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実験室および自然界の生物への影響

ベリリウムに関する環境保健クライテリア文書の公表以来、新規に入手可能な情報はご くわずかである(IPCS, 1990)。

10.1 水生環境

淡水魚へのベリリウム(可溶性塩)の急性毒性に関するデータを表 7 にまとめる。96 時間 LC50は試験種および試験条件、とりわけ検査に用いた水の硬度によって左右され、ベリリ ウム0.15~32.0mg /Lであった。グッピー(Poecilia reticulata)のLC50は、硬水(硬度=炭 酸カルシウム[CaCO3]450mg/L)での19.0~32.0mg/Lに対し、軟水(硬度=炭酸カルシウム 22mg/L)では0.16mg/Lとほぼ2桁低い(Slonim & Slonim, 1973)。軟水と硬水の両方で検 査 し た フ ァ ッ ト ヘ ッ ド ミ ノ ウ(Pimephales promelas)お よ び ブ ル ー ギ ル(Lepomis macrochirus)でも、同様の結果が報告されている(Tarzwell & Henderson, 1960)。

魚類への毒性は、硬度が非常に低い(カルシウム2mg/L)酸性水では更に高かった(Jagoe et al., 1993)。pH 5.5では、ヨーロッパパーチ(Perca fluviatilis)の幼生の死亡率はベリリウム (硫酸ベリリウム)≥ 100µg/Lで80%、ローチ(Rutilis rutilis)の稚魚ではベリリウム150µg/L で90%と有意に高かった。pH 4.5の場合、パーチの死亡率はベリリウム≥10µg/Lで75%

と有意に高く、ローチではベリリウム150µg/Lでのみ60%と有意に高かった。ベリリウム 10µg/L(pH 5.5)といった低濃度に暴露したパーチで、鰓の異常が認められた。

サラマンダー(Ambystoma spp.)の幼生は、ベリリウムに対し魚類が示したものと類似の 感受性を示し、96 時間 LC50は硬水中で(硫酸ベリリウムとして)ベリリウム 18~31mg/L、

軟水中で3.2~8.3mg/Lであった(Slonim & Ray, 1975)。急性毒性に関しては、オオミジン

コ(Daphnia magna)は脊椎動物種に匹敵し、硫酸ベリリウムおよび塩化ベリリウムに対す

る48時間EC50は、研究および水の硬度によってベリリウム1.19~7.9mg/Lの幅があった (US EPA, 1978, 1980; Buikema, 1986; Khangarot & Ray, 1989)。他の無脊椎動物種の96 時間 LC50は、自由生活性線虫(Caenorhabditis elegans)でベリリウム(硫酸ベリリウムとし て)0.14mg/L(Williams & Dusenberry, 1990)、淡水イトミミズ(Tubifex tubifex)で10.25 mg/Lであった(Khangarot, 1991)。

US EPA(1980)の報告によれば、水の硬度が炭酸カルシウム220mg/Lの場合、オオミジ ンコに対する硫酸ベリリウムの慢性毒性濃度はベリリウム5.3µg/L(28日最大許容毒物濃度 [maximum allowable toxicant concentration]、MATC4)であった(21日間生活環検査、重 要エンドポイントの報告なし)。同じ検査水における急性毒性濃度(48 時間 EC50)はベリリ

ウム2.5mg/Lであり、この試験に基づくとベリリウムの急性/慢性毒性濃度比は472と算

定される。しかし、Buikema(1986)の報告によれば、オオミジンコに対する硫酸ベリリウ ムの慢性および急性毒性濃度の相違ははるかに少なかった。この研究(21 日間生活環検査) では、慢性毒性濃度は硬度100mg/Lでベリリウム0.051mg/L、200mg/Lで0.288mg/L、

300mg/Lで1.10mg/Lであり、したがって急性/慢性毒性濃度比は硬度100mg/Lでの23.33 から硬度300mg/Lでの5.75まで低下した。生存、体長、および生殖は、硬度100または

200mg/Lでは同程度に影響を受けたが、300mg/Lの場合の重要影響は体長であった。水生

脊椎動物の慢性毒性データは見つからなかった。仔稚魚(early life stage)試験では、コイ (Cyprinus carpio)の卵の孵化成功率はベリリウム0.2mg/Lで0%まで低下し、0.08mg/L(硬

4 MATC は、成長または生殖に有意な影響を与えない試験濃度の最高値と、成長または

生殖に有意な影響を与える試験濃度の最低値との幾何平均に等しい。

度、炭酸カルシウム50mg/L)では影響はみられず(Hildebrand & Cushman, 1978)、硝酸ベ リリウムでは、ベリリウム0.9~4.5mg/L でカエル(種の特定なし)の卵の成長に対し、0.09

~0.2mg/L でオタマジャクシの成長に対し、それぞれ影響はみられなかった(Dilling &

Healey, 1926)。

水生微細藻類は水生動物よりベリリウムに対する感受性が低い。緑藻(Chlorella vannieli) の生長は、ベリリウム濃度 100mg/L の塩化ベリリウムによって抑制された(Karlander &

Krauss, 1972)。硫酸ベリリウムは、ベリリウム濃度 1.8~2.7mg/L で緑藻(Chlorella pyrenoidosa)の生長をわずかに(5.6%)抑制しただけであった(Hoagland, 1952)。

10.2 陸生環境

陸生野生生物種に対するベリリウムの毒性に関するデータは見つからなかった。実験哺 乳類での試験(§8参照)では、吸入されたベリリウムは、0.15mg/m3という低濃度で急性毒 性を示す可能性があり、6µg/m3という低濃度でも長期に暴露すると肺への影響 (増殖およ び炎症性変化)を引き起こす可能性があることが示された。摂取されたベリリウムは

18mg/kg体重といった低濃度で急性毒性を示した。イヌにおける長期摂取のNOAELは、

小腸の病変に基づき0.1mg/kg体重/日と確認された。

ベリリウムは陸生植物に対し毒性があり、pHが低い場合と中性の場合にmg/L単位で生 長を抑制し、収穫を減少させる。栄養培養液(pH 5.3)中で生長したツルナシインゲンの収穫 量は、ベリリウム0.5mg/Lの添加で33%、5mg/Lの添加で88%減少した(Romney et al., 1962)。収穫に対する類似の影響が、ケールでは硫酸ベリリウム(Williams & Le Riche, 1968)、

キャベツでは硝酸ベリリウム(Hara et al., 1977)を加えた栄養培養液試験で認められた。キ ャベツの収穫量を50%低減させる重要濃度は、根でベリリウム3000mg/kg、葉で6mg/kg 乾燥重量に相当した(根から取り込まれたベリリウムで上部まで移行するのは非常に少な い)。春大麦の葉における重要濃度は、0.6mg/kg 乾燥重量と報告されている(Davis et al.,

1978)。土壌における陽イオン交換容量の 4%に相当する濃度の土壌培養で、ベリリウムに

暴露したマメ、小麦、およびクローバーでも、収穫量減少(根と葉の発育阻害、葉のクロロ シスや斑点形成はない)がみられた(Romney & Childress, 1965)。この調査では、ベリリウ ムはベントナイトなどさまざまな土壌に収着する(バリウム、カルシウム、マグネシウム、

ストロンチウムと置換する)が、カオリナイトには収着しないことが分かった。ベリリウム

(塩化ベリリウムとして)濃度10mg/kgの砂質土で生育した春小麦の収穫量は26%減少した

(Kick et al., 1980)。pHが高いと、ベリリウムはリン酸塩として沈殿し、植物にとって利用 不可能になることもあり、植物毒性は低い(Williams & Le Riche, 1968)。pHが高いと、ベ

リリウムは植物が必要とするマグネシウム量を一定範囲まで低減させる可能性もあり、マ グネシウム不足の媒質で栽培した植物(および藻)の生長を高める(Hoagland, 1952)。

Wilke(1987)によって土壌中の微生物への硫酸ベリリウムの影響が調査され、ベリリウム

30mg/kgの土壌ではバイオマスが40%、窒素の無機化が43%減少することが分かった。濃

度80mg/kgの土壌では、デヒドロゲナーゼ、サッカラーゼ、およびプロテアーゼも阻害さ

れた。ミミズなど土壌中の生物へのベリリウムの毒性に関するデータはない。

10.3 微生物

硝酸ベリリウム四水和物(Be(NO3)2 · 4H2O)の毒性閾値は、鞭毛虫類Entosiphon sulcatum (Stein)0.004mg/kg、繊毛虫類Uronema parduczi (Chatton-Lwoff)0.017mg/kg、鞭毛虫類 Chilomonas paramaecium (Ehrenberg)0.51mg/kgであった(Bringmann et al., 1980)。ベ リリウム濃度30mg/kgの土壌で肥料にリン酸ベリリウムを添加すると、バイオマスはコン トロールの60%、窒素の無機化は57%にまで減少した(Wilke, 1987)。