第 4 章 実験的検証 43
4.2 実験結果
弾性係数Kcが216.6,237.2および401.6 [N/m]の3種類のバネを用い,斜面角度ϕ を 3.0,3.5,3.9および4.2 [deg]の4パターンに設定して歩行速度を測定した.データの取 得手順は以下の通りである.
• トレッドミル上にCRW実験器を置き,バネを自然長に保った状態からスタートさ せる
• 歩行が安定した時点でトレッドミルの速度を取得する
• バネを付け替えて手順を繰り返す
データの取得は各斜面角度および弾性係数について,それぞれ5回ずつ行っている.一 部の斜面角度においては,揺動質量の振動が激化するなどの理由でデータの修得ができな かった.データの取得と併せて胴体リンクと揺動質量の位相を確認するため,図4.2に示 すように揺動質量とCRW実験器の胴体部にLEDを取り付け,60 [枚/s]の高速撮影によ り,揺動質量と胴体リンクがどのような位相関係で上下動しているかを確認した.以下,
表4.2,4.3,4.4,4.5および図4.3に実験の結果を示す.
図 4.2: LEDを点灯させた状態
表 4.2: 実験結果(ϕ= 3.0 [deg])
弾性係数 [N/m] 実験回数
1 2 3 4 5 平均
401.6 0.340 0.332 0.327 0.335 0.332 0.2968
表 4.3: 実験結果(ϕ= 3.5 [deg])
弾性係数 [N/m] 実験回数
1 2 3 4 5 平均
固定 0.276 0.276 0.264 0.264 0.260 0.268 216.6 0.374 0.378 0.380 0.384 0.386 0.3804 237.3 0.381 0.379 0.385 0.384 0.372 0.3802 401.6 0.340 0.332 0.327 0.335 0.332 0.3332
表 4.4: 実験結果(ϕ= 3.9 [deg])
弾性係数 [N/m] 実験回数
1 2 3 4 5 平均
固定 0.333 0.308 0.326 0.319 0.315 0.3202 216.6 0.415 0.408 0.408 0.407 0.415 0.4106 237.3 0.422 0.418 0.418 0.412 0.411 0.4162
表 4.5: 実験結果(ϕ= 4.2 [deg])
弾性係数 [N/m] 実験回数
1 2 3 4 5 平均
固定 0.335 0.338 0.339 0.336 0.335 0.336 216.6 0.476 0.463 0.445 0.442 0.447 0.4546 237.3 0.448 0.453 0.456 0.447 0.444 0.4496
0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5
3 3.2 3.4 3.6 3.8 4 4.2
Walking speed [m/s]
φ [deg]
Kc=216.6 Kc=237.3 Kc=401.6 Fixing
図 4.3: 実験結果のまとめ
図4.3より,全ての斜面角度において揺動質量を胴体に固定する場合よりも,自由に上 下動させる場合の方が歩行速度が向上していることがわかる.最も斜面角度が緩やかな表 4.2の場合については質量固定時のデータが無いが,斜面が緩やか過ぎて受動歩行が成立 しなかったためである.また,3種類のバネの内,弾性係数が401.6 [N/m]の場合は他の2 つのバネに比べて歩行速度が遅くなっている.表4.3を例にとり,式(3.2)および(3.2)
を用いて歩行と揺動質量の振動数を計算すると以下のようになる.
・Kc= 216.6 [N/m]
fc = 1 2π
√216.6
0.913 = 2.4514 [Hz] (4.1) fw = 0.3804
D = 3.3368 [Hz] (4.2)
・Kc= 237.3 [N/m]
fc = 1 2π
√237.3
0.913 = 2.5659 [Hz] (4.3) fw = 0.3802
D = 3.3351 [Hz] (4.4)
・Kc= 401.6 [N/m]
fc = 1 2π
√401.6
0.913 = 3.338 [Hz] (4.5) fw = 0.3332
D = 2.9282 [Hz] (4.6)
ただし,D [m]はCRW実験器が一歩当たりに移動する距離であり次式で算出される.
D= 2lsinα (4.7)
式中のlおよびαは,CRW実験器の脚長および股角度を表す.各弾性係数における揺 動質量の振動数fc [Hz]と歩行の振動数fw [Hz]を比べると,Kc = 401.6 [N/m]の場合の み両者の関係がfc > fw となっている.また,このときの歩行速度は他の弾性係数を持 つバネの場合よりも遅くなっている.一方,残りの2つのバネの場合は振動数の関係が
fc < fwとなっており,大小関係が逆転している.第3章第3.4節の結果より,振動数の
関係と歩行速度の関係を示すシミュレーション結果を裏付ける結果を得ることができた.
図4.4に,実験器の揺動質量と胴体リンクの上下動を連続撮影したものを示す.どちらの 図も時系列は左上から横に流れていくようになっている.図4.4 (a)はKc = 216.6 [N/m]
の場合を撮影したものである.胴体リンクの上下動に対して揺動質量が逆位相で上下動し ていることが見てわかる.図4.4 (b)はKc = 401.6 [N/m]の場合を撮影したものである.
こちらは揺動質量と胴体リンクの上下動が同位相になっており,それぞれの弾性係数にお ける高速化要因が異なることは明らかである.
(a) 逆位相(Kc= 216.6 [N/m])
(b) 同位相(Kc= 401.6 [N/m])
図 4.4: 連続撮影写真
第 5 章 まとめと今後の課題
本論文では揺動質量を取り付けたCRWについて数値シミュレーションおよび実験的検 証を行った結果を報告し,揺動質量が歩行速度の向上に寄与することを示した.
揺動質量を胴体リンクに接続するバネの弾性係数によって歩行速度の分布が分割され,
それぞれの領域で揺動質量が異なる影響を及ぼし歩行速度が向上することがわかった.前 半の速度分布領域では,位相差に起因するヤコビアンの切り替えが無いにも関わらず大幅 な高速化を実現することができ,全重心軌跡の平坦化の影響が大きいことを示した.一方,
後半の速度分布領域においては,全重心軌跡の上下動が激化するように揺動質量が振動す るが,RWの回転運動を助長することで歩行の高速化につながることを示した.さらに粘 弾性を与えることで歩行の成立する領域が拡大することを示した.この場合,弾性のみを 与えるよりも歩行速度は減少するが,分岐が見られなくなり安定な歩行が可能となる.
また,振動数の大小関係によって,CRWと揺動質量の位相関係が決定されることを示 した.CRWの歩行の振動数fwが揺動質量の持つ振動数fcよりも大きい場合に,互いの 上下動が逆位相となっている.さらに,前後のRW間に位相差を与えることでfwを増大 させ,逆位相となる弾性係数領域の拡大と歩行速度の向上が可能であることを示した.加 えて,歩行速度以外の性能評価方法として段差の乗り越えが可能かどうかを検証し,揺動 質量を持つCRWの方が段差乗り越えの面でも優れていることを示した.その一方で,シ ミュレーションの初期条件によって収束する歩行速度が変化するヒステリシス現象も見ら れた.
今後の課題としては,構造および制御入力の工夫による効率的な高速化手法について検 討することや,ヒステリシスなどの歩行速度が分岐する現象の解析などが挙げられる.
参考文献
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