(植木岳雪)
八王子地域の完新統は,沖積段丘堆積物,崖錐及び沖 積錐堆積物,扇状地堆積物,氾濫原堆積物,開析谷底堆 積物,現河床堆積物,湿地堆積物,人工堆積物からなる.
8. 1 沖積段丘堆積物
8. 1. 1 沖積 1 段丘堆積物(A1)対比 相模川,中津川では,宇野沢(1984)の下ノ街道 礫層に相当する.串川では,宇野沢(1984)の下ノ街道 礫層,氾濫原堆積物に相当する.大栗川,乞田川では,
宇野沢ほか(1972・1989),岡・宇野沢(1989),岡(1991)
の立川礫層に相当する.境川,鶴見川では,宇野沢(1984)
の陽原Ⅱ礫層に相当する.
分布 八王子地域の全ての河川に沿って分布する.
地形 侵食段丘の沖積 1 面(A1面)を構成する.北浅川,
南浅川では,植木(2007d)の拝島面に相当する.相模川,
中津川では,新期の段丘面(戸谷,1961),完新世段丘 面群の一部(米澤,1981),下ノ街道面(宇野沢,1984)
に相当するが,本報告では,相模原市緑区大島の中州や 相模原市中央区水郷田名の集落がある地形面は段丘化し ていないため,宇野沢(1984)と同様に現成の扇状地の 地形面とする.一方,宇野沢(1984)は,串川の陽原面 より低い地形面の一部を下ノ街道面とし,ほとんどを氾 濫原としているが,それらは明らかに段丘化しているの で,本報告では沖積 1 〜 3 面(A1〜3面)とする.境川,
鶴見川では宇野沢(1984)の陽原Ⅱ面に相当する.
層序関係 四万十帯白亜系小仏層群と古第三系相模湖層 群,上総層群,中部及び上部更新統の段丘堆積物を不整 合に覆う.また,ローム層には覆われず,腐植土層のみ に覆われる.
層厚 10 m以下.
層相 八王子地域では,本堆積物は露出が悪いため,詳 細は不明である.相模川下流部では,相模原市緑区大島
(地点 8.1)で,中津層群神沢層の上位に層厚 4 mの巨礫 サイズの円礫層からなる.ここでは,ローム層に覆われ ない.
年代 北浅川,南浅川では,本堆積物は植木(2007d)
の拝島層に相当するので,その年代を 1.2 〜 1 万年前と する.そのほかの河川では詳しい年代は不明である.
8. 1. 2 沖積 2 段丘堆積物(A2)
対比 鶴見川では,麻生沖積層(正岡,1987),麻生沖 積層上部層(増渕・正岡,1987;増渕,1992)に相当する.
分布 八王子地域では,湯殿川,大栗川,乞田川,三沢 川,鶴見川,境川の現在の流路に沿って連続的に分布す る.これらの河川では流路が直線的に改修され,沖積 2 段丘堆積物を下刻した流路が人工的に埋められた場所も ある.しかし,もとの流路は幅が狭いので,本報告の地 質図には沖積 2 段丘堆積物として表現し,人工堆積物(埋 土層)としては表現していない.
地形 侵食段丘の沖積 2 面(A2面)を構成する.北浅川,
南浅川では植木(2007d)の天ヶ瀬面に相当する.鶴見 川では,麻生沖積面(正岡,1987)に相当する.
層序関係 四万十帯白亜系小仏層群と古第三系相模湖層 群,上総層群,立川 2 段丘堆積物を不整合に覆う.ロー ム層には覆われず,腐植土層のみに覆われる.
層厚 10 m以下.
層相 八王子地域では,本堆積物は露出が悪いため,詳 細は不明である.本堆積物に相当する多摩川の天ヶ瀬層 の層相は,武蔵野台地では植木(2007d)に概説されて いる.南浅川では,八王子市裏高尾町(地点 7.51)で,
立川 2 段丘堆積物の上位に層厚 70 cmの中礫〜大礫サイ ズの亜円礫〜亜角礫が観察される(第 7. 15 図,第 7. 16 図の 2).大栗川では,本堆積物は層厚 2 〜 7 mの砂礫 層からなる(藁谷,1993a,b).境川では,相模原市緑 区橋本(地点 7.21)で,相模原段丘堆積物の上位に層 厚 20 cmの粗粒砂層,層厚 50 cmの細礫〜中礫サイズの 亜角礫〜角礫層,層厚 30 cmの細粒砂層が重なり,層厚 120 cmの腐植土層に覆われる(第 7. 9 図).
鶴見川では,町田市野津田町の野津田車庫(地点 8.2)
で,上総層群鶴川層の上位に層厚 1.3 mの細礫〜中礫サ イズの円〜亜円礫層,層厚 90 cmの腐植質シルト層,層 厚 1.1 mのローム質シルト層,層厚 20 cmの腐植土層が 重なり,層厚 1,7 mの盛土層に覆われる(第 8. 1 図の 1).下部の円礫〜亜円礫層には材化石が多く含まれて おり(第 8. 1 図の 2),その暦年14C年代は 1,878-1,623
yrs Cal BPであった(第 7. 1 表).川崎市麻生区上麻生
から白根にまたがる川崎市下水道局の麻生環境センター 付近では材化石を多量に含む砂層,シルト層からなり,3,
000 ± 30 yrs BPから 2,270 ± 30 yrs BPの14C年代が得 られている(増渕,1992).そこでは,淡水性の珪藻化石,
大型植物化石,花粉化石,昆虫化石が産出する(小出,
1987;正岡,1987;増渕・正岡,1987;楡井,1987;大澤,
1987;増渕,1992;森,1992;上西・山口,1992;吉武・
増渕,1992).
年代 本堆積物の年代は不明であるが,今までに得られ
た年代から,完新世前期〜後期とする.
8. 1. 3 沖積 3 段丘堆積物(A3)
分布 八王子地域では,串川に沿って分布する.
地形 侵食段丘の沖積 3 面(A3面)を構成する.
層序関係 四万十帯白亜系小仏層群と古第三系相模湖層 群,沖積 1 〜 2 段丘堆積物を不整合に覆う.また,ロー ム層には覆われない.腐植土層に覆われるかどうかは不 明である.
層厚 侵食段丘の堆積物であり,現河床と沖積 3 面の比 高は数mであることから,層厚は 1 〜 2 mである.
層相 八王子地域では,本堆積物は露出がないため,詳 細は不明である.
年代 沖積 2 段丘堆積物よりも新しい完新世後期であ る.
8. 2 崖錐及び沖積錐堆積物(c)
崖錐は山地斜面の基部に分布する.規模の大きなもの として,相模川の右岸の相模原市緑区中野,太井,串川 の右岸の愛川町角田に分布するものが挙げられる.沖積 錐は山地,台地を開析する小河川の出口に分布する.八 王子地域では,崖錐及び沖積錐堆積物の露出は悪いため,
詳細は不明であるが,層厚数〜 10 m程度の砂礫層から 構成され,ローム層に覆われないことから,それらの年 代は完新世と考えられる.愛川町八菅山(地点 8.3)で は,四万十帯古第三系相模湖層群の上位に,巨礫サイズ の円礫と中礫〜大礫サイズの亜角礫〜角礫が混合した層
厚 60 cmの礫層が見られる.これは,支流の沖積錐堆積 物と本流の沖積段丘堆積物が指交したものである.
8. 3 扇状地堆積物(ad,ac)
多摩川,浅川,北浅川,南浅川の低地は,丘陵と台地 に挟まれた幅 1.5 〜 2.5 kmの現成の扇状地である(門村,
1961;阪口・大森,1981).多摩川沿いの低地は,河川 改修以前の堤内地に相当する現河床からの比高が 1.5 〜 2 mの谷底平野低位面と,氾濫原に相当する比高が 3.5
〜 5 mの谷底平野高位面に分けられ,網状の旧河道とそ の間の比高 1 〜 2 mの砂礫堆が発達する(門村,1961).
相模川,中津川沿いの低地も,多摩川と同様に現成の扇 状地である.
扇状地堆積物は門村(1961)の谷底平野高位面を構成 し,砂礫堆堆積物と旧河道堆積物に分けられる.八王子 地域では,扇状地堆積物の露出がないので詳細は不明で あるが,砂礫堆堆積物は砂礫層,旧河道堆積物は砂〜シ ルト層からなる.河床に上総層群は露出する場所もある ことから,本堆積物の層厚は数mである.扇状地堆積 物については,多摩川では植木(2007d)に概説されて おり,相模川では宇野沢(1984)の記載がある.
8. 4 開析谷底堆積物(af)
大栗川,乞田川,三沢川,境川,鶴見川,恩田川の最 上流部は,幅 100 〜 300 m程度の広い開析谷底をなす.
また,丘陵には樹枝状の開析谷が発達し,その谷底はし AMS 14C age
1,878-1,623 yrs Cal BP
第 8. 1 図 町田市野津田町の野津田車庫(地点 8.2)における沖積 2 段丘堆積物の柱状図及び露頭写真
1,材化石を多量に含む円礫〜亜円礫層とシルト層.現在はこの露頭は見られない.2,材化石の樹幹.
ばしば湿地になって,いわゆる「谷戸(谷地,谷津)」
地形をなす.相模野台地では,相模原市南区下溝の相模 原沈殿池から相模原市南区磯部の峰山霊園にかけて,「磯 部山谷」と呼ばれる幅 300 m程度の出口のない開析谷が 認められる.同様の出口のない谷は,相模原市中央区松 が丘,緑が丘から相模原市南区麻溝台の北と北里大学病 院にかけても認められる.これらの出口のない開析谷は,
ローム層中に滞水した宙水が大雨の際に地上に湧出し,
ローム層を侵食して形成されたと考えられている(相模 原地形・地質調査会,1985).
これらの開析谷底の堆積物は,一般に腐植質なシルト
〜粘土層からなり,後期更新世から現在にかけて連続的 に堆積したと考えられる.層厚は数mである.開析谷 底堆積物の例として,町田市上小山田町(地点 8.4)に おける層厚 2 m以上の腐植質シルト層(第 8. 2 図の 1)
と八王子市堀之内(地点 8.5)における層厚 4 〜 5 mの 材化石を含む腐植質シルト層(第 8. 2 図の 2)を挙げる.
大沢(1976)は,大栗川,乞田川沿いで御岳第 1 軽 石(On-PmⅠ)を含み,大型植物化石を多産する泥炭 層を見出した.そして,その泥炭層をMIS 5e(下末吉 期)の段丘堆積物としたが,本報告では開析谷底の堆積 物とみなす.また,羽鳥(1996)によって,大栗川沿い で大型植物化石を産出する下末吉ローム層,武蔵野ロー ム層も開析谷底の堆積物とみなす.川崎市麻生区上麻生 から白根にまたがる川崎市下水道局の麻生環境センター では,沖積段丘 2 堆積物の下位に砂層・シルト層からな る麻生沖積層(正岡,1987),麻生沖積層下部層があり(増 渕・正岡,1991;増渕,1992;高野・竹井,1992),そ
れらも開析谷底の堆積物と考えられる.麻生沖積層下部 層からは,15,680 ± 70 yrs BPから 14,200 ± 160 yrs BP の14C年代が材化石から得られ,浅間UG火山灰(As-UG)
が見出されている(増渕・正岡,1987;増渕,1992;松田,
1992).また,大型植物化石(正岡,1987;増渕・正岡,
1987;大澤,1987;増渕,1992),珪藻化石(吉武・増渕,
1992),昆虫化石(森,1992)が産出する.
8. 5 現河床堆積物(ar)
多摩川,浅川,北浅川,南浅川,相模川,中津川の現 河床は,網状の河道とその間の砂礫堆が発達する堤内地 となっている.そこでは,洪水時に冠水して,砂礫の侵 食と堆積が行われる.中津川では,2000 年の宮ヶ瀬ダ ムの建設後に河道が固定化され,砂礫堆が植生に覆われ るようになった(久保・須田,2009).これらの河川の 現河床堆積物は,門村(1961)の谷底平野低位面の構成 層に相当する.そして,淘汰の良い中礫〜巨礫サイズの 円礫〜亜円礫層からなり,砂層を伴う.層厚は数mで ある.現河床堆積物の例として,日野市上田(地点 5.22)
における浅川の河床を挙げる.ここでは,河川改修工事 の際に,上総層群小山田層の上位に層厚 6 mの大礫〜巨 礫サイズの亜円礫層が観察された(第 8. 3 図).そのほ かの河川では,現在の流路に沿って,さまざまな粒径の 砂礫層が見られる.層厚は数mである.
現河床堆積物については,多摩川では植木(2007d)
に概説されている.また,遠藤ほか(1978),川合ほか
(1986,1987), 向 山(1989), 向 山・ 羽 鳥(1993), 藁 第 8. 2 図 開析谷底堆積物の露頭写真
1,町田市上小山田町(地点 8.4)における腐植質シルト層.現在はこの露頭は見られない.2,八王子市堀之内(地点 8.5)
における材化石を含む腐植質シルト層.現在はこの露頭は見られない.