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土壌汚染対策の今後の動向と提言

ドキュメント内 土壌汚染対策に関する動向調査 調査票 (ページ 98-102)

第 4 章 土壌汚染対策の課題とニーズについて

4.3 土壌汚染対策の今後の動向と提言

環境省では、平成19年6月から「土壌環境施策に関するあり方懇談会」を開催し、土壌 汚染対策法施行後の課題について有識者による検討を行っている。平成20年3月には懇談 会のとりまとめが出され、それをもとにして、平成20年度の中央環境審議会で土壌汚染対 策法の改正に関する議論が行われるとみられる。

懇談会の議論の中で、土壌汚染対策については、掘削除去中心の傾向が続くことによって、

搬出汚染土壌による汚染拡大などの深刻化が懸念されている。また、経済的合理性からも問 題があるとされ、汚染の程度や土地利用状況に応じた合理的で適切な対策が実施されるよう に見直しが必要であるとの指摘があった。

土壌汚染対策技術については、すでに検討してきたとおり、それぞれの特長を生かした対 策技術が近年多く開発される傾向にあるが、汚染の程度や局面に応じて、効果的な汚染対策 をおこなうことができ、かつコストもリーズナブルであることが社会的には望ましい。しか し、実際の土壌汚染対策では、コストの高い掘削除去技術が多く実施されている。土壌汚染 対策技術の動向を考える上では、技術開発動向だけではなく、土壌汚染対策の制度面に関わ る社会的・経済的な要請についても考慮する必要がある。

そもそも土壌汚染対策法において、汚染土壌の掘削除去が求められるのは、一部の場合(揮 発性有機化合物の第二溶出量基準超過等)に限られており、ほとんどの土壌汚染対策が掘削 除去である現状は法施行時からすれば想定外であったと言える。

また、現状では調査・対策の8割程度は事業者等が自主的におこなっている。自主的な調 査・対策では、その実施内容や水準は、当事者自身が定めることになる。

この実態の背景には、特に土地取引(法の対象外)を契機とする土壌汚染対策においては 求められる水準が、法のそれよりもはるかに厳しいというところにある。そして土地取引に おいて土壌汚染が発覚した場合、土地資産価値が大幅に下落することから、短期的に汚染を 除去することが可能な掘削除去技術が望まれることになる。さらに、土地取引以外の土壌汚 染対策の場合であっても、土地資産価値の維持を目的として、土地取引の対策水準に準ずる 対策が志向され、結果的に掘削除去が多くの局面で選択される結果となる。

また、汚染に対する過剰なスティグマ(心理的嫌悪感)に基づき、過剰な対策として掘削 除去技術が選択されているという側面もある。掘削除去以外の安価な対策で充分である場合 であっても、汚染土壌を確実に撤去する方が地域住民や土地購入者の意向に沿いやすい。汚 染のリスク評価が適切になされていないために、汚染による不安感が漠然として取り除けな いことが要因である。さらに、自主的な土壌汚染対策においては、指定基準が対策要否の判 断基準として用いられていることも、過剰な対策を求める要因になっている。そもそも、土 壌汚染の指定基準(溶出基準)は長期の地下水飲用を前提としたリスクを基に基準値が設定 されているため、人の健康被害に関するリスク評価を実施し、過剰な浄化対策に陥っていな

いかを注意するべきである。

一方、鉱油類については、環境省の第6回懇談会(平成20年1月9日開催)で示された

「土壌環境施策のあり方についての論点」において、施策対象とする項目について、「油(鉱 油類)を含む土壌に起因する油臭・油膜問題については、平成18年3月にガイドラインを 策定したところであるが、今後どう対応すべきか」と述べられ、ガイドラインに基づく対策 以外に、法による対策の検討も示唆されている。また、「生活環境保全、生態系等の観点」

についても、施策対象の論点として挙げられている。

今後、すぐれた土壌汚染対策技術が普及していくためには、技術開発だけではなく、技術 を利用するための社会的な合意形成が重要な課題になると思われる。スティグマに基づく過 剰な土壌汚染対策を実施するのではなく、科学的なリスク評価に基づく適切な対策を実施す るための環境が強く求められるだろう。そのためには、土壌汚染サイトの周辺住民などの利 害関係者に対しては、リスクコミュニケーションを適切に実施していく必要があるし、社会 全体にはリスク評価の考え方をいっそう普及させていくための取り組みが必要だと考えら れる。

参考文献

第1章

1) 『地下水汚染論−その基礎と応用−』 地下水問題研究会編 共立出版株式会社 (1994) 2) 『土壌・地下水汚染の浄化(米国の経験)』環境庁水質保全局海洋汚染・廃棄物対策室森下 哲

著 (1996)

3) 『産業界における今後の土壌環境保全対策−土壌汚染対策法の施行に向けて−』社団法人 産業と環境の会 (2002)

4) 『土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針運用基準』 環境庁水質保全局編 (2002) 5) 『土壌汚染その総合的対策−調査技術、法律、鑑定、土地利用』 財団法人民間都市開発推

進機構都市開発研究センター監修 (2003)

6) 『土壌汚染費用の算定と不動産の取引価格[不動産鑑定士]』 津村 孝著 清文社 (2003) 7) 『土壌汚染対策技術、地盤環境技術研究会編』 日科技連 (2003)

8) 『土壌汚染対策法に基づく調査および措置の技術的手法の解説』社団法人土壌環境センタ ー (2003)

9) 『土壌・地下水汚染の調査・予測・対策』 社団法人地盤工学会 (2003)

10) 『環境問題の多面化に対応した環境負荷低減(地下水汚染対策)』 社団法人産業と環境の 会 (2004)

11) 『土壌汚染リスクと不動産評価の実務−土壌汚染の診断・浄化費用/スティグマ査定/環境 保険』川口 有一郎 和田 信彦 廣田 裕二 大岡 健三 本間 勝共著 株式会社プログレス (2004)

12) 『環境負荷物質対策調査報告書−土壌汚染対策調査研究事業−』産業環境管理協会(2005) 13) 『土壌中の溶質移動の基礎』 筑紫 二郎著 財団法人九州大学出版会 (2005)

14) 『地下水・土壌汚染の基礎から応用−汚染物質の動態と調査・対策技術−』 理工図書 (2006)

15) 『土壌・地下水汚染−循環共生をめざした修復と再生−』 古市 徹監修 オーム社 (2006) 16) 『土壌物理学−土中の水・熱・ガス・化学物質移動の基礎と応用−』 ウィリアム・ジュ

リー+ロバート・ホートン共著 築地書館 (2006)

17) 『平成17年度土壌汚染対策法の施行状況および土壌汚染調査・対策事例等に関する調査 結果』 環境省水・大気環境局 (2007)

18) 『土壌汚染を巡る企業の対策・対応のあり方報告書』 株式会社野村総合研究所 (2007) 19) 『土壌地下水汚染対策の最新の動向と調査・浄化法』 平田 健正著 和歌山大システム工

学 産業と環境 (2007. 9)

20) 『地盤環境汚染の基礎と解析の考え方』 勝見 武著 Web Seminar

第2章

1) 『油汚染土壌調査・評価手法検討調査報告書』 社団法人土壌環境センター(2002)

2) 『平成12年度土壌汚染調査・対策事例および対応状況に関する調査結果の概要』 環境省環 境管理局水環境部 (2002)

3) 『土壌汚染対策技術』 地盤環境技術研究会編 日科技連 (2003)

4) 『石油汚染土壌の浄化に関する技術開発報告書』 財団法人石油産業活性化センター (2003) 5) 『土壌・地下水汚染の調査・予測・対策』 社団法人地盤工学会 (2003)

6) 『油汚染対策ガイドライン−鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者な どによる対応の考え方−』 中央環境審議会土壌農薬部会・土壌汚染技術基準など専門委員会 (2006)

7) 『油漏洩土壌の評価方法に関する調査報告書−油臭測定と臭気強度評価に関する検討−』社 団法人全国石油協会 (2006)

8) 『地下水・土壌汚染の基礎から応用−汚染物質の動態と調査・対策技術−』 日本地下水学会 編 (2006)

9) 『地下水・土壌汚染の基礎から応用−汚染物質の動態と調査・対策技術−』 理工図書(2006) 10) 『平成18年度事業 産業廃棄物排出・処理状況調査報告書 平成16年度実績』 環境省大臣

官房廃棄物・リサイクル対策部 (2007)

11) 『油汚染土バイオレメディエーションの新たな展開』石川 洋二 資源環境対策Vol.43(2) p.

67-72 (2007)

12) 『SSにおける汚染土壌の浄化技術−パンフレット−』 社団法人全国石油協会 13) 『消防白書』 消防庁 (2007)

14) ”Analytical Methods for the Determination of Total Petroleum Hydrocarbons in Soil, Proceeding of the Fifth National Workshop on the Assessment of Site Contamination”, Ross Sadler and Des Connell

ドキュメント内 土壌汚染対策に関する動向調査 調査票 (ページ 98-102)