第 5 章 考察
II. 地域の子育てネットワークの強化
である。しかし先述したように、産後ケア事業を利用する母親は他施設で分娩後に入院して くることが多いという現状で、[自治体や地域の医療機関との関係が希薄]という原因が妊 娠・分娩に関する〈入院時の母子の情報が不十分〉という【地域連携の不足】における問題 を生じさせていた。
行う「点」の支援ではなく、地域の子育てネットワークというつながった「線」の中で実施 されるべきものである。
産後に発生する産後うつや育児不安、児童虐待などの問題は、妊娠期から対応していく ことが重要であり、妊娠・分娩・産後と継続した支援の重要性はこれまでも述べられてき ている (岩谷, 北東, 若林, 吉川, & 成瀬, 2001; 中坂, & 佐野, 2012; 佐藤, 2006; 寺坂, & 岡 山, 2015) 。また児童虐待事例への対応では、養育者や被虐待児が多くの問題を抱えている ことや長期的な支援の必要性から一機関あるいは一職種だけでの支援には限界があり、多 機関、多職種による支援が重要とされている (助産師のための子ども虐待防止実践マニュ アル作成委員・協力者, 2004) 。児童虐待にかかわらず子育て支援全般において、産後入院 期間の短縮 (勝川ら, 2010) 、母子の抱える問題の多様性、母子を支える家族からのサポー ト不足 (厚生労働省, 2013a; 前原ら, 2014) などを考慮すると、より一層関係機関が連携を して母子を継続的に支援していく必要性は明らかである。
しかし、本研究で助産師は《助産師が地域資源を活用できていない》、自治体や地域の 医療機関との《情報共有が不十分》、《自治体の対応の不足》といった【地域連携の不足】
という問題を感じていた。また、【助産師と自治体の産後ケアへの認識の相違】や【自治 体の事業の運営方法への疑問】といった問題も、自治体と助産師の目的が不統一であると いう自治体を含めた地域連携の不足が原因のひとつであると考えられる。イギリスでは、
地域において各専門家の役割を明確化し、それぞれが継続的な母子支援と効果的な情報共 有のために透明性のあるサービス同士のネットワークを構築する必要性が示されている (National Institute for Health and Care Excellence [NICE], 2014)。我が国においても、地域連携 における課題のひとつとして連携の透明性の確保、特に情報共有の透明化や子育てにおけ る他の地域資源との連携が重要だと考えられる。
近年福祉国家フィンランドのネウボラが地域の出産・子育て支援拠点の先駆的な事例と して関心を集めている。ネウボラは、出産ネウボラと子どもネウボラの2つから成る「妊 娠から就学前まで、かかりつけの専門職 (主に保健師) が担当の母子および家族全体に寄 り添い支える制度」であり子育て家族にとっての「身近なサポートを得られる地域の拠 点」である (髙橋, 2015)。女性は妊娠をするとまずネウボラに向かい、そこから担当の専 門職による子育て期までの切れ目ない支援が開始される (横山, 2015)。妊婦健診や乳幼児 健診、家族全体を総合的に見るための総合健診などをネウボラが一括で担う。担当制をと ることで継続的で切れ目のない妊娠・出産・子育て支援を全家庭に行うだけではなく、問
題を抱える家族への必要な支援体制の確保や保健・医療・福祉以外の領域との連絡調整・
協力もネウボラの重要な機能である。母子保健の専門職教育を受けてきた専門家が実施す る、子育て家庭にとって身近な場所であるネウボラが、様々な専門職とのネットワークの 中心的な役割を担うことで、充実した連携体制が構築できていると考えられる。予防事業 が普及するほど現場の担当者の負担が増加するという声もあり (小堀, 2010)、子育て支援 における担当制を我が国にそのまま導入することは難しいと考えられるが、地域の効果的 な育児支援資源の活用やサービス提供におけるギャップを最小限にすることで、対象者へ の包括的なサポートを可能にする (World Health Organization [WHO], 2013) 地域連携は重要 である。
我が国では、平成27年度よりこれまでの母子保健相談事業に代わって子育て世代包括 支援センター (厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2015) の整備が開始された。これは、地 域の関係機関が連携して「妊娠期から子育て期までの切れ目ない支援」を確保する機能を 持つ「仕組み」を指している。その役割は、①妊娠期から子育て期にわたるまで、専門的 な知見と当事者目線の両者から必要な情報を共有し、切れ目なく支援すること、②ワンス トップ相談窓口を設け必要なサービスを円滑に利用できるよう支援すること、③地域の関 係機関とのネットワークを構築し、必要に応じ社会資源の開発を行うことの3点である。
2015年11月時点で141施設が整備されている (厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保 健課, 2015) 。この子育て世代包括支援センターの全国展開が進めば、子育て家庭を切れ目 なく支援するための地域における子育て支援ネットワークが構築され、社会全体で子育て をするという目標に一歩近づくだろう。
本研究では、「助産師だけのこの専門職だけではやっていけない」(A氏) という専門性 の限界による多職種が関わる支援の必要性や、「お家に帰ったとしても、1日2~3時間と かでもいいから誰か手伝ってくれる」(F氏) 母親の生活に即した支援、そして「生活レベ ルの知識を持った」(F氏) 母子にとって身近な支援者などの必要性が語られており、《助産 師が地域資源を活用できていない》という問題が抽出された。したがって、子育てネット ワークを構築する際にはフォーマルな資源だけでなくNPOやNGO、ボランティアなどの インフォーマルな育児支援資源もネットワークに巻き込みながら、各関係機関同士の双方 向の透明性のある情報共有のもと、充実した育児支援が実施されることが望まれる。