第 5 節 予測財務情報の開示の阻害要因
5 分析結果
図表4は、会計情報の質に関する分析結果を示している。
図表 4 分析結果
Panel A Panel B Panel C
利益管理 損失の適時
認識
価値関連性
ÄNI ÄNI/ ÄCFO
CFO&
ACC SPOS LNEG P NIP Good Bad
YEAR1999 0.0023 1.253 -0.481 - - 0.062 0.133 0.007 0.078
YEAR2001 - [**] - - [**] [**] [* ] [**]
YEAR2002 0.0018 0.787 -0.563 -0.018 -0.087 0.080 0.163 0.105 0.040
YEAR2004 [*] [**] [ ] [ ] [**] [**] [**] [**]
YEAR2005 0.0027 1.278 -0.510 -0.253 0.469 0.101 0.174 0.107 0.053
YEAR2006 [**] [**] [**] [**] [**] [**] [**]
YEAR2007 0.0226 4.053 -0.448 -0.327 0.319 0.051 0.030 0.023 0.029
YEAR2008 [**] [**] [**] [**] [**] [**] [**] [**]
[*] 1% significant
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[**] 5% significant
[***] 10% significant
Panel Aは、利益管理の分析結果である。最初の分析では、当期純利益の変化のばらつき
について検証した。当期純利益の変化のばらつきは、第2期の2002-2004年度に最も小さく、
第3期の2005-2006年度に再び大きくなっている。特に、第4期の2007-2008年度における
当期純利益の変化のばらつきは、これまでになく大きい数値を示している。当期純利益の 変化のばらつきが小さいことは、利益管理が行われていることを表す。各期間の当期純利 益の変化のばらつきに差があるか否かについて、ウィルコクスンの順位和検定で検証した ところ、第1期と第2期および第3期と第4期において、残差に差異が見られることが明 らかになった。
第 2 の分析では、当期純利益の変化のばらつき対営業キャッシュ・フローの変化のばら つき比率について検証した。当期純利益の変化のばらつき対営業キャッシュ・フローの変 化のばらつき比率は、第2期の2002-2004年度だけ1を下回っている。これは、第2期に利 益管理が行われていることを表す。第4期の2007-2008年度には、最も大きな数値が示され ており、利益管理が行われなくなっていることを表す。
第 3 の分析では、発生項目と営業キャッシュ・フローのそれぞれの残差の相関関係につ いて検証した。相関係数は4期間を通して負の値である。第2期の2002-2004年度において、
最も負の値は大きく、第2期に利益管理が行われていたことが理解できる。ここでも、第4
期の2007-2008年度には、相関係数は他の期間に比較して最も小さくなっており、徐々に利
益管理が行われなくなっていることを表す。
最後に、経営者の利益管理に向けての行動について、少額の当期純利益の頻度から分析 した。少額の当期純利益の頻度を測定するSPOSの係数は、すべての期間において負の値を 示しており、その値は徐々に大きくなっている。
Panel Aの分析結果から、第2期の2002-2004年度において、もっとも利益管理が行われ
ていたこと、および第4期の2007-2008年度には、利益管理が行われなくなっていることが 明らかになる。
Panel Bは、損失の適時認識の分析結果である。損失の適時認識の頻度を測定するLNEG
の係数は、第1 期から第 2期において負の値を示しており、利益管理が行われていること を示している。しかし、第2期から第3期および第3期から第4期にかけて正の値を示し ており、損失の適時認識が行われて、利益管理が行われなくなっていることが理解できる。
Panel Cは、価値関連性の分析結果である。価値評価モデルにおけるR2は、3期間を通し
て高くない。第3 期の2005-2006 年度において、R2は最も高く0.101 であった。第4期の
2007-2008年度では、他の期間に比較してR2は0.051と最も低い数値を示していた。この傾
向は、株式リターンモデルの変形モデルにおいても同様である。株価利益倍率についての
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R2も、3期間を通して高くないが、第3期のR2が最も高く0.107であった。第4期では、
R2は0.030へと大幅に下落した。
次に、株式リターンが正である場合と負である場合とに分けて、グッド・ニュース時と バッド・ニュース時における株価利益倍率に対する説明力について分析した。その結果で
は、第1期の1999-2001年度と第4期の2007-2008年度以外、グッド・ニュース時にはバッ
ド・ニュース時よりもR2は高い。
Panel Cの分析結果から、第2期の2002-2004年度および第3期の2005-2006年度におい て、利益管理が行われていたこと、および第1期の1999-2001年度と第4期の2007-2008年 度には、利益管理が行われていないことが明らかになる。
6 結論
本研究では、会計基準の国際的収斂が進む中で、日本の会計基準の IFRSs への収斂が、
会計情報の質を高めているか否かについて、利益管理、損失の適時認識および価値関連性 の 3 つの視点から実証的に検討した。分析結果では、会計ビッグ・バン以降、日本の会計
基準が IFRSs への収斂を意識して設定および改訂されてきたにもかかわらず、第 2 期の
2002-2004 年度において、もっとも利益管理が行われていたことが明らかになった。逆に、
ASBJとIASBの間で会計基準の国際的収斂に向けての活動が活発化して、日本の会計基準
がIFRSsと同等であると評価された第4期の2007-2008年度になって、ようやく利益管理が
行われなくなっていることが明らかになった。しかし、会計情報の価値説明力は全体を通 して高くない。特に、利益管理が行われていないと判断される第 4 期にはもっとも価値説 明力が低く、投資者を中心とした情報利用者に対して有用な情報を提供していないのでは ないかという疑問が明らかになった。
現在、日本の会計基準は完全に IFRSs と同一ではない。本研究の分析は、日本の会計基
準が IFRSs と同等のものに近づいていることを前提としている。今後、日本の会計基準が
IFRSsとの調整を進め、あるいはIFRSsを受け入れた場合に、異なった結果が得られる可能
性がある。
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補論(6)
利益属性の国際比較にみる IFRS 導入に向けた研究上の課題
加賀谷哲之(一橋大学)
1 利益属性研究をめぐる新潮流
近年、利益属性の国際比較研究に対する関心が高まっている。この背後には、IFRS(国際 財務報告基準)へのコンバージェンスへの動向が急速に展開していることに対するアカデミ ズムの危機感があるように感じられる。
EUが2005年にEU域内の上場企業の連結財務諸表にIFRSを強制適用するという方針を 打ち出して以降、急速に世界的に進展しているIFRSへの潮流に対して、当初アカデミズム は一定の距離感を保ちつつ、沈黙を守ってきたといっても過言ではない1。しかし近年、IFRS の潮流に対して積極的に発信を行う研究が急増している。とりわけ会計基準の差異や変化 が利益属性に与える影響に注目する研究が増大している。
これには大きく以下の2つの要因が作用していると考える。1つは、EUやアメリカにお けるIFRS の任意・強制適用企業の増大に伴い、IFRSと各国基準の差異やIFRS 導入による 影響の定量的なデータベースが構築されてきたことがあげられる。これに伴い、IFRS の導 入の効果を、企業の総合的な業績指標である利益の属性の変化に照らして分析している研 究が増大しているのである。
いま1つは、各国の経済・法・社会システムの特徴が企業の成果指標としての利益数値の 属性に強く反映されるとの認識が広がりつつあることがあげられる。IFRS へのコンバージ ェンスが、会計基準を国際的に統合・収斂化する試みだとすれば、そこで想定される会計シ ステムが各国の経済・法・企業システムと整合的であるのかを確認するために、各国の利益 属性の特徴などを比較検討する動きが加速しているのである。
会計システムとは各国の経済・法・企業システムにおける長い歴史の中で形成されてき たものである。グローバル資本主義の進展に伴い、会計システムを国際的に統合化・収斂化 する必要性を理解しつつも、これまでに各国で積み上げられてきた会計システムの何をど のように変化させ、何を維持すべきかが十分に検討されないまま会計基準を国際的に統合 化・収斂化させていくことはかえって企業会計が果たしてきた本質的な役割や機能を低下 させる可能性もある2。こうした危機感が、利益属性にかかわる研究の進展を後押ししてい ると考えられる。本稿の狙いは、利益属性の国際比較研究を整理したうえで、IFRS 導入に 向けて検討すべき分析視点と今後検討すべき研究課題を提示することにある。
2 IFRS 導入のインパクトと利益属性
1 ここでいうIFRSには、IAS、IFRSの双方を含めていることに留意されたい。
2 こうした意識を背景に、Whittington(2008)、AAA(2009)では、IASBやFASBが共同で作成している概 念フレームワークを検討しつつ、それとは異なる概念フレームワークの必要性を主張している。