• 検索結果がありません。

創発的に協創されたコンテンツと観光

ドキュメント内 委員 席終夜え (ページ 60-82)

第3章では,「創発的に協創されたコンテンツ」に誘引された観光の事例を取り上 げ,現状を整理していく.事例は4事例取り上げる.1つ目は元となったコンテンツ自 体は商業コンテンツであった「アニメの聖地巡礼」.2つ目は第2章でも取り上げた創 発的に協創されたコンテンツである「初音ミク」に関わる行動.3つ目は,第1章と第 2章で取り上げた同人に深く関わり創発的に協創されたコンテンツである「東方

Project」とそのゆかりの地.4つ目は元となったコンテンツすら曖昧な創発的な協創に

よって構築された「グンマー」もしくは「未開の地群馬」と呼ばれるネタとそこから派 生した行動である.本章の構成は,3-1から3-4の各節でそれぞれの事例を取り上げた 後,最後の3-5でまとめを行う.

3-1 アニメの聖地巡礼

アニメの聖地巡礼は,アニメ作品の背景に利用された現実空間やゆかりの地(以下,

対象地)に,そのアニメ作品のファンが来訪する観光のことである.初期のアニメの聖 地巡礼では,対象地がアニメの放映元や地域側から発信されることはほとんどなかっ た.そのため,そのような場所はアニメ作品のファンが自ら発見する事が一般的であっ

た(山村2011).また,アニメの聖地巡礼を行うアニメファンの具体的な観光は,アニ

メの背景として使われた場所での写真撮影,対象となる地域の近くの神社へのアニメキ ャラクター等絵を書き込んだ絵馬である「痛絵馬」の奉納,駅や観光協会といった公的 スペースへのファンが来訪したことを記入する「巡礼ノート」の設置等が知られてい る.また,観光後には,アニメファンの中には観光時に撮影した写真や動画を自分でブ ログや動画共有サイトに投稿する者がいることが知られている(岡本2013).これに加 え,アニメ聖地巡礼行動においては,他のアニメファンが残した痛絵馬や巡礼ノート等 が観光の目的となることも知られている(岡本2013).このようなことから,アニメ聖 地巡礼の初期の事例では,観光の結果生み出されるコンテンツが別のアニメファンの観 光の目的を形成するという,「観光の結果の協創」が起きていたことが分かる.

しかしながら,2010年代以降は,もはや創発的な協創で観光が起こっているとは言 いづらく,コンテンツを活用した観光誘客の取り組みが行われるようになった.特に,

「水木しげるロード」の成功(佐藤2011,澤田2005),2007年にアニメが放送された

49

「らき☆すた」の聖地巡礼行動を活用した鷲宮神社と鷲宮商工会の地域活性化の成功

(山村2011)等がメディアや公的機関によって取り上げられるようになってからは,

アニメ作品もフィルムツーリズムと同様に地域の新たな観光客誘客資源として注目され るようになり,アニメファンの創発的な協創から起こる観光は変容しつつあるといえ る.近年では観光来訪者の獲得を狙って作成されたアニメ作品(「輪廻のラグランジ ェ」等)も制作されるようになってきている(廣田2014).このような事例では,前述 したような観光(写真撮影・痛絵馬・巡礼ノート)がファン主導で発生してくるという よりも,アニメ製作会社や地域が対象地を明確にし,痛絵馬を奉納する場所や巡礼ノー トを用意することで,アニメの聖地巡礼をすべきともいえる環境を用意するような取り 組みがされるようになってきている(池田2012).このため,近年のアニメの聖地巡礼 については,創発的な協創とは言いづらくなってきている.

50 3-2 「初音ミク」に関わる行動の事例

「初音ミク」は2-2で述べたように,元々DTMソフトであり,初期のキャラクター 設定も薄かった.このため「初音ミク」は実空間との結びつきをほとんど持っていなか った.あるとすれば,CFM社の本社所在地である北海道札幌市ということだけであっ た.しかし,「初音ミク」をめぐって作成される大量のコンテンツの中には,現実空間 や現実の物と結びつきを作るようなコンテンツも出現している.このようなコンテンツ の中には,一部のファンからは現実の空間に「初音ミク」との結びつきが存在すると認 識させるようにしたコンテンツも出現している.このような例として本節では「初音ミ ク」との結びつきが実空間でのイベントに影響を与えることになった鳥取県米子市役所 の例を取り上げる.この事例については,Web調査と米子市役所への聞き取り調査結 果から取りまとめている.

「初音ミク」の広く知られた設定に,「ネギが好き」という設定と「はちゅねミク

(図3-1)」というデフォルメキャラクターが存在する. この設定は二次創作によって 付加されたものである.この発端は「初音ミク」の発売から5日後の2007年9月4日 にニコニコ動画に投稿された『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせて みた』という動画である.その内容は,DTMソフトである初音ミクに歌わせた

「Ievan Polkka」(元曲はスウェーデンの楽曲)に合わせて初音ミクをデフォルメした 二次創作キャラクターがネギを振るといったものだった.このキャラクターは9月11 日に「はちゅねミク」と命名されている.さらに,その数週間後に投稿された『【初音 ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』では,先の動画で付加された「初音ミ クはネギが好き」という設定を踏まえた歌詞がつけられた.当時「初音ミク」はニコニ コ動画において知名度は低く,また動画の数も少なかった. そのような中で,以上2 つの動画が(ニコニコ動画における)初期に初音ミクの認知度を広げる上で貢献したた め,「初音ミク」は「ネギが好きである」という設定と「はちゅねミク」というデフォ ルメキャラクターが一般化したのである.またDTMソフトの発売元であるCFM社側 も,この設定とキャラクターを拒絶せず,公認状態にした.このような二次創作活動を 踏まえ,この「はちゅねミク」と「ネギ」を結びつける文脈的根拠が出現した.

51

図 3-1 たまご氏による「初音ミク」の二次創作デフォルメキャラクター「はちゅねミ ク」(http://closeup-nettube.livedoor.biz/archives/809608.htmlより転載)

鳥取県米子市は本来「初音ミク」にはなんの縁も存在しない地域である.しかしこの 地域は「ネギ」が特産である.そのネギというブランドで地域のイメージをアップして いこうと,2006年からオリジナルキャラクター「ヨネギーズ」(図3-2)というキャラ クターを活用した地域アピール活動を行なってきた.

図 3-2 米子市公式イメージキャラクターヨネギーズ

(米子市役所により画像データを提供)

52

このヨネギーズを主役としたTwitterアカウント(2009年9月5日開設)やmixiコ ミュニティ,Facebookページが開設され,一般ユーザーに直接情報発信をするととも に,会話に見立てたファンとの情報交換も行なっている.このTwitterのヨネギーズの アカウントに対し,ファンから「ヨネギーズとネギの好きな初音ミクがコラボレーショ ンしたらいいのに」という趣旨のコメントが寄せられた.「ヨネギーズ」を運営する米 子市側は「初音ミク」については知ってはいたが,そのようなコラボレーションができ るとは意図はしておらず,ヨネギーズのコメントとして「そんなことがあったら面白 い」という程度のコメントをする程度の反応を返すに過ぎなかった.

このような状況に対し,CFM社はTwitter上にて「何かお手伝いしましょうか」と いったコメントを米子市に送るという展開に出た. CFM社は二次創作から生まれた

「ネギが好きである」という設定と,そのネギを振る「はちゅねミク」を公認してい た.このため,「ヨネギーズ」とコラボレーションしても「はちゅねミク」であれば

「ネギが好きである」という設定から「初音ミク」のイメージを損なうことなくファン も喜ぶのではないかといったCFM社側の柔軟な判断ができたためである.実際,

CFM社はその二次創作キャラクターである「はちゅねミク」と「ヨネギーズ」のコラ ボレーションを提案し,これに「はちゅねミク」を製作したOtomania氏とたまご氏も 好意的態度を示した.米子市とOtomania氏とたまご氏の両氏との直接の交渉から,市 がグッズなどを制作する際の版権料は無料となり,はちゅねミクの漫画である「ろいぱ ら!」に「ヨネギーズ」と「はちゅねミク」のコラボレーション漫画が掲載された.ま たコラボグッズなども創られ,それらが米子市で頒布される運びとなり,「初音ミク」

自体はつながりを持たないものの,その二次創作デフォルメキャラクターである「はち ゅねミク」が米子市に結びつきを持つこととなった.また後日,新潟県で別の創作者が 地元の祭りのために作成した「はちゅねミク」張り子の祭り後の引き取り手を探したと ころ,米子市をはじめとして多くの地域が名乗りを挙げた.この際に,前述のような経 緯から「はちゅねミク」とつながりを持つ米子市に引き取られることに決定し,現在は 米子市役所のホールに設置されている(写真3-1).

ドキュメント内 委員 席終夜え (ページ 60-82)

関連したドキュメント