し
て
く
だ さ
い 。
ワ ー ルド クエ スト 葉 桜
& 菖蒲
~ 前 回 のあ らす じ~ 教 会で 目覚 めた 青年 は記 憶を 失っ てい た。 自 分 が何 者 かを 探 す ため 旅 に出 た青 年 は、 道 中
、林 で山 賊 に襲 われ る。 自 身 の潜 在 能 力 によ り、 無 意識 の う ちに 下 っ端 を倒 した 青 年 だっ たが
、ボ スで ある ボー ク の卑 怯 な手 口 で、 身動 きが 取れ なく なっ てし まう
。 絶 体 絶 命 の危 機 に陥 った 青 年 を助 けた のは
、『 ビヨ ン ド・ ワー ルド
』を 名 乗 るギ ルド の女 リー ダ ー「 マン ドル ナ」 とオ オカ ミ男 の戦 闘 員
「グ ラン キオ
」で あっ た。 二 人 のギ ルド に加 わり
、「 ラン ドル フ」 と いう 名 前 を 貰 った 青 年は
、ギ ルド のメ ンバ ーと 共 に新 たな 冒 険を 始 めよ うと して いた
。
第二 話 突
然
、俺 は目 を覚 まし た。 背 中 が痛 い。 見 上げ ると 木 製 のベ ッド が見 えた
。ど う やら 寝て いる 間 に落 ちた らし い。
「痛 って ー
……
」
(や っぱ り慣 れな いベ ッド は寝 苦 しい な…
… アレ
? 俺 って なん で慣 れな いベ ッド で寝 てた んだ っけ
) 俺 は昨 日 のこ とを 思 い出 した
。
(あ
、こ こっ て『 ビヨ ンド
・ワ ー ルド
』の アジ トか
。…
… マン ドル ナや グラ ンキ オは 起 きて るか な?
) 立 ち上 がっ てカ ー テン を開 ける
。外 はま だ薄 暗 かっ た。
「こ の様 子 じゃ みん なま だ寝 てる な…
…
」 俺 も眠 くな いわ け では な いが
、起 き たか ら には 二 度 寝 す る気 にも なれ ない
。 ベ ルト と 上 着 を 着 けて
、俺 は外 へ出 てみ た。 夜 の明 け き らな い空 に、 冷 えた 風 が通 る。 息 が白 く凍 り
、俺 は あま りの 寒さ に体 を震 わせ た。
「こ の寒 いの に、 なん でこ んな に早 く目 が覚 めた んだ ろ」 昨 日 は色 々 あっ て、 絶 対 に起 きら れな いと 思 って いた のだ が。
「…
… ん?
」 ふ と気 づく と、 右 手 が腰 に伸 びて 何 かを 探 して いた
。 山 賊 を倒 した 時 体が 勝手 に動 いた のと
、同 じ感 覚だ
。
(も しか して
…… 剣 か?
) だ が俺 のベ ルト に剣 は下 がっ てい ない
。記 憶 を失 う 前、 俺 は剣 を使 って 戦 って いた のだ ろう か。 それ にし ても
、こ んな 朝 方 に剣 を使 うと いう こと は…
…
(特 訓
―― 朝 練 して たの か。 真面 目 だな
) 記 憶 が消 えて も勝 手 に目 が覚 める ほど
、早 朝 から の 訓 練 が習 慣 化 して いた のだ ろう
。自 分 のこ とと はい え、 律 義 なも のだ
。 俺 は落 ちて いた 棒 切 れを 手 に取 り、 大 きく 振 り下 ろ して みた
。風 を切 る音 とと もに
、グ ラン キオ が斬 り捨 て たボ ー クの イメ ー ジが 展 開 さ れる
。
「…
…
」
(何 や って んだ
、俺
) 俺 は棒 きれ を 投 げ 捨 てた
。棒 はこ ろこ ろと 地 面 を転 がっ てい く。 す ると
、白 い手 がそ れを 拾い 上 げた
。 顔 を上 げる と、 レー ゼが 焚 き木 の束 を 抱え て立 って い た。
「あ
、お はよ う ござ いま す
……
」 何 して るん です か、 と聞 こう とし て、 彼 女 が言 葉 を話
せな い事 を思 い出 す
。そ れ に尋 ねる まで も なく
、彼 女 は火 種 を 集 めて いる のだ
。
「朝 から 大 変 です ね」 レ ー ゼは 軽 く頭 を下 げ
、ア ジト へ戻 って ゆ く。 そ の時
、い つの 間 にや って きた のか
、一 匹 の猫 がレ ー ゼ の足 元 にす り寄 った
。野 良 猫 のわ りに
、レ ー ゼに 対し て は警 戒 心 のか けら もな いよ う だ。 言 葉 を話 せな いレ ー ゼは
、心 で動 物 と通 じ合 うと ころ があ るの だろ うか
。 レ ー ゼが 猫 の背 を 撫 でて や って いる う ち
、ど こか らと も なく 数 匹 の小 動 物 たち がレ ー ゼの 周 りに 集 まっ てき た。 動 物 や 小 鳥 に囲 まれ て、 レー ゼも 心 なし か嬉 しそ う だ。 そ の横 顔が
、誰 かの 面 影 と 重 なっ た。
(レ ー ゼで は、 ない
―― でも よく 似 た人 に、 俺 は会 った こ とが あ る気 がす る) 記 憶 を 無 く す 前 の知 り 合 いに
、同 じよ う な人 がい た のか もし れな い。 動 物 たち を 驚 かせ な いよ う
、俺 はそ っと その 場 を 離 れた
。 少
し体 を動 かし てか ら アジ トへ 戻 ると
、マ ンド ルナ たち がよ う や く起 きだ して きた とこ ろだ った
。
「お はよ う…
… 早 いね
、ラ ンド ルフ
。こ んな 朝 っぱ らか ら 何 して たん だい
?
」 マ ンド ルナ は眠 そう に眼 をこ す って いる
。
「ち ょっ と 運 動 して き たん だ。
―
― とこ ろで グラ ンキ オ は?
」 集 まっ たメ ンバ ー の中 に、 グラ ンキ オの 顔 だけ が見 当 たら ない のだ
。そ れを 尋 ね た俺 に、 エス トが 神 妙 な顔 で 告 げた
。
「今
、彼 のと ころ へは 行 かな いほ うが いい かと
」
「?
」
「何 と言 うか
…… とて も
『自 然 体
』で 眠っ てい ます ので
」 グ
ラン キオ のベ ッド は酷 いあ りさ まだ った
。 シ ー ツは 引 き裂 かれ
、枕 が吹 き 飛 び、 ベッ ドの 支 柱 に は謎 の歯 形 が無 数 に残 って いる
。 エ スト がた め息 をつ きな がら
、グ ラン キオ が入 って いる と思 われ る毛 布 の塊 をひ っぱ った
。
「!
?
」 俺 は目 を 疑 った
。 そ れは 毛 布 では なか った
―
― 銀 色 の毛 並 みを した
、 一 匹 の立 派 なオ オカ ミだ った のだ
。
「ウ ガア アア アア アア アア ア!
」
何 の夢 を見 てい るの か、 オオ カミ がヨ ダ レを たら しな がら もの す ごい 雄 たけ びを 上 げる
。
「こ れは グラ ンキ オな のか
?
」
「え え
。あ なた は、 オオ カミ 男 とい う 種 族 を見 たこ とが あ りま せん か? グラ ンキ オも オオ カミ 男 の一 人 で、 普 段 は人 の姿 をし てい るの です が、 戦 闘 時 など には オオ カ ミに 姿 を変 える こと がで きる んで す
」 説 明 す るエ スト の横 を デ ィゼ スが 通 り過 ぎ て、 グラ ン キオ の脇 腹 に容 赦 なく 拳 を叩 きこ んだ
。
「ウ ゴオ オオ オオ オオ オオ オ!
」 グ ラン キオ がベ ッド から 転 げ落 ち、 エス トが 少 しだ け心 配 そう な顔 にな る。 床 で唸 って いた グラ ンキ オは
、し ば らく して ゆっ くり と 元 の姿 に戻 って いっ た。 もち ろん 体 には 何 も身 に着 けて いな い。
「…
…オ ー プン だな
」
「女 性 陣 が来 なく て本 当 によ かっ た」 俺 と デ ィゼ スは
、顔 を見 合 わせ てた め息 を つい た。 よ
う や くメ ンバ ー 全 員 がテ ー ブル に集 まる と、 レー ゼ が手 作 りの 朝 食 を 並 べた
。料 理 は木 の実 や 野 草 を 使 っ た素 朴 なも のば かり だっ たが
、昨 日 教 会 で目 覚 めて 以
来 な にも 口 にし てい ない 俺 には
、驚 く ほど おい しか った 食 べ物 がこ れほ ど旨 いも のな のか と疑 った くら いだ
。 初 めて の食 事 で俺 の味 覚 がお かし くな って いる のか と も 思 った が、 何 度 もレ ー ゼの 料 理 を味 わっ てい るは ず の メン バー たち も 旨 そう に食 べて いた
。レ ー ゼの この 料 理 の腕 が、 戦 闘 に参 加 でき ず 口 も きけ ない 彼 女 を、 ギル ドの メン バー たら しめ てい る理 由 なの だろ う
。 み んな が食 後 のス ー プに 手 を つけ 始 めた ころ
、マ ンド ルナ が切 り出 した
。
「さ て、 朝 飯 が終 わっ たら
、今 日 は『 洞 窟
』の 迷 宮 に挑 戦 す るよ
。こ れ でも う 迷 宮 も 四 つ目
。気 合 い入 れ て行 くか らね
」
「迷 宮
?
」 ま た、 初 めて 耳 にす る言 葉 だ。 俺 は助 けを 求 めて
、隣 に座 って いる エス トの 顔 を見 た。
「迷 宮 とは
、山 や 海 など にあ る冒 険ル ート のこ とで
、各 ルー トに 一 匹
、ボ スの モン スタ ー がい ます
。そ のボ スを 倒 す こと で迷 宮 クリ アと な り、 最 低 六 つの 迷 宮 を クリ ア しな け れば
『ワ ンダ ー ラビ リン ス』 に挑 戦 す るこ と がで き ない 仕 組 みに なっ てい るの です
。ク リア を重 ねる ほど つま り『 ワン ダー ラビ リン ス』 に近 づく ほど
、迷 宮 の難 易 度 は上 がり ます
」
「な るほ ど」
な かな かに 凝 った シス テム だ。 エ スト に礼 を言 おう とし た時
、グ ラン キオ が口 をは さ んだ
。
「難 易 度 った って 知 れた もん だぜ
。俺 様た ちの ギル ドは
、 今 まで
『炎
』『 海
』『 森
』の 迷 宮 をク リア した が、 どれ も楽 勝 だっ た。 昨 日 お前 を助 けて や った とき だっ て、
『洞 窟
』 に行 くと こだ った んだ よ。 本 当 なら 今 頃 は、 ボス を ぶっ 倒 して るさ
」 豪 語 す るグ ラン キオ を、 マン ドル ナが たし なめ る。
「そ うや って 油 断 して
、失 敗 した 奴 が大 勢 いる んだ よ」
「う るせ ぇな
、俺 様 が負 ける わけ ね ぇだ ろ。 今 まで 一 人 でも メン バー が欠 けた こと があ った か?
」 そ こで スー プ を一 口 す す った グラ ンキ オは
、思 い出 し たよ う に俺 を振 り返 った
。
「ま ぁ、 今 回 は一 人 だけ
、死 ぬ奴 がい るか もし れ ね ぇけ どな
!
」 鼻 で笑 って
、グ ラ ンキ オは 空 にな った カッ プを 乱 暴 に テー ブ ルの 上 へ放 り出 し、 部 屋 から 出て いっ てし まっ た。
「俺
、な んで あ んな に嫌 われ てる んだ ろ…
…
」
「気 にす るこ とな いよ
。あ いつ はい っつ も あん な感 じな ん だ。 なん だか んだ 言 って
、最 後 は協 力 して くれ るさ
」 そ う だと いい が…
…。
は、 アジ トか ら 出て 二 時 間 ほど のと ころ にあ った 俺 は、 道 中 エス トが 説 明し てく れた 心 得 を 反 芻 す る。
(モ ンス タ ー が出 て来 ても
、焦 ら ず 対 応 す るこ と
。ト ラッ プ 式 の仕 掛 けが 設 置 さ れて いる こと があ るの で、 怪 しげ な物 体 には う かつ に手 を出 さ ない こと
。単 独 行 動 を 避 け、 暗 い洞 窟 の中 で仲 間 を見 失 わな いよ う 注 意 す るこ と。
…
…
) と はい え、 初 めて の対 モン スタ ー 戦 とな ると かな り不 安 だ。 また 体 が勝 手 に動 いて く れる こと を 祈 るし かな い。 モン スタ ー の外 見 や 弱 点 など も 知 りた かっ たが
、迷 宮 によ って 出 てく るモ ンス タ ー は全 く 違 う ので
、メ ン バー たち も詳 しい こと はよ く分 から ない と言 う。 俺 がエ スト や マン ドル ナと 話 して いる 間 も
、グ ラン キオ は仏 頂 面 で黙 った ま まだ った
。マ ンド ルナ は楽 観 的 なこ とを 言 って いた が、 良 好 なチ ー ムワ ー クは 築 けそ うに な い。
(不 安 要 素 てん こ盛 りだ な…
…
) そ んな こと を考 えて いる うち に、 ギル ド一 行 は洞 窟 の 中 に入 り、 周 りが 急 に薄 暗 くな った
。 入 り口 から 遠 ざ かる ごと に、 周 囲 はま す ます 暗 闇 に 包 まれ てい く。 隣 にい るエ スト の顔 も 見 えな くな ると
、 先 頭 のマ ンド ルナ が松 明 を灯 した
。
「松 明 には 限 りが あ る。 出 来 るだ け 早 くこ こを 抜 けな いと
、明 かり が切 れた ら出 ら れな くな るか ら ね。 ペー ス 上 げて
―
―
」 マ ンド ルナ を 遮 った のは
、何 百 と いう コウ モリ の羽 音 だっ た。
「モ ンス ター だ! みん な気 を つけ て!
」 コ ウ モリ の大 群 はメ ンバ ーを めが けて 襲 いか かっ てく る。 普 通 のコ ウ モリ かと 思 って いた が、 近 く で見 ると そう では ない こと に気 づい た。 尻 尾 の先 に、 悪 魔 の槍 のよ う な鋭 いト ゲ がつ いて いる のだ
。
「こ のモ ンス タ ー
、歴 史 書 で見 たこ とが あ りま す
! たし かあ のト ゲか らは 神 経 毒 が分 泌 さ れて おり
、対 策 とし ては ナン トカ アル カリ を 主 成 分 とし たミ ネ ラル ウ ォー タ ー と
、カ ント カ酸 及 びビ タミ ンハ テナ を 含 んだ ビッ ク リキ ノコ を 粉 末 状 にし て混 ぜ 合 わ せた も のを 解 毒 剤 に」
「そ んな もの
、今 持 って るわ けな いだ ろ!
」 解 説 しよ う とし たエ スト に、 マン ドル ナが コウ モリ を は たき なが ら怒 鳴 る。
「天 然 水 もキ ノコ もい ら ね ぇよ
。こ んな ザ コぶ った 斬 るま でだ
!
」 グ ラン キオ が大 刀 を振 り 下 ろし
、地 面 が大 きく 揺 れ た。