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N. 国内外の移民等に対する自国語教育 一日本〈中国帰国者に対する日本語教育〉一
黒瀬桂子 1.はじめに
1972年の日中国交正常化以降,祖国日本に帰って来ることになった中国帰国者(以下,
帰国者)とその同伴家族の数は,第1次帰国ラッシュ(1985−1990)・第2次帰国ラッシュ
(1993−1996)を経て20,0◎0人を超える(2009年1月末)1。
帰国者に対する支援については,1982年及び1985年夏中国残留目本人孤児問題懇談会 の提言において援護施策の方向性が示され,一時帰国,定着,永住の目的に於いてそれぞ れの自立ために各種施策が講じられてきた。そのひとつに「日本語や日本の生活習慣の指 導」がある。
1984年には公的な研修体制が敷かれ,中国帰国孤児定着促進センター(現中国帰国者定 着促進センター;以下,所沢センター)が開所された。所沢センターでは,来日直後に行 われる予備的集中研修の役割を担っており,帰国直後から4ヶ月問(2004年以降は6ヶ月 間),日本語教育や生活指導が行われている。のちに全国5ヶ所に同様の機能をもつセンタ ーが開設されるが,所沢センターが中心となって,そのカリキュラム開発が進められてきた。
また,1988年には所沢センター修了後の定住地における8ヶ月間の研修機関として,「中 国帰国者自立研修センター」が全国15ヶ所に開所された。これにより,2段階の研修体制 をとることが可能になった。さらに2001年には「中国帰国者支援交流センター」が首都圏・
近畿に開所され,必要なときに通信教育や通学で学ぶことができる長期的な支援が可能に なっている。このように,帰国者に対するH本語教育の研修支援体制は,帰国者を取り巻
く環境や時代の要求に沿って機能の充実・改善が施されてきた。そして各機関における教 育内容についてもまた,不断の模索と調査研究が繰り返されてきた。
本稿では,日本での定住型外国人に対する日本語教育の内容を検討するうえで参考にす べく,その先駆的な機関である所沢センターに焦点を当て,帰国直後に行われる定着や適 応を目的とした日本語教育の内容がどのように変遷してきたのかについて報告する。
2.教材開発にむけての墓礎的研究 2.1背景
1980年代まで日本語教育で使用されていた教材は,日本に基盤を置こうとする外国人が 来日後,直ちに生活に直結させて利用できるものが見られなかった。そのため,外国人が 円滑に適応するため,真に役立っ実際的な教材開発を強く望む声があげられていた。
このような流れの中で,文化庁から委嘱を受けた教材開発検討委員会・教材開発実施部 会が中心となり,外国人が置かれるであろう言語生活の実態をつかみ,何を必要としてい
るかを明らかにした上で教材を作成することを最終羅的として「初心者用日本語教材の開 発に関する実践的研究」(水谷他,1982)が行われた。この研究の調査対象者として帰国者 が選ばれ,これが帰国者の教育に対する最初の公的な取り組みとなった。
当時の日本語教育の分野では,貝標書語調査が十分に行われたことはまれ(水谷他,
1982)であり,当該調査はその点において先駆的な研究であったといえるであろう。
2.2調査概要
1981年12月から1982年3月にかけて,以下の内容で調査研究が行われた。
(1)外国人の生活場面調査
帰国前約3か月の問に直面する場面を聴取してまとめた「外国人の行動表」が作成さ
れた。
そして,これらの場面の中から,特に外国人の生活に欠かせず,一般日本人のH常生 活からみても必要だと思われる30の場面が取り上げられた2。その後,30場面のうち 24場面3について調査者が各現場におもむき,会話をテープレコーダーに録音後,文字 化作業が行われた。
[外国人に必要な30の場面】
デパート,スーパー,八百屋,薬屋,電機屋,床屋,郵便局,町内会,近所付き合い,
保育園,学校,保健所,役所,福祉事務所,電話,職安,訓練校,病院,町医者,銀行,
日本語学習,不動産屋,電話局,道聞き,訪閤,セールス,アパート(大家),食堂,
国電,バス (水谷他,1982:2)
(2)一般日本人の書語行動調査
1日の言語行動(職場・家族間の会話を除く)を事細かにカードに記述し,記述した 中から近所づきあいに必要な場面にどのようなものがあるかを取り出した。
2.3分析の方法と結果
帰国者の生活場面調査において24場面で収集された文字化資料は,談話型についての 研究はほとんどない(水谷他,1982)と言われた時代に,国内外の先行研究を参考にしな
がら談話単位分けが行われ,談話型が抽出された。談話型にいたるまでの過程は図1のと おりである。
録音資料収集 毒
資料文字化 ↓
rやメ談話単位分け(カード化)
ほ ノ
ll文型認定脅一一「 小場面わけ
ロ き に ロ
ii ↓ i ↓
i擁機能認定一一」 「……一ゆ場面フn一チャート作成
ロ ノ ほ
il s i
き
:一談話チャート作成…一
:
1 ↓
L編型認定 (水谷他,1982,8)
[図1:「韻語型」腿定にいたるまでの手顯]
談話単位分けされた文文化資料をカード化して分類し,ひとつの場面をいくつかの小場 面に分けた。その小場面を並べ,各々を線で結ぶことによって場面全体の会話の流れを把 握することができる「場面フローチャート」を作成した。例えば,「小児科医院場面フロー チャート」では6っの小場面(診察の申込,保護者の病状説明,診察及び処置,医者の症 状判断と説明,今後の対策,支払い)を示し,それを時系列に沿って並べることで,全体 の流れが把握できるようになっている。
また,最終的に談話型を抽出するために,ある文型がその談話においてどのような機能
(役割)をはたしているのかを確定し,機能名を付与した。例えば,保護者の症状説明の 場面における,医者「のどはどうですか?」,親「はい。のどがだいぶらくになりました。」
というやりとりの場合,機能名は医者「説明要求・症状」,親「説明・症状」と付与する。
このような機能名を連続させ,チャート化したものが「談話チャート1である。そして,
談話ごとに作成された談話チャートを小場面ごとに整理すると,いくつものパターンに分 類可能となった(例保護者の病状説明の基本パターンは3つ。パターンA.医者:説明要 求一親:説明,パターンB.医者:確認要求一親:認め,パターンC.医者:確認要求一親:
説明)。このパターンを談話型と呼んだ。談話型の抽出にいたる過程では,各段階で,先行 の段階で設定された「談話単位」「場面フU一チャート」「文型」「機能」などが再検討され,
修正されることもあった。(図1の一一噸は修正過程を表す)
このように,談話単位で分析がなされたのは,「生きるための田本語」の教育では構文 上の型の教育,文の形の練習を中心とした教育より,その文がコミュニケーションの中で 表現上の意図を実現するためにどう使:われるかの教育,文の使い方の練習を中心とした教 育が望ましい(水谷他,1982)という考えに基づいているためである。
3,教材開発
調査の結果,抽出された談話型や語彙をもとにシラバスを作成し,学習項目の順位づけ を行うという手順を踏みながら作成されたのが,帰国者用教材『中国からの帰国者のため の生活H本語』(文化庁1983;以下,『生活日本語』)である。
3.1『生活三二語誰の特色
習得したものがすぐにも生活の場で使え,それを利用してすぐに何かができるような教 科書でなければならい(田中・藤田,1983)という基本姿勢のもと,従来の文型積み上げ 式の方法をとらず,学習者の生活場面とその場面で行なわれる書語行動で教授内容を構成 する場面シラバスになっている。この点で,当時の日本語教育においてf画期的な意味を
もった教材であった」(小林,2006)といえる。
また,一時的な外国人滞在者とは異なり,定住することを目的とした人々に,より深く N本社会に根付くための活動として必要なH本語能力を身に付けさせようとしていること は,それまでの教材には見られない特色として挙げられる。
3.2 『生活日本語』,『生活臼本語E』の構成内容
『生活日本語』では,教材でカバーすべき期間を帰国後3ヶ月と仮定し,学習者にとっ て最も必要なH本語が何であるかを示すこと,少ない表現力で生き抜いていくための戦略 的な技術を身につけさせることが物標として掲げられた。
その目標に沿って,調査により明らかになったH常生活で最も頻繁にかかわりあいのあ る24の場面が挙げられ,そのひとつひとつが課として構成された。
各課の構成と扱われている会話文の内容は表1の通りである。前半12課では,β常的 なあいさつや応答表現など,最低根の言語活動が充足できるような内容を取りあげ,対話 行動のための表現・表情や動作・イントネーションの定着を目標にしている。そして後半 董2課では,近所・学校・職場など,生活の行動範囲を広げていく中で,事実説明や描写表 現などを論理的に行うための能力を身につけることを目標にしている。
[褻1:『生活H本語毒の構成内容]
課 場面 会話文の内容
1 あいさつ 初対面のあいさつ,毎日のあいさつ,別れのあいさつ 2 家庭で 朝の食事,外出,帰宅,たばこを勧める,就寝 3 依頼と質問 助けを求める,質悶
4 市(区)役所 外国人登録
5 郵便局 切手とはがきを買う,航空便を中国へ出す,福岡に小包を出す,公
、料金の振り込み
6 買物(その1) スーパーマーケットで,八百屋で,肉屋で
7 買物(その2) テレビを買う,テレビの配達を頼む,テレビの据え付け,受領印を
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