日本半導体企業 4 社でのデータ分析
4 半導体産業とその収益性
4.1.2 半導体への投資と収益性
各社が、ムーアの法則に追随し、微細プロセスを扱うためのファブへの設備投資を 行なってきた。デジタル半導体では集積度密度の向上などで新たな世代の製品が登場 すると、性能だけでなく製造コストも低減化が行われる。このため、回路の縮小化技 術を中心に新技術の開発が絶え間なく行われ、また、数年ごとに行われるプロセス技 術の世代交代によって、保有する生産設備の主要な製造装置の多くが陳腐化するため、
他の製造業と比較しても開発費と新たな生産設備に多額の投資を要している。
デジタル半導体の生産においては、初期投資としての固定費が大きいが変動費が小 さいため、生産量が多ければ製品当たりの経費を大幅に縮小することができる。この ため、経済効率を考えると常に設備をフル稼働させておく必要がある。そうしなけれ ば、製品価格が落ち込んでいる時にも生産調整が出来にくくなる。加えて、量産規模 が拡大していれば、低価格化も出来るようになるため、他社より多く製品を世に出す ことができ、多少製品がだぶついて、低価格競争になっても勝ち残れる。このような 考えを複数社が同時にとった場合に、市場での需給バランスが大きく崩れることがあ る。これをシリコンサイクルと呼ぶ。このように、需給バランスの波が常に起こるの が半導体産業の特徴である。さらに、微細化に伴って設備投資額は増大する。28nm プロセスの工場への投資を見てみると、Intelは4100億円、TSMCは5300億円、サ ムソンにおいては7700億円を投資している。このように、半導体設備に対する投資 はますます日本の半導体企業を追い込んでいる。
4.2 まとめ
これまでの検証から、半導体事業の難しさは、新たファブ建設のためなどに大幅な 設備投資を行なったとしても、それがシリコンサイクルとどうシンクロするかを見極 めることがとても難しく、結果として利益と連動させることができない点にある。投 資して量産規模を増やしたとしても、需要が追いつかずに半導体製品自体の単価が下 落し、業績予想から大きく売り上げを落とすこともめずらしくない。例として、東芝 とNECエレクトロニクスの事例を以下に示す。
図 4-2: 東芝の 2009 から 2013 年の設備投資と営業損益の推移
図4-3: NECエレクトロニクスの2004から2008年の設備投資と営業損益の推移
東芝は2009年に、フラッシュメモリの工場増強のために大幅な設備投資を行なっ た。その結果、市場供給量を増やすことはできたが、市場の需要が付いてこなかった。
結果として、需要と供給のバランスが崩れ、大幅な減収減益となってしまった。しか し、東芝は2009年の減収を一時的な物と捉えて、継続的にフラッシュメモリ事業に
継続投資している。一方でNECエレクトロニクスも、2005年に収益拡大を狙って設 備投資を行なったが、売り上げが付いてこず、2006年以降赤字に低迷し、設備投資 も大幅に縮小する状態となった。
東芝のセミコンダクター&ストレージ社の半導体部門のマネージャ3名に東芝の会 社としての意思決定の特徴について尋ねてみたことがある。その3名が共通して語っ ていたことが、東芝は決めれない会社だという言葉である。市場の状況に応じて適切 に事業戦略を決断できないという悪い言葉のようにも取れるが、一方でこの決められ ない体質が今のフラッシュメモリの成功にも繋がっているとも語っていた。図4-2の 結果を見ても分かるように、半導体事業は投資と利益回収が安定していない。事業の 特性上、短期的に成否を判断しようとすると、将来を見通して収益をあげれる事業か どうかわからないものに投資することになるので、投資が難しくなってしまう。NEC や富士通が陥ったロジックがここにあると考えられる。NECと富士通は、半導体事 業の収益性を単独で考慮させるために、分社化という道を辿った。結果的に、単一企 業で見ると、安定した利益を単独事業として生みださないといういけないというロジ ックが働き、リスクを背負う新規事業への大幅投資を選択できかったと考えられる。
例えば、NECでは、長い間安定供給できていた各種製品向けのシステムLSIやMCU にフォーカスするという道を選んだ。富士通においては、ASICやMCUという安定 した事業軸にさらに注力していくことになった。結果として、図3-6と図3-8からわ かるように、ロジックLSI事業という一つの半導体製品のカテゴリに大きく注力して いくこととなった。
半導体事業は、投資と利益回収のサイクルを合わせることが難しいという産業特性 から、効率経営をしようと思えば思うほど、NECや富士通がたどったロジックに陥 ってしまうというジレンマを抱えてしまっている。
5 結論
5.1 はじめに
本章では、ここまでの検証結果をもとに、発見事項として各リサーチクエスチョン に対する回答を示す。また、検証の結果により日本の半導体企業で成否を分ける理論
モデルを提示するとともに、本研究によって得られた知見について述べる。最後に継 続して検討すべき課題について記す。