5.1 まえがき
本章では推奨されるASRの抑制対策の方法について,北陸地方の事例を検討する。
火山帯に位置するわが国には,地質年代の新しい火山岩類が広く分布し,安山岩などがコンク リート用骨材として各地で利用されている。一方,このような火山岩類は一般に,火山ガラス,
クリストバライト,トリディマイト,オパールなどを含み,ASRによる被害を発生してきた1)な
ど。北陸地方においても安山岩は骨材資源として,砂利と砕石のいずれにも非常に重要であるが,
反面,安山岩による顕著なASRの発生が非常に多く確認されてきた2),3)など。わが国のASR抑制 対策は,アルカリ総量規制によりコンクリートのアルカリ量を低く抑える方法,ASR抑制効果の ある混合セメントの使用,またはASR反応性試験の結果が「無害」と判定された骨材の使用か らなるが,「無害」と判定される骨材の使用に頼ることは,とくに北陸地方での地質状況を考慮 すれば,地域の豊富な骨材資源を放棄することであり適当でない。また,北陸地方では冬季の日 本海からの季節風や凍結防止剤の散布による,コンクリート中へのアルカリの浸入は避けられず
2),4),さらにASRの反応過程で骨材からアルカリが溶出する問題もあり5),アルカリ総量規制は
意味をなさない場合がある。したがって,残る混合セメントの使用に期待が向けられるのは必然 的である。とくに,地域内で得られる石炭火力発電の副産物であるフライアッシュを使用する ASR抑制対策は,地産地消による環境負荷の低減と資源の有効利用を兼ね備え,またコンクリー トの様々な耐久性を高めるためにも,非常に前向きな取り組みであると言える。このような事情 と期待を背景に,平成23年1月には,産学官連携による「北陸地方におけるコンクリートへの フライアッシュの有効利用促進検討委員会」が設立された6)。本章の研究は,その一環として行 われたものである。
本研究では,北陸地方で流通している代表的な反応性骨材について,岩石学的試験を行うとと もに,この地方で供給可能な高品質化したフライアッシュ(分級フライアッシュと称す)を使用 することによるASR抑制効果を,JIS A 1146またはASTM C 1260,デンマーク法による促進モ ルタルバー試験で評価する。また,もう一つの代表的な混和材として,現在広く使用されている 高炉スラグ微粉末によるASR抑制効果も比較して評価するとともに,それぞれによる抑制機構 の特徴も考察する。さらに,これらの結果を偏光顕微鏡下での観察により確認し,促進モルタル バー試験結果の検証とともに偏光顕微鏡観察によるASR判定の有効性を確認する。これらの検 討の結果として,当該地域におけるASR抑制対策の基本的な考え方を示す7),8),9)。
なお,一般にはJISⅡ種品でも同様かつ十分なASR抑制効果が期待されるが,高品質化した分 級フライアッシュを検討する理由として,北陸地方の骨材には後述するようにきわめて反応性の 高いものがあり,地域全体に分布するさまざまな反応性骨材に対してASRを効果的に抑制する ことが求められることと,活性度指数やポゾラン反応性を高めたものとして,比較的短期材齢で の十分な強度発現,コンクリートの品質やその他の耐久性向上も期待した積極的な検討であるこ とによる。
5.2 北陸地方の地質と反応性骨材の分布
北陸地方の地形は大きく見ると中部山岳地帯と日本海に面した平野部からなり,急峻な山岳地 帯から流れ出す河川により運搬された砂礫が,下流域では大きな海岸平野を形成する。海岸平野 は富山・砺波・金沢・福井平野などで,富山平野には黒部川・常願寺川・神通川などが,砺波平 野には庄川などが,金沢平野には手取川などが,福井平野には九頭竜川などが,それぞれに砂利 資源を育んでいる。したがって,砂利資源が非常に豊富なことが,この地域の特徴でもある。と くに常願寺川はわが国有数の荒れ川であり,砕屑物(砂利資源)の搬出量(発生量)も非常に多い。
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北陸地方の骨格となる古第三紀以前に形成された地質構造区分については,日本海側から内陸 へ,飛騨帯・(宇奈月帯)・飛騨外縁帯・美濃帯が分布する(図-3.1)が,これらの分布とは無関 係に,そしてこれらを覆うように新第三紀から現在(第四紀)にいたる新しい時代に生成した火山 岩類が広く分布する(図-3.2)。すなわち,北陸地方はグリーンタフ地域であり,第四紀(現世) の火山も,主に飛騨山脈とその南部地域ならびに両白山地とその南部地域に分布し,飛騨山脈に は立山・乗鞍・御嶽火山などが,両白山地には白山火山などが載る。これらは主には安山岩質マ グマの活動で形成されたものである。このような地質に含まれる主な反応性の岩石種としては,
新第三紀~第四紀の安山岩を主とする火山岩類(急速膨張性)と,飛騨帯・宇奈月帯・飛騨外縁 帯の変成岩類,美濃帯のチャート・珪質頁岩など(遅延膨張性)であり(図-3.2),これらの砂 利や砂が北陸地方の河川には混入するが,北陸地方では反応性の特に高い前者の急速膨張性の岩 石によるASRが多数の顕著な被害を発生してきた10),11),12)。一方,大きな河川に恵まれず,砂利 資源に乏しい能登地方などでは,新第三紀以降の脆弱な地層からなることもあり,堅硬な安山岩 が貴重な砕石資源である10),11),12),13)が,これについても多くの被害を発生してきた。
図-5.1には北陸地方における火山岩類の詳細な分布が示されている14)。安山岩やデイサイト,
流紋岩の火山岩類が広く分布していることがわかる。北陸地方のASR のほとんどは,このうち 安山岩により発生しているが,これは火山岩類の潜在反応性が,埋没続成作用の進行による反応 性鉱物や火山ガラスの再結晶のため,一般に岩石が古くなるにつれて減少することによる。安山 岩の多くは,グリーンタフと呼ばれる地層の上部(中期中新世~鮮新世)のスメクタイト帯や弱 変質帯からもたらされた比較的新しい火山岩類またはさらに新期のものであり,急速膨張性であ る。これに対し,流紋岩やデイサイトの多くが属するグリーンタフ下部(前期中新世)と基盤(漸 新世以前)からもたらされた古期(緑泥石帯)のものは,脱ガラス化や再結晶による隠微晶質石 英や微晶質石英を含む遅延膨張性である15)。火山岩類のなかで安山岩の反応性が最も高いのは,
新しい地質年代に安山岩質の火山が多いのに対し,漸新世以前では流紋岩~デイサイト質の火山 岩類が卓越しているからである。
なお,野村ほかの研究によると,最近では急速膨張性骨材の反応に加え,同じコンクリート中 に,片麻岩などの変成岩や軽微なカタクレーサイト化を受けた花崗岩などの遅延膨張性岩石種の 反応も認められるようになってきている16)。
図-5.1 北陸地方における火山岩類の分布14)と本章で使用した骨材産地 安山岩
デイサイト,流紋岩
A:門前
能登半島
九頭竜川 手取川
常願寺川
乗鞍火山 立山火山
白山火山▲ ▲
▲
50 km B
B:太田原 C:石休場
A C 常願寺川
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表-5.2 分級フライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末(BFS)の化学組成 (mass%) 混和材 LOI SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO MgO SO3 Na2O K2O TiO2 P2O5 MnO
FA 2.0 53.60 28.93 6.74 3.20 0.77 0.22 0.30 0.72 1.39 0.98 0.09 BFS 0.97 33.14 14.19 0.33 42.96 5.29 1.97 0.25 0.28 0.53 0.01 0.28 5.3 実験目的
北陸地方の代表的な反応性骨材として,常願寺川産川砂利と能登半島産安山岩砕石を検討した。
これらの骨材について岩石学的試験を行い,構成鉱物などのASR反応性を明らかにするととも に,JIS A 1146またはASTM C 1260,デンマーク法による促進モルタルバー試験で,分級フライ アッシュと高炉スラグ微粉末によるASR 抑制効果を評価し,その結果をさらに偏光顕微鏡によ る微視的組織の観察などにより検証する。常願寺川産川砂利と能登半島産安山岩砕石(3 種類)
の産地を図-5.1に示す。
5.4 使用材料
使用セメントは普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3,Na2Oeq:0.55%)である。分級 フライアッシュは地元の北陸電力七尾大田火力発電所で産出するものであり,コンクリートの耐 久性や品質向上を目的に,前述の「北陸地方におけるコンクリートへのフライアッシュの有効利 用促進検討委員会」で検討されているものである。これは原料炭の選別や燃焼温度などで品質管 理されたもの(JISⅡ種品)から,さらにサイクロンでの分級により微粒化して得られたJIS I種 相当品であり,粒径22μm以上の粗大粒子の大半を除去した結果,その平均粒径は7μmと極めて 微粒であり,またガラス相を多く含有するので,ポゾラン反応性に優れている17)。なお,フライ アッシュのASR抑制効果は一般に,シリカ質のガラス量と比表面積の影響が大きいことが知ら れている18)。高炉スラグ微粉末はJIS A 6206の高炉スラグ微粉末4000(S社製)である。分級フ ライアッシュと高炉スラグ微粉末の顕微鏡写真を写真-5.1に,物理的性質,活性度指数とフロ ー値比を表-5.1に,また蛍光X線による化学組成の分析結果を表-5.2に示す。
写真-5.1 使用した分級フライアッシュ(a)と高炉スラグ微粉末(b)
(a) (b)
50μm 50μm
表-5.1 分級フライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末(BFS)の 物理的性質,活性度指数およびフロー値比
混和材 密度 ブレーン 比表面積
活性度指数
(材齢,%) フロー値比
(g/cm3) (cm2/g) 28 91 (%)
FA 2.43 4780 91 104 107
BFS 2.90 4120 103 108 101