第三章 指示代名詞の地理的分布と歴史的変遷
1. 指示代名詞の形式と地理的分布の特徴
1.2 地理的分布の特徴
1)近称
A. N音類 A-1:n-/ ȵ-
安徽省南部、湖北省、四川省、雲南省の長江沿岸に線条的に分布している。ま た、広東省中部にまとまった分布がみられるほか、福建省西南部、広西壯族自治 区にも点在している。
A-2:l-
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広東省中部、福建省南部、江西省北部、台湾客家語地域に分布している。また、
長江流域の江蘇省、湖北省、湖南省、四川省にも点在している。
B. 唇音類
P-:湖南省南部の寧遠県にみられる。
C. 牙喉音類 C-1:k-
江蘇省から南方の湖南省、広東省、広西壯族自治区にかけて広域的に分布する。
C-2:g-
主に江蘇省の長江河口の付近にまとまって分布している。浙江省及び広東省中 部にも点在している。
C-3:h-
福建省西南部の二地点にみられる。
D. 零声母類 D-1:i-
福建省及び江西省北部に集中して分布するほか、湖南省にややまとまった分布 がみられる。また、江蘇省、浙江省、広東省東部、広西壯族自治区、台湾客家語 地域にもそれぞれ少数分布している。
D-2:a-
湖南省、江西省、広西壯族自治区に少数分布している。
D-3:ɛ-
江西省、広東省東部、広西壯族自治区に少数分布している。
D-4:u-
湖南省の二地点にみられる。
53 E. 舌歯音類
E-1:t-
牙喉音類(k-)及び零声母類(i-)を取り囲んで、湖北省東部、湖南省北部・西部、
広東省北部、江西省中南部などに周圏的に分布するほか、広東省中部、広西壯族 自治区東部、福建省などにも分布する。また、少数だが、北方の山東省、山西省 などにも分布している。
E-2:d-
江蘇省、浙江省、江西省北部に少数見られる。
E-3:
長江以北に広く分布しており、頻度が高い。
E-4:
北方にも南方にも広く分布するが、多くはtʂ-とts-(又はʧ-)の音韻的区別が失わ れた地域であり、E-3類の音声的変種と見なすことができる。
2)遠称
A. N音類 A-1:n-/ ȵ-
東南地域を除く広い地域に分布する。また東南地域でも、湖南省、広西壯族自 治区及び江西省北部などにややまとまった分布がみられる。
A-2:l-
長江沿いの江蘇省、安徽省、湖北省、貴州省、雲南省に現れることが多く、こ れらの地域は l-と n-の音韻的区別が失われていることから、A-1類の音声的変種 が多いと考えられる。湖南省では A-1 と混在して全省に分布している。この他、
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北方の陝西省、甘粛省、南方の広西壯族自治区にも点在している。
B. 唇音類 B-1:P-
浙江省、湖北省、湖南省、江西省南部、広東省北部に少数分布している。
B-2:m-
浙江省北部と安徽省南部にまとまって分布するほか、西南の湖南省、江西省に も分布している。
C. 牙喉音類 C-1:k-
東南地域の主要形式であり、長江下流域を起点として浙江省、江西省、湖南省、
福建省、広東省、広西壯族自治区などに広く分布している。
C-2:g-
浙江省、福建省に少数分布している。
C-3:ŋ-
湖北省、江西省北部、湖南省に少数分布している。
C-4:h/x-
福建省、江西省に集中して分布している。浙江省、河北省にも現れる。
D. 零声母類 D-1:i-
江蘇省、浙江省、安徽省南部、江西省東部、福建省北部、広東省中部、四川省 に少数点在している。
D-2:a-
雲南省、貴州省、広西壯族自治区、広東省に分布している。江西省と湖南省に も少数現れる。
55 D-3:ɛ-
長江河口にまとまって分布しており、少し離れて江西省東部にも分布している。
D-4:o-
福建省北部と湖南省北部に少数分布している。
D-5:e-
江西省及び湖南省南部に点在している。
E. 「兀」類 E-1:v-
北方では山西省にまとまって分布し、そこから分布地域は陝西省、甘粛省に伸 びる。南方では福建省北部・西部に分布地点がある。
E-2:u-
北方では主に山西省と陝西省に分布している。南方では安徽省南部から湖北省、
江西省の省境付近にまとまって分布するほか、福建省北部に集中的に分布してい る。その他、江蘇省、福建省南部、広東省、広西壯族自治区にも現れる。
E-3:ʔu-
江蘇省に1地点見られる。
以上、E類は声母だけに着目して分類したが、各形式がすべて同じ語源「兀」に遡る かどうか、音韻対応の面で検討の余地がある。まず声母については、中古の微母 (*m>mv>v)と影母(*ʔ>∅)の区別を保存する方言でv-で発音される傾向がある。しかし、
微母と影母の区別を有する方言でも、u-で発音されることがあり、特に福建省では u-が多い。次に、声調は入声を有する福建省、江西省、山西省の方言ではほとんど入声(陰 入)であるが、北方の入声を失った方言では、入声由来とは断定できない不規則な対応 が見られる。「兀」類の語源とその変化については今後の課題としたい。
56 地図 I
57 地図 II
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