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5. 効果効率を重視してエリア戦略を立案する
5.1 「China BtoC Market Power Index 2011」のまとめ
中国市場は複雑化している。日本は人口1億人強の国で首都圏・近畿圏の2カ所に人も購買力も集中し ているが、中国は全く構造が異なる。マーケティングターゲットになり得る大都市が東西南北に勃興し、
今後も増加していくだろう。巨大さにスピードと複雑さが加わった中国の理解を助けるために、電通総研 は「消費規模指標」「消費規模クラス(3A-D)」「成長力指標」の3つの指標を開発した。有望都市抽 出の切り口の1つ目として「消費規模」と「成長力」指標を合わせたマトリックス分析を行い、「中核都 市+衛星都市による消費圏」の分析も追加した。「マトリックス分析」は現状把握と将来の予測に役立 ち、「消費圏分析」は効果効率よくマーケットを拡大していくのに役立つであろう。
今まで述べてきたことをまとめると;
① 内陸部には成長都市が数多く見られるが、企業にとってリターンが期待できる都市は消費規模の大き い都市である。
② 規模を狙うなら、離れた距離に点在する大都市を狙うより近隣都市を束ねた広域消費圏ベースでマー ケティング展開する方が効果効率は良い。
③ 中国では現在4つの広域消費圏がある。広域消費圏は今後増えていく。
④ 沿海部の3A都市は成熟段階に入っているが、A都市は成長段階にある。内陸部は3A、Aにかかわら ず成長段階である。
⑤ 広域消費圏ごとに消費行動は大きく異なる。各消費圏のマーケティングノウハウもそれぞれ違う。
5.2 エリア戦略の方向性
地域戦略立案においては、上記に加えて企業は自社ブランドの浸透状況、中国実務経験、これまでの マーケティング投資に対する効果も考慮する必要があろう。中国は実に体力を必要とする市場である。エ リアがどこであろうと競争力と投資が伴わなければ効果は上げにくい。現在までのところ日本企業の多 くが沿海部の3A、2A都市を中心に活動していることから、電通総研は「既に沿海部3A都市でブランド 認知・プレゼンスを得ている企業」「沿海部3A都市で苦戦している企業」「中国にこれから進出する企 業」の3つに分けて、今後のエリア戦略を提案する。
(1) 既に沿海部3A都市でプレゼンスを得ている企業 → 内陸部の広域消費圏に進出する
沿海部3A都市で既に一定のブランド認知やマーケットシェアを築いている企業は「元来、ブランド
5. 効果効率を重視してエリア戦略を立案する
で引き続き戦うか。この選択肢に関しては、沿海部を選ぶ方が現実的だと考える。内陸部の生活水準 は「家電下郷・汽車下郷」政策のおかげで高まったが、生活者の個々の商品に対する品質志向はまだ 弱く、購買意思決定時に考察する要素もシンプルである。内陸部では沿海部と異なる商品を開発しな ければならない可能性があり、有名ブランドとして認知されるための大きな投資も必要となる。そし て、ここでの競争相手は日本の常識では考えられない施策を打ってくる中国系企業であり、対抗策に 苦慮するだろう。
内陸部か沿岸部か結論が出にくい場合は、消費が高度化する沿海部のトレンドを睨み、これまでのや り方を再点検して、サブカテゴリを創造するなり新しいブランドポジションを取るなりして、沿岸 部で成長の芽を見つける方が実際的ではなかろうか。日系企業が多い上海消費圏は1億人市場であ る。独自のポジションで複数都市を束ねることができれば、3A都市単体よりも大規模商圏を形成で きる。比較的競合が少ない沿海部A都市での積極的な販売活動は、3A都市より効果を生む可能性も ある。
(3)中国にこれから進出する企業 → 沿海部の2A都市から入って広域消費圏を制覇する
後れて進出する企業の商品は成熟市場向けで、必ずしもマスを狙う商品ではないケースが散見され る。たとえニッチ商品でも、北京市・上海市などの競争が激しい巨大都市に進出するより、上海市に準 ずる消費規模を持つ2A都市で地盤を築き、周辺都市に展開していく戦略を提案したい。例えば上海消 費圏の2A都市には無錫市・南通市・南京市がある。2A都市のどこをベースにするか、他都市にどのよ うに広げていくか、進出ステップを入念に検討することを提案したい。
●北京消費圏
●上海消費圏
●重慶消費圏
●広州消費圏
北京
西安
武漢
天津
上海 重慶
成都
広州 深圳
沿海部3A都市でプレゼンスを得ている企業の進出例
効果効率を重視してエリア戦略を立案する
5.
盐城市
線の太さは進出の順番
●3A●2A
●A、B
蘇州市 上海市
杭州市 南京市 無錫市
寧波市 常州市 南通市
金華市
紹興市 湖州市 嘉興市 泰州市 楊州市 鎮江市
舟山市 宣城市
過去20年間高度成長一色だった中国に、現在、成熟化市場と成長市場が混在している。参入都市 の選択肢は、これから更に増えていくだろう。選択肢が増えるということは、ビジネスの機会もま た増えるということである。本分析が中国での機会発見の礎になり、日本企業に成功事例が増えて いくことを願う。
電通総研では、各種データベースを用いて、クライアント企業の実情に合ったエリア戦略のご提案を 中国にこれから進出する企業の進出例〜上海消費圏を例として〜
データ出所:
中国都市統計年鑑 2008年版、2010年版
中国国家統計局 2008年版、2010年版
省別統計年鑑 2008年版、2010年版
China National Resident Survey 2010 CTR 央視市場研究股份有限公司 China Marketing and Media Study 2010 SINOMONITOR 新生代市場観監測機構
分析アドバイザー 慶應義塾大学経済学部 稲葉由之教授
工学博士。株式会社住信基礎研究所、小樽商科大学商学部助教授、総務省統計研 修所教授、一橋大学経済研究所客員教授などを経て現職。研究領域は統計科学、
計量経済学、標本調査論。
研究テーマ:ミクロデータを用いた計量経済分析と不完全データに関する研究を 行っている。現在は、政府統計のミクロデータに基づいて、家計資産の世代間移 転に関する実証研究を進めている。また、統計調査に対する協力度が低くなるこ とでデータが得られなくなる状況への分析上の対応についても研究している。
最近の論文・著書
・「有業者方式と労働力方式に基づく2種類の失業者の比較」、『日本経済研究』、56、52-69, 2007
・『中国農家における公正と効率』(第I部第4章、補論資料を執筆)、多賀出版、2005
・「不完全データの統計解析手法とそのソフトウェアの比較」、 『計算機統計学』、18、79-94、2005
分析アドバイザー 神戸大学大学院経営管理学研究科 黄磷教授
商学博士。小樽商科大学商学部助教授、神戸大学経営学部助教授、神戸大学大学 院経営学研究科助教授を経て現職。研究領域はマーケティング・流通システム。
研究テーマ:グローバル・マーケティング、流通システムのダイナミックスに関 する理論研究と実証分析、中国の流通システムと企業行動についても研究を進め ている。特に日米欧企業の中国市場戦略に関する研究、中国経済の市場化と流通 システムの発展に関する研究などを行っている。
最近の論文・著書
・「G-SCN」、『SCMの理論発展と実践:日中比較』、神戸大学国際交流学術ワークショップ論文集、2011
・「第5章 商業・流通」、『構造転換期の中国経済』、世界思想社、 2010
・「第13章 小売業の空間的変容-中国の都市における商業人口と中心地性の変化」、『小売業革新』、千倉書房、2009
・「中国市場における小売国際化~日米欧小売企業の事業展開~」、『小売企業の国際展開』、中央経済社、2009