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1. アウトプット

3.1 妥当性(レーティング: 洪水制御事業 a、灌漑事業 b)

3.1.1 開発政策との整合性

(1)洪水制御事業

ミンダナオの2大河川(コタバト川・アグサン川)の流域は頻繁な洪水被害に見舞われ ていたが、この流域を開発するため、1978年の大統領令にて、コタバト・アグサン川流 域開発計画(CARBDP: Cotabato - Agusan River Basin Development Program)事務所が公共 事業道路省の管轄下で設立された。その後の国家中期開発計画(1987-1992年、1993-1998 年)では、洪水制御設備を整備し洪水被害を軽減することが、優先事業の1つに掲げら れた。ここでは、肥沃で広大な土地を有する主要な河川地域で、洪水制御設備の改修や 建設を行うことで、農業の生産性を高め、地域の人命や資産を洪水から守ることを目的 としている。フィリピン政府は、国内の12の主要な河川での洪水制御と排水設備の整備 を優先事業と位置づけたが、その中にはアグサン川下流地域も含まれた。

事後評価時点の国家中期開発計画(2004-2010 年)においても、同国政府は、あらゆる洪 水氾濫地域に対して、洪水制御と排水改善の施設の建設や既存設備の改修を行うと明言 している。また、公共事業道路省(DPWH)の中期公共投資計画(2005-2010年)には本 事業の洪水制御事業フェーズIとIIが含まれ、13,700 haの地域を洪水から守るとしてい る。

(2)灌漑事業

1993-1998年の国家中期開発計画は、灌漑設備の供給により食糧の安全保障を促進する

ため、灌漑地域を155万haから193万haに拡大することを目指した。一方、1997年の 農漁業近代化法は、米とトウモロコシの自給率向上と食糧安全保障を優先事項とし、効 果的・効率的かつ安価で適切な灌漑設備の開発を、政府が促進するとした。

現在の国家中期開発計画(2004-2010年)においても、米の生産効率と競争力の向上に よって自給率を上げることを目的に掲げており、その戦略の1つが、灌漑サービスへの アクセスの改善である。この開発計画に基づいて策定された米自給計画は、米の生産性 を向上し、自給率を2010年までに100%にすること、そして米作農民の所得を向上する ことを目指している。この施策の焦点となるのが、設備の改修や整備によって、効果的・

効率的な灌漑システムを構築することである。

一方、対象地域であるブツアン市では、審査時点の同市の土地利用計画(1973-1996年)

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において、米作地域の2,000 haを住宅地や工業地に転換する構想が記述されていた。1983 年に実施された詳細設計では、同市の土地利用転換には長い期間がかかるであろうとの 認識から、この米作地域を灌漑事業の対象に含めることは妥当と判断し、ブツアン市の 担当者もこれに同意していた2。詳細設計より約10年後の1995年に同事業の審査が実施 されたが、同市の土地利用計画の実施状況等を確認した記録は、審査資料には見られな かった。その後のブツアン市の土地利用計画(1997-2010年)では、さらに工業・住宅地 域が拡大している。しかし、国家灌漑公社(NIA)が、事業の開始時に、同計画の内容 を検討したかは不明である。ブツアン市は、現在2011年以降の新土地利用計画を策定中 であるが、その内容や灌漑事業の対象地域との関係についての情報は得られなかった。

図 1 洪水事業の対象地域 図 2 灌漑事業の対象地域

(ミンダナオ島北部のブツアン市内、 (ミンダナオ島北部のブツアン市内、色付部 分が網掛け部分と斑点部分が対象地) 対象地、色分けは水利組合で分けたもの)

3.1.2 開発ニーズとの整合性

(1)洪水制御事業

アグサン川下流の流下能力は1,800m3/秒で、毎年発生する規模の流量(1990-1995年の 最大流量は1,500~3,000 m3/秒)に相当し、ほぼ毎年、洪水が発生し2カ月近く続いた。

1981年の洪水被害は、浸水面積8,000ha, 浸水期間60日、死亡者40名、浸水家屋18,400 戸、被害額84.8百万ペソであった。このような洪水は、地域の開発や経済の活性化を阻 む大きな要因であった。

ミンダナオ北部のアグサン北部州の経済・社会活動の中心であるブツアン市では、1970 年から2009年までに、人口が13.1万人から30.8万人に増加しており、洪水制御と被害

2 しかし、詳細設計時におけるブツアン市との協議については、当時のワークショップにブツアン市の農 業担当職員が参加したとの回答がNIAより寄せられただけであった。

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軽減の必要性はより高まっている。本事業のフェーズIが未完成であった1999年にも、

最大流量4,500m3の大規模な洪水が発生し、8,700haが浸水、大きな被害をもたらした。

(2)灌漑事業

フィリピンの主食である米は、単収および収穫面積の伸びの停滞で、総生産量が伸び悩 んでいた。1ha当たりの単収は、1985年から1995年の間で2.6トンから2.8トンと8%の 増加、収穫面積は340万haから376万haと11%の低い伸び率で、総生産量も881万ト

ンから1,054万トンと20%の増加に留まった(下図を参照)。生産性の低さが課題で、理

由には、自然災害、不十分な灌漑整備や農業インプットの価格の高さが挙げられる。そ の改善には、灌漑施設の整備と各種技術の開発・普及や農業機械化が必要であると指摘 される。1999年から2007年にかけては、単収も伸び米の増産が進み、米の生産量は1600 万トンになったが、消費の増加に追い付かず、輸入が拡大している。米の輸入は1999年 には83万トンであったのが、2006年には180万トンと2倍以上になった。

単位: 千トン 単位: 千ha 単位: トン/ ha

-2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000

1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007

-1,000 2,000 3,000 4,000 5,000

1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00

1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007

図3 フィリピンの米生産量 図4 米の収穫面積 図5 米の単収

出典: FAOSTATDatabase, 2008. FAO, Rome. 22 Sep 2008

一方、ブツアン市では、主要産業の林業の衰退に伴い、農業の推進の重要性が高まって いたが、審査時において、同市の灌漑可能面積 15,881 ha のうち、灌漑されているのは

20%のみであった。同市があるアグサン北部州でも、1990年の米の需要45,529トンに対

し22,109トンが不足していた。しかしその後、同市の都市化に伴い、農業地域が占める

割合は減尐傾向にあり、灌漑可能面積も2008年には9,546haに減尐した3。事後評価時は、

事業対象地において、住宅地の建設などの土地利用の変化が見られた。

なお、本事業(洪水制御・灌漑事業)の構想は、1978年にCRBDPが実施した水資源開 発計画から始まった。この中で、アグサン川下流域の開発が優先案件となり、1980年に フィージビリティ調査(F/S)が実施され、洪水制御と8,000haを対象とする灌漑事業か ら構成される計画が提案された。F/Sでは、開発事業の基礎となる洪水制御に高い優先度

3 この内4,967haが灌漑、4,579haが未灌漑である。

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が置かれた。その後、1982 年に詳細設計(D/D)が実施され、堤防と排水設備からなる 計画が策定されたが、巨額の建設費用、用地買収・補償の困難さから、2 段階に分けて の実施が提案され、人口の多い西部地域の事業が優先された。

灌漑事業に関しては、1980年のF/Sと1983年のD/Dの後、1995年に実施計画が策定さ れている。これらの中で、取水ダム(Diversion Dam)とポンプによる灌漑が比較検討さ れ、ポンプ灌漑が、技術的にも経済的にも妥当だと判断された。なお、1995年にNIAに より実施計画が検討される際に、対象地域の設定を含め、ブツアン市側の積極的な参画 があったかどうかは確認できなかった。

3.1.3 日本の援助政策との整合性

1999年のJICA(旧JBIC)海外経済協力業務実施方針では、受入れ国の貧困削減を支援

しており、災害予防や環境保全への援助が含まれた。2000年の対フィリピン国別援助計 画は、貧困削減と地域格差の是正を目指し、農業・農村開発のための農村インフラの重 要性を指摘している。また、重点支援分野には、災害予防が含まれた。

以上より、洪水制御事業については、洪水被害の軽減に向けてのフィリピンの開発政策や 開発ニーズ、また災害予防を支援する日本の援助政策と十分に合致しており、妥当性は高 い。一方、灌漑事業については、灌漑整備により米の生産性を向上させるという、同国の 開発政策や開発ニーズ、農業・農村開発を重視する日本の援助政策と合致していた。対象 であるブツアン市の土地利用計画(1973年~1996年)との関連では、事業対象地の約4分 の 1 の地域で合致していなかったが、詳細設計時点では、ブツアン市の担当者はこれらを 灌漑対象地域に含めることに同意するなど整合性は確認されていた。しかし、1995 年の審 査後に策定された同市の土地利用計画(1997年~2010年)では、工業・住宅地域が拡大して いる。同市の土地計画との整合性は、本事業の対象地選定、また、実施のうえで非常に重 要であり、事後評価時も、都市化による農地削減が見られるので、妥当性は中程度といえ る。

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