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4.1 本章の目的

本章では、助言の場面として大学院教員(以降「教員」)と学生(大学院生以降「院生」) の相談場面を取り上げ、そこで行われた自然会話の録音データの分析を行った結果を 報告する。分析にはSacks (1974)他の提唱した会話分析(Conversation Analysis)の手 法を用い、一つ一つの発話を観察し、話者が会話の流れの中でどのようなふるまいを しているかという視点から会話の構造や現れる言語表現も含めた言語行動について明 らかにしていく。

4.2 助言場面の認定

本章の分析の対象となる場面は、ある大学院の教員の研究室で行われたオフィスア ワー(相談)場面での会話である。この場面は、大学院の教員が院生の研究に関する相 談に乗ることが目的とされている場面であり、院生がここに訪れる目的は教員からア ドバイスをもらうこと、と予め双方に認識されている場面と言える。大きく言えば、

院生が教員のオフィスアワーにアポイントを取ること自体が「助言求め」であり、そ の場で行われる教員の発話は、院生の研究に関すること以外にはなり得ない。第2章 で定義した「聞き手の抱える問題について何らかのアイディアを伝える」行為である 会話と認定することが可能であり、特に研究については、院生よりも教員の方が知識 を持っていることは双方にとって自明であり、助言求めに対して助言与えを行い、院 生の知らない情報を知らせたり見解を述べたりして何かを<教える>ことがその場で 課されている教員の義務とも言える。

これまでの助言の会話分析の先行研究で取り上げられた場面は、テレビやラジオの 人生相談や医療系の電話相談など、その会話に社会的人間関係における配慮の影響が 現れる場面ではなく(強いて言えば、初対面の疎の相手との会話となるが、言語的配慮 は特別複雑なものではない)、人間関係をある意味捨象した会話における助言行動の観 察となっていた。テレビの相談場面を分析した戸江(2007)は、これらの人生相談自体 が一つの「娯楽」であると述べている。このような、話し手と聞き手が社会生活の中 で築く人間関係ではなく、相談者と助言者として一時的に築く人間関係の中で行われ る会話は、日常社会生活を営む上で基本となる社会的人間関係を反映した会話となり 難く、自然会話のうちでも特殊な会話に位置付けられると考えられる。本稿で取り上 げる大学院でのオフィスアワーの場面も、その専門性を考えると一般に誰もが遭遇す るような場面ではないが、日本語を学ぶ学習者はいわゆる「先生と学生」という関係 を一度は体験したことがある(もしくは体験する)だろうと思われ、教師に学習のこと で助言を求める、または教師に助言をもらうということは想像しやすい場面であろう と思われる。このような場面における会話の分析により、日本語の助言の実態がより

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明らかになり、会話能力育成への貢献も考えられるようになると思われる。

4.3 方法

4.3.1 会話分析

本章の分析は、Sacks(1974)が開発した会話分析の手法によって行った。この会 話分析は、主にエスノメソドロジーや社会言語学の分野で、会話の流れの中で話者が どのようなふるまいをしているかを明らかにする目的のために用いられる手法である が、近年語用論や第二言語習得,言語教育への応用が試行され始めてきている(細田 2003、初鹿野・岩田2011、舩橋2011、山本 2014)

会話分析は、2 人以上の話者による自然会話を録音、あるいは録画したデータを、

沈黙や笑い、吸気なども含め詳細に文字化し、この文字化したデータを観察・分析す ることによって行われる。会話では、一人の話者が話す「順番」を取り、次の話者に

「話者交代」するまでの発話を、最小の単位「ターン」とする (話者交代が起きる場 所のことを「移行適切場所(Transition Relevance Place,TRP

)」

と呼ぶ。どこが TRP であるかは話者により「観察可能」である)。会話はこの「話者交代」によって 進み、発話が「連鎖」して「組織」を構成するとされる。2 人以上の話者が協力して会 話を進めていく中で、発話は第 1 対成分(First Pair Part 以下 FPP)と第 2 対成分

(Second Pair Part以下SPP)から成る「隣接対(Adjacency pair)」を構成し、これが

「連鎖」することによって「組織」を成す。特に「依頼」や「勧誘」などの「行為」

については、「依頼受諾/拒否」「質問応答」などの隣接対が複数回連鎖し、また前 後に拡張したり挿入されたりすることによって進められるとされる(西阪2005)

ラジオ相談の助言会話を分析した西阪(2005)は、相談場面において助言が「拒絶」

される場面に現れる「それで」などの「継続標識」に注目し、この「継続標識」が会 話の流れの中のどの部分に現れるか、発話が続いていく「連鎖」が助言者と相談者の 間でどのように組織されているかについて考察し、従来の「文法」ではなく、「文が実 際の具体的な場面において実際にどう構築されているかを記述する」という意味での

「文法(プラクティスすなわち、特定の行為連鎖を組織する中で特定の語を適切に配置 するやり方)(西阪2005)を明らかにすることを試みている。

西阪(2005)の方法は、社会言語学における分析手法であるが、この「プラクティス」

の考え方は、会話の中で人がどのようなふるまいをするか、そこで発せられる言葉が どのような意図をもって聞き手に伝わるかということについて、絶えず流れていく時 間の中で人々が行っている高度で複雑な言語の選択に関わる事柄を明らかにしようと するものであると考えられる。このようなことは、言語学の視点からも、人がなぜこ の場面でこの言葉を選択し、それがどのように聞き手に受け取られたかということを 明らかにすることができる手段となると考えられる。

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4.3.2 語用的要素の認定

西阪 (2005) は、ラジオ相談における「助言」行為を含む発話の連鎖がどのように

組織されているかを分析し、助言連鎖の組織を以下のように記述している。

クライアント:助言を求める:問題を質問形式に定式化する《第一成分1》

アドバイザー:助言を与える:質問への答えとして行われる《第二成分1》

西阪(2005 : 194)

これはラジオ相談における「基本的」な助言の連鎖構造とされているが、このよう に話者が会話のどの位置でどのようなふるまいをし、それがどのような表現形式を伴 って現れるかということを明らかにすることによって、どのような意味を持つ発話が どのように連鎖し、どのように組織されていくかということを記述することができる のが会話分析の手法である。本稿で用いる語用的要素の認定は、この西阪の分析を参 考にし、当該発話の語用的な機能による要素の記述ができる用語を用いて行うことと する。例えば、西阪 (2005) では「助言を求める」という形であるが、本稿ではより 端的にその機能を表現し、会話を組織する語用的要素の一部分とみなすため、<助言 求め>という記号で表し、その要素の連鎖によって組織される会話の構造を記述する。

音声データの文字化には、串田他(2007:xii~xix)の各記号を用いる。

4.4 データ

分析の対象とするデータは、大学院の同じ研究科に所属する 2名の教員の研究室に おいて録音されたものである。このうち、14本は教員A9本は教員 Bのオフィスア ワーの会話(1会話約20分~約 2時間30)である。調査協力者の教員2名は、とも に女性で、同じ研究科に属している。年齢は 30 代と 40 代の日本語母語話者である。

相談者となる院生は、博士前期課程と後期課程に属する大学院生と博士前期課程に進 学する準備をしている研究生で、中国、韓国、スリランカ、マレーシアからの留学生 を含む。年齢は20 代前半~30代前半である。日本語母語話者でない話者の発話を分 析に含めるべきか否かという問題はあるが、彼らは日本の大学院で日本語教育や日本 語学に関わる専攻に属し、日本語で専門の議論ができ、論文の執筆ができるレベルの 日本語能力を持っている。本稿の分析で注目するのは、表現の面では主に助言をする 側の教員の発話を取り上げることと、実際のやり取りの中で語学能力に起因すると見 られる相互行為上のトラブルなどは起こっていないと見られることから、日本語での やり取りが行われている場面と認定することに問題はないと判断した。ただし、母語 話者同士の自然会話の分析ではなく、接触場面であることを言い添えておく。

データの録音は、2名の教員にICレコーダーを預け、それぞれの研究室で、相談に

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来た院生に了解を取った上で会話を録音してもらった。採録期間は200711月から 20086月の間である。

教員Aのデータの相談内容は,教員Aが担当し、院生らが受講している授業の課題 や発表についてのものと,院生自身の研究(修士論文や博士論文)についてのものであ る。14 本の相談会話において、博士後期課程に属する院生 2(女性、日本語母語話 者、20 代後半)は自らの博士論文のテーマや研究計画についての相談をしており、そ の他博士前期課程に属する院生(4名、男性1名、女性3名、中国語、韓国語、シンハ ラ語、マレーシア語母語話者)は、主に教員 A が担当する授業の受講生で、その授業 で行う発表(講読論文のまとめか自分の修士論文のテーマについて)についての相談と 修士論文の進め方に関する相談を行っている。

教員 B のデータは,主に直接の指導生である院生(博士前期課程)との会話であり,

内容は論文の指導がほとんどとなっている。9 本のデータのうち,7 本は 2 名の指導 生(女性、中国語母語話者、20)の修士論文の指導であり,残り2本は,院生(研究生 (女性、中国語母語話者、20)と博士前期課程(男性、日本語母語話者、20))の研究 計画についての相談となっている。

全データのうち、4 本のデータで院生の研究計画についての相談が行われ、その他 のデータでは院生の作成した発表の資料や論文についての修正や指導が行われており、

この2つのデータは質が異なることが見て取れる。前者のデータは、相談のテーマが 院生の研究計画であることから、言語による院生からの助言求めが行われる必然性が 高い場面であり、この場面では聞き手からの相談開始から助言求め、それを受けての 教員の助言与え、助言に対する受諾・拒否の表明、相談終了という談話の流れが現れ ることが予想され、それぞれの局面での話者のふるまいをあきらかにすることができ るとみられる。一方、後者の資料や論文の修正指導の場面では、専門家としての教員 による院生の間違いの指摘や考え方の解説など「指導」の色の濃い助言が現れる可能 性が高いと見られ、前者とは異なる会話が現れるものと考えられる。以上のことから、

本稿では、前者の研究の方向性を相談する場面の会話においては、その構造に着目し て分析を行い、後者の院生が書いたものについての相談については、その構造と特に 助言の表現がどのように現れるかを詳しく見ていくことにする。

4.5 会話分析Ⅰ

4.5.1 研究の方向性の相談(研究相談場面)に現れる助言会話の分析

4.5.1.1 研究相談場面の助言会話の構造

本稿の大学院での研究相談場面に現れる助言行為を含む相互行為の観察では、以下 のような助言会話の基本的構造が観察された。

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