第3章では銅の平板上にマルチレベルの反射型 CGH を製作し,高出力レーザ加工機の 強度分布整形を行った.本章では,第2章で述べた曲面上へのレーザ描画技術と前章で述 べたマスクめっき法によるマルチレベル形状を製作する技術を組み合わせて,放物面鏡上 に 8 レベルの CGH を製作した結果について述べる.製作時にめっき条件の最適化を行っ た結果についても述べる.また,高出力炭酸ガスレーザ加工機に CGH を搭載し,整形し たレーザ光を鉄鋼材料に照射して,溶融特性について調べ,強度分布整形の効果について 検討した結果についても述べる.
4.1 反射型曲面マルチレベル CGH の設計
曲 面マ ル チレ ベ ル CGH を 利用 した レー ザ 加工 の模 式 図を 図 4.1 に示 す. 光 源は 波 長 10.6μm の炭酸ガスレーザで,出力されるレーザ光の強度分布を直径(ピーク強度の 1/e2 の径)14mm のガウス分布とする.CGH の基板は焦点距離 127mm の銅の放物面鏡とし,
放物面鏡の焦点位置で,目標とするレーザ光強度分布に整形される.
目標とするレーザ光強度分布は,レーザ表面処理に適用することを想定して,(2.43)式に 示した x2軸方向に幅4mmで一様な分布,y2軸方向にはピーク強度の1/e2の幅が1mmのガ ウス分布とした.
被加工物 曲面マルチ レベルCGH
炭酸ガスレーザ発振器
整形されたビーム
(回折光) 被加工物
曲面マルチ レベルCGH
炭酸ガスレーザ発振器
整形されたビーム
(回折光)
図4.1 曲面マルチレベル CGHを利用したレーザ加工の模式図
曲面マルチレベル CGH の模式図を図 4.2 に示す.CGHは放物面鏡表面に微細な凹凸形 状を有しており,図 4.2 では,放物面からの凹凸形状の高さを白黒の濃淡で表している.
凹凸形状は,一辺が 80μmの正方形のピクセルを最小単位として,256×256個のピクセル で構成されており,全体では一辺が 20.48mm (=256×80μm)の正方形である.凹凸形状は 8 レベルであり,最小段差は 0.94μm,基板表面からの最大高さは 6.56μmである.
CGH の凹凸形状の設計には,GS法[48]を用いた.GS法で得られた 0から2πの間の連続 した位相分布を 8段階に量子化して,CGHパターンを設計した.
256×256ピクセル 8レベル
20.48mm 6.56μm
ピクセル 80μm×80μm
20.48mm
放物面鏡 6.56μm
0μm
256×256ピクセル 8レベル
20.48mm 6.56μm
ピクセル 80μm×80μm
20.48mm
放物面鏡 6.56μm
0μm
図4.2 曲面マルチレベルCGHの模式図 4.2 めっき条件の最適化
3.3節でCGH パターン周辺部のめっき厚さにばらつきが生じていたため,CGH 製作の前 に,めっき条件について再検討を行った.再検討に用いたテストめっきパターンの模式図 を図 4.3に示す.図は CGHの基板と,テストめっきを行う形状を表しており,図の青色の 領域がレジストでマスクされる領域で,茶色の領域が,めっきが施される領域である.青 色で示すマスク内に均等に配置した 4×4個のめっき領域があり,この領域のめっき形状か らめっきの状態を評価する.青色のマスク領域は CGH パターンと同じ大きさで 20.48mm
×20.48mmである.マスク内のめっき領域は 3mm×3mmの大きさである.
めっき浴の攪拌の必要性と電流密度について再検討を行った.めっき浴とめっき治具は 3.3 節の平面マルチレベル CGH の製作に用いたものを利用した.なお,検討では,厚さ 3.75μmを目標としてめっきを行い,その結果を用いて評価した.この厚さは,マルチレベ ル CGH製作時の1回目の工程でめっきする厚さである.
20.48mm
35mm
30mm 20.48mm
3mm 3mm 20.48mm
35mm
30mm 20.48mm
3mm 3mm
図4.3 テストめっきパターン
まず,めっき浴攪拌の必要性について検討した.めっき浴の攪拌は,図 4.4 に模式的に 示すように,陰極(治具+基板)側のめっき浴内の銅イオンの均一化にあり,エアを陰極 側のめっき浴内に供給する方法で行った.なお,めっき時の電流値は 0.5Aとした.
イオン交換膜
硫酸 硫酸銅
陽極 陰極
(基板+治具)
エアポンプ
エア イオン交換膜
硫酸 硫酸銅
陽極 陰極
(基板+治具)
エアポンプ
エア
図4.4 エアによるめっき浴の攪拌
めっき後,めっきを施した16箇所について各領域ごとにめっきの高さを8点ずつ計測し,
それぞれの平均高さを求めた.測定には 3次元構造解析顕微鏡(Zygo社 New View 5020)
を用いた.16点の平均高さの最大値と最小値の差(高さの最大差)およびばらつきの標準 偏差を図 4.5 に示す.攪拌を行わない方が,高さの最大差とばらつきは小さいことがわか る.
次に,めっき時の電流密度について検討した.電流値を 0.125,0.25,0.50Aとし,攪拌 を行わない条件でめっき行い,攪拌の影響の場合と同様に凹凸高さを測定した.高さの最 大差とばらつきの標準偏差を図 4.6 に示す.電流値が小さくなるにつれて高さの最大差と ばらつきは小さくなっていくことがわかる.しかし,電流値を 0.125Aとした場合,図4.7 に示すようにめっき端部のエッジが滑らかになる現象が際だって見られた.従って,電流
値 0.25Aの条件が最適と判断した.
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
攪拌有り 攪拌無し
高さの最大差 標準偏差
[μm]
図4.5 凹凸高さに及ぼす攪拌の影響
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
0.13 0.25 0.50
高さの最大差 標準偏差
[μm]
電流値 [A ] 0.125
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
0.13 0.25 0.50
高さの最大差 標準偏差
[μm]
電流値 [A ] 0.125
図4.6 凹凸高さに及ぼす電流値の影響
0 0.5 1.0
位置 [mm]
高さ[μm]
0 2.5 5.0 (a) 0.50A
めっき断面形状
0 0.5 1.0
位置 [mm]
0 0.5 1.0
位置 [mm]
高さ[μm]
0 2.5 5.0
高さ[μm]
0 2.5 5.0 (a) 0.50A
めっき断面形状
めっき断面形状
高さ[μm]
0 2.5 5.0
高さ[μm]
0 2.5 5.0
0 0.5 1.0
位置 [mm]
0 0.5 1.0
位置 [mm]
(b) 0.25A
高さ[μm]
0 2.5 5.0 (c) 0.125A
めっき断面形状
0 0.5 1.0
位置 [mm]
高さ[μm]
0 2.5 5.0
高さ[μm]
0 2.5 5.0
高さ[μm]
0 2.5 5.0 (c) 0.125A
めっき断面形状 めっき断面形状
0 0.5 1.0
位置 [mm]
0 0.5 1.0
位置 [mm]
図4.7 めっき端部の形状に及ぼす電流値の影響
表4.1 CGH表面形状測定結果[μm]
めっき工程 1回目 2回目 3回目 高さの設計値 [μm] 3.75 1.88 0.94 測定高さの平均値 [μm] 3.81 1.80 0.91 測定高さの最大値 [μm] 3.88 1.90 0.99 測定高さの最小値 [μm] 3.71 1.70 0.88
標準偏差 [μm] 0.05 0.06 0.03 標準偏差[μm]
(表3.2)
0.17 0.17 0.06 4.3 曲面マルチレベル CGH の製作
マスクめっき法の手法により,曲面マルチレベル CGHを製作した.製作したCGHを図 4.8に示す.ここでは,CGH製作時の3回のめっき工程ごとに3次元構造解析顕微鏡(Zygo 社 New View 5020)を用いて,めっき厚さを測定した.測定点は,CGH パターン全体から 均等に 4×4点選んだ.めっき厚さの測定結果を表4.1に示す.測定結果から,めっき厚さ のばらつきの標準偏差は 0.03~0.06μm であった.表には,比較のために表 3.2 の平面マル チレベル CGHの標準偏差も示している.3回行ったいずれのめっきでもばらつきが改善さ れており,良好な結果が得られた.
3.1 節のシミュレーションから,めっき厚さのずれは 0 次光強度に,めっき厚さのばら つきは回折効率に影響することがわかっているが,めっき厚さのずれが 0.1μm の場合,0 次光強度は設計値の約 1.5 倍であり,めっき厚さのばらつきが 0.1μm の場合,効率の低下
は 1%以下にしかならず,強度分布整形の結果にはほとんど影響しない.
20.48mm 20.48mm
図4.8 製作した曲面マルチレベルCGH
CGH の各段での表面粗さも測定した.CGH の中央付近において,評価長さを 0.5~1mm 程度確保できる箇所を選択し,各高さレベルごとに 4カ所ずつ測定した.測定結果の平均 値を表 4.2に示す.めっきを行っていない元の基板面は0.038μmRaであるが,めっきを行 った面は 0.09~0.15μmRa程度であった.表 4.2には表3.1に示す平面マルチレベルCGH の 結果も示しているが,比較すると,1回目のめっき後の表面粗さは低下しているが,2回目,
3 回目のめっき時の表面粗さは改善している.また,従来は,めっきを繰り返すにつれて 表面粗さが大きくなっていたが,ここではその傾向は見られない.これらは治具の改良や めっき条件の最適化を含めためっき手法の改善の効果だと考えられるが,詳細なメカニズ ムの理解については,今後の検討課題である.
表4.2 各レベルにおける表面粗さ レベル
(めっき回数)
表面粗さ Ra [μm]
表面粗さ (表 3.1)
Ra [μm]
0 (0) 1 (1) 2 (1) 3 (2) 4 (1) 5 (2) 6 (2) 7 (3)
0.038 0.151 0.124 0.146 0.091 0.148 0.149 0.157
0.037 0.036 0.042 0.172 0.053 0.225 0.173 0.391
4.4 低出力炭酸ガスレーザを用いた強度分布整形実験
最大出力 10Wの炭酸ガスレーザ(SYNRAD社 48-1W)を用いて,製作した曲面マルチ レベル CGHによるレーザ光強度分布整形実験を行った.実験方法は 2.6節で述べた方法と 同じである.整形されたレーザ光の観察画像を図 4.9 に示す.目標とする強度分布とほぼ 同じ大きさの 1mm×4mmの矩形状の強度分布に整形することができた.しかし,図3.9の 平面マルチレベルの場合と同様に強度むらが見られる.この原因については,今後,さら に検討する必要がある.
回折効率を 3.1節と同様に定義して,その値を調べたところ67.8%であった.3.1節の平 面マルチレベル CGHの場合は69.2%であり,同程度の回折効率が得られている.
4mm 4mm
図4.9 曲面マルチレベル CGHを用いたレーザ光強度分布整形結果
4.5 鉄鋼材料の溶融に及ぼす強度分布整形の効果
製作した曲面マルチレベル CGHを高出力炭酸ガスレーザ加工機(川崎重工業社,AF-5L)
に搭載し,鉄鋼材料の溶融実験を行った.用いたレーザ加工機の最大出力は 5kWで,CGH に入射するレーザ光の径はφ14mm である.また,入射するレーザ光の強度分布は図 3.17 に示したようにガウス分布が乱れたものになっている.整形したレーザ光を鉄鋼材料に照 射しながら,試料を移動させ,溶融特性を調べた.