(1)中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)開催に向けた検討
第3章で示した伊勢・三河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミュージアム構想)
を圏域全体の取組として拡大するため、中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)の開催に ついて事前に検討した。
具体的には、中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)開催の試金石となる国の地方支分 局による円卓会議を、中部地方環境事務所が事務局となり、東海農政局、中部経済産業局、中部 地方整備局の参画を得て平成 21 年 10 月に開催した。
国の地方支分局による円卓会議に着目したのは、平成 22 年(2010 年)10 月に生物多様性条約 第 10 回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市において開催されるが、同条約では多様な主 体の参画が条約の目的達成のために不可欠であるという認識が広まっていること、また、条約の 目的を達成するためには、まず、中部地方に所在する国の地方支分部局がCOP10に向けて情 報共有・対話を行い、さらに、関係する民間部門、地方自治体などへの普及啓発、取組の促進に範 囲を広げることが効率的・効果的なためである。
円卓会議の結果、国の機関が横の繋がりで情報を共有することの重要性が共有され、円卓会議 の必要性が示唆された。さらに、可能な範囲で中部地方における民間部門、地方自治体などのセ クターとの合同の円卓会議を開催し、条約の目的達成の取組の環を広げることが期待され、中部 環境円卓会議(エコミュージアム協議会)の有効性が示された。
(2)宣言文案の検討
伊勢・三河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミュージアム構想)の圏域全体で の取組に拡大していくことを目指した宣言文案を意見交換会委員の意見を踏まえて検討し、以下 のとおりにとりまとめ、中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)において提示することと した。
宣言(案)
伊勢・三河湾流域において、私たちは多様な生物とその生息環境から多くの恵みを享 受して、暮らし、働き、学んでいることから、この流域を「生命流域」と呼ぶことがで きます。生命流域の生物多様性と生息環境は、わたしたちの命と次世代を育む社会的共 通資本の重要な構成要素の一つです。
過去 50 年間の私たちの急激で行き過ぎた経済社会活動により、快適で便利な生活が出 来るようになった反面、森、里、川、海への人為的負荷が増加し、生物多様性と生息環 境に危機が迫っています。
この現状を真摯に反省し、生命流域において、クジラが伊勢・三河湾に回遊し、里海 ではアサリがわき、アユが川をのぼり、トンボやチョウが里山を舞い、森には様々な鳥 がさえずり、そして、将来世代が真に豊かな生活を営めるように、永年の蓄積と経験に 支えられた「地域の知恵」も活かしつつ、私たちが生物多様性と生息環境を保全・再生 し、賢明な利用を実現していくことが必要です。
生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)の開催を契機に、伊勢・三河湾流域の生 物多様性及び生息環境の保全・再生と賢明な利用をめざし、森の人、里の人、川の人、
海の人がそれぞれの立場を超えて、つながり、協働し、活動を広げていくため、以下の 宣言を行います。
1 伊勢・三河湾流域の生物多様性について考えるための「場」に参加し、大きな「輪」
をつくっていきます
2 伊勢・三河湾流域の再生に向けて、それぞれの場で行動します
3 伊勢・三河湾流域の生物多様性保全と再生のために、よりよい仕組みをつくります
2.中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)及び普及啓発シンポジウムの開催
2−1.中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)及び普及啓発シンポジウムの概要
(1)開催概要
名 称:「伊勢湾 森と海の未来」
日 時:平成 22 年3月6日(土)、13:00〜16:15
開催場所:愛知県産業労働センター ウインクあいち 大ホール 主 催:環境省中部地方環境事務所
共 催:中日新聞社
協 賛:カゴメ株式会社、NEXCO中日本、ユニー株式会社
参加者:中部地方の生物多様性保全に関わる市民、民間団体、企業、自治体など約 400 名
(2)中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)及び普及啓発シンポジウムの目的
平成 22 年 10 月、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市にお いて開催されることを契機として、主に伊勢・三河湾流域の多様な生き物を社会共通の財産と 捉え、それらと共存しながら豊かな営みを続けてきた地域づくりの知恵を見直し、生物多様性 保全に向けた新たな取組のきっかけを提案することを目的とする。
(3)中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)及び普及啓発シンポジウムの概要
①開会挨拶(13:00〜13:10)
環境省中部地方環境事務所長 市原信男 「平成 21 年度エコミュージアムを活用した持続可能な地域創出のための調査」の調査の経緯 及び内容を説明するとともに、伊勢・三河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミ ュージアム構想)を紹介した。
②基調講演「社会的共通資本と生物多様性」(13:10〜14:10)
東京大学名誉教授 日本学士院会員 宇沢弘文 宇沢東京大学名誉教授には、エコミュージアム構想策定委員会(意見交換会)の検討過程を 伊勢・三河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミュージアム構想)案とともに送 付しており、これを踏まえ当該構想策定の取組が社会的共通資本の重要な構成要素である生物 多様性の保全を推進していく上で重要である旨発信していただき、本調査の成果を広報・普及 した。
③パネルディスカッション「流域の人と自然がつながるために」(14:25〜16:00)
・コーディネーター:片田 知行(中日新聞 岐阜支社長)
・パネラー:清野 聡子(九州大学大学院)
亀井 浩次(NPO 法人 藤前干潟を守る会)
丹羽 健司(矢作川水系森林ボランティア協議会)
海の人(元漁師 犬飼 一夫)
山の人(林業 鈴木 章)
上記①の開会挨拶で紹介した伊勢・三河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミ ュージアム構想)を圏域全体の取組として拡大するため、民・産・学・官が一同に会する中部
環境円卓会議(エコミュージアム協議会)として、パネルディスカッション「流域の人と自然 がつながるために」を開催した。海エリアの代表者として亀井浩次氏(NPO 法人 藤前干潟を 守る会)が、森・里エリアの代表として丹羽健司氏(矢作川水系森林ボランティア協議会)が、
各エリアの現状及び取組を報告した。学識経験者として、清野聡子准教授(九州大学大学院)
が中部圏における自然資源利用の歴史を踏まえて地域性を明らかにし、生物多様性の保全と持 続可能な利用を可能にしてきた地域の知恵の重要性を指摘した。また、漁業・林業といった生 業に地域で長年携わってきた海の人、山の人も議論に加わった。
④シンポジウム宣言(15:50〜16:00)
上記③の議論をふまえて、中部環境円卓会議(エコミュージアム協議会)として、伊勢・三 河湾流域における持続可能な地域づくり構想(エコミュージアム構想)をさらに進めていくた めの宣言文(案)がコーディネーターの片田知行氏から示され、満場一致で採択された。
2−2.実施結果詳細 1)基調講演
宇沢弘文先生による「社会的共通資本と生物多様性」をテーマとした基調講演の詳細は次の とおり。
表4−2−1:基調講演 要旨
【基調講演要旨】
1972 年にストックホルムにおいて第 1 回国連人間環境会議が開催されました。その背景には、
工業化や都市化の進行、公害問題の発生などがありました。開催国のスウェーデンでは湖が死に、
魚や森も死ぬという問題が発生しました。その原因は東ヨーロッパやイギリスなどが原因の酸性 雨でした。こうした問題は、個別の国ではなく、世界が一緒になって取り組まなければ解決でき ない問題です。
1980 年代になると地球温暖化問題が取り上げられるようになりました。集中豪雨や旱魃、海面 上昇、ヒマラヤや南極の氷河の融解、ハリケーン、サイクロン、台風のルートや強さの変化など、
気温上昇が原因と考えられる現象が多く現れてくるようになったからです。
1992 年にはブラジルのリオデジャネイロで第 3 回国連環境開発会議が開催され、地球温暖化や 生物多様性など地球環境全体にかかわる問題について対策が検討されました。
私はそれに先立って、1990 年 10 月にローマで開催された地球温暖化をテーマとした経済学者 の会議において、基調論文を発表しました。その中で、世界レベルで安定性が崩れている大気を 社会的共通資本と考えて、それを安定的に維持していくために、持続的経済発展が可能な水準で
「比例的炭素税」を導入することを提案しました。これは、先進国と途上国では収入格差がある ことから負担できる金額が異なるので、それぞれの国の所得水準に合わせて炭素排出に対して課 税するという考え方です。
しかし、1997 年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)に際して、
アメリカの経済学者は比例的炭素税だけでなく炭素税そのものに反対しました。その理由は、ア メリカには低質な石炭が無尽蔵にあり、南部を中心とする貧しい地域の支えになっているととも に安い電力の供給を可能としており、それにより世界に対する競争力がつくという構造となって いることに加え、遠方からの車通勤が一般的で、CO2の排出量も多いためです。そして、1990 年の排出量に比べて、日本6%、アメリカ8%、EU8%のCO2を削減するという実現性の乏し い、ペナルティーもない目標が示されるにとどまりました。しかも、その後、アメリカは締結国 から脱退し、排出権取引という倫理的、経済的に問題ある考え方を提案しました。
生物多様性という言葉に象徴されるように美しく豊かな自然と人間が調和して暮らしていく というバランスが、戦後、特に京都会議以降、崩されてきていると感じています。
社会的共通資本とは、ある国、社会、地域の人々が人間的なプライドを保って、豊かな経済・