4.1機械翻訳に適した書法ルール習得に関する分析
本研究では、山下らの示した良い翻訳結果を得るためのルール集合を元と して、機械翻訳に適した書法ルール習得テキストの開発を行った。このテキ ストを使用して、機械翻訳を使ったことがない人でも、自学自習によって機 械翻訳に適した書法ルールを習得することができるかどうかを検証する実 験を行った。以下に社会人を対象とした実験、中学生を対象とした実験、高 校生を対象とした実験のそれぞれについて、テキストを使用してどの程度書 法ルールの習得が見られたかについて考察する。
(検証実験1)社会人を対象とした実験
社会人を対象とした実験では、テキストを使って機械翻訳に適した書法ル ールの習得を自学自習形式で行った。第3章で述べたとおり、被験者はテキ ストに載せてある17問の課題文を機械翻訳を使って韓国語に翻訳した。そ の際、正しい韓国語の翻訳結果が得られたかどうかを確認するために、往復 翻訳を行った。往復翻訳の結果、入力文と折り返し文に違いがあれば、書き 換え作業を行った。書き換え作業は約1時間行い、時間内で被験者6名全員 が全ての課題文について、正しい韓国語に翻訳されると判断した入力文の作 成ができた。書き換え回数に注目してみると、テキストのレベル1の課題文 の書き換え回数が最も多くなった。テキストを作成する際に、効率良くルー ルを学習できることに重点を置くため、ルールの習得難易度を調査する予備 実験を行い、この実験の結果に基づいてテキスト作成した。それにもかかわ らず、レベル1の書き換え回数が最も多くなったが、この原因として1つは、
被験者が機械翻訳の操作に慣れていなかったことが考えられる。しかし、本 研究で作成したテキストは、課題文をヒントとして参考にしながら翻訳して いくという、問題集のような構成になっており、単純にこの実験の結果から、
レベル1の課題文が獲得をねらいとしているルールの習得が困難であった と結論づけることは難しい。課題薫じたいの往復翻訳が困難であったために、
書き換え回数が多くなってしまったと考えられるからである。
しかし、レベル2以降の書き換え回数については、おおむね3回以下とな っている。このことから、レベル2以降の課題文の書き換えについては、効 率良く進めることができていたと考えられる。
また、実験後に留学生の協力で行った韓国語文の評価については、文全体 の94%が「文が正しく意味が解る」「意味は解るが文に誤りがある」との
評価を得たことから、おおむね正しい韓国語に翻訳できる入力文を数回の書 き換え作業によって作成できていた。
(実験2)中学生を対象とした実験
中学生を対象とした実験は、テキストを使って機械翻訳に適した書法ルー ルを自学自習で学習する実験とルールの習得の程度を確認するための実験 の2段階の実験を行った。
実験の第1段階である、テキストを使って機械翻訳に適した書法ルールを 自学自習する実験では、1時間45分の授業2時間分をつかった。開発した
テキストのレベル1とレベル2の課題文8問を1時間目に行い、レベル3と
レベル4の課題文8問を2時間目に翻訳するというかたちで行った。実験全 体では90分野自学自習時間であったが、解答できない問題文が多くでることとなった。この原因については、機械翻訳に適した文を書くためには、あ る程度の国語力が必要であることが考えられる。中学生対象に用いたテキス トの課題文と社会人対象に用いたテキストの課題文の内容は同じであった。
社会人に比べ多く時間を費やしても中学生にはすべての課題文を翻訳する ことができなかったことから、現在作成しているテキストでは、中学生対象 のテキストとしては難しいと考えられる。
韓国人留学生に協力を得て行った韓国語文の評価に注目すると、実験の時 間内に翻訳できた文については84%が「文が正しく意味が解る」「意味は 解るが文に誤りがある」との評価を得た。翻訳ができた文に限れば、おおむ ね良好な書き換え作業が行われていた。
実験の第2段階である、韓国人留学生に手紙を書く実験については、被験 者それぞれが学校生活や趣味についての手紙を書いた。手紙の文を機械翻訳
を使って韓国語に翻訳し、留学生の協力で韓国語文の評価を行ったところ、
すべての文が「文が正しく意味が解る」「意味は解るが文に誤りがある」と の評価を得た。テキストを使った自学自習形式の実習では手間取ってしまっ た生徒でも、簡単な学校生活や趣味について韓国人留学生に手紙で伝えるこ
とが可能であった。
(実験3) 高校生を対象とした実験
高校生を対象とした実験は、中学生を対象とした実験とほぼ同様の方法で 行った。中学生対象の実験と違う点は、テキストを使用した自学自習形式の
実習時間が45分から50分程度であった点と、テキストの課題文をレベル
1からレベル4までの問題から10問選んで行った点である。高校生を対象
とした実験では、記録を取ることはせず、完全な自学自習とした。その後行った韓国人留学生に手紙を書く実験については、全体の98%に あたる172文が「文が正しく意味が解る」あるいは「意味は解るが文に誤 りがある」との評価を得た。中学生を対象とした実験の際と同様に、おおむ ね自分の伝えたい内容は伝えられたと考えられる。
中学生を対象とした実験においては、テキストの課題文に改善点があると 考えられるが、高校生を対象とした実験では留学生に手紙を書く実験から機 械翻訳に適した文を書くことができていた。山下は大学生を対象としてルー ルの教示を行ったが、本研究では高校生に対してルールの習得を行えた点に ついて進展があったといえる。
4.2書法ルール習得テキストの評価と改善点について
本研究で開発した教材について述べる。まず、機械翻訳に適した書法ルー ルを取得するための従来教材はなく、本研究で開発した教材が初めてである
と思われる。そのため、本研究ではまず、教材を使って学習活動を行うこと が可能であるか確認する実験を行った。その結果の改善点について次に述べ
る。
前節で述べたとおり、本研究において作成した機械翻訳に適した書法ルー ル習得テキストを使って自学自習することによって、自分の意志を手紙で伝 えることができる程度まで、機械翻訳に適した文を書くことが可能になるこ とが明らかになった。しかし、中学生を対象とした実験で明らかになったよ うに、中学生にとっては翻訳が難しい課題文が存在することも明らかになっ た。以下に、機械翻訳に適した書法ルール習得テキストの改善点について述
べる。
①課題文の内容改善
本研究で見られた、中学生にとって限られた時間内に翻訳することが難し かった課題文などが存在した。機械翻訳に適した文書を書くには、ある程度 の国語力が必要であると考えられる。つまり、国語力が十分ではない中学生 を対象とする場合には、さらに易しい課題文を作成する必要がある。
②書き換え作業時の正しい翻訳結果が得られたと判断する基準について 本研究で作成した機械翻訳に適した書法ルール習得テキストでは、書き換
え作業を行う際に、入力文と折り返し文を比較して正しい翻訳結果を得るこ とができるかどうかを判断するのは使用者に任せている。判断する際に、入 力文と折り返し文が1字1句まで一致していれば、正しい翻訳結果が得られ るであろうと判断することは容易である。しかし、実際には文末など多少変 化して往復翻訳結果が出ることが多い。このような場合、正しい翻訳結果が
得られると判断してもよいかどうかについて、テキストの中で説明する必要
がある。
上にあげた点について、書法ルール習得テキストの改善を行う必要がある。
4.3今後の課題
本研究で行った実験では、書法ルール習得テキストを使って機械翻訳に適し た書法ルールの習得が可能であるか検証を行った。中学生と高校生を対象に行 った、留学生に対して手紙を書く実験の結果から、テキストを使った自学自習 によって、ある程度書法ルールの習得が可能であることが明らかになった。し かし、本研究の実験の結果から、全ての言語に正しく翻訳できる文を書く能力 が身に付けることができるとは考えられない。本研究では、韓国語に翻訳する 実験のみ行ったからである。現状の機械翻訳でも、日韓翻訳の精度はかなり高 い水準になっている。日本語と韓国語の文法構造が似ていることがこの原因と して考えられるであろう。例えば英語や中国語、その他の言語に翻訳する場合 には、日韓翻訳の時ほどの精度で行えないかもしれない。そのような翻訳精度 の低い言語に翻訳する時に必要となる機械翻訳に適した書法ルールは、本研究 でテキスト作成の際に元とした書法ルールよりさらに複雑なものが必要となる 可能性がある。今後の課題の一つとして、このようにどのような言語に翻訳す る際にも、共通して使える書法ルールをまとめ、テキストを構成していく必要 がある。そもそも、機械翻訳に適した文に書き換える事による情報の送受信は、
我々日本人が本研究で開発した教材などでルールを習得するだけだは成り立た ない。情報を送受信する相手側も、テキストなどを用いてルールを習得する必 要がある。情報を送受信しょうとする両者が機械翻訳に適した文を作成できれ ば、機械翻訳を用いた情報の送受信が可能になると思われる。
次に、本研究では社会人から中学生までを対象とした実験を行った。機械翻 訳に適した書法ルールは、どのような人でも習得が可能であるかを検証するた めである。実験の結果として、中学生でも、自分の学校生活や趣味について紹 介する程度の文であれば、テキストを使った自学自習によって、書くことが可 能であった。しかし、テキストの課題文を作業時間内に翻訳できなかった生徒 も多く見られた。機械翻訳に適した文を書くためには、ある程度の国語力が必 要であると考えられるので、それを考慮した課題文の作成が必要である。今後 の課題2つ目として、どのような人でも機械翻訳に適した書法ルールが習得で きるよう、テキストの課題文にさらに易しい問題を加えるなどする必要がある。
また、本研究ではルール習得の程度を検証するために、留学生に対して手紙 を書く実験を行った。実験の結果、対象者である中学生と高校生の手紙の内容