4.1 植物からのナノファイバー製造と物性比較
1. はじめにはじめに はじめにはじめに
植物細胞壁の基本骨格であるセルロースミクロフィブ リルは、その優れた物理的性質とナノファイバー形状によ り、複合材料の補強材やフィルター等、幅広い分野での利 用が期待されている。また、セルロースナノファイバーの 利用は、植物系バイオマス(未利用木材や農業廃棄物等)
の資源化促進の一助となると考える。
植物原料からミクロフィブリルを単離する際、高圧ホモ ジナイザーやグラインダー等を用いた機械的解繊がしば しば行われる。しかしながら、ミクロフィブリルが織り成 す複雑な多層構造(図1)や乾燥パルプ中に生じるフィブ リル同士の凝集は、均一な解繊を行う際に大きな障壁とな る。
本稿では、木材をはじめとする種々の植物原料からセル ロースナノファイバーを単離する手法を検討し、得られた ナノファイバーの形状や物理的性質について報告する。
2. 方法方法 方法方法
はじめに、木粉(ラジアータマツ、粒径250μm)を用いてナノファイバーの単離を試み た。脱脂した木粉に亜塩素酸塩法およびアルカリ処理を行うことによってマトリックス成 分(リグニンおよびヘミセルロース)を除去した後、グラインダーによる解繊処理を行っ た。得られた繊維についてSEM観察を行うとともに、濾過製膜により得られた繊維シート の引張試験を行った。その他の原料として、稲わらおよびポテトパルプ(じゃがいもデン プンの搾りかす)にも同様の単離処理および分析を行い、得られた結果の比較および考察 を行った。
3. 結果結果および結果結果およびおよびおよび考察考察考察 考察
乾燥溶解パルプをグラインダーにより一回解繊した場合、単離される繊維の径は
15-100nmと不均一である(図2左)。これは、パルプ中のミクロフィブリルが水素結合によ
り強固に凝集しているため、一度のグラインダー処理では十分に解繊出来ないことを意味 する。それに対して木粉の場合、マトリックス除去処理から解繊処理までの工程において、
試料を未乾燥状態に保つことによってフィブリル間の水素結合を防ぎ、グラインダーによ る解繊を容易にした1)。結果、一度のグラインダー処理により約15nmの均一な繊維径をも つナノファイバーが得られることが確認された(図2右)。図2を比較すれば、乾燥パルプ および木粉から得られるナノファイバーの均一性においてその差は歴然である。
図2 グラインダー処理により得られるセルロースナノファイバー
(左: 乾燥溶解パルプ、右:木粉)
このように木粉から得られたナノファイバーの繊 維径は可視光波長(400-800nm)に対して十分に小 さく光の散乱を生じないため、透明樹脂と複合化し ても高い透明性は保持される2)(図3)。さらに、高 い物性を有するセルロースにより補強されている ため、得られる複合体は高強度かつ低熱膨張性を示 す。
試料を未乾燥状態に保ちながら解繊処理を行う この手法を、木材以外の植物原料に用いてナノファ イバーの単離を行った。得られた繊維の観察結果を
図4に示す。稲わらおよびポテトパルプともに、一度のグラインダー処理により木粉同様 に均質なナノファイバーが観察される。しかし詳細に観察すると、各原料から単離される ナノファイバーの繊維径には多少の違いが見られる。原料間における繊維径の違いは、解 繊前の細胞壁にも同様に観察されるため、この違いはミクロフィブリルの凝集様式に
図4 グラインダー処理により得られるセルロースナノファイバー
(左: 稲わら、右:ポテトパルプ)
起因しているのかも知れない。
各原料から単離されたナノファイバーから、濾過製膜によってシートを作製し、引張試 験を行った。原料間に生じるシート密度の違いを考慮し、全ての密度を 1.55(セルロース の密度(g/cm3)に相当)としてヤング率および強度を算出し比較した(図5)。
図5 各原料から単離したナノファイバーシートのヤング率(左)および引張強度(右)
(密度1.55に換算)
ヤング率および引張強度ともに、原料間での違いは見られず、単離されたナノファイバ ーの物理的性質はいずれの原料に関しても同等であると示唆される。また、得られたナノ ファイバーにおけるセルロースの結晶性も原料間の差は確認されなかった。樹体を支持す る仮道管を主とする針葉樹由来のミクロフィブリルと、養分を貯蔵する柔細胞を主とする ポテトパルプ由来のミクロフィブリルにおいて、その物理的性質に差が見られないことは 興味深い。
4. おわりにおわりに おわりにおわりに
比較的簡便な手法により、様々な植物原料からナノファイバーを単離可能であることが 分かった。また、その物理的性質にも大きな差はないため、出発原料によってナノファイ バーの用途が制限されることがないと考えられる。
セルロースの分子もしくは結晶レベルでの性質については数多くの研究がなされている が、今後はミクロフィブリルレベルでのセルロースの性質を明らかにすることを課題とし たい。
参考文献
1) K. Abe et al, Biomacromolecules, 8, 3276 (2007) 2) H. Yano et al, Adv. Mater., 17(2), 153 (2005)
4 4 4
4.2 2 2 2 キャッサバパルプ キャッサバパルプ キャッサバパルプ、 キャッサバパルプ 、 、 、馬鈴薯 馬鈴薯 馬鈴薯パルプ 馬鈴薯 パルプ パルプ、 パルプ 、 、 、砂糖大根 砂糖大根 砂糖大根 砂糖大根パルプ パルプ パルプ パルプからの からの からの からの バイオナノファイバー
バイオナノファイバー バイオナノファイバー
バイオナノファイバーの の の製造 の 製造 製造 製造
キャッサバ、馬鈴薯、砂糖大根(シュガービート)から澱粉やショ糖を取った後の絞り かす(パルプ)について、成分分析、植物繊維以外の成分除去手法の検討を行うとともに、
得られた植物繊維をグラインダーにより解繊処理し、FE-SEM による観察を行った。財団 法人 食品分析センターに依頼して行った成分分析の結果についても併せて示す。
11
11)))キャッサバパルプ)キャッサバパルプキャッサバパルプ キャッサバパルプ
インドネシア、ジャワ島のキャッサバ澱粉工場で採取。濾過スクリーン上に残った澱粉 抽出残渣で、未乾燥品。
<パルプ精製処理とセルロース収率>
以下の処理により、澱粉、ヘミセルロース、リグニンを除去した。
Cassava(Wet)100g →(Dry)22.2g ↓
80% EtOH 100℃ 15min×3回
・ 16.2g(0.33g) ↓
2% KOH 90℃ 2h×2回 1. 3.2g(0.03g)
2. 2.4g(0.02g) ↓
Wise 80℃ 1h×3回
(Sodium chlorite 1g)
(Acetic acid 0.2mL)
・ 1.8g(0.04g)
<結果>
収率
(Wetベース)100g → 1.8g(0.42g) 1.8%
(Dryベース)22.2g → 1.8g(0.42g) 8.3%
最終精製物については、ヨウ素澱粉反応はほとんどみられなかった。EtOH処理により白 色沈澱が生じた。ヨウ素デンプン反応が見られたことから、この沈殿物はデンプンである と考えられる。上述のパルプ精製処理ではデンプンを完全に取り除くことは出来なかった。
なお、原材料が少なくグラインダー処理に供することが出来なかったため、パルプの構造 のみを観察した。ナノファイバー径は15-20nmで、ほぼ均一であった。
<SEM>
Fig 1. 未処理(×1,000)
Fig 2. 未処理(×2,000)
Fig 3. 処理後(×30,000)
22
22)))キャッサバパルプ)キャッサバパルプキャッサバパルプ(キャッサバパルプ(((現地天日乾燥品現地天日乾燥品現地天日乾燥品)現地天日乾燥品)))
インドネシア、ジャワ島のキャッサバ澱粉工場で、こぶし大の球状に固めた後、天日乾 燥を行ったデンプン含有パルプ。
<パルプ精製処理とセルロース収率>
Cassava(Dry)400g ↓
80% EtOH 100℃ 15min×3回
・ 258.8g(2.59g)
↓
2% KOH 90℃ 2h
・ 44.9g(0.90g)
↓
4% KOH 90℃ 2h
・ 16.8g(0.34g)
↓
Wise 80℃ 1h×3回
(Sodium chlorite 7g)
(Acetic acid 1.4mL)
・ 14.6g(0.15g) ↓
4% KOH 90℃ 2h
・ 13.0g(0.13g)
<粗繊維成分分析>
Sohxlet(Benzene:EtOH=2:1)6h
・ 5g → 5g(A)
Holocellulose(Wise)
・ 2.5g(A) → 2.4g(B)(96%)
α-Cellulose
(17.5% NaOH → 10% Acetic acid)
・ 1g(B) → 0.80g(80%)
Lignin(Klason)
・ 1g(A) → 0.04g(4%)
<結果>
収率
(Dry)400g → 13.0g(4.11g) 4.1%
Table 1. 成分分析結果(%)
Hemicellulose α-Cellulose Lignin Others
19.2 76.8 4.0 0.0
Table 2. 食品成分分析結果(%)
水分 粗蛋白脂肪等 粗繊維 可溶無窒素物
9.9 1.5 4.4 84.2
Dryのサンプルは、水を加えることでWetと同様の外観になった。また、ヨウ素澱粉反 応がわずかにみられた。EtOH処理では、澱粉と考えられる白色沈澱が生じた。解繊処理後 のナノファイバーは、15-20nmの幅で、均一であった。解繊残りも認められなかった。
<SEM>
Fig 4. 未処理(×1,000)
Fig 5. 処理後(×30,000)
Fig 6. グラインダー処理後(×30,000)
33
33)))シュガービ)シュガービシュガービートパルプシュガービートパルプートパルプ ートパルプ
北海道、シュガービート工場より入手したショ糖抽出パルプを試料とした。
<パルプ精製処理とセルロース収率>
Sugar beet(Wet)600g →(Dry)42.6g ↓
Water 60℃ 7Days
・ 17.3g(0.17g)
↓
2% KOH 80℃ 2h×2回 1. 8.4g(0.08g)
2. 8.0g(0.08g)
↓
Wise 80℃ 1h×3回
(Sodium chlorite 3g)
(Acetic acid 0.6mL)
・ 7.7g(0.15g)
<粗繊維成分分析>
Sohxlet(Benzene:EtOH=2:1)6h
・ 5g → 5g(A)
Holocellulose(Wise)
・ 2.5g(A) → 2.4g(B)(96%)
α-Cellulose
(17.5% NaOH → 10% Acetic acid)
・ 1g(B) → 0.93g(93%)
Lignin(Klason)
・ 1g(A) → 0.01g(1%)
<結果>
収率
(Wetベース)600g → 7.7g(0.48g) 1.3%
(Dryベース)42.6g → 7.7g(0.48g) 18.1%
Table 3. 成分分析結果(%)
Hemicellulose α-Cellulose Lignin Others
6.7 89.3 1.0 3.0
Table 4. 食品成分分析結果(%)
水分 粗蛋白脂肪等 粗繊維 可溶無窒素物
94.1 0.9 1.4 3.6
温度によるサンプルの変質(85℃以上)を防ぐため、KOH 処理時の温度を 80℃に設定 した。60℃の温水で処理することで、大まかな糖の除去が可能であるが、あらかじめミキ サーなどの処理をすることで、より効率よく抽出できた。ヨウ素澱粉反応がごくわずかに みられた。バイオナノファイバーはキャッサバと同様に、幅15-20nmで解繊残りも見られ ず、均一であった。