ここまでの検討を踏まえ、より効果的に環境配慮行動を促進するための手法について検討を実施した。
かねてより指摘されてきたこととしては、従来型の環境意識を高める手法(藪並 2007)だけでは行動促 進には不十分であり、態度と行動の関連を強化するアプローチが重要(杉浦 2008)だということが挙げ られるが、本研究においても態度と行動の間に乖離がみられたため、この方向性が支持される。
ここでは特に、人の属性や行動特性による差異に着目した行動促進手法について検討を実施した。
7.2.1 人の属性を考慮した行動促進手法
前節での検討において、社会規範評価から行動への影響の強さは、行動実施度の水準によって逆U字 型に変化することが明らかとなった。すなわち、最も周囲の目を気にしているのは、環境配慮行動を実 施してはいるが、それほど積極的ではない中間層にあたる人々である。したがって、社会規範評価を高 めるアプローチ(例えば、2章で紹介した「DO YOU KYOTO? デー」や「エコ学区」等)が最も効果的 なのは、中間層の人々だと考えられる。
行動実施度が既に高い、環境にやさしいライフスタイルのトップランナーといえる人々に対しては、
社会規範評価を高めるアプローチを実施してもあまり行動促進につながらない可能性がある。社会的に 要求される行動のレベルを高めても、当人たちは既にそれを超えるレベルの行動を実施しているからで ある。このような人々に対しては、実行可能性評価や便益費用評価など他の規定因を高めるアプローチ の方が有効だと考えられる。例えば、2章で紹介した「環境家計簿」や各種団体の実施する「環境セミナ ー」等がこれにあたり、より効果的・効率的な環境配慮行動を実施するための知識や技術、仕組みを提 供すること等が効果的であろう。
行動実施度が低い人々では、社会規範評価が行動に与える影響が小さくなっていたが、小さくなって もなお他の規定因より影響が大きいものも多かった。「どの行動においてはどの規定因からの影響が最も 大きい」ということまでは、本研究からは判断することができないので、低行動群の人々に対する効果 的な行動促進手法を検討する際には、行動毎により詳細な解析を実施する必要があると考えられる。
なお、あまり普及しておらず一般的ではない環境配慮行動においては、中間層の人々でもなお行動実 施度が低いので、この人々に社会規範評価を高めるアプローチを実施しても、それほど行動促進につな がらない可能性がある。例えば「DO YOU KYOTO? デー」の取り組みのひとつに「京灯ディナー」と いうものがあるが、照明を消灯してろうそくやランプの明かりでディナーを楽しむという取り組みは、
まだそれほど一般的ではないと考えられる。事実、京灯ディナーの参加団体数は、他の取り組みである
「ライトダウン」や「ノーマイカーデー」と比較して少なくなっている。このような一般的ではない行 動に、社会規範評価の面からのアプローチを考える場合、まずトップランナーの人たちに対してアプロ ーチを実施し、行動がある程度社会に根付いてから中間層の人々へのアプローチを行うべきだろう。
7.2.2 行動特性を考慮した行動促進手法
行動特性に着目した検討では、労力的便益費用の水準が高い(手間がかかる)行動では行動評価がネ ガティブな方向に変化し、各規定因の水準が低くなることが明らかとなった。行動にかかる手間は、複 数の規定因を行動が実施されない方向に変化させるということだが、裏を返せば、行動にかかる手間を
7 章 各結果の比較と効果的な行動促進手法の検討
削減することで、複数の規定因を行動促進につながる方向に変化させられる可能性がある。例えば、2章 で紹介した「エコまちステーション」は、ごみ分別に関する情報提供窓口や回収拠点を一本化するとい う役割を担っており、ごみの分別収集に要する手間の削減に貢献しているため、行動促進に効果的だと 考えられる。大きな手間のかかる行動を促進するためには、行動をより少ない手間で実施できる仕組み を構築することが有効だろう。これは主に、国や地方自治体の役割だということができる。
また、社会性に着目した検討からは、社会性の高い(他者の目に触れやすい、もしくは実施に他者が 関与する)行動では社会規範評価が行動に与える影響が大きくなり、他の規定因が与える影響が小さく なることが明らかとなった。すなわち、社会性の高い行動の促進には社会規範評価の水準を高めるアプ ローチが有効だが、それ以外の規定因を高めるアプローチはそれほど効果が上がらないと考えられる。2 章で紹介した「エコカー減税・エコカー補助金」や「家電エコポイント」等の制度は主に便益費用評価 に働きかけるものだが、このようなアプローチは社会性の高い行動に対しては行動促進につながりにく い可能性がある。多くの人が共同して取り組む社会性の高い行動を促進するためには、例えば2章や4 章にて触れたきょうとグリーンファンドが実施する「おひさまプロジェクト」のように、各ステークホ ルダーが共同して取り組みを進めるコミットメントを形成する等、社会規範評価に対するアプローチが 特に有効だと考えられる。
(7 章 参考文献)
環境省(2012),「環境にやさしいライフスタイル実態調査」平成24年度調査 報告書,環境省総合環境 政策局環境計画課
野波寛,加藤潤三,池内裕美,小杉孝司(2002),共有財としての河川に対する環境団体員と一般住民の集 合行為;個人行動と集団行動の規定因,社会心理学研究,Vol.17,No.3,pp.123-135
杉浦淳吉(2008),環境行動の動機や意図を高める,環境行動の社会心理学(広瀬幸雄 編),北大路書房 藪並郁子,阿部治(2007),日本における環境教育・ESDの評価の現状と課題-ロジックモデルを用いた
評価-,日本環境教育学会関東支部年報,Vol.1,pp.27-32