第 3 章 位相補正
5.2 実験条件
逆フィルタはそれぞれの被験者について、実験を行なう直前に更新した。
基本周波数62.5Hz、125Hz、250Hz のそれぞれについて、全 20ペア1を3回ずつ、
計60ペアをランダムに片耳呈示し、対比較を行なった。
6人の被験者に、同じ音に聞こえるか違う音に聞こえるか判断してもらった。
一つの刺激音の信号長1秒、ペア内の二つの刺激音の間隔1秒、ペアとペアの間隔
4秒とした。
刺激音の立ち上がり、立ち下がり部には5msのリニアなテーパーをかけた。
安定化電源を使用した。
音圧は固定した。なお、入力刺激音のカップラにおける音圧は、基本周波数62.5Hz、
125Hz、250Hz でそれぞれ77.260.8dB(A)、7860.4dB(A)、7860.4dB(A)であった。
5. 3
実験結果
被験者6人全員(all)による類似度を図5.1に、そのうち判別率の高かった選抜被験者5 人(selected) による類似度を図5.2に示す。
5. 4
考察
今回は被験者として、予備実験1において判別率が高かった人を中心に選択したため、
select ed ( 5人)の割合が高く、all(6人)との類似度にほとんど差はなかった。ここでも
select edの結果を重視する。
予備実験1と同様にペアの組合せを、同じ刺激音の組合せA{C-C,S- S, CS- CS, SC-}、SC 作成条件が似ている刺激音の組合せB{C- S, CS-}S、それ以外の刺激音の組合せC{C
C-CS, C- SC, S- CS,}のように分類すると、図S- SC 5.2より、Cの組合わせならば基本周波数
62.5Hz、125Hz の場合に100%判別でき、250Hz の場合でも予備実験1と同程度の高い
1ペアの組合せ10通りで、全ての組み合わせの順序を考慮
0 50 100
Fundamental frequency : 125 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC
0 50 100
Fundamental frequency : 250 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC 0
50 100
Fundamental frequency : 62.5 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC original p−exp1(all) p−exp2(all)
図 5.1: 31成分調波複合音使用時の類似度 : 全被験者
0 50 100
Fundamental frequency : 125 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC
0 50 100
Fundamental frequency : 250 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC 0
50 100
Fundamental frequency : 62.5 Hz
Similarity[%]
C−C S−S CS−CS SC−SC C−S CS−SC C−CS C−SC S−CS S−SC original
p−exp1(selected) p−exp2(selected)
図 5.2: 31成分調波複合音使用時の類似度 : 選抜被験者
表 5.1: 原波形と逆フィルタ処理波形との判別率[%] 刺激音 c s cs sc
62.5Hz 100 100 75 100
125Hz 100 75 75 50
250Hz 100 100 50 50
判別率が得られ、音色の差が一層明確になったことが分かる。逆にBの組み合わせでは、
すべての基本周波数で類似度が50%を越えており、予備実験1に比べて音色の違いが判 別しにくくなっている。逆フィルタによる影響だけならば、B、Cの組合せで、ともに判 別率が高くなるか低くなるかのいずれかであるはずなので、この判別率の変化は、原波形 の高調波の次数が上がったことの影響であると思われる。そこで、予備実験1の結果があ る程度信頼できるものと仮定すると、Bの組合せは位相を変化させてないものと、全ての 調波の位相を /2 変化させたものとの組合せ、Cの組合せは位相を変化させてないもの と、ひとつおきに調波の位相を =2変化させたものとの組合せ、と見ることができるの で、音色知覚機構が次の傾向をもつ可能性がある。
a 位相を変化させる調波の密度が小さい場合、低域よりも高域の調波の影響が大きい。
b 位相を変化させる調波の密度が大きい場合、高域よりも低域の調波の影響が大きい。
この傾向は基本周波数が250Hz の場合よりも、62.5Hz、125Hz の場合に、やや顕著にみ られ、"200Hz 以下の基本周波数の方が判別しやすい"という報告に矛盾しない。
ここで使用した原波形の高調波成分のパワーは、次数と反比例しているため、耳が絶対 的にこの帯域のどこに敏感であるかは、一概にいえない。
参考までに、逆フィルタ処理波形と原波形を入力信号として対比較で呈示したときの、
各基本周波数における判別率を表5.1に示す。