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「医師の指示」から見た作業療法士の自律性

ドキュメント内 作業療法士の自律性と独自性 (ページ 35-122)

はじめに

本章では筆者が第1章において作業療法が医行為と見なされると結論づけたことを踏ま え、作業療法士の自律性を明らかにすることを目的とする。そのために、理学療法士及び 作業療法士法において、患者に対して作業療法を実践する上で義務づけられている「医師 の指示」について検討する。

本章における議論の中心は作業療法士と医師との関係にあてられる。ただ、そのために は、作業療法士との関係性が深いリハビリテーション医学専門医師についての説明が必要 となる。

第1章において少し触れたが、「リハビリテーション医学」は患者の運動機能障害に特化 した臨床医学の一部門である。この「リハビリテーション医学」における「リハビリテー ション」は、本来の「リハビリテーション」および「医学的リハビリテーション」が含意 する意味とは異なっている。さらに、わが国において「リハビリテーション」は「リハビ リ」と略する形で患者の身体機能を回復するための「訓練」としての意味も有するなど、

多義的に用いられている。

作業療法士とリハビリテーション医学専門医師の臨床実践の過程については第 1 章にお いて解説した。そこで、本章では作業療法に関わりの深いリハビリテーション・医学的リ ハビリテーション・リハビリテーション医学の定義について整理する。その上で、作業療 法における「医師の指示」について、歴史的経緯と現状を確認する。

筆者はこれらを踏まえた上で、「医師の指示」を基にした医師と作業療法士との関係を明 らかにし、そこから「医師の指示」に関する問題点を抽出する。その上で、作業療法士が 自律性を維持するためにはどのようにすべきかについて明らかにしたい。

第1節 リハビリテーション・医学的リハビリテーション・リハビリテーション医学

第1項 リハビリテーションとは何か

「リハビリテーション(Rehabilitation)」という用語は英語であるが、その起源はラテ ン語で「再び名誉を取り戻す」を意味するre-habilisにある。また、Rehabilitationを現在 の英英辞典である New Oxford American Dictionary で調べると ‘restore to former privileges’と書かれている。すなわち、リハビリテーションには「元の名誉を回復する」

もしくは「元の地位に復位する」という意味が含意されている。ただし、この「リハビリ テーション」は専門用語として医療に特化している訳ではない。

例えば、ジャンヌ・ダルクは 14世紀から15世紀におけるイギリスとフランスとの百年 戦争の戦禍において、フランス軍の兵士として都市オルレアンの解放や国王の戴冠式を挙 行に導くなどフランスに多大な貢献を果たした女性である。ダルクは1430年5月23日に イギリス側の捕虜として捉えられる(ペルヌー, 1995, pp.81-3)。その後、いわゆる「処刑 裁判」1)において、人間ではないとされる「異端児」としての扱いを受け、裁判で教会から

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破門された上で1431年5月30日に処刑された(ペルヌー, 1995, pp.120-2)。

ただ、この時の裁判が敵側による不当なものであったとして裁判のやり直しが行われ、

1456年7月7日に裁判の無効および破棄が宣言された(ペルヌー, 1995, pp.147-8)。この 裁判は俗に復権裁判と呼ばれているが、ダルクはこの復権裁判での宣言をもって処刑から 25年後に破門を解かれ教会へ復活した。

このように、「リハビリテーション」は、西洋において宗教上の破門を受けた個人が破門 を解かれて教会への復活を果たしたことや、罪を犯したと見なされた人が社会復帰を果た す際に用いられる言葉であった。

「リハビリテーション」の定義が世界共通のものとして認識されるようになったのは、

1968年の世界保健機関(WHO)によるものが初めてである(World Health Organization, 1969, p.6)。ここで、世界保健機関は「リハビリテーション」を「リハビリテーションとは、

医学的・社会的・教育的・職業的手段を組み合わせ、かつ相互に調整して、訓練あるいは 再訓練することによって、障害者の機能的能力を可能な最高レベルに達せしめることであ る」(World Health Organization, 1969, p.6)と定義した。この定義は、1960年代から70 年代にかけて欧米において広がったノーマライゼーション 2)や自立生活(Independent

living:IL)運動3)などにより、リハビリテーションの主体が医療を提供する職種ではなく

患者(障害者)であることが認知された時代と重なる。

その後、1975年には国際連合(国連)の総会において、「障害者の権利宣言」が決議され た。国連は「障害者の権利」を具現するために1981年を「国際障害者年」と定め、さらに 1983年から1992年までの10年間を「障害者の十年」として定めた。そして、国連は1982 年12月3日の第37回国連総会において、「障害者の十年」を推進するためのガイドライン としての「障害者に関する世界行動計画」公表し、その内容と実行について決議した4)5)。 この「障害者に関する世界行動計画」の中で「リハビリテーション」の新しい定義がなさ れた。

ここで定義された「リハビリテーション」とは、「身体的、精神的、かつまた社会的に最 も適した機能水準の達成を可能にすることによって、各個人が自らの人生を変革していく ための手段を提供していくことをめざし、かつ、時間を限定したプロセスである」6)という ものである。この1982年における「リハビリテーション」の定義が現在に至るまで用い続 けられている。

第2項 医学的リハビリテーションとは何か

前項で示した「リハビリテーション」が医療の中で使用されるようになったのは、第一 次世界大戦時におけるアメリカが初めてである(Verville, 2009, p.21)。

アメリカは1917年4月に第一次世界大戦に参戦した。参戦1か月後の時点において、ア メリカ陸軍の一部門であるアメリカ陸軍医療部は、既にイギリスやフランスにおいて実践 されていた傷病退役軍人に対する職業復帰を主たる目的とした再建プログラムについて、

アメリカでも実践することを考えていた(Quiroga, 1995, p.152)。そして、アメリカ陸軍 医療部は整形外科医を中心としたグループを再建プログラムの視察目的でイギリスやフラ ンスに派遣させた。そして、アメリカにおける1918年6月の復員軍人リハビリテーション 法(Soldiers Rehabilitation Act.)の成立も後押しする中で、独自の再建プログラム開発を

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進めて行った(Quiroga, 1995, pp.152-4 ; Pagliarulo, 2012, pp.8-9)。

アメリカにおいて独自に開発された再建プログラムはマサチューセッツ州やニュージャ ージー州などの病院において、マッサージや水治療法などの物理療法、作業療法、職業訓 練という形でそれぞれ独立して実施されていた(Verville, 2009, pp.21-2)。そこで、アメリ カ陸軍医療部は陸軍の外科総合施設内に身体再建とリハビリテーション部門(Diversion of physical reconstruction and rehabilitation in the army)を創設し、整形外科を専門とす る医師たちが再建プログラムに従事している理学療法士と作業療法士を監督(supervision)

するという組織的な再建プログラムの実践を進めていった(Verville, 2009, pp.21-3)。 このように、医療の中でのリハビリテーションは第一次世界大戦において厳しい戦いを 強いられると予測したアメリカ政府の主導により、陸軍の傷病兵に対する早期の社会復帰 をはかるためのシステムとして確立していった。実際にこのシステムにおいて、約 41000 人の傷病兵が再建プログラムを受けていた(Licht, 1970, p.619)。このプログラムに基づい て実践された物理療法、作業療法、職業訓練に関する総合的なサービスの提供が「医学的 リハビリテーション(Medical Rehabilitation)」の起源である(Verville, 2009, pp.22-3)。

「医学的リハビリテーション」は世界保健機関が1968年に定義した「リハビリテーショ ン」の四つの要素(医学的・社会的・教育的・職業的)の一つにとして位置づけられてい る。すなわち、「医学的リハビリテーション」とは1968年の世界保健機関の定義によれば、

「人が自立を達成し主体的な人生を送ることができるよう、人の機能的および心理的能力 と 、 必 要 な 場 合 は 人 の 代 償 機 構 の 発 展 を 目 的 と す る 医 療 の 過 程 」(World Health Organization, 1969, p.6)である。

医学的リハビリテーションでは、患者に対する病気の治療だけでなく、日常生活が自立 し社会復帰が果たせたことで初めて医療の目的を達することができるという考えを含意し ている。その考えのもと、医学的リハビリテーションの対象は疾患の種類に関係なくすべ ての患者でなる。したがって、医学的リハビリテーションでは、医療に携わるすべての職 種がそれぞれの役割を担いながら患者の「リハビリテーション」に関与することを意味す る(上田, 1992, p.115)。

第3項 リハビリテーション医学(Rehabilitation Medicine)とは何か

前項において、医学的リハビリテーションはすべての医療に携わる職種が関与するもの であると述べた。それに対しリハビリテーション医学は、主として疾病によって生じた身 体の運動機能障害に対する診断と治療に特化した臨床医学の一部門と位置づけられている

(千野, 2009, p.1)。そして、上田はリハビリテーション医学に基づいてなされる診療を「リ ハビリテーション医療」7)と呼んだ(上田, 2001, p.43)。

リハビリテーション医学の発展は「リハビリテーション」が医療の中で使用されるよう になる以前のアメリカでの歴史にその系譜をみることができる。

リハビリテーション医学の起源は電気を用いた治療(電気療法;Electrotherapy)にあり、

物理学者であったベンジャミン・フランクリンがアメリカ独立以前の1753年頃に電気を用 いて人の麻痺を治療したとされる(Gritzer & Arluke, 1985, p.17 ; 内山, 2007, p.44)。こ の電気療法がアメリカ の医師に多く用いられるようになり、1770年代にはイギリスやフラ ンスにも伝わり臨床においても用いられるようになった(Gritzer & Arluke, 1985, p.17)。

ドキュメント内 作業療法士の自律性と独自性 (ページ 35-122)

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