5.1 はじめに
本研究で検討した VC 手法による現実感を持った遠隔コミュニケーション環境の実現性を実 証する目的で、VC 手法を用いた現実感を持った遠隔コミュニケーション環境の実験システムを 開発した。
開発にあたっては、医療分野での利用を想定した。これは、医療分野は遠隔コラボレーション の一つの大きな応用分野として考えられており、かつ、実験・測定データの入手、計算機によるシ ミュレーション、及び結果検討からなる一連のコラボレーションプロセスが典型的に現れる例と考 えた為である。
実験システムでは、通信(ボクセルデータ変換・圧縮、ボクセルデータ・音声データの通信)、仮 想会議室内へのオブジェクトの配置(人物立体画像と共有データ)、可視化、共有データオブジェ クトの操作及びシステム制御の各機能を実装した。 参加者の視点位置を検知して視点を制御 する機能と人物像の位置に対応して音場を生成する機能は実装していない。
実験は、遅延のほとんど無い実験室内のネットワークで行い、遠隔地間通信で発生するネット ワーク遅延は考慮していない。
本章では、実験システムの動作環境、実験内容、及びその結果について記述する。
5.2 実験環境
5.2.1
実験システムの設計仕様表 5-1 に、実験システムの設計仕様である、登録可能接続サイト数、同時接続可能なサイト 数、及び仮想会議室内に表示可能な人物立体画像数と共有データオブジェクト数を示す。VC 手法の動作実証の為に、同時に 3 サイトを接続でき、各サイトの人物立体画像オブジェクトと二つ の共有データオブジェクトの表示を可能とした。
表 5-1 実験システムの設計仕様
項目 数
登録可能接続サイト数 20
同時接続可能なサイト数 3
仮想会議室内に表示可能な人物立体画像オブジェクト数 3
登録可能な共有データオブジェクト数 5
仮想会議室内に表示可能な共有データオブジェクト数 2
5.2.2
実験に用いたデータ各オブジェクトデータのボクセル空間サイズと表示速度(フレームレイト: fps: frame per sec.)は、
利用するネットワーク及び機器の性能に制限される。仮想会議室の現実感の評価においては、
人物の表情の表示が重要な要素と考え、実験システムでは、人物の表情が確認できると考えら れる解像度の人物立体画像オブジェクト空間サイズ(ボクセル空間サイズ 1283と 2563のデータ)
で実験を行った。
顔の実長を 25cm 程度とすると、人物立体画像オブジェクト空間サイズ 1283ではボクセルあたり 約 2 mm を、オブジェクト空間サイズ 2563ではボクセルあたり約 1 mm を表現する事になる。この オブジェクトを、サイズ 102 cm×77 cm、表示解像度 1,024 ピクセル×768 ピクセルのディスプレイ を用いて 1 ピクセルで 1 ボクセルを表示すると、実長 25cm の人物顔像を、ボクセル空間サイズ 1283では、ほぼ実物長の 1/2 のサイズの 12.8 cm の画面長で、ボクセル空間サイズ 2563では、ほ ぼ実物長の 25.6 cm の画面長で表現でき、眼の方向などの顔情報の表示が可能と考えられる。
共有データとしては医療分野での利用を想定し、①数値シミュレーション用 3 次元形状データ
として CT 及び MRI の医療画像から抽出した静止画の STL データ。 ②CT 及び MRI 計測結果 から諧調値部分のみを抽出した静止画の医療画像データ、③非構造格子を用いて行われた数 値シミュレーション結果及び医療画像データをボクセルデータ形式に変換した動画および静止 画のデータ、を用いた。
共有データの医療画像データは、人物立体画像と同様に表示画面解像度を考慮し,ボクセル 空間サイズ 2563、動画の数値シミュレーション結果はボクセル空間サイズ 1283 と 2563とした。
表 5-2 に、実験で利用した人物立体画像と共有データの、種類、属性、及びボクセル空間サ イズ(ボクセル数)を示す。
表 5-2 実験に用いたデータ
データ種別 型 ボクセル
空間サイズ
人物立体画像 動画 1283, 2563
STL データ 静止画 2563
医療画像データ(CT データ) 静止画 2563 数値シミュレーション結果データ(CG データ) 静止画、動画 1283, 2563 共有データ
サンプルデータ(立体文字) 静止画 1283, 2563
図 5.1 に、実験に利用した共有データの例を示す。(a)は、カラーマップを変更して内部構造を 抽出したボクセル数 2563の 3 次元の CT 画像データ、(b)は、ボクセル数 2563の大動脈瘤のシミ ュレーション結果(壁剪断応力)の可視化データである。
(a) CT 画像データ (b) シミュレーション結果データ 図 5.1 実験に利用した共有データの例
5.3 VC 手法の実装
5.3.1
各処理の計算機システムへの配置4.3.2 項で述べた、VC 手法の各処理の計算機システムへの配置方法を図 5.2 に示す。
図 5.2 処理の計算機システムへの配置
空間管理及び VizGrid アプリケーション制御処理を制御ノード内の PC に配置し、他の処理を 各サイトノード PC に配置した。画像重畳・表示、空間操作及び音声データ受信の各処理を、画 像表示ディスプレイに接続した PC に実装した。2 つ人物立体画像と、2 つの共有データを同時に 表示する為、画像生成処理は 4 台の PC から構成されるクラスタシステムに配置した。他の処理 はそれぞれ独立の PC に配置した。
5.3.2
実験システムへの実装本実験では、前項で記述した処理の配置構成の中から、実験に必要な一部を切り出して実験 システムへ実装した。
(1) サイト A と C : 全ての機能を実装。ディスプレイは通常の 2 次元ディスプレイ。サイト A、C からの多視点カメラ映像と二つの共有データオブジェクトを表示。
表示画面データ転送 ネットワーク(1Gbps)