調査区全域から、縄文時代から近世に至るまでの土器・土製品が出土した。土器・土製品は 第45・46・47・50・53次調査分で整理用木箱374箱、第133-7・13次調査を含めて397箱分ある。
7・8 世紀の土師器と須恵器が大半を占め、次いで中世の土師器、瓦器や、古墳時代の土器があ る。縄文時代および弥生時代の土器も出土しているが、量的には少ない。土器の大半は東西大 溝SD4130と、それに南接する井戸SE4740から出土した。また、SK4325・SE4335・SK4327か らもまとまった量の土器が出土した。他の溝や井戸、土坑、柱穴からも出土しているが、量的 には少ない。ここでは 7・8 世紀の土器を中心に報告し、次いで他の時代の遺構出土土器と特 殊土器・土製品について報告する。
土器の分類と編年 土器の器種名称は基本的に既刊の奈文研刊行物に従うが、7 世紀の土器に 関してはこれまでの分類を整理し、別表 2・3 として呈示する。土師器杯Gについては、杯Ga、
Gb、Gcに細分している1。なお、同一器種でも法量差がある場合は、大きい方からⅠ~Ⅴの記号 を付けて区別している。当該期の土器の大別と年代に関しては『藤原宮報告Ⅱ』において既に 枠組みが示されているが、その後の新資料も含め、別表 4 にまとめた。奈良時代土器の器種に 関しては『平城宮報告ⅩⅥ』、群別は『平城宮報告ⅩⅢ』に従う。
調整手法の分類 土師器食器類の調整は、その種類と施す範囲により記号化している(Tab. 3 )。 c手法のなかで、e手法によって調整した後、外面全体をヘラケズリするが、口縁端部にはヘ ラケズリが及ばないものをe-c手法として区別している。また、外面のヘラミガキ調整は、そ の範囲によりTab. 3 のように記号化している。以上を組み合わせて、a0 手法やc3 手法という ように調整手法を表記する。
また、内面の暗文については、口縁部に二段放射暗文や一段放射暗文、あるいは一段放射暗 文および連弧暗文があり、底部内面には螺旋暗文を施す。放射暗文には、右上がりと左上がり がある。口縁部の連弧暗文については、各円弧間に小円を描く連弧暗文Aと、円弧が連続する 連弧暗文Bに細分し、連弧の向きは口縁部に対して凸となる上向きの連弧暗文、底部に対して 凸となる下向きの連弧暗文として表記する。
計測の基準 土器の口径や高さ、径高指数については、口縁部が六分の一以上残存する個体に 限って表示した。かえりのある杯蓋の口径の計
測点については、Fig. 126のbとした。文中の 径高指数の数値は(器高÷口径)×100とし、小 数点二位以下は四捨五入した。杯Bなどの径高 指数は、高台を除いて計測した。
手 法 口縁部外面調整 底部調整
a手法 ヨコナデ 不調整
b手法 ヨコナデ ヘラケズリ
c手法 ヘラケズリ ヘラケズリ
e手法 幅狭くヨコナデ 不調整
手 法 ミガキ調整の有無および範囲 0手法 ミガキ調整を施さない
1手法 口縁部のみ
2手法 底部のみ
3手法 口縁部から底部にかけて
Tab. 3 土師器の調整手法
Fig. 126 須恵器杯B蓋・杯G蓋の計測点
2 土器・土製品
A 東西大溝SD4130・井戸SE4740出土土器
ⅰ SD4130出土土器
SD4130は、第53次北調査区から第45・47・50次調査区の北寄りを東西に流れる素掘溝であ る。溝の方位は東で南に若干振れており、第53次北調査区で南北溝SD4143に接続すると考え られる。六条条間路道路心からは、北に17~25mの距離に位置する。調査では総長124m分を 検出したが、東側ほど削平が著しく、東端部ではわずかに溝底部が残るに過ぎない。溝の規模 は、第50次調査区西壁で幅11.2m、深さ1.5~1.7mで、第45次調査区西端で幅4.5m、深さ1.1m を測る。8 箇所ある土層断面図によると、溝底の標高は75.0m前後でほぼ水平であり、溝底の 標高から、水流の向きを確定することは難しい。埋土は、調査時の所見からは、灰色砂礫、茶 褐色砂礫を中心とする下層、青灰色粘質土を中心とし、細砂や粘質土が交互に堆積する中層、
暗褐色粘質土、茶褐色粘質土、灰褐色粘質土、淡褐色粘質土などからなる上層の大きく 3 層に 分けられる。第50次調査区西壁での各層の厚さは、下層が10~25㎝、中層が70~85㎝、上層 が60~80㎝である。下層と中層は溝が機能していた時の流水や滞水により堆積した層とみられ、
粘質土の上層は溝が最終的に廃絶した時の埋土と考えられる。
各層出土土器の器種構成は、別表 5 に示した。SD4130とSE4740については、個体数の算定 は、基本的に口縁部が八分の一以上残存するものを対象とした。底部に高台の付く杯Bと皿B は、口縁部の残存が八分の一に満たなくても、高台部分が八分の一以上残るものは算出対象と した。高杯の脚柱部や細頸壺頸部、平瓶頸部などの部位は、口縁部が残っていない場合でも、
二分の一以上が残存していれば数に加えた。盤や竈、横瓶、提瓶などの器種は、口縁部が残っ ていない場合でも、器種同定が可能であれば算出した。また、各土器の出土地区、法量や調整 手法については別表 7 にまとめたので、合わせて参照されたい。
以下、下層から中層、上層の順に、各層ごとに出土土器の報告を行う。
a 下層出土土器(Pl. 14~16,Ph. 76・80・81)
土師器(Pl. 14) 土師器には、杯A、杯B、杯B蓋、杯C、杯G、杯H、皿A、皿B、皿B蓋、
椀C、鉢、高杯A、盤、壺B、甕、鍋、甑、竈などがある。
1 ~ 5 は杯A。1・2 は杯AⅠ、3 は杯AⅡ、4・5 は杯AⅢである。2 は口縁端部を内側に強 く巻き込むが、その他は内側にわずかに肥厚させる程度である。1 ~ 4 は二段放射暗文(以下、
二段暗文とする。)をもち、4 には底部内面に螺旋暗文がみられる。5 では暗文が確認できない。
調整は、杯AⅢ( 4・5 )がa0 手法、杯AⅠ( 1・2 )がb1 手法で、杯AⅡ( 3 )は磨滅のため不 詳である。また、1 の底部内面にはハケ目が確認できる。5 の底部外面には指頭圧痕が目立つ。
1 は胎土に雲母を、4・5 は胎土に赤色粒子を含む。
杯B( 6・7 )はともに二段暗文を施す。6 はa1 手法で調整し、胎土に赤色粒子を含む。7 は 口縁部をヨコナデした後にヘラミガキを施す。両者とも橙褐色を呈する。
杯B蓋( 8 )は頂部に径4.5㎝ほどの扁平なつまみを有する。口縁端部は肥厚する。内面には 螺旋暗文、外面にはヘラミガキを施すとみられるが、風化のために不詳。
9 ~13は杯C。9 が杯CⅡで、他は杯CⅠである。器形は 9 が若干深く、13は浅めである。11 は口縁端部が外側に屈曲する。いずれも一段放射暗文(以下、一段暗文とする。)をもつ。9・12 はa0 手法、11はa1 手法で調整する。13の内面および口縁端部外面には黒色のタール状物質が 付着し、灯明皿として用いたと考えられる。
14・15は杯G。口縁端部は丸くおさめるもの(14)と内傾するもの(15)がある。ともに口 縁部内面には斜め方向の工具痕がみられる。
杯H(16)は口径約10㎝の小型品。ヨコナデにより口縁部が外反する。底部外面のヘラケズ リは底部全面には及ばず、一部に不調整の部分が残る。胎土には径 1 ㎜ほどの砂粒を多く含む。
17~19は皿A。18・19が皿AⅠで17は皿AⅡ。3 個体とも底部と口縁部との境は明瞭ではな く、口縁部が丸みをもって立ち上がる。口縁端部の形状は、丸くおさめるもの(17)、上端に面 をつくるもの(18)、内側に肥厚するもの(19)と様々である。17はb0 手法で調整し、暗文の有 無は磨滅のために不明。胎土に赤色粒子を多く含む。18・19は内面に一段暗文を施す。b0 手法 で調整するが、底部外面の一部に指頭圧痕が残る。
20は椀C。口縁端部は内傾し、底部外面には指頭圧痕が明瞭に残る。
21・22は鉢。21は口縁端部が内側に肥厚し、22は口縁部上端に狭い面をつくる。口縁部の形 状は21が開いて終わるのに対し、22は端部付近が内弯気味となる。両者とも内面に一段暗文を 施し、21は底部に螺旋暗文も残る。外面の調整は、口縁部から胴部上位まではヨコナデ、胴部 中位以下はヘラケズリで、口縁部および胴部上半にヘラミガキを施す。21は胎土に雲母を含む。
高杯A(23)は杯部の破片。口縁端部側面にヨコナデによる弱い凹線をもつ。内面の暗文は 二段暗文となると考えられる。外面上半はヨコナデ、下半はヘラケズリで調整し、全体にヘラ ミガキを施す。
24~26は盤。24は内面に二段暗文および螺旋暗文を施す。外面はヘラケズリの後、上半部に のみヘラミガキを施す。大型の25・26は把手をもつ。25は口縁端部が内側にやや肥厚する。内 面には一段の暗文が確認でき、その下には螺旋暗文がめぐる。おそらく二段暗文となるのであ ろう。胴部外面上半は横方向のナデで調整し、口縁部は端部のみを狭くヨコナデする。浅黄色 を呈する。26は同一個体の破片から図上復元した。高台は大ぶりでハの字に開き、端部が外方 に屈曲する。底部内面には螺旋暗文があり、胴部には放射暗文をもつ。胴部外面は把手部より 下をヘラケズリで調整し、把手付近より上にはヘラミガキを施す。橙色を呈する。
壺B(27~31)は口径 7 ㎝、器高 5 ㎝ほどの小型品(27~29)と、口径14㎝ほどの中型品(30・
31)がある。小型品はほぼ同大同形であるが、27は頸部のくびれが若干弱い。調整は口縁部か ら頸部をヨコナデするのみで、胴部外面にはユビオサエによる指頭圧痕や粘土接合痕が残る。
27はにぶい黄橙色である。28・29はともに浅黄橙色で、胎土に赤色粒子を含むが、28のほうが 砂粒の含有量が多い。中型品は口縁部をヨコナデ、胴部をナデで調整する。31の胴部外面には 指頭圧痕の凹凸が残る。30は橙色、31は浅黄色を呈する。
32~37は甕。把手の有無は、34を除き不明である。口径により、小型品(32~34)、中型品
(35)、大型品(36・37)に分けられる。口縁端部の形状は多様で、つまみ上げるもの(32・36・
37)、端部側面に面をもつもの(33)や、丸くおさめるもの(34・35)がある。36は口縁端部の 側面が、ヨコナデによりやや凹む。32は胴部外面が縦方向のハケ目、内面はナデで調整する。