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単一因子のデータ解析

3. 安定性データの評価

4.3. 単一因子のデータ解析

単一含量及び単一包装で供される原薬又は製剤の長期保存試験結果の解析について解説す る。データ例を表 4.2に、解析手順のアウトラインをフローチャート 1に示す。以下、フロー チャート 1の手順に従って解説する。なお、最初から 4.3.4に進み、共分散分析を開始しても 構わない。回帰分析やリテスト期間又は有効期間の推定での具体的な計算例については「5.3.

複数ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定」を参照されたい。

表 4.2 単一因子の安定性試験のデータ例

ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

1 99.76 100.28 99.86 98.56 99.37 2 101.54 100.00 100.39 100.49 98.35 3 101.89 101.61 100.39 100.75 101.25

4.3.1. 回帰分析

以下の手順1~3に従って、個々のロットのリテスト期間又は有効期間を算出する。

手順1 個々のロットについて回帰式を得る。個々の傾き、個々の切片、共通の誤

差分散を用いる。

手順2 個々のロットについて、母平均の95%信頼限界が判定基準の上限又は下限

と交差する期間を算出する。

測定値が減少傾向を示すことが分かっている場合(例えば一般的な原薬や製 剤の含量値)には、判定基準の下限値が、母平均の下方の片側 95%信頼限 界と交差する期間を算出する。

測定値が増加傾向を示すことが分かっている場合(例えば原薬や製剤の 分解物)には、判定基準の上限値が、母平均の上方の片側 95%信頼限界と 交差する期間を算出する。

測定値が増加傾向を示すか、減少傾向を示すか分からない場合(例えば、

半透過性容器に包装された水性基材の製剤の場合)には、母平均の両側 95%信頼限界が判定基準の上限及び下限と交差する期間を算出する。

手順3 手順2での個々のロットのリテスト期間又は有効期間の推定値のうち、最 も短いものを選ぶ。

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4.3.2. リテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期間又は有効期間を支持す るか否かの判断

リテスト期間又は有効期間の最短の推定値(4.3.1 参照)が、提示するリテスト期間又は有 効期間を支持する場合、提示する有効期間は妥当であり、ここで解析を終わらせることがで きる。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存 在する場合、最大 12 箇月間の外挿が可能となり、提示するリテスト期間として最大 24 箇月 を設定できる。リテスト期間の最短の推定値が 24 箇月を超えている場合には、提示するリテ スト期間として24箇月を設定することができる。

一方、リテスト期間又は有効期間の最短の推定値が、提示するリテスト期間又は有効期間 を支持しない場合には、次の4.3.3に示す2つのオプションから選択する。

4.3.3. いずれかのロットのリテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期間又 は有効期間を支持しない場合

以下の2つのオプションから選択する。

オプション 1: リテスト期間又は有効期間の最短の推定値に基づいて提示するリテスト期間 又は有効期間を設定

4.3.1 の手順 3 で得られたリテスト期間又は有効期間の最短の推定値が満足できるものであ

れば、それを提示するリテスト期間又は有効期間として設定する。例えば、冷蔵保存でない 単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存在し、リテスト期間の最短の推 定値が 20 箇月であれば、提示するリテスト期間として最大 20 箇月を設定できる。但し、実 際的には 18 箇月を設定することになる。通常、長期保存試験の測定時点として 20 箇月目は 設定しないため、24 箇月目に不適であった場合には、20 箇月目まで安定性が保証できていた ことを確認できないためである。

オプション2: 共分散分析の実施

共分散分析を実施し、複数ロットの安定性試験データを一括評価することにより、オプシ ョン 1 で得られた推定値よりも長い期間を提示するリテスト期間又は有効期間として設定で きる場合がある。4.3.4 に手順を示す。

4.3.4. 共分散分析の実施 共分散分析の手順

単一因子のロットのデータを解析する際の共分散分析モデルを式(4.1)に示す。

Yi(t) = α0 + αi + (β0 + βi)t + εit (4.1)

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ここで、Yi(t)は測定時点 tにおける i番目のロットの観測値2、α0及び β0は各々共通の切片 及び共通の傾き、αi及び βiは i番目のロットの α0及び β0からの個々の偏差、εitは誤差項3であ る。

最減数モデルの構築

要因「傾き:ロット」はロット毎の傾きの違いを示す。要因「傾き:ロット」が等しいと する仮説が Q1Eガイドラインに示されている有意水準(ここでは、α=0.25、この値に関して

は 7.1.2 を参照されたい)で棄却された場合(すなわち、ロット間で傾きに有意差がある場

合)は、式(4.1)が最減数モデルとなる。棄却されなかった場合は、式(4.1)より βiの項を 消去することができる[式(4.2)]。傾きを示す項は全ロットで共通の β0のみとなり、傾き について一括評価できる。

Yi(t) = α0 + αi + β0t + εit (4.2) 式(4.2)において、切片の違いを示す要因「ロット」が等しいとする仮説が有意水準 0.25 で 棄却された場合(すなわち、ロット間で切片に有意差がある場合)は、式(4.2)が最減数モ デルとなる。棄却されなかった場合は、式(4.2)より αiの項を消去することができる[式

(4.3)]。切片を示す項は全ロットで共通の α0のみとなり、切片についても一括評価できる。

Yi(t) = α0 + β0t + εit (4.3)

4.3.5. 最減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出 単一因子のロットデータを共分散分析した結果から得られる最減数モデルには、次に示す 3つのパターンが想定される。

一括評価すると、母平均の信頼限界の幅が狭くなると共に、回帰直線の傾きが平均化され るので、通常、一括したデータから推定したリテスト期間又は有効期間は個々のロットから 求めた最短のリテスト期間又は有効期間の推定値よりも長くなる。

モデル 2 の最減数モデルが得られた場合、全データを一括して使用できるため、一般に最 も長い期間を設定できる。共通の傾き、共通の切片、共通の誤差分散を用い、全ロットから 共通のリテスト期間又は有効期間の推定値を算出する。

モデル 1 の最減数モデルが得られた場合、傾きについては一括評価が可能になる。共通の 傾き、個々の切片、共通の誤差分散を用い、個々のロットについてリテスト期間又は有効期 間の推定値を算出した後、最短の期間を採用する。

2 繰り返し測定を実施している場合は観測値の平均値。

3 平均値 0、分散の σ2の正規分布に従い、互いに独立であることを前提としている。

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表 4.3 最減数モデル(単一因子のロットデータを解析)

モデル 最減数モデル 共分散分析の結果 提示するリテスト期間又は有効期 間

0 Yi(t) = α0i + (β0i)t + εit ロット間で傾きに有 意差がある場合。

ロットを一括してリテスト期間又 は有効期間を推定することはでき ない。4.3.3 オプション 1 で得られ た最短の推定値を採用するか、外 挿することなく、長期保存試験デ ー タ が カ バ ー す る 期 間 を 採 用 す る。

1 Yi(t) = α0i + β0t + εit

ロット間で傾きには 有意差がないが切片 には有意差がある場 合。

共通の傾き、個々の切片、共通の 誤差分散を用いて、個々のロット についてリテスト期間又は有効期 間の推定値を算出した後、最短の 期間を採用。

2 Yi(t) = α0 + β0t + εit

ロット間で傾きにも 切片にも有意差がな い場合。

共通の傾き、共通の切片、共通の 誤差分散を用いて、全ロットから 共通のリテスト期間又は有効期間 の推定値を算出。

モデル 0 の最減数モデルが得られた場合、一括評価はできない。4.3.3 でのオプション 1 にしたがって提示するリテスト期間又は有効期間を設定するか、あるいは外挿することなく、

長期保存試験データがカバーする実際の期間に基づいて、提示するリテスト期間又は有効期 間として設定する。

4.3.6. 最減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの判定

4.3.5 で得られたリテスト期間又は有効期間の推定値が、提示するリテスト期間又は有効期

間を支持する場合、提示するリテスト期間又は有効期間は妥当であり、ここで解析を終わら せることができる。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実 測データが存在する場合で、4.3.5で得られたリテスト期間の推定値が 24箇月を超えていれば、

提示するリテスト期間として最大24箇月を設定できる。

一方、提示するリテスト期間又は有効期間を支持しない場合であっても、4.3.5 で得られ たリテスト期間又は有効期間の推定値が満足できるものであれば、これを提示するリテスト 期間又は有効期間として設定することは可能である。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原 薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存在し、4.3.5 で得られたリテスト期間の推定 値が 20 箇月であれば、最大 20 箇月を提示するリテスト期間として設定できる(実際的には 18 箇月と設定)。

4.3.7. 単一因子のデータ解析結果

表4.2に示すデータの解析結果を以下に示す。

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