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国際金融センター・シンガポールの定量的把握

ドキュメント内 -現代国際金融センターとしての一考察- (ページ 41-61)

Ⅰ.問題の設定

日本において、東京の国際金融センター化を巡る議論はこれまで、幾度となく繰り返さ れてきた。1980年代後半には、急増する貿易取引に付随する金融取引の拠点として、また、

豊富な国内貯蓄資金を背景に、世界への資本輸出基地として、東京の国際金融センター化 がもてはやされ、外資系の信託銀行、証券会社、投資銀行の日本進出が相次いだ(伊藤

[1996])。1996年11月になると、橋本首相が三塚大蔵大臣及び松浦法務大臣(いずれも当

時)に対し、2001年までに我が国の金融市場がニューヨーク、ロンドン並みの国際金融市 場として復権することを目標として、金融システム改革、いわゆる日本版ビッグバンに取 り組むよう指示を出している 。

2007年4月には、経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会金融・資本市場ワーキ ング・グループが、「真に競争力のある金融・資本市場の確立に向けて」を公表し、東京の 国際金融センターの地位向上に向けた具体策を掲げている 。同年5月には、第1次安倍内 閣が「アジア・ゲートウェイ構想」を打ち出し、その中で「日本の国際金融センター化」

が謳われている 。

2013 年 12月、財務省・金融庁を事務局とする「金融・資本市場活性化有識者会合」が

「金融・資本市場活性化に向けての提言」 を公表し、「グローバルな発展を支える国際金 融センターとしての東京市場の機能強化」を謳って以降、再び議論が活発化しつつある。

2014年6月に閣議決定された、政府の「『日本再興戦略』改定2014―未来への挑戦―」 に おいては、新たに講ずべき具体的施策として、「国際金融センターとしての地位確立」が明 記され、同年5月には、日本経済研究センター、大和総研、みずほ総合研究所が、「東京金 融シティ構想の実現に向けて」 と題する共同提言の中で、「東京の国際金融センターとし ての機能強化」を謳い、同年同月には、東京都が、東京国際金融センター構想の実現を目 指し、「東京国際金融センター検討タスクフォース」を設置している。

東京の国際金融センター化を巡る議論が繰り返される背景には、国際金融センター化が 金融サービス業の発展に好影響を及ぼし、ひいては経済成長や財政収支にとってメリット をもたらすという認識が存在するものと考えられる。例えば、経済財政諮問会議グローバ ル化改革専門調査会金融・資本市場ワーキング・グループ「真に競争力のある金融・資本

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市場の確立に向けて」(2007年4月)では、「金融取引とそれに従事する専門人材が日本に 誘引されれば、金融サービス産業によって国内に今以上の雇用と税収がもたらされるよう になる」と述べている。

こうした国際金融センターに関する議論の中で、ニューヨーク、ロンドン、香港などと ともに、東京の比較対象として挙げられる国に、シンガポール共和国(以下、シンガポー ル)がある。シンガポール統計局“Yearbook of Statistics Singapore 2017”によると、シン ガポールは、面積が719.2平方キロメートル(2016年6月末)で東京23区と同程度、人

口560.7万人(2016年6月末)、名目GDP4,102.7億シンガポール・ドル(以下Sドル、

2016年)、1米ドル=1.3815Sドル(2016年平均)で換算すると3,000億米ドルをやや下回 る規模という、アジアの中でさえ大きいとは言えない規模の国である。

本章の目的は、国際金融センターの定量的把握に用いられる統計データを用いて、国際 金融センターとしてのシンガポールの一側面を明らかにすること、である。分析に際して は、(1)国際金融センターのランキングに関する指標、(2)代表的な 5 つの金融市場、

すなわち為替市場、株式市場、債券市場、デリバティブ市場、貸出市場の規模、を用いる。

(1)については、2000年代終わり頃から複数の機関が発表し始めたことから、徐々にデ ータの蓄積が進みつつあり、メディア、政策分析のほか、学術論文においても引用される ようになりつつある。それらはいずれも、実際の経済活動の結果を集計したいわゆるハー ドデータに、アンケートを通じて得られた「感触」や「意識」といった主観的データ、い わゆるソフトデータを組み合わせることによって作成されたものである。(2)については、

GDP比によらず、規模そのものの大きさ、に着目する。

対象は、アジア10カ国(シンガポール、日本、韓国、香港、インドネシア、タイ、フィ リピン、マレーシア、インド、中国本土)、オセアニア2カ国(オーストラリア、ニュージ ーランド)、欧米先進国は、主要先進国のグループである G10(10 カ国財務大臣・中央銀 行総裁会議) に含まれる 11 カ国から、アジアに含まれる日本を除き、ルクセンブルグを 加えた11カ国(米、英、独、仏、伊、加、オランダ、ベルギー、スウェーデン、スイス及 びルクセンブルグ)の計23カ国とする。なお、財務省によると、1984 年4月にスイスが 参加して以降、G10の参加国は11か国となっているが、それ以降も引き続き G10と称し ている(https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g10/index.htm、2019年4 月30日アクセス)。

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Ⅱ.国際金融センターの定量的な把握に用いられる統計データ

「国際金融センター」の定義は論者によって様々であり、普遍的な定義は存在しないと いう見解は少なくない(例えば、南波 [1989]、Leung et al. [2008]、Kayral et al. [2012])。 そのこととも関係があるが、国際金融センターの規模や特徴を、どのような統計データに よって、どのような方法で把握するかについても、普遍的な定義は存在しないと考えられ る 。しかし、そうした国際金融センターの定量的な把握は、それ自体が基本的かつ重要な 論点となるのみならず、特定の都市を国際金融センターたらしめる要因を分析する計量分 析などにとっても、基本的かつ重要な論点であると考えられる。

過去の研究において、国際金融センターを定量的に把握する場合、国際金融センターの ランキングに関する指標は、一定の地位を占めつつある。例えば、Shirai [2009]、Park [2011]、

Moosa et al. [2016]、Le Leslé, V. et al [2014]などでは、The Z/Yen Groupによる「世界金 融センター指数(The Global Financial Centres Index, GFCI)」が、単独ないし他の伝統 的な統計データとともに用いられている。東京国際金融センターの推進に関する懇談会

[2015]、坂和 [2015]では、The Z/Yen Groupによる「世界金融センター指数(The Global

Financial Centres Index, GFCI)」に加え、National Financial Information Center Index Research Institute and Standard & Poor’s Dow Jones Index Co.「国際金融センター発展 指数(International Financial Centers Development Index, IFCD)」が、他の統計データ とともに、国際金融センターの代理変数として用いられている。これら国際金融センター のランキングに関する指標は、実際の経済活動の結果を集計したいわゆるハードデータに、

アンケートを通じて得られた「感触」や「意識」といった主観的データ、いわゆるソフト データを組み合わせて作成されている。

また、国際金融センターの定量的な把握には、株式、債券、為替、貸出など、金融市場 の規模や取引量が注目されることも少なくない。例えば貝塚 [1996]では、国際金融センタ ーに関する分析の中で、外為市場の取引額、銀行の対外資産残高、株式の取引額、債券の 取引額、オフショア市場の残高、短期金融市場の取引額など、Shirai [2009]では、株式市 場、債券市場、与信市場(対外与信統計含む)、為替市場の規模や取引量に関する統計デー タなど、東京国際金融センターの推進に関する懇談会 [2015]では、株式市場、債券市場、

デリバティブ市場の規模や取引量に関する統計データなどが、国際金融センターを定量的 に把握する主な統計データとして用いられている。また、Sagaram and Wickramanayake [2012]では、国際金融センター成立にとって重要な要因についての計量分析を行っているが、

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その際、国際金融センターの代理変数として、外国銀行の数のほか、株式時価総額、外国 為替市場の日次平均取引高、証券市場の取引高、が用いられているとともに、先行研究に おいても、同様の変数が用いられてきたことを指摘している。以上のように、先行研究に おいては、Cheung and Yeung [2007]が指摘するように、国際金融センターの重要性を測る 伝統的な尺度として、株式市場、債券市場、銀行部門等信用市場、外国為替市場、デリバ ティブ市場の5市場に基づく場合が多いという主張は、一定の説得力を持つと考えられる 。

国際金融センターの定量的な把握には、対外資産負債残高関連統計に着目する場合もあ る。例えば、Leung et al. [2008]では、直接投資、クロスボーダーの証券投資残高、クロス ボーダーの銀行融資残高が用いられている。また、Cheung et al. [2007]では、対内負債残 高(直接投資除く)、金融部門の対内直接投資残高を、金融サービスの輸出とともに分析対 象としている。Shirai [2009]では、他の伝統的な統計データの分析とともに、対外資産残 高のシェアの比較を行っている。

本章では、以上の統計データに基づき、国際金融センターを定量的に把握する。

(1) 国際金融センターのランキングに関する指標

(2) 株式市場、債券市場、銀行部門など信用市場、外国為替市場、デリバティブ市場 などの金融市場関連統計データ

Ⅲ.国際金融センターのランキングに関する指標からみたシンガポール

本節では、国際金融センターのランキングに関する指標に基づき、シンガポールの特徴 を分析する。国際金融センターのランキングに関しては、いくつかの指標が公表されてい る。本節では、それらのうち特に代表的であると考えられる以下の 3 種類の指標に基づい て、国際金融センターとしてのシンガポールの特徴について検討する53)

① The Z/Yen Group「世界金融センター指数(Global Financial Centres Index, GFCI)」

② National Financial Information Center Index Research Institute、Standard &

Poor’s Dow Jones Index Co.「国際金融センター発展指数 International Financial Centers Development Index, IFCD Index)」

③ World Economic Forum「金融発展指数(Financial Development Index)」

53) これら3つの指標は、内閣府経済財政諮問会議「選択する未来」委員会の成長・発展ワーキング・グル ープ配布資料(内閣府「国際金融センター、金融に関する現状等について」平成26418日)

(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/wg1/0418/shiryou_02.pdf、2016116 日アクセス)においても、国際金融センターに関する指標として紹介されている。

ドキュメント内 -現代国際金融センターとしての一考察- (ページ 41-61)

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