 600 700 800

2.0 2.5

3.0 3.5 4.0

P L , P L E (a rb. uni ts )

Wavelength (nm)

ZPL(2)

ZPL(1) ZPL(0)

PL PLE

1.6

Figure 4.9は室温でのPL、PLE測定結果である。発光スペクトルはHe-Cdレーザ(325 nm)

により励起し、励起スペクトルはモニター波長を~630 nmとして測定した。励起スペクトル の~460 nmのピークは4A2g4T2g遷移に、~360 nmのピークは4A2g4T1g遷移に相当する。

図中の棒グラフは、励起帯をポアソン分布で近似したものである。近似式は以下のように なっている。

nS S I

I

n ex

ex n

) ) (

0

 exp( 

ここで、Inexは n 番目の振動サイドバンドの強度、I0exは ZPL の強度、S はフォノン数 である。~460 nmのピークはS = 6、~360 nmのピークはS = 13としてフィッティングを行 った。ZPL(1)は2.37 eV、ZPL(2)は2.67 eVである。また、Mn4+ の結晶場パラメーター (Dq) を237 meV(1910 cm1)と得ることができる。

Figure 4.9 PLE測定結果

35 4.4.7 発光寿命測定結果

Figure 4.10は発光寿命の測定結果である。励起にはYAG :Nd laser(355 nm)を用い、~630 nm と~680 nmそれぞれでモニターした。K2SiF6 :Mn4+の発光寿命が常温で約10 msであるのに 対して、測定したK2MnF6の発光寿命は0.003 msと非常に短い。このことがK2SiF6 :Mn4+と K2MnF6の発光強度の違いに関与していると考えられる。

0 50 100 150 200 250 300

10

-4

10

-3

10

-2

10

-1

10

0

T (K)

 (m s)

Deep red emission (~680 nm)

Red emission (~630 nm)

Figure 4.10 K2MnF6発光寿命測定結果

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0

5 10 15

20 50 40 30 20

1/T (K-1)

 (ms)

K2SiF6:Mn4+

T (K) 300 100

(a)

2.2 2.4 2.6 2.8 3.0 3.2 0

0.5 1.0

1.5480450 420 390 360 330 300

IPL (normal.)

1/T (103 K-1) T (K)

K2SiF6:Mn4+発光寿命測定結果

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4.4.8 立方晶K2MnF6との比較

Figure 4.11 4.12は、同じK2MnF6で、結晶構造のみが違う、立方晶K2MnF6赤色蛍光体の PL測定結果を比較したものである。六方晶の場合はZPLが観測され、立方晶の場合ZPL は観測されないという特徴がある。それ以外のν6、ν4、ν3の各ピークは、ほぼ同じ場所に 観測された。

また、低温での赤外のピークは、立方晶構造では現れず、六方晶構造の場合のみで確認 することができる。

600 700 800

Wavelength (nm)

P L i nt ensi ty ( ar b. uni ts)

580 600 620 640 660 680

P L i nt ens it y ( ar b. un it s)

Wavelength (nm) Cubic –K2MnF6

Cubic –K2MnF6

Hexagonal –K2MnF6 Hexagonal

–K2MnF6

Figure 4.11 PL比較(300 K) Figure 4.12 PL比較(85 K)

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