3. 平成 27-30 年度の実施内容および成果 11
3.2 動力学モデルによる核分裂の記述と中性子エネルギースペクトルの評価 ( 再委託
3.2.3 核分裂生成物の分布と即発中性子の関係 (H30)
さらに即発中性子の起源をさぐるため、核分裂片の荷電偏極の違いによるアイソトープ分布の 違いやスピン切断因子を変化させた場合の即発中性子多重度の違い、複合核の励起エネルギーの 関数として核分裂片や複合核から放出される中性子の多重度を計算し、即発中性子放出の起源に ついての考察を行った。以下、実施内容および成果について説明する。
はじめに荷電偏極の違いによる即発中性子多重度およびスペクトルを確認した。
荷電分布は、核分裂生成物における同じ質量数を物核種の中での個々の同位体の生成割合を決 定する基本的な量である。荷電分布(荷電密度)が核分裂の全過程で変化しない(複合核の荷電 密度が保たれる)という仮定を荷電密度不変(Unchanged Charge Distribution, UCD)と呼ぶ。
この過程では、最確荷電Zpは、核分裂片の質量数Aiに比例し、
Zp(U CD) = (ZF/AF)×Ai (3.4)
で与えられる。ここで、ZF およびAF は、複合核の原子番号と質量数を表す。実際の実験値で
は、Zp(U CD)と異なり、0.5程度ズレが生じることが知られている。このズレは、独立収率およ
びその後のβ崩壊過程に大きな影響を及ぼすことがわかっている[7]。このため、現在のJEDNL やENDFでは、Wahlらが実験データから導かれた経験式、Wahl SystematicsによるZP モデル [8]が広く用いられている。HF3Dモデルにおいても、ZP モデルを用いて荷電分布を生成してい る。ZP モデルによると独立収率は、
YI(Z, A) = 1
2F(A)N(A)[erf(V)−erf(W)], (3.5) V = Z(A)−ZP(A) + 0.5
σZ(A′)√
2 , (3.6)
W = Z(A)−ZP(A)−0.5 σZ(A′)√
2 , (3.7)
と計算され、式(3.7)中のF(A)は、核分裂生成物の質量の偶奇により決まるパラメータで、N(A) は規格化因子である。σZは荷電分布の分布幅、A′はA′ =A+ν(A)で表される即発中性子放出 後の質量数、ZP は荷電分布の中心に位置する電荷(Most probable charge)であり、
ZP = (ZF/AF)×A′+ ∆Z(A′), (3.8) として表される。ここで、∆Z(A′)は、核分裂片の電荷についての複合核の電荷密度からのずれを 示している。
実際に荷電偏極の違いによるアイソトープ分布が、即発中性子多重度およびスペクトルに与 える影響を確認するため、ZP モデルにより∆Z(A′)を考慮した場合と、UCD仮定のみとして
(∆Z(A′) = 0)アイソトープ分布を生成した場合を比較することにした。
図3.2.3-1に示すのは、ZP モデルにより生成されたアイソトープ分布の∆Z(A′)の即発中性子 放出前(Pre)と放出後(Post)の比較である。一方、図 3.2.3-2に示すのは、UCD仮定のみとし た場合の同様のプロットである。即発中性子放出後のアイソトープ分布のUCDからのズレは2 条
件で大きく異なっていることがわかる。
−1.5
−1
−0.5 0 0.5 1 1.5
70 80 90 100 110 120 130 140 150 160
∆Z
Mass
Pre Post
図 3.2.3-1: ZP モデルの∆Z(A)
−1.5
−1
−0.5 0 0.5 1 1.5
70 80 90 100 110 120 130 140 150 160
∆Z
Mass
Pre Post
図3.2.3-2: UCD仮定の∆Z(A)
このような一次収率におけるアイソトープ分布を用いた場合の即発中性子多重度およびスペク トルを比較した。図 3.2.3-3に示した即発中性子多重度は、ZP モデルにより生成された∆Z(A′) を用いた場合(HF3Dモデル)とUCD仮定のみとした場合において、軽い核分裂片は大きな変化 が見られなかった。一方、重い核分裂片では、UCD仮定のみの場合に即発中性子多重度が減少し た。HF3DモデルとUCD仮定における平均多重度νは、2.384と2.251となった。図3.2.3-4に示 した多重度の分布では、UCD仮定を用いた場合に多重度の大きな放出が減少し、多重度の少ない 放出が増加していることがわかる。
また、図 3.2.3-5に示したスペクトルは、UCD仮定を用いた場合に0.5 MeVから2 MeVに特
徴的なディップが現れた。重いフラグメントからの即発中性子放出の減少によるものであると考 えられる。HF3Dモデルが有する0.2 MeV以下における評価済み核データとの相違については、
UCD仮定を用いた場合にさらに大きく見積もられる傾向にある。これは、収率の低い核を計算に 含めるとさらに大きく為る傾向が見られるため、計算上の過大評価の可能性も考えられる。
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
70 80 90 100 110 120 130 140 150 160
Number of Neutrons
Mass Number
Maslin, 1967 Nishio, 1998 Batenkov, 2004 Vorobyev 2010 FH3D model UCD
図3.2.3-3: 即発中性子多重度の質量数依存
0 0.1 0.2 0.3 0.4
0 1 2 3 4 5 6 7
Probability
Number of Neutrons
Diven 1956 Boldeman 1967 Franklyn 1978 Holden 1988 HF3D model UCD
図3.2.3-4: 即発中性子多重度の分布
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
0.1 1 10
Ratio to Maxwellian (T=1.32 MeV)
Secondary Neutron Energy [MeV]
Vorobyev (2009) Kornilov (2010) ENDF/B−VII.1 JENDL4.0u HF3D UCD
図3.2.3-5: 即発中性子スペクトル