第 4 章 計算結果 33
4.6 多極子感受率
多極子感受率を計算し、関与している自由度を調べることが、本研究の目的の1つ であったが、多極子感受率の計算を組み込んだプログラムを完成させることができな かった。しかし、予備計算で分かったことが2つある。1つはΓ1からΓ5の変化では Γ4uの双極子の感受率が主に関与していたことである。つまり、この変化を追う際に はスピンのσ˜x,σ˜y,σ˜z を調べればよいということである。もう1つは、Γ1からΓ3の 変化ではΓ2uの八極子が主に関与していることである。つまり、この変化を追う際に は軌道のτ˜z を調べればよいということである。ここで、τ˜z はユニタリ変換前ではτy であることに注意する。
第 5 章
まとめ
本研究において、まず、1軌道アンダーソンモデルに対して数値繰り込み群法のプロ グラムの開発を行った。その後、2軌道アンダーソンモデルに対してプログラムを書 き直して数値計算を実行し、量子臨界点の探索を行った。その結果、Γ1一重項とΓ5
三重項の境界付近にあることが知られている結晶場一重項とスピン近藤-芳田一重項の 競合による量子臨界点を確認することができた。さらに、Γ1一重項とΓ3二重項の境 界にある結晶場一重項と軌道近藤-芳田一重項の競合による量子臨界点を見つけること ができた。そして、J-J′平面上に量子臨界点が現れる点を結んだ量子臨界曲線を作成 した。その過程で、スピンと軌道の感受率を計算することで、Γ5の領域ではスピンの 自由度を使った近藤効果が起き、Γ3の領域では軌道の自由度を使った近藤効果が起き ていることを説明することができた。
また、多極子感受率を計算することによって、Γ1からΓ5 の変化にはΓ4u の双極 子の感受率が関与し、Γ1からΓ3の変化にはΓ2u の八極子が関与していることが分 かった。
今回の研究の問題点は大きく2つ存在する。1つは多極子感受率の計算である。本 研究では立方対称下を考えているため、スピンの各成分σx、σy、σz の感受率は一致 する必要がある。しかし、作成したプログラムではΓ1からΓ5の変化を考えるときに スピンの感受率が大きく現れてはいたが、一致はしておらず間違いを正すことができ なかった。
もう1 つの問題点は、非フェルミ液体状態におけるスピン感受率χs と軌道感受率 χoの振る舞いである。これらは、−logT に比例することが知られているが、その振 る舞いを確認することができなかった。数値繰り込み群法の計算上、求めることがで きるのはTNχsとTNχoであるため、χsとχoを求めるためには温度TN で割る必要 がある。実際にM = 4000で計算を行った結果、高温のごく一部で−logT の振る舞 いらしき部分はあったが、明確に−logT の振る舞いを確認することはできなかった。
TNχs, TNχoとTN はどちらも非常に小さい数であり、十分な精度で計算が行われて
いないと−logT に依存する振る舞いは観測できないと考えられる。しかし、残す状 態数を増やすと、それだけ数値計算に時間がかかり、またメモリも必要となるため、
M = 4000よりもM を増やした計算は困難であり、本研究では非フェルミ液体状態
の振る舞いを確認することを断念した。
今後の課題としては上述の問題点の解決の他に2点あげられる。1つはΓ1とΓ3の 境界に存在する量子臨界点における新奇な量子現象の探索である。量子臨界点近傍で は変わった物理現象が現れることが知られている。Γ1とΓ5の境界の量子臨界点につ いては多くの研究者によって調べられているが、Γ1とΓ3の境界の量子臨界点につい てはあまり知られていない。本研究では量子臨界点があることを示しただけであり、
その近傍で多極子感受率などに異常性が現れるかどうかを調べることはできなかった。
もう1つはJ −J′ 平面のJ = 0における近藤効果の移り変わりの様子の探索であ る。J > 0の領域ではスピンが、J < 0の領域では軌道が関与していると考えられる が、その2つがどのように移り変わるのかを明らかにすることはできなかった。J = 0 近傍の多極子感受率の計算などによって、今後明らかになることが期待される。
謝辞
本研究を進めるにあたり、貴重な研究時間を割いてご指導を頂いた堀田貴嗣教授に 深く感謝いたします。並びに、服部一匡准教授には講義、ゼミにおいて、久保勝規客 員准教授(日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター副主任研究員)には夏季休暇 実習において助言、指導を戴き、大変感謝しています。また、研究以外の面でもお世 話になりました、研究室の先輩、同輩、後輩の皆様に感謝申し上げます。
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