• 検索結果がありません。

在宅医療の手引き(第 18 回)

在宅医療を巡る政策の動向と今後の方向性

 2015 年4月より松戸市福祉長寿部の審議監を務めております草野と申します。私は、厚生労働省からの出向者で して、厚生労働省では介護保険や高齢者医療などを担当し、地域包括ケアシステムの構築や 2011 年介護保険法改

正等に携わってきました。

 松戸市における在宅ケア推進のために尽力してまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

 今回、このような原稿を執筆させていただく機会を得ましたので、私見も交えて、在宅医療を巡る国の動向・方向 性や松戸市の考え方について、説明させていただきます。

■ 在宅医療の推進は国策

 この 10 年、政府は在宅医療を強力に推進してきています。2006 年の診療報酬改定により、在宅で療養する患者 のかかりつけ医機能の確立を図るため、在宅療養支援診療所の制度が創設され、さらに 2012 年の改定では、機能 強化型在宅療養支援診療所が創設されました。昨年成立した医療介護総合確保法では、各都道府県は、遅くとも 2017 年度までに地域医療構想を策定しなければなりませんが(医療法改正)、この地域医療構想では病床の機能分 化の推進とともに在宅医療の充実を図ることとされていますし、介護保険法改正では、全市町村において、在宅医療・

介護連携事業を実施しなければならないこととされました。

 こうした状況とあわせて、在宅医療関連の診療報酬も大幅に増大しています。診療行為別の入院外1日当たり診療 報酬点数で見ると、2005 年から 2014 年の約 10 年間に、点数総数は 678.9 点から 813.8 点へと 20%の増加な のに対し、在宅医療関連の点数は 28.6 点(対総数比 4.2%)から 51.7 点(同 6.4%)へと 80%の大幅な増加となっ ています。なお、後期高齢者に限定すると、2014 年現在で、在宅医療の1日当たり点数は 90.8 点(対総数比 10.3%)

となり、診療報酬上のウェートが非常に高いところであり、今後の高齢化の進展に伴って、在宅医療関連の診療報酬 がさらに増大していくことが予想されます。

■ 在宅医療の推進が国策である理由 ① 〜 QOL の向上〜

 それでは、なぜ、国は在宅医療を推進しているのでしょうか。その理由は2つあります。

 1つは、QOL(Quality of life)の向上です。今後、後期高齢者の急増とともに、医療・介護の給付費は、2015 年度時点の 47.2 兆円から 2025年度時点の 73.8 兆円へと大幅に増加します。この 30 兆円弱の給付費増は、当然、

社会保険料・税という形で国民が負担しないといけないわけですが、これだけ大きな負担増を受け入れてもらうため には、「負担に見合った質の高い医療・介護を提供すること(費用に見合ったサービス提供。Value for money。)」

が必要になります。

 厚生労働省のアンケート調査によれば、自分が要介護になった場合、約 75%の方は自宅で介護を受けたいと回答 しており(高齢者住宅等を含めれば、90%弱の方が在宅介護を希望)、また、両親が要介護になった場合、80%の

方が自宅での介護を希望しています(高齢者住宅等を含めれば、85%の方が在宅希望)。さらに、内閣府の意識調 査によれば、最期を迎えたい場所については、「自宅」が約 55%で最も高くなっています(高齢者住宅等を含めれ ば約 60% は在宅希望。一方、「病院などの医療施設」は約 28%)。

 つまり、多くの国民は、「人生最期の時まで、できる限り、住み慣れた地域で生活し続けたい」という希望を持って

おり、今後の大幅な負担増を受け入れてもらうためには、Value for money の観点から、在宅医療・介護の充実等

を通じて、こうした国民の希望に応えていくことが必要になっています。

■ 在宅医療の推進が国策である理由② 〜「地域完結型」医療への転換〜

 もう1点の理由は、高齢化の進展に伴い、 「地域完結型」医療を提供する体制の構築が必要になっている点です。

これまでの日本の医療提供体制は、救命・延命、治癒、社会復帰を前提とした「病院完結型」医療とでも言うべ きものでした。実際、日本の現状の医療提供体制は、7対1入院基本料が非常に多く、13 対1、15 対1が極端 に少ないといったように(いわゆる「いびつなワイン型」)、高度急性期・急性期・回復期・慢性期といった病床 の機能分化が不明確であるとともに、在宅医療が十分に普及していませんでした。

 平均寿命が 80 歳を超え、老齢期の患者が中心になっていく中では、病気と共存しながら QOL の維持・向上 を目指す医療、つまり、住み慣れた地域や自宅で生活するために、地域全体で治し支える「地域完結型」の医療 を提供する体制の構築が必要になります。このため、病床の機能分化と連携強化を推進し、入院期間をできるだ け短くして早期の家庭復帰・社会復帰を実現するとともに、在宅医療・介護を大幅に拡充して、地域全体で治し 支える医療を提供していくことが必要になってきています。このため、各都道府県は、こうした方向性を実現 するための地域医療構想を策定しなければならないこととされたのです。

■ 在宅医療推進の方向性は今後も強化される

 こうした改革の方向を受け、在宅医療の将来の必要量はどの程度になるのか。千葉県の推計によれば、東 北 部区域の在宅医療等の需要は、2013 年度の 1.1 万人弱から、2025 年度には 1.9 万人強へと、大幅な増加が見 込まれています(1.8 倍程度、8千人強の増加)。

 2025 年までという非常に短い期間の間に、これだけ急ピッチで在宅医療の整備を進めていかないといけない のですから、国や都道府県としては、在宅医療の整備のために、持っている政策ツール(都道府県に設置された 地域医療介護総合確保基金、診療報酬等)を動員していくことになるものと思われます。

■ 松戸の在宅医療の現状

 松戸市も、国と同様、高齢者等の QOL の向上や「地域完結型」医療の提供を実現する観点から、在宅医療を 推進しています。そして、他の東京圏の都市と同様、2025 年に向けて、後期高齢者数(人口比率)が急増して いくため(2015年 51,330人

(10.6%)

→ 2025年 77,270人

(16.6%)

)、早急な体制整備が必要になっています。

 松戸の在宅医療の現状は、医師の皆様や松戸市医師会のご尽力により、非常に充実しています。松戸市医師会 在宅ケア委員会のデータによれば、2012 年の在宅看取り数は 422 です。在宅療養支援診療所は市内に 36 か所 あり、人口 10 万人比は 7.4 か所(全国平均 11.1 か所、千葉県平均 5.2 か所)ですが、機能強化型の在宅療養 支援診療所は 16 か所あり、人口 10 万人比は 3.3 か所で、全国平均 2.2 か所の 1.5 倍になっています。

 また、在宅医療の指標としてよく取り上げられる自宅死の割合は 18.5%で、全国平均 12.9%の 1.5 倍程度に

なっています。また、自宅死には在宅での看取りのほか、不慮の事故・自殺等や心疾患等による急死等も含まれ

病診連携を通じて、各診療所における在宅医療の支援が行われています。

 在宅医療をさらに推進していくためには、在宅医療に積極的に取り組まれている医療機関と連携していただい て、かかりつけ医の先生方が在宅医療に積極的に参入いただくことが重要であると考えております。

 かかりつけ医の参入推進という観点で言うと、堂垂先生が仰っているように、実際に同行訪問診療していただ くことが非常に意義が大きいと感じました。私が在宅ケア委員会で同行訪問のお願いをさせていただいたところ、

堂垂先生・川越先生より、同行訪問の機会を与えていただきました。患者の QOL の向上に資する診療を拝見さ せていただきましたが、あわせて、両先生のように、きちんとシステムを組み、他の事業者等との連携を図れば、

十分に効率的な体制を構築できるように感じました。また、川越先生のご紹介で、機能強化型在宅療養支援診療 所のカンファレンスを傍聴させていただきましたが、そのカンファレンスには、在宅療養支援診療所以外の診 療所の医師の方も参加されているとのお話を伺いました。

 こうしたことから、在宅医療に積極的に取り組まれている医療機関と、在宅医療への参入を検討されているか かりつけ医が密接に連携していただき、例えば、同行訪問やカンファレンスへ参加などを通じて、かかりつけ医 の先生方の在宅医療への参入を推進していただきたいと考えております。

■ 松戸における在宅医療の推進に向けて② 〜在宅医療・介護連携の推進〜

 高齢者の在宅生活を支えるためには、在宅医療、訪問看護や在宅介護サービス等が包括的に提供される必要が あり、在宅医療・介護連携の推進が重要になります。

 市としても、在宅医療・介護連携の推進に向けて、松戸市医師会と緊密に連携しつつ、介護保険法に位置づけ られた在宅医療・介護連携推進事業を推進していきます。

 具体的には、2016 年度から、医師会の幅広い医師の先生方や多職種の代表の方がプロジェクトを組み、診診 連携体制、在宅医と訪問看護の連携体制、在宅医療・病院連携、多職種合同カンファレンス、医療・介護関係者 の情報共有支援などを松戸市全域で推進していくための具体的な方策を検討していきます。

 また、日常生活圏域での在宅医療・介護に関する課題に総合的に対応できる体制を構築するため、地域包括支 援センターごとに担当のサポート医を定め、地域での相談支援・アウトリーチを行うとともに、こうした取り組 みを通じて、地域課題の抽出と解決策の検討を行っていく「地域包括支援センターサポート医プロジェクト」を 実施していく予定です。

 これらの取組は、全国的にも非常に進んだ取り組みであり、医師会と市が緊密に連携しながら、在宅医療・介 護連携の積極的な推進を図っていきます。

 また、市においても、利用者・事業者が在宅医療・介護に取り組む機関に円滑にアクセスできるようにするた め、医療機関や介護事業所、インフォーマルサービスの最新情報を搭載した医療・介護連携統合マップを作成し、

広く公表します。また、医師会と共同して市民公開講座を開催し、地域住民への在宅医療の普及を図ります。あ わせて、重度者の在宅生活を支援する観点から、定期巡回・随時対応サービスや看護小規模多機能サービス(複 合型サービス)など、医療との密接な連携の下に提供される重度者向け在宅介護サービスの整備・普及を図っ ていきます。

 なお、医療・介護が連携しながら、セルフマネジメントも含めて、在宅・入院を通じたケアマネジメントを行っ

ていくことが重要ですが、厚生労働省の補助事業の中で、在宅医療・介護体制の構築に取り組んでいる自治体と

して、松戸市に対しても積極的な協力が求められています。こういった事業も活用して、在宅医療・介護連携を

進めていきたいと考えております。今後とも松戸市医師会等の関係者の皆様と連携しつつ、松戸市の在宅ケア推

進のために尽力してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。

関連したドキュメント