図 14 より、会計基準精度が向上することでプリンシパル期待効用ܧܷ曲線は一時的に 落ち込むものの、その後は逓減的に増加することがわかる。
ܧܷに関してもコーポレート・ガバナンス改善努力ߙଶが契約可能範囲である会計基準精 度に着目していきたい。
契約締結のためにグラフ上では最低でもは 0.145 水準でなければならなかった。
グラフ上でのܧܷ曲線落ち込みによる最低水準は 0.11 である。(図 15 より)
これより、契約締結可能範囲はこの落ち込みを乗り越えた後に帰属することが判明する。
ܧܷ曲線は逓減的に増加することから、コーポレート・ガバナンス改善努力ߙଶ締結に伴 う会計基準精度の向上はプリンシパル期待効用にとって良い影響しか及ぼさないこと がわかる。
ିଶభమାమ
ଶమ −ଵଶටିସభమమమାరమ
మమ ൏ ൏ ିଶభଶమାమ
మ +ଵଶටିସభమమమାరమ
మమ となる。
これは(2.31)のିଶభమାమ
ଶమ −ଵଶටିସభమమమାరమ
మమ の条件を満たすことになる。
下に表す図 16 は横軸を会計基準精度、横軸を߂ܧܷとしたものである。
実線を߂ܧܷ、破線をܧܷଵ、点線をܧܷଶとしそれぞれを表している。
図 17 のグラフからもࢤࡱࢁࡼ曲線が2回0の値を推移する範囲が窺えるものの、ࢤࡱࢁࡼが 0 より小さくなることはないことがわかる。
図 16ࢤࡱࢁࡼ,ࡱࢁࡼ,ࡱࢁࡼのグラフ( ൌ ǡൌ ǡ࢘ ൌ の場合)
(実線を߂ܧܷ、破線をܧܷଵ、点線をܧܷଶとしプロット)
図 17 図 16 の拡大グラフ(0<<10 , -0.05<ࢤࡱࢁࡼ<0.15)
3.6 ߂ܧܷ
の比較静学
前節にて߂ܧܷと会計基準精度との関係性についての分析を行った。本節では߂ܧܷの 外生変数である限界生産物݉、生産活動努力に対する限界コスト係数݇ଵ、コーポレート・
ガバナンス改善努力に対する限界コスト係数݇ଶ、絶対的リスク回避係数ݎの各指標に関し て、比較静学という手法を用いて分析を行っていく。これまで会計基準精度を横軸と し、その変化に応じて各指標がどう変化していくかをみてきた。ここでは以外との関 係性、つまり縦軸を߂ܧܷ、横軸を݉、݇ଵ、݇ଶ、ݎ とし変化をみていく。
まず外生変数݉に関する分析を行う。
߂ܧܷ
(
2.34)
を݉で一階微分、二階微分することで、√ݎቀ݉ ඥ√ݎ−ඥ݇ଶ( ݇ଵݎ)ቁ
ඥ( ݇ଵݎ) #(2. 36) ݎ
݇ଵݎ#(2. 37) とそれぞれなる。
(2.36)は݉ ටమమାଶభమାభమమమ の範囲で正、݉ ൏ ටమమାଶభమାభమమమ の範囲で負となる。
(2.37)は常に正であり、負となることはない。以上により、とࢤࡱࢁࡼの関係性を表した
ものが図 18 である。
図 18 縦軸をࢤࡱࢁࡼ、横軸をとしたグラフ( ൌ ǡൌ ǡൌ ǡ࢘ ൌ の場合)
図 18 のように݉と߂ܧܷの関係性は、݉ ൌ ටమమାଶభమାభమమమを境に分析することができ
る。݉がටమమାଶభమାభమమమより大きい場合にはܧܷଵとܧܷଶとの差は大きくなり、それ以
前の場合だと差は小さくなる。つまり、生産性の大きい状況では生産性向上に伴って契 約2の有意性が大きくなり、生産性の小さい状況では生産性向上に伴って契約2の有意 性が小さくなる。この「生産性の向上」は研究開発費をはじめとする投資規模に大きく
依存するものであることから、契約2を採択した場合に݉ ൌ ටమమାଶభమାభమమమを達しな
いような少額投資であるとプリンシパルの期待効用にとってはむしろ逆効果となること がわかる。
各限界コスト係数についても見ていく。
߂ܧܷ(2.34)を݇ଵで一階微分、二階微分することで、
ݎ(െ݉ଶݎ ݇ଶ( ݇ଵݎ)ଶ)
ʹ( ݇ଵݎ)ଶ #(2. 38)
݉ଶݎଷ
( ݇ଵݎ)ଷ#(2. 39)
とそれぞれなる。
(2.38)はݎの範囲がͲ ൏ ݎ൏మమの際には常に正、
ݎの範囲がݎమమの際には݇ଵ>ටమ
మ−の範囲で正、Ͳ ൏ ݇ଵ<ටమ
మ−の範囲で負となる。
(2.39)は常に正となる。
以上により、݇ଵと߂ܧܷの関係性を表したものが図 19、図 20 である。(図 19 はͲ ൏ ݎ൏ మమ のグラフ、図 20 はݎ మమのグラフである)
図 19 縦軸をઢ۳܃۾、横軸をܓとしたグラフ(ܘ ൌ ǡܕ ൌ ǡܓൌ ǡܚൌ Ǥの場合)
ݎの範囲がͲ ൏ ݎ൏మమでなければならないためݎの値を 0.1 とした。( ൌ ͳǡ݉ ൌ ͵ǡ݇ଶ= 1の 場合にమ
మ=ଵ
ଽとなることより)
݇ଵは生産活動努力に対する限界コスト係数であった。この限界コスト係数݇ଵの水準が大 きくなるということは努力 1 単位あたりのコストが小さくなること、つまり生産能力
(「作業効率」など表現が様々)向上を表していることになる。݇ଵが大きいほど、同じ仕 事量であったとしても疲労度は小さく押さえることができるということだ。
絶対的リスク回避係数ݎが非常に小さい、つまりリスクに対して強い状態のケースであれ ば限界コスト係数݇ଵの向上に対してプリンシパルの期待効用は常に正であり、契約 2 は 常に有効である。
図 20 縦軸をࢤࡱࢁࡼ、横軸をとしたグラフ( ൌ ǡ ൌ ǡൌ ǡ࢘ ൌ の場合)
図 20 のように݇ଵと߂ܧܷの関係性は、݇ଵ=ටమ
మ−を境に分析することができる。同じ݇ଵと ߂ܧܷの関係性のグラフであっても図 19 と大きく異なるのは、߂ܧܷが落ち込む推移をみ せている点だろう。この現象は限界コスト係数݇ଵがある時点を越えるまでは契約1と契 約 2 との差が徐々に小さくなり、その差がなくなってしまうということを意味している。
この現象はリスクに弱い状態の際に表れる。契約 2 では適正な業績評価実施により製造 部門や販売部門といったライン部門の能力が低い場合プリンシパル期待効用は低下せざ るをえない領域が発生してしまう。ただし、長期的なライン部門能力向上に努めること によって契約 2 の有効性は契約 1 より逓増的に大きくなる。
߂ܧܷ(2.34)を݇ଶで一階微分、二階微分することで、
െ݉ ඥ√ݎ ඥ݇ଶ ݇ଵݎ
ʹ #(2. 40)
݉√ݎ Ͷ݇ଶଷଶඥ
#(2. 41)
とそれぞれなる。
(2.40)は݇ଶ>మାଶమ
భାభమమ の範囲で正、0 <݇ଶ<మାଶమ
భାభమమ の範囲で負となる。(2.41)は 常に正であり、負となることはない。
図 21 縦軸をࢤࡱࢁࡼ、横軸をとしたグラフ( ൌ ǡ ൌ ǡൌ ǡ࢘ ൌ の場合)
図 21 のように݇ଶと߂ܧܷの関係性は、݇ଶ=మାଶమ
భାభమమを境に分析することができる。
߂ܧܷは良くも悪くもエージェント、つまり経営者の能力や意識の違いに大きく依存する 側面をもつものである。具体的には総務部門、人事部門、経理部門などのスタッフ部門 の人材開発や体制整備、社外取締役へのサポート体制の充実などの仕組み作りがこれに 該当する。݇ଶはコーポレート・ガバナンス改善努力に対する限界コストを意味し、つま りこれをコーポレート・ガバナンス改善努力に対する効率性と解すことができる。これ が時間経過によって成熟するものとすれば 図 21 より、プリンシパルにとって長期的な 人材開発や組織体制の醸成が意味を持つものであることがわかる。
しかしこれによってコーポレート・ガバナンス改善には短期的な成果を期待すべきもの ではないことも同時に言えるだろう。個人やチーム、そして組織全体にまで浸透するま でには一定程度の時間を有すること、そして݇ଶ=మାଶమ
భାభమమを境にその改善度力が徐々 にプリンシパルに認められるものとなる。この地点を超えることにより契約 2 の有効性 が出てくる。このグラフ推移は図 20 と非常に酷似している。
最後に絶対的リスク回避係数ݎに関して言及する。
߂ܧܷ(2.34)をݎで一階微分することで、
݇ଵ݇ଶ−ඥ݇ଶ݉ ඥ
√ݎ + ݉ଶଶ ( ݇ଵݎ)ଶ
ʹ #(2. 42)
となる。
(2.42)を分析した結果、絶対的リスク回避係数ݎに対する߂ܧܷ曲線は݇ଵの範囲が Ͳ ൏ ݇ଵ<ସమ
మ、݇ଵ=ସమ
మ、݇ଵ> మ
ସమなのか、それぞれの場合であってもݎの範囲によって複雑 に変化することがわかった。それをグラフに表したものが図 22 である。
図 22 縦軸をࢤࡱࢁࡼ、横軸を࢘としたグラフ( ൌ ǡ ൌ ǡൌ ǡൌ の場合)
ݎはリスクに対する態度であり、絶対的リスク回避係数を表すものであるため、ݎが大き ければ大きいほどよりリスク回避的、リスクに弱い状態であるといえる。ݎの値が小さい 場合にはリスクに対して強い状態である。
ここまで本論文におけるモデル式の設定とその分析を行なってきたわけだが、本モデル 式が現実適合性(妥当性)がなければ今章で行なった分析は皆無となってしまう。このた め次章では本モデル式の妥当性について検討していくものとする。