第4章 研削点温度に関する実験
4.4 実験結果と考察
4.4.1 一般砥石研削における研削点温度
一般砥石として,よく使われているWA砥石を用いてダウンフィードを行った 際の研削点温度を図4.6に示す.
ダウンフィード5 mm/minの場合,研削点温度は,69℃を示しているが, 2倍の 10mm/minで研削した場合,研削点温度は1318℃と飛躍的に上昇している.この理 由は,能率が2倍になり,研削抵抗が増大することによって,砥粒切れ刃に負担が かかり, 剪断作用時に生じる研削熱と切りくずが切れ刃すくい面を擦過する際に 生じる摩擦熱によって,砥粒切れ刃に摩滅摩耗が生じ, 研削熱が飛躍的に発生し たものと予想される. ここで研削量として,研削体積を砥石幅と砥石の円周長さ で割ったホイール(砥石)単位円周当たり研削代断面積を用いた理由は, 砥石単位 幅当たり,及び単位円周長さ当たりの研削量で比較すると, 砥石幅及び砥石外径 が異なる場合でも, 研削条件が同じであれば,砥石径の大小および砥石幅にかか
わらず,砥石の性能を比較できるからである.これを裏付けるために,一般砥石 の中でもWAより結晶純度が高く研削性能の優れるSN砥石で研削した際の研削温 度を図4.7に,研削量に対する研削温度と研削動力の関係を図4.8 に示す.SN砥石 では, 同じ研削点温度1300℃に到達するまでにWA砥石より1.5倍研削が可能であ るといわれているが,WA砥石と同様,砥石単位円周長さ当たり研削代断面積が 増加するに従って,研削動力が増え, 研削点温度も高くなっていることがわかる.
研削動力は研削抵抗に比例関係にあることから,砥石が摩滅摩耗し,研削抵抗に 耐えきれずに脱落して自生発刃し,そのため見かけ上,切れ刃を回復しているが, 研削動力の増加とともに研削点温度が急激に増大していることがわかる.
図4.6 WA砥石のダウンフィード速度が研削点温度に及ぼす影響
図4.7 SN砥石のダウンフィード速度が研削温度に及ぼす影響
0.0 0.1 0.2 0.3
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 (mm2/mm) ダウンフィード5mm/min ダウンフィード10mm/min
研削点温度
研削点温度
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 (mm2/mm) ダウンフィード5mm/min
ダウンフィード10mm/min 研削点温度
図4.8 SN砥石による研削点温度と研削動力
4.4.2 CBNホイール研削における研削点温度
CBNホイールを用い,ダウンフィード5 mm/min及び10 mm/minで研削した際の 研削点温度を図4.9に示す.この図から分かるように,CBNホイール研削では,研 削点温度は低く送り速度に影響されない. 砥粒の形状がドレッシング後の形状を 維持し, 砥粒切れ刃も鋭利な状態を維持しているため,ダウンフィード速度にか かわらず,研削温度は上昇しにくいものと予想される.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 100 200
研削温度 ( ℃)
砥石単位円周長さ当り研削代面積 (mm
2/mm) ダウンフィード5 mm
2/min
ダウンフィード10 mm
2/min
図4.9 CBNホイールのダウンフィード速度が研削点温度に及ぼす影響
研削点温度 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 0.5 1.0 1.5
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 (mm2/mm) 研削点温度
研削動力 (kW)
4.4.3 一般砥石とCBNホイールにおける研削点温度の比較
一般砥石のWA砥石と超砥粒ホイールのCBNホイールの研削温度を比較するた めに,ダウンフィード10mm/minで研削した際の2つの研削温度測定結果を図4.10 に示す. この図からWA砥石の1318℃に対し, CBNホイールでは 93.6℃と比較 にならないほど低く, 約1220℃もの温度差が生じていることがわかる. このこ とから,CBNホイールでは研削点温度による砥粒切れ刃へのダメージが少なく,
ホイール寿命も一般砥石の500倍~1000倍も持続する理由が裏付けられる.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 CBN(TypeI)80/100W 200VN4 WA46H7V
図4.10 WA砥石とCBNホイールの研削点温度の比較
4.4.4 ホイール周速度に対する研削点温度
CBNホイール研削において,ホイール周速度の影響を検討するために,周速度 1700m/minと3000m/minで研削した際の研削温度と研削動力の関係を図4.11に示す.
この図から分かるように,研削動力は周速度の違いにより0.15kW程度の差があ るものの安定状態を保持している.わずかであるが,研削量が増加するにつれ,
ドレッシング時にダメージを受けた砥粒が脱落し,研削に寄与している砥粒数が 徐々に減ったものと考えられる.一方,研削温度はわずかではあるが,周速度の 影響を受け,研削点温度に20℃程度の差が生じている. ホイール周速度が増加す ることによって生じる摩擦抵抗が,砥粒1ヶ当たりの切り込み深さの影響を上まわ っていると考えられる.
しかし,このような概念からはCBNホイールの性能の高さを知ることができる が,火花実験には温度上昇を伴わなければならないため,利用しにくいと考えら れる.
研削点温度(WA)
研削点温度(CBN)
(mm2/mm)
0 1 2 3 4 5 6 7 0
10 20 30 40 50 60
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 (mm2/mm) 研削点温度 0.0
0.5 1.0
3000m/min(CBN) 1700m/min(CBN)
研削動力 (kW)
図4.11 CBNホイール周速度に対する研削温度と研削動力の差
4.4.5 研削量に対する研削抵抗及び研削点温度の影響
ここでは,SN砥石およびCBNホイールについて,研削量に対する接線研削抵抗 及び研削点温度の影響を検討している.
実験結果を図4.12に示す. この図において,接線研削抵抗に注目すると,SN砥 石では,砥石摩耗がダウンフィード速度の影響を受け, 摩滅状態によって抵抗値 は大きく影響を受けるが,CBNホイールでは,砥粒切れ刃摩耗がダウンフィード 速度の影響をほとんど受けずに鋭利な切れ刃を維持しているため,研削抵抗もSN 砥石より低いことがわかる. 研削温度についても,SN砥石,CBNホイールともに,
砥粒切れ刃がドレッシング直後の鋭利な状態を維持している間,100℃以下であり,
大差はないが, 熱影響を受けやすいSN砥石では, 砥粒切れ刃が磨滅して切れ刃 が鈍くなると,研削温度が急激に上昇し,研削点温度が1232℃に達していること がわかる.このことは研削仕上げ面粗さにも影響しており,表面粗さによる砥石 寿命3.2μmRzに対し,研削量0.4mm2/mm付近で急激に上昇し,寿命になっている.
一方,CBNホイールでは,ドレッシング直後の鋭利な砥粒切れ刃状態を維持し ており, 熱伝導率もSN砥粒の0.126kW/m・Kに対して,1.3kW/m・Kと約10倍も良い ため,砥粒に研削熱が滞留することなく拡散冷却されるため,50℃前後の研削点 温度状態のまま研削し続けていることがわかる.このため研削仕上げ面粗さは,
初期の仕上げ面粗さを保持したまま,研削し続けていることが示されている.
図4.12 SN砥石とCBNホイールの研削点温度及び研削性能の比較
4.4.6 研削油剤の種類に対する CBN ホイール研削の研削点温度
研削油剤の種類が研削点温度に及ぼす影響について,実験確認を行った結果 を図4.13に示す.研削油剤供給方法は巻付けノズルとし,代表的な研削油剤とし て冷却性の強いケミカルソリューションタイプのシンタロイDC81,及び潤滑性 のあるエマルジョンタイプのMFG-3を用いた.図4.13は,工作物SCM435 (HRC 48)をCBNホイールによるダウンフィード速度10mm/minで研削した場合の研削 点温度を示しており,冷却性の良いシンタロイDC81では,93.6℃であるのに対 し,MFG-3では,564℃と高く,研削条件の厳しいダウンフィード研削では,潤 滑性よりも冷却性のよい研削油剤が研削点温度に対して良好な結果を及ぼすこ とがわかる.ただし,研削途中で現れた研削温度の変曲点の原因解明は未だで きていない.今後の課題であると考えている.0 200 400 600 800 1000 1200 1400
0 2 4 6 8
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 1 2 3
SN砥石 CBNホイール
研削温度 (℃)接線研削抵抗 (N/mm)研削仕上面粗さ (μmRz)
単位円周長さ当たり研削代断面積 (mm2/mm) 研削点温度
図4.13 研削油剤の種類がCBNホイールの研削点温度に及ぼす影響
4.4.7 研削油剤供給法が研削点温度に及ぼす影響
ここでは,研削油剤供給状態が研削点温度に及ぼす影響について検討する.
一般に使用されている通常ノズルと巻き付けノズルの 2 つの例を取上げ,
SCM435(HRC48)をCBNホイールで研削した場合の研削点温度を図4.14に示す.
通常ノズルと巻き付けノズルについては,図4.4及び図4.5に示したように,圧力 発生状態から研削供給効果に明らかな違いが現れていたが,研削点温度にも著 しい効果が現れている.すなわち,巻き付けノズルでは,研削点温度が93.6℃と
100℃以下となっており,CBNホイールの優れた熱伝導性と巻き付けノズルによ
る研削油剤の冷却効果が発揮されている.通常ノズルでは,CBNホイールとい えども684℃となっており,巻き付けノズルの場合のそれの7倍も高く,研削点 に研削油剤が供給されていないために,研削点での冷却が十分行われていない ことがわかる.
図4.14 研削油剤供給法が研削点温度に及ぼす影響
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 100 200 300 400
500 シンタロイDC81 MFG-3
研削温度 (℃)
砥石単位円周長さ当り研削代断面積 (mm2/mm) 研削点温度