物的環境
1. 1‑2cmほどの室肉段差 (敷居)
2 滑りやすい床
3履物(スリッパ、サンダル) 4.つまずきゃすい敷物
(カーペットの端、ほころび) 5 電気器具コード類
6.熊明不良 7 戸口の踏み段 8 不慣れな環境
9 不慣れな場所での障害物
図 2 転倒の主なリスクファクター(鈴木, 2003より転載)
52 レジャー・レクリエーション研究62,2009
近のシステマティック・レビュー(以下、 SR)凶
では、中枢神経系薬とくに抗精神疾患薬(ベンゾ ジアゼピン薬、抗不安薬、抗精神病薬)は、その 薬理作用のため、転倒の発生の重要な因子となっ ていることを示している。基礎疾患や薬などの重 大な因子をも把握した上で、レクリエーションに よる転倒予防効果を考える必要があるO 外的因子 については、レクリエーションとは直接関係がな いので本論では割愛する。
( 2
)予防効果のエピデンス1)ランダム化比較試験の SRの結果
疫学研究や臨床研究で、エピデンス・グレーデ イングが最も高いとされているのがランダム化比 較試験
( R C T )
のSR
であるoC h a n g
らのRCT
の SRI9)によると、転倒を予防するのに最も効果が 高いと判断できるのは、「転倒危険因子の包括的 評価・修正(RCT
数l O ) J
であり、次いで「運動 介入( R C T
数1 3 ) J
となっていた。「家屋修繕など の生活環境の修正のみ( R C T
数5 ) J
と「教育介入 のみ(RCT
数2 ) J
は、研究数が少ないことや効 果がなかったとする研究の影響が大きいため、効 果があるとは言えない。これらのエビデンスを現場に役立てるとする と、運動も含めて危険因子とされている基礎疾患 の治療や薬剤管理、視力の矯正、生活環境の安全 整備などの改善が挙げられるo
r
転倒予防には、包括的な対策が必要であるj ということを意味し ているO
2
)効果的な運動介入運動介入の中でも、その具体的な運動形態が何 であるかが重要である。 Provinceら却)は、メタ分 析の結果、有意に転倒発生率を低下させたのは、
バランス訓練を含む複合的な運動あるいはバラン ス訓練であったことを報告しているO 筋力トレー ニング、ストレッチング、持久的運動(ウォーキ ングなど)だけでは、有意な効果は得られなかっ た。したがって、バランス訓練を中心とした複合 的な運動が効果的であることが理解できるO
Whippleら21)は、様々な移動動作を伴うバラン ス訓練が効果的な運動であることを踏まえて、主 に
3
点にまとめている。①立位での実施(直立二 足支持をするから転倒するのであり、同じ状況下 でのバランス訓練が基本)、②水平方向へのできるだけ速い移動動作で眼球運動も伴うこと(安全 を確保しながら前・後・左・右に動く:ステッピ ング動作)、③垂直方向(上下)への振幅のある 動作(大腿と股関節の周辺筋群が働くこと)であ るO これらのイメージとして、挿絵にしたものが 図3である問。
レクリエーション指導時、あるいは日常生活に おいて推奨される運動として、これらの要素を含 んだ動作を個人の能力に合わせて行うことが重要 である。また、筋力トレーニングだけでは、転倒 予防の訓練として不十分であることも理解する必 要があるO
3
)自立生活の有無と予防効果の差異Robertsonら23)は、自宅での2年間の運動プロ グラムの効果を
RCT
から実証している。介入運 動プログラムは、筋力増強運動、バランス訓練、ウォーキングなどであり、対照群と比較してプロ グラム実施群の方が、転倒だけでなく、傷害の数
も有意に少なかったことを示している。
Suzukiら24)も、 2週間にl回の運動教室(レジ スタンストレーニング、バランス・歩行トレーニ ング、太極拳など)と家庭用の運動プログラムを
6
ヶ月間実施したRCT
で、転倒の発生率が対照 群よりも有意に低く、またバランス能力と下肢筋 力が有意に増加したことを報告しているO一方、 Mulrowらお)は、施設入所高齢者を対象
lNi:伎での童重量hや包転車こぎ、
だけでは十分とはいえません。
轍 水 平 臓 の で 料 問 削 ゃ い 機 動 作
l{
速くさEく ボ ーjレ慾動 リズム幾重h
重量獲ヌ苦肉への緩騒の大著書弘、議総号室
時書段昇総 イ ス や 床 か ら の しゃがみこみ ぢよがり
図3 バランス訓練の3つのポイン卜と 典型的な動作(引用文献22より転載)
jノ
主主魁望襲
上岡ほか:高齢者の転倒予防プログラムとしてのレクリエーションの位置づけ 53
として、理学療法士による週3回、 4ヶ月間の訓 練(関節可動域の拡大訓練、筋力増強運動、バラ ンス訓練、移動訓練など)を実施させたRCTで、 移動能力の向上はあったものの、転倒発生件数は 対照群と差がなかったことを報告しているo
3
つ のRCTの介入内容は同一ではないものの、これ らを解釈すると、施設入所高齢者においては、も ともと移動能力や認知機能の低下が基盤にある場 合がほとんどであり、地域在住高齢者と比較する と、1
日あたりの絶対的な直立二足支持での時聞 が短いため、訓練したことが実際の予防効果に至 るには、より多くの時間と介入の質が要求され、虚弱高齢者こそ、包括的な介入が必要であると考 えられる。転倒予防には、早期(比較的元気なと き)からの啓発が有用だと解釈できる。
転倒予防の対策の指針を表
1
に示した。訓練や 指導内容を理解できる者とそうでない者、虚弱で 立位の安定性に著しい問題があるような者など、様々な状況が考えられるが、この表に当てはめる と対策の道筋が立てられるO
4
)活動性のパラドックス転倒は、直立二足支持をした瞬間から転倒する 危険性が高まる。転倒後症候群の症状に代表され るように、立位姿勢をとらないことや這うように 移動して生活すれば転倒することはない。しかし、
転倒を防ぐという理由から、活動制限をしたり、
身体拘束を行うことは、人権や尊厳という倫理的 側面から回避されなければならない。立位による 曝露と転倒との関連を示した興味深い研究があ
るO
Rubensteinら却)は、高齢者に対する介入(グル ープ運動指導)を 12週間行い、対照群との比較 をした結果、転倒の発生率は、介入群が
3 8 . 7
%、 対照群が32.1%と差はなかった。しかし、活動 レベル(運動やレクリエーション)で調整すると、転倒発生数は介入群が
6 . 0
件1 1
,0 0 0
時間、対照群 が1 6 . 2
件/ 1
,0 0 0
時間と有意な差が認められたこと を報告しているO このように、転倒予防では、単 に転倒を防ぐだけでなく、活動レベルをも考慮す ることが今後の研究では重要になるだろうO4 .
レクリ工ーション指導への応用 (1)転倒方向と傷害の特徴これまでの研究27)28)によって、転倒する方向 の頻度(パターン)と骨折する部位に特徴がある ことがわかっている(図 4)。転倒方向として、
最も多いのが「前方(約6割)
J
であり、「側方 (右・左)Jと「後方」が約2割ずっとなっている。前方に転倒した場合には、手首(コーレス)と膝 蓋骨の骨折が多い。側方に転倒した場合には、大 腿骨と上腕骨、手首の骨折が多い。そして後方へ 転倒した場合には、脊椎の骨折が多く、また頭部 傷害によって死亡する危険性があることが分かつ ている。
つまり、死亡や重篤な傷害に繋がるのは、とく に横方向と後方向への転倒であり、こうした転倒 は最も防がなければならない。レクリエーション の指導中、あるいは介護場面や日常生活の中で、
このような転倒をさせない、しないようにするこ とは極めて重要であるO 一方で、予防のための訓 表1 対象者を考慮した転倒予防の具体的な指針
A.転倒予防に科学的根拠のある直接的な方法
→ 個人特性を鑑みた包括的な指導
(基礎疾患・視力・薬・履き物・家屋など、危険因子の除去すべて)
→ 運動
(立位、水平方向、垂直方向への移動動作を伴うバランス訓練など) B.転倒予防がどうしても困難な場合*の対策
→ ヒップ・プロテクター(大腿骨頚部の保護)、帽子(衝撃緩和)など
→ 看護・介護スタッフの増員による注視・配意したケアなど
キ認知症などが原因で、指導・訓練内容や注意すべきことを理解できない場合。
移動能力(麻療も含む)が著しく低下し、直立支持が困難な場合。
54 レジャー‑レクリエーション石f究62,2009 練として、成人ひいては高齢者においては、生活
の中でこうした側方(左右)や後方への移動動作 は行わないため、あえて実施する必要があると考 えられるO 日常的に行っていない動作であるがゆ えに、つまずいたり、滑ったときに、適切なステ ップ動作(俗称:とっさの一歩)ができない可能 性があり、その訓練が必要であるoRogersらお)は、
側方転倒の実験を行い、適切なステップの重要性 を指摘している(図 5)0 具体的には、股関節の 内転・外転の速い収縮に重点をおいた動作や、反 応が速く、加重できるステップ動作が重要である
ことが述べられているO
( 2
)個人に適したレクリエーション前述の効果が期待できる方法は、個人差ととも に、参加者能力に依存するところが大きい。転倒
予防の訓練は、あえてバランスを崩させるような 動作をさせるからトレーニングの効果があるが、
反対に実施中に転倒する危険性も高まるO転倒予 防のレクリエ一シヨン指導は、いわゆる「諸刃の剣」
でで、あることを理解しつつ、安全を最優先として個 人により適した訓練となることが求められる 22幻))
具体的には、立位での運動時間、垂直方向への振 幅(上下動)の大きさ、水平方向への移動の速さ についての調節が必要である。
( 3 )エビデンスの過大解釈を避ける
レクリエーション指導では、よりエピデンス要 素を含んだ手法を用いることが重要であるO しか し、対象となる集団や個人にとってエピデンスは 万能薬ではない。まず治療や指導する場合におい て、「その介入(指導)による利益が害より多い
横(左右)へのとっさの一歩 後へのとっさの一歩
図4 転倒する方向と傷害、必要なステップ(引用文献27、28より上岡が要約して作図)
鱗 体 @ 勤 電 聖 制 御 股 関 節 の 外 内 磁
織
図5 側方転倒のメカニズム(引用文献29より上岡が一部改変作図)
上岡ほか:高齢者の転倒予防プログラムとしてのレクリエーションの位置づけ 55
か (Dosethe intervention do more good than harm?)
J
の見極めが大切である。ここでの利益は、転倒の 予防効果や移動能力やバランス能力の維持・向上 といったリスクの軽減である。害は、主に転倒な どの危険性であり、例えば「ある訓練中に転倒 骨折させてしまうこと」が挙げられるO さらに、
「あるレクリエーシヨンを
1
1'ったことにより、も う2度と運動したくない」、と思わせるようなモ ラールの低下も含まれるだろう。表2は治療や指導をする際の「お勧め度」のグ レードの理論叩)31)である。例えば、移動能力の 訓練(歩行)は、転倒予防にとって重要である。
そこで「自立歩行ができる地域在住高齢者につい ては、日常生活の中で、できるだけ歩いてくださ い」という指導は、表
2
からするとI A J
と判断 できるだろうO一方、「自立歩行がままならず、認知症もあり、
頻繁に転倒しているデイサービス利用の高齢者に 対して、日常生活の中で、できるだけ歩いてくだ さい」という指導は、[歩行を推奨することによ る移動能力の維持以上に、転倒・骨折などの事故 のリスクの方が高いj と考えられ、少なくとも A にはならず、詳細な情報が必要だが、
I B
またはc J
というお勧め度になると考えられるOつまり、エピデンスに基づく介入であっても、
対象者によって「お勧め度」は異なってくるわけ であり、さらに転倒のメカニズムの複雑さを考慮 すれば、「これさえ行えばよいj という画一的な 指導内容は存在しないことが理解できるO
( 4
)エピデンス要素とそれ以外の要素とのパランス(さじ加減)
参加者の特性から「エピデンスを活用した転倒 予防プログラムの概念モデル」却を図6に示した。
この考え方は、健康・体力水準が高く、理解力や 実践力のある者は、エピデンス要素をより多くす るが、それ以外の部分である継続性に繋がる楽し さや面白さの要素や、運動器疾患による痔痛の軽 減や関節可動域の確保などのためのストレッチン グも盛り込むようにすることも不可欠であるO 一 方、虚弱だったり、認知症を有するような高齢者 には、エピデンス要素以外の部分を大事にしつつ、
移動能力やバランス能力が向上するにしたがっ て、段階的にエピデンス要素を多く取り入れよう とするモデルである。
人に関わる学問領域では、エピデンスを構築し て統合すること、臨床医学、教育・福祉・保健の 第一線においては、それを活用することが求めら れている。転倒予防のためのレクリエーションあ るいは運動処方でも、集団・個人指導を間わず、
個人により適したエピデンス要素とそれ以外の要 素の質と量の定め方が鍵になるだろうO
( 5 )レクリエーシヨン指導の役割 1 )動機づけとコンブライアンス
転倒予防に関して、エピデンスとなる狭義のレ クリエーションだけの介入効果を報告した研究は ないお)。確かに、数回程度の教室のレクリエーシ ヨンプログラムだけで、転倒の予防効果があると するのは科学的常識に反する(エピデンス要素の 含有、頻度と期間が重要)。しかし、エピデンス がないから転倒予防のプログラムには、レクリエ 表2
r
お勧め度」のグレード(引用文献30,
31より一部改変*作表)A しなさい 相応の知識のある人々であれば、ほぼ全員が「実施する j と判断 (Doit) する方法。
B した方がよい 相応の知識のある人々の大半が「実施するjと判断するが、
(Probably do it) その一方で「実施しないjの判断を下す人々が一部存在する方法。
C しない方がよい 相応の知識のある人々の大半が「実施しない」と判断するが (Probably don't do it) その一方で「実施する
J
の判断を下す人々が一部存在する方法。D するな 相応の知識のある人々のほぼ全員が「実施しない」と判断する方法。
(Don't do it)
*