4.1ルールの習得容易度についての考察
実験では、課題文を書き換えると一つ以上の書き換えた文が出てくる。課題 文をルールによって書き換えたことと、課題文をルールなど考えないで直感的 に課題文と課題文の折返し翻訳文を比較して書き換えをしたこともある。そし て書き換えた文の折返し翻訳文は課題文の意味になっていて、書き換えが成功 することがあった。元々は、ルール習得テキストには、まず、ルールを紹介し ないで、課題文を自由に書き換える。次に、ルールを紹介してから、課題文を 見て、この課題文をどのルールによって書き換えるかを意識して、このルール によって課題文を書き換えると、折返し翻訳文がうまくなってくる。すると、
このルールが納得できる。これは、本ルール習得テキストのルール習得過程で
ある。
本実験で、参加者がまず課題文を見て、自由に書き換えをした。そして、ル ールの説明をみてから、もう一回書き換え作業をした。その結果、課題文をど のルールによって書き換えるかを意識して書き換えしたこともあれば、課題文 をどのルールによって書き換えるかをすぐ意識出来なくて、直感で書き換え作 業をしたこともある。直感とは、参加者はルールを考えずにいくつかの言い方 が出てきて、そして、折返し翻訳を試すことである。直感で書き換えができた ことは悪いことではないが、課題文をどのルールによって書き換えるかを意識 できないと、この課題文を通してルールを習得させるのは難しい。そのため、
ルール習得テキストには、課題文を書き換える時、課題文をどのルールによっ て書き換えができるかを意識することの代わりに、課題文を指定のルールによ って書き換えさせるという方法も考えられる。あるいは、ルールをもっと分か りやすく表すか、課題文をもっと納得できるようにするかなどの工夫も考えら
れる。
4。2翻訳文の忠実度についての考察
本実験では、書き換えた文の翻訳文を全体に見ると、忠実度はほぼ3以上の レベルになった。これは折返し翻訳で書き換えた文の翻訳文が原文の意味をほ ぼ訳出しているということである。しかし、すべてではない、書き換えた文の 翻訳文は忠実度が5、6ぐらい、つまり、原文の構造や内容があまり良く訳出
されていない、原文の構造や内容が良く訳出されていないということもあった。
この中、課題文の理解が難しくて、違う意味に理解したという場合があった。
被験者A課題文 学刀使用屯脳 である。原文をちがう意味に理解して書き換 えたら、書き換えた文は原文の意味を忠実に訳出さない。すると、書き換えた 文の翻訳文の忠実度が低いという結果になる。
もう一つの原因は、参加者は書き換えた文が原文の意味に忠実であると思っ
たが、その書き換えた文の翻訳文を評価すると、評価者はこの文が原文の意味 になってないと評価した場合があった。課題文「遠本lS借給我好鴫?(この本 を私にかしてくれますか?)」である。参加者Aが書き換えた結果の一つは 借 給我逮ノト=FB。 である。この書き換えた文が言われたら、「この本を借りたい」
という意味は中国人ならほとんど分かる。それで、課題文をこのように書き換 えた。折返し翻訳文からみると、うまく書き換えたと判断できる。しかし、日 本人評価者はこの翻訳文「私にこの本を貸します」を見て、忠実度を6に評価 した。つまり、この翻訳文は原文の構造や内容が良く訳出されていないと評価 した。忠実度が低い原因は、本を借りたいというお願いが翻訳文に訳出されて いないことである。すなわち、書き換えた文 借給我遠ノi ill を翻訳すると、
請求の雰囲気がなくなった。中国語で、 てくれる や てください に相当 する表現が無い揚合、読む人が状況から意味を理解することがよくある。すな わち、構造だけで文の意味を伝えるのではなく、読む人の理解も要するという 原因であると結論付けることができる。すると、機械翻訳して、構造だけは日 本語に翻訳したが、伝えたい意味がなくなった。折返し翻訳で書き換えた文の 翻訳文の忠実度が低い現象は、数は極めて少ないが、この現象が存在している。
これは機械翻訳だけの問題ではないと思う。
4.3文の一致性に関する考察
文の一致性とは、二つの文の意味が一致しているかどうかでる。折返し翻訳 を用いる書き換え作業には、一致性は大事なことである。これは、書き換えた 文の翻訳文の忠実度に強く関係している。忠実度の高い翻訳文を出すためには、
原文と書き換えた文の意味が一致しなければならない。そして、書き換えた文 と折返し翻訳文の意味が一致しなければならない。この両方ができれば、絶対 に忠実度の高い翻訳文ができるとは限らないが、翻訳文の忠実度が低いことは 極めてすくない。しかし、原文と書き換えた文が一致するかどうか、そして、
書き換えた文と折返し翻訳文が一致するかどうかについての評価は、人の主観 的な評価が多かった。そして、二つの文が一致するかどうかを判断する場合、
人よりもっと正しく判断できる手段はないと思う。すると、一致するかどうか は、結局、人によって判断することになる。とりあえず、書き換える作業をす る人によって一致性を判断することしかできないと思う。実際、
本実験には、書き換えた文の折返し翻訳文が原文の意味をほぼ忠実に訳出して いるが、無視できない違いがあるということがあった。この場合、どうするか はテキストの中に説明する必要があるが、説明していない。ここで、翻訳文の 忠実度の評価(長尾 1986)を適用して、折返し翻訳文の忠実度は2以上であ れば折返し翻訳文と原文が一致していると考えられる。詳しくは本論文の第3 章の実験結果(3.2.2)で述べたので参照されたい。
4.4書き換えルールの考察と改善
本研究では、ルールを7つ整理して挙げた。この中、一つのルールは書き換え で使える手段であるとともに、書き換える時必ず守ることを筆者の理解によっ て整理した(ルール1)。あるルールは文型の変換について提示している(ル ール3、ルー一一・Lル7)。あるルールは連語の性質あるいは単語間の係り受け関係に ついて変換を提示している(ルール6)。あるルールは文化的な違いの面から 書き換えに注意すべきことを提示している(ルール4)。あるルールは語の特 性の面について提示している(ルール2、ルール5)。本実験で、テキストの最 後において、ルール習得の容易度を被験者により評価させた結果から見ると、
「ルールの説明がよくわかる、書き換えは難しくない」と評価された部分は少 なく、大部分は「ルールの説明が大体分かる。書き換えは難しい」というよう に評価された。そして書き換える時は、必ずこのルールによって書き換えてく ださいとは要求していないため、被験者がルールを意識出来なくて、直感的に 書き換えたことが多いように思われる。あるいは、被験者はルールを考える前 にいくつかの言い方が出てきて、そして、折返し翻訳を試すことが多いと思わ れる。つまり、テキストで整理したルールは、理解するのが容易ではないため、
被験者に印象を強く残していなかった。そのため、ルールを合理的に、要約的 に、分かりやすく整理する必要がある。
4.5折返し翻訳についての考察
折り返し翻訳を簡単に言うと、一つの文を二回翻訳して、元の言語に戻すこ とである。例えば、一つの中国語の文を日本語の文に翻訳して、また、中国語 の文に翻訳する。中日翻訳の場合、日本語がわかる留学生の場合、日本語を見 て中国語の文が正しく翻訳されているかどうかは分かる。日本語がわからない 一般の中国人の場合、中国語の文が正しく翻訳されているかどうかは分からな い。それで、書き換え作業は難しい。書き換えても、日本語がよくなってくる かどうかは分からない。すると、このわからない日本語を中国語に翻訳し、中 国語を評価することによって、日本語がよくなってくるかどうかを判断する。
もしこの中国語は元の中国語の意味とちがうなら、日本語がよくなっていない と判断することができて、元の中国語を書き換える。もし折り返し翻訳文は元 の中国語の文の意味と同じであれば、日本語がよくなってくると判断すること ができる。これは、折り返し翻訳を用いる書き換え作業の原理である。この作 業には、大事なことがいくつかあって、それは、書き換え作業と、原文と折り 返し翻訳文の比較である。原文と折り返し翻訳文の比較とは、意味上の比較で 翻訳文が正しく翻訳されているかどうかの判断基準であるが、意味上の比較だ けではなく、両者の構造、成分、語順などを比較して文の書き換えに参考でき る。たとえば、原文には、一つだけ 穿(着る) という動詞があるが、折返 し翻訳文には、 掌握(身につける) という動詞になってしまう場合がある。