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地域社会で生活する精神障害者の生活・リハビリテーションニーズの 把握と実現を可能にすることを目的とした実証的研究

第1章 精神障害者地域リハビリテーションプログラム実践の可能性

はじめに

第1部では,精神科医療と法制度の歴史を振り返りながら,入院精神障害者の現状と課 題について検討してきた.精神科病院に長期間入院している精神障害者を地域社会に帰し ていく試みは,精神科医療の中心的課題であり,医療機関が中心となって積極的に取り組 まねばならない.その一方で,地域社会で生活を送っている精神障害者の再発防止と生活 の維持,そして生活の質的内容の向上もまた,援助者にとって重要な課題である.

そこで第2部では,在宅精神障害者援助の取り組みの現在の状況と今後の課題について 考察を行なっていく.まず第1章は,地域の精神障害者の多くが利用し,彼らの生活上の 支援的役割を担っている通所授産施設について,その機能と援助実践が基礎を置く理論的 根拠に焦点を当てて論ずる.

第2章では,第1章で明らかにした理論に基づいた地域リハビリテーションの教育トレ ーニングを,通所授産施設のスタッフに対して試行的に行なった結果について検討し,考 察を述べる.そして第3章では,通所授産施設の利用メンバーが持つ具体的ニーズを把握 し,そして援助スタッフがメンバーに対して必要と考えるサービスの内容を知るべく,利 用メンバーと援助スタッフの双方に行なったリハビリテーションニーズの量的調査の分析 を行ない,その結果に基づいて,精神障害者小規模授産施設が利用者に対して果たすべき 今後の課題について提言を行なう.

第1節 精神障害者小規模通所授産施設の発展過程における理念の変遷

1.生活支援理念とその影響

わが国の精神障害者の地域生活援助サービスの領域で,大きな影響力を持つと考えられ る「生活支援」理念は,谷中(1980,1987,1993,1996)が提唱した.谷中は当初,精神 科病院の中で患者グループを運営していたが,やがて地域に活動を移し,やどかりの里と いう施設を拠点にして精神障害者の地域生活の実現に尽力した.谷中は,精神障害者を患

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者ではなく生活者として位置付け,その上で生活支援を,「生活のしづらさ」を持つ精神障 害者の「ごく当たり前の生活」の実現を目指すものとして規定した(谷中 1996).

やどかりの里は,精神障害者自身による仲間作りと仲間同士の支え合いを活動の基本原 則にしたグループ活動を中心に(谷中 1980,1993,平野 1993,菅原・諏訪・志乃・その 他 1993),住む場(グループホームや援護寮),働く場(通所授産施設や生活支援センター 内の喫茶・給食部門など),生活援助サービス(入浴サービスや給食サービス,ホームヘル プサービスやイブニングサロンなどのたまり場提供),相談事業(年金や就労相談,24時間 電話対応や生活相談など),危機対応(緊急時のショートステイ),社亣亣流(コンサート やクリスマスパーティなどの各種イベント),家族会支援などのサービス提供を通じて,精 神障害者のソーシャルサポートシステム作りを行なっている(谷中 1996,1999).そして 今日,在宅精神障害者の生活援助の中心的な担い手である精神障害者小規模通所授産施設

(以下,通所授産施設)もまた,「生活支援」を活動の基本理念にしている.

通所授産施設は,当初は職業訓練と授産が活動の中心だった.そして,法外施設であっ た時代から精神障害者家族会や民間団体を主な設立主体に発展を続け(住友 2000),1995 年以降は全国で毎年 100 カ所以上の増加を続けており,地域で生活する精神障害者の行き 場所,居場所としての役割を期待されている(渡嘉敶 1998).

数的な拡大とともに,通所授産施設の活動は「生活支援」という基本理念の影響を受け,

やがて自主製品作りと市民への販売,在宅高齢単身者への給食サービスや高齢者世帯の家 事援助サービスなどへと活動を多様化していった.そのプロセスは,精神障害者自身の役 割をそれまでの一方的なサービスの受け手から,サービス提供者へと転換させていく.同 時に,精神障害者と市民との日常的な接触を通じた精神障害者の社会参加への取り組みが,

次第に通所授産施設の活動の柱となってきた(寺谷 1994,2001).そして,精神障害者の 自己実現と社会的自立を目指した多様なプログラムの提供を利用者に行ない(田中 2000), 現在その活動は,精神障害者の共同住居やグループ就労,社会生活技能訓練などのサービ スにも及んでいる(吉塚・木村・大友・その他 1997:妹尾・箕原・伊野波・その他 1998:

北岡・青木・笠井・その他 2003).

ここで言う生活支援理念は,単なる生活の支援とは異なる.すなわち,知的障害者の日 常生活の様式や条件を,社会の普通の環境や生活方法にできるだけ近づけることを目的と したノーマライゼーションの原則(江草 1986)の中で強調されている当たり前の生活.......

の実 現と,障害者が自立生活を行なう上での環境的要因の重要性に着目して,セルフヘルプや

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脱医療化を主張した自立生活運動(Barns, Mercer & Shakespeare 1999)がいうところの,

その人なりの生活........

の実現を併せ持った,自己決定を尊重した地域生活の実現を目指す環境 改善中心の支援活動である.そこでは個人の生活を支えながらも,セルフヘルプや地域の ソーシャルサポートネットワークの構築を展開している(藤井 1999,2004).そして谷中

(1996)は,生活支援の原則として18項目(p.53-113)を示した(表24)21

表 24.生活支援理念の原則 番号 タイトル 具体的内容

多様な選択肢 クライアント自身が自分で選んで,自分で決定できるということ.

当事者中心の支援 クライアントの価値観や,その人なりの生活をそのまま認めて受け入れ,その枠 組みを大切にして,継続的に必要とされるときに必要な支援を行なう.

当事者の主体性の促し クライアントが具体的に何を望み,そのために何から手をつけたらよいのかを,

クライアント自身が考えて決める.

目標の設定 長期的な計画と当面の課題としての短期的な計画,そして長期的計画を実現させ る具体的な方法としての中期的計画を,クライアントと援助者とが共同で作成 し,一定の期限ごとに計画の変更や修正を行なう.

共同して作戦を練る 具体的な目標達成のため,クライアントのニーズを明確にし,必要な資源や条件 づくりに向けた会議を,目標達成に必要なすべてのメンバーを招集して開催す る.

試みと修正 クライアントが,自分の力量を覚知しつつ現実への対処能力の獲得につなげるた め,いろいろな機会に挑戦し,無理があればいつでも修正可能であることが重要 である.

当事者のありのままを受

指導・訓練ではなく,クライアントが困っているこ途については周囲が補い,弱 点や苦手とする部分は補強して支える.

一定の目標達成期間を設 ける

その人なりの人生の計画を,一定の期間を区切って振り返りつつ,新しい目標の 設定を常に行なうことを可能にする.

仲間の支援 ピア(Peer)が持つやさしさや気配りは,仲間同士が発信しあう情報の中で,癒 しと再生の力となる.

当事者を取り巻く周りの 人々への支援

クライアント自身が,周りの人を必要な時に資源として利用できることが重要.

能力の開発 クライアントの健康な部分に注目し,クライアントがすでに持つ力を発見してそ れを引き出すとともに,その力を発揮できる場面を提供することが必要.

資源の開発 必要な資源は自ら生み出す.

持ち味の発揮 誰もがその人なりの持ち味を持っていることを認め,その持ち味がどこで発揮さ れるかを考え,それを生かせる場や機会を提供することが必要.

自分にしかできないとい うこと

病気の体験や,病気の体験を通じて経験した事柄を,病気でない人や,まだ経験 をしていない人に伝えていくこともクライアントの能力の 1 つと考える.

当事者の家族への支援 家族自らの癒しと再生(家族自身にとっての自分の人生の生きなおし)が必要.

危機対応 クライアントが危機的状況を何とか乗り切り,安心して日常生活を営めるように するための支援を行なう.

会議の持ち方 クライアント個々人の援助計画を,本人,家族を交えて行ない,その結果を基に スタッフ全体の会議を持つ.

登録と記録 クライアントが生活支援システムを利用するに当たって登録するとともに,公開 を原則としてクライアントの援助を記録する.

21 番号の順番は筆者が変更した.

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本論ではそのうち,クライアントやその家族に対する直接的な支援項目として,①から

⑯までの項目を生活支援の要素として考えたい.

2.精神障害者の生活支援をめぐる諸概念―エンパワメント,ストレングス,リカバ リー

精神障害者の生活支援を考える際に,それを補強するいくつかの概念がある.それらの 代表的な補強概念は,エンパワメント理念,ストレングス視点,そしてリカバリー概念で ある.そこで本項では,これら3つの概念について整理することによって,生活支援の概 念的枠組みをより明確にする.

近年,精神障害者福祉領域においては,エンパワメント(Empowerment)がキーワード になっている感がある.「精神障害者のエンパワメントのために…」,あるいは「エンパワ メントを目指して…」などの文言が,精神保健福祉士養成のテキストには多く見られる.

そのエンパワメントのパワー...

について和気(2005)は,①自分の人生に影響を行使する力,

②自己の価値を認め,それを表現する力,③社会的な生活を維持・統制するために,他者 と協働する力,④公的な意思決定メカニズムに関与する力,と定義している.和気は,す べての人間が困難な状況においても潜在的な能力と可能性を持っていると同時に,すべて の人間がパワーレスの状況に陥る危険性を持っていると指摘した上で,この理解を前提に,

個人と環境との接点場面で生じる困難や問題の解決を援助するアプローチが,エンパワメ ントアプローチであると述べている.もっとも,ソーシャルワーカーがクライアントのエ ンパワメント実現のために介入することが,かえって依存関係を増幅してしまい,結果的 にパワーレスの状態にしてしまうのではないか? という指摘もされている(松岡 2005). このエンパワメントと対をなすのが,ストレングス視点(Strength Perspective)と呼ば れる概念である.ストレングス視点の基本的枠組みについては,Saleebey(2002)が明快 に述べている.それを要約すると,クライアントは潜在的に広範囲にわたる身体的,情緒 的,認知的および対人関係面,社会面,精神面でのエネルギーや資源,適応力を持ってお り,ソーシャルワークでは,クライアントのストレングスを尊重し,その促進を図ること がクライアントの発達と成長,そして問題解決への動機付けの増加につながる.そしてソ ーシャルワーカーは,クライアントの協力者として位置づけられる.つまり,ソーシャル ワーク援助においては,クライアントの病理性や欠陥よりもむしろ,個人と環境のストレ ングスの側面に焦点を置き,クライアントと協働してその発見と助長に努めることが問題

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