• 検索結果がありません。

学習規律の実態と社会的スキルに関する指導モデルの学校体育

ドキュメント内 博士論文 (ページ 135-155)

第 2 節 社会的スキルに関する指導モデルの学校体育への適用及び実践的な効果… 119

3) 学習規律の実態と社会的スキルに関する指導モデルの学校体育

これまで,児童生徒の発達の観点から,TPSR モデルは,小学校低学年及び小学校中学年 に,ASKS モデルは,小学校高学年以降に適用可能ではないかということを示した.以下で は,TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育への適用について,児童生徒の学習規律の実 態から検討した.

児童生徒の学習規律の実態を考慮すれば,TPSR モデルを指導し,ある程度学習規律を整 えてから,ASKS モデルを指導するという適用方法が考えられる.

例えば,児童生徒の学習規律に対する意識が極めて低く,チャイム着席を守らず,私語 などの授業妨害を行うという学級を対象とした場合,ASKS モデルは,知識の理解を中心目 標に設定しているため,学習の成立が難しいのではないかと推察される.一方,TPSR モデ ルは,行動の獲得を中心目標に設定しているため,児童生徒の無責任な行動を抑制し,学 習規律を担保するという効果が期待できるのではないかと推察される.

逆に,児童生徒の学習規律に対する意識が高く,学習規律がしっかりと守られている学 級を対象とした場合,TPSR モデルは,課題を達成させることが容易で,児童生徒の著しい 変化は期待できないのではないかと推察される.図 4-2-2 は,児童生徒の学習規律の実態 からみた TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育への適用を示している.

ASKSモデル

TPSRモデル

図 4-2-2 学習規律の実態からみた TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育への適用

発達の観点及び学習規律の実態をあわせて,TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育へ の適用を検討すると,以下が考えられる.

小学校低学年では,発達の観点から,TPSR モデルを適用することが適切ではないかと考 えられる.しかし,学習規律の実態からみると,学習規律が整っている場合は,ASKS モデ

128

ルの適用が可能ではないかと考えられる.例えば,3 人組になり,3 人での関係づくりを学 習させることが想定できる.具体的には,①3 人で学習に取り組むことの特徴(チームの 特徴),②3 人で学習に取り組むために必要なチームワーク(チームワークの概念及び要素),

③3 人でのコミュニケーションの取り方,④チームへの愛情,及び,⑤リーダーシップの 取り方など,ASKS モデルを児童生徒の発達に対応させて,簡易化して学習させることが可 能である.

一方,中学校では,発達の観点から,ASKS モデルを適用することが適切ではないかと考 えられる.しかし,学習規律の実態からみると,学習規律が整っていない場合には,TPSR モデルの適用が適切ではないかと考えられる.本研究では,TPSR モデルを中学校第 1 学年,

あるいは,中学校第 2 学年に適用して,一定の効果が認められた.図 4-2-3 は,児童生徒 の発達及び学習規律の実態に対応させた TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育への適用 について示している.

小学校

低学年 中学校

児童生徒の発達 ASKSモデル

TPSRモデル

図 4-2-3 社会的スキルに関する指導モデルの学校体育への適用

2 項 社会的スキルに関する指導モデルの実践的な効果

以下では,TPSR モデル,あるいは,ASKS モデルが児童生徒の行動に与えた影響について 検討した.具体的には,第 1 に,TPSR モデルを実施した担当教師,及び,TPSR モデルを実 施した学校の学校長を対象に,TPSR モデルの適用による生徒の変化について,インフォー マルなインタビュー調査を行い,その結果を示した.第 2 に,ASKS モデルを実施した担当

129

教師を対象に,ASKS モデルの適用による児童の変化について,アンケート調査を行い,そ の結果を示した.

第 1 に,TPSR モデルが生徒の行動に与えた影響について検討した.

まず,中学校第 2 学年の男子生徒に TPSR モデルを実施した担当教師は,TPSR モデルの 適用による生徒の変化,具体的には,体育の授業中における変化,並びに,体育授業以外 の教科及び学級における変化について,以下を報告した注 3)

体育の授業中における生徒の変化について,担当教師は,①生徒が授業に早く来て準備 などを手伝うようになった,②生徒が自主的,主体的に学習に取り組むようになった,及 び,③体育の授業中にふざけている生徒に対して,真面目に取り組むように注意をするよ うになったと報告した(梅垣,2015a,p.24).加えて,体育授業以外の教科では,①互い に相手を思いやる声かけを行い,授業規律を守ろうとするようになった,また,学級では,

②リーダーシップを取り,意見を言うようになった,③学習規律を守ろうとする行動がみ られるようになった,及び,④自主的に,学級の委員あるいは係になろうとする行動がみ られるようになったと報告した(梅垣,2015a,pp.24-25).

次に,TPSR モデルを実施した学校の学校長は,TPSR モデルを適用する前と TPSR モデル を適用した後では,生徒の様子に大きな変化がみられたことを報告した.学校長は,TPSR モデルを適用する前の生徒の様子について,「課題を抱える学校に共通する状況として,授 業妨害,暴力行為,器物破損,喫煙行為などがこれまで数多く発生してきた.生徒たちの 中には,全体的に落ち着きに欠け,授業に入れず,校内での徘徊,喫煙等の問題行動を繰 り返す者も多く見られた」(田中・濱田,2015, p.48)と報告した.これに対し,体育授業 に TPSR モデルを適用した後の生徒の様子について,「対教師暴力はゼロになるとともに,

授業も一定の落ち着きを取り戻している」(田中・濱田,2015,p.48)と報告した.加えて,

TPSR モデルを体育授業に取り入れた結果,「生徒の自尊感情を高め,決めた目標に向かっ て努力する生徒を増やすことができたと実感している」(田中・濱田,2015,p.52)と報告 した.

第 2 に,ASKS モデルが児童の行動に与えた影響について検討した.

小学校第 6 学年に ASKS モデルを実施した担当教師は,ASKS モデルの適用による児童の 変化,具体的には,体育の授業中における変化,及び,体育授業以外の学級における変化 について,以下を報告した.

130

担当教師は,授業開始当初,チームの一員として役割を果たすこと,あるいは,リーダ ーとして活動することに対する意識が低かったと報告した.ところが,授業時間が進むに つれて,①チームへの愛情を深め,目標を共有するようになった,②自分もリーダーにな ろうとする意識を高めていった,③自分の役割を果たすようになった,及び,④話し合い に積極的に参加するようになったなど,児童の意識とともに行動も変化したことを報告し た.加えて,体育授業以外の学級では,①児童がチームの意義を考えるようになった,② チームワークを高めることに向けた行動がみられるようになった,③友達へのやさしい声 かけがみられるようになった,及び,④活発な意見交換が行われるようになったと報告し た.

一方,ASKS モデルを実施した担当教師は,これまで報告したような ASKS モデルの効果 とあわせて,ASKS モデルの改善点についても報告した.具体的には,ASKS モデルの改善点 は,ASKS モデルが知識の理解を中心目標に設定しているため,ASKS モデルの知識を理解す ることが難しい児童への配慮が必要ではないかということであった.

以上のように,本研究における授業の担当教師による報告は,TPSR モデル及び ASKS モ デルが,体育の授業中及び体育授業以外の場面における児童生徒の行動を変容させること を示唆するものであった.さらに,学校長の報告は,TPSR モデルが生徒の行動変容に加え て,学校全体を変える可能性を秘めていることを示唆するものであった.

なお,ASKS モデルを実施した担当教師は,ASKS モデルを小学生の体育授業に適用する場 合,指導内容及び教示方法に関して,簡易化するなどの工夫が必要であることを示唆した.

131

第 3 節 本研究の結論

本研究の分析を通して得られた結論は,以下の通りであった.

第 1 に,TPSR モデルは,①体育授業において生徒が獲得した社会的スキルを日常場面へ 転移させ,日常場面の社会的スキルの獲得を促したこと,しかし,②その日常場面の社会 的スキルを介入除去後の日常場面へ転移させなかったことを明らかにした.第 2 に,新た に開発した ASKS モデルは,①体育授業において生徒が獲得した社会的スキルを日常場面 へ転移させ,日常場面の社会的スキルの獲得を促したこと,かつ,②その日常場面の社会 的スキルを介入除去後の日常場面へ転移させたことを明らかにした.

TPSR モデルと ASKS モデルの相違点を表 4-3-1 にまとめた.TPSR モデルは,日常場面の 社会的スキルの獲得を目標に掲げ,主に行動主義による指導方法の特徴を有する指導モデ ルであった.これに対し,ASKS モデルは,スポーツ場面の社会的スキルの獲得を目標に掲 げ,認知主義及び社会構成主義の考えに基づく指導方法を踏まえて,新たに開発した指導 モデルであった.

表 4-3-1 TPSR モデルと ASKS モデルの相違点

獲得 介入除去後 への転移

TPSRモデル ○ ○ ○ ✕† †

ASKSモデル ○ ○ ○ ○ ○

○は,各指導モデルの特徴,あるいは,本研究において実証した事項を示している.

† †✕は,日常場面の社会的スキルが転移しなかったことを示している.

目標に掲げている

社会的スキル 指導モデルを支える学習理論 本研究において

実証した事項 スポーツ場面の

社会的スキル

日常場面の

社会的スキル 行動主義 認知主義 社会構成 主義

日常場面の社会的スキル

本研究は,体育における指導モデルを転移の観点から検討することを通して,TPSR モデ ルの有効性及びその限界を明らかにし,TPSR モデルの限界を克服する新たな指導モデルで ある ASKS モデルを開発した.加えて,TPSR モデル及び ASKS モデルの学校体育への適用方 法を提案した.

ドキュメント内 博士論文 (ページ 135-155)