• 検索結果がありません。

処置に対する予防法

ドキュメント内 GL改訂版_宮武班_O.indd (ページ 30-33)

 ハイリスク群の患者では,口腔を衛生的に保つ必要が ある.そのためには,歯科治療の前やスケーリングなど の口腔内の処置を実施する前に,炎症を抑えるために口 腔内の洗浄を実施すること,定期的に歯科医のケアを受 けることが必要である.手動または電動歯ブラシ,糸よ うじ,その他の歯垢除去用具などの使用も適切な指導の もとに行う必要がある.乱暴なブラッシングは歯肉や歯 周を傷つけることになり,菌血症の誘因となるからであ る.歯科手技を必要とする病態を有していると,感染性 心内膜炎が高頻度にみられるという可能性も考慮しなく てはならない224.特にわが国では,歯周炎を放置して 表 13 中心静脈にカテーテルを挿入,留置するときの一般的注意

抗菌薬の予防投与 不要

カテーテルの挿入部位 内頸静脈は,鎖骨下静脈よりも血液 感染が多い

鎖骨下静脈は,内頸静脈より機械的 合併症が多い

皮下トンネルを作った方が感染が少 ない

着用するもの ガウン,マスク,帽子

皮膚の消毒 消毒には十分な時間をかけて行う

(少なくとも2分以上)

留置後の管理 毎日,挿入部位の発赤,感染の有無 の観察

挿入部周囲が不潔にならないよう工 夫

食事,排泄などの時に不潔になりや すい各施設の感染症予防委員会が独自に 設定したマニュアルの遵守

いる事例が多く,ハイリスク患者を診察する循環器内科 医は,患者の口腔内の状態にも気を配り,適切な治療を 実施すべく歯科医に紹介すべきである(表14).

 歯科手技・処置の直前に塩酸クロルヘキシジンやポビ ドンヨードなどの口腔消毒薬を使用すると,菌血症の発 症率やその程度が抑制されるといわれている.わが国で は塩酸クロルヘキシジンは発売されていない.グルコン 酸クロルヘキシジンが発売されているが,この薬剤の口 腔粘膜への適用は1985年から禁忌とされている.それ はわが国で膀胱や外陰部消毒に際してアナフィラキシー が報告されたためである.グルコン酸クロルヘキシジン による口腔洗浄についてはショックの報告はない225も のの,翌年,日本での発売元は禁忌としている.わが国 で使用できる口腔洗浄液はポビドンヨードガーグルであ る.15〜30倍に希釈したポビドンヨードガーグル15 ml を用いて,歯科処置の約30秒前に,リスクのある患者 全例に軽く口腔洗浄させる.また,口腔洗浄をやり過ぎ ると,耐性菌を誘発するという226

 ハイリスク患者に,菌血症を誘発しうる歯科の手技・

処置を実施する場合には,抗菌薬の予防投与が推奨され ている.一般に,抗菌薬の予防投与をすべき手技は,多 量の出血を伴う処置であり,抜歯,歯周手術,スケーリ ング,インプラントの植え込み,歯根管に対するピンな どの植え込みなどである.基本的に出血を伴ったり,根 尖を超えるような大きな侵襲を伴うものでは抗菌薬の予 防投与が勧められるという認識でよい.一方,2007年 に改訂された

AHA

のガイドラインでは,抗菌薬の予防 投与は費用対効果バランスからみて必ずしも優れている わけでもなく,また必ずしも科学的根拠があるものでも なく,その対象も限定すべきであるとしている.実際に 歯科処置による菌血症以外に,日常的に菌血症は高頻度 に生じていることもその裏づけとされている.

 歯科手技は,決して感染性心内膜炎のリスクにはなっ ていないという報告もある185.フィラデルフィア地域 での感染性心内膜炎に関する調査によると,感染性心内 膜炎発症の3ヶ月以内に歯科処置を行った割合は,年齢 や性別を一致させた一般近隣住民と差はなく,歯科処置 が感染性心内膜炎を引き起こしたという証拠はなかっ た190.また,抗菌薬による予防が感染性心内膜炎の発 症抑制に有効であったという証拠も示せなかった.ただ

表 14 ハイリスク患者における歯科における予防法 口腔内洗浄の推奨

定期的な歯科受診

電動歯ブラシを含めた正しい口腔内ケアの指導

し感染性心内膜炎を起こしたハイリスク患者では,起こ さなかった対象よりも,明らかに抗菌薬による予防を実 施していなかったという.

 扁桃摘出術やアデノイド摘出術には抗菌薬の予防投与 が必要である.手技・処置後4時間以上経てから抗菌薬 を投与しても,予防効果はおそらくない.

 標的となる原因菌が患者の年齢や歯周炎の状態により 異なっていることが指摘されており,一律な抗菌薬の予 防投与は,考慮すべき問題かもしれない.口腔内のフロ ーラは,健康な小児では,グラム陽性球菌であるが,歯 周炎を有する高齢者では,グラム陰性の嫌気性菌に変わ っていく204.また抗菌薬の全身投与が,たとえその抗 菌薬が原因菌に対して有効であったとしても歯科処置後 の菌血症を完璧には予防できないといわれている195. 抗菌薬投与の意義は,菌血症の予防ではなく,菌血症と なったときに速やかに菌を根絶することであると強調さ れている227

 歯,口腔に対する手技・処置,上気道に対する特定の 手技・処置,硬性気管支鏡による検査,食道内の手技・

処置後に発症する感染性心内膜炎の原因菌として最も多 い の は

Streptococcus viridans

で あ る.予 防は,特に

Streptococcus viridans

に対して行うべきである.その他 のすべての手技・処置に対しても同じ予防法でよい.

 米国のガイドライン3では,抗菌薬の選択と投与量に ついて臨床効果については十分な根拠はないものの,血 中濃度,菌血症の頻度という視点から推奨し,50年以 上の歴史を築いてきた228.以下はこの予防法に準拠し たものである.米国のガイドラインの標準的予防法は,

アモキシシリンの単回経口投与である.アモキシシリン,

アンピシリン,ペニシリン

V

のα型溶血性連鎖球菌に対

するin vitroの効果は同等であるが,アモキシシリンが

消化管からの吸収がより良好で,より高い血中濃度が達 成され,より長く維持される.このためアモキシシリン が推奨される.成人用量はアモキシシリン2.0 g(小児

用量は50 mg/kgで成人用量を超えない用量)で,処置

予定の一時間前に投与する.健常人30名の単回投与の 血中濃度を調べた米国の研究228は,この投与法により,

投与後1時間から6時間まで薬剤の血中濃度が,感染性 心内膜炎を引き起こすほとんどの口腔内連鎖球菌の最小 発育阻止濃度の数倍以上に維持されることを示した.処 置が6時間以内に終了すれば,追加投与の必要はない.

2.0 gという投与量が,わが国では高用量過ぎる可能性

がある.投与量の根拠となる研究の対象の平均体重は

70 kgであり,血中濃度が体重と大きく関連していた事

実もあるので,わが国においては必ずしも2.0 gが必要

量ではないと思われる.成人では,体重あたり30 mg/

kg

でも十分ではないかということも言われている228の で,体重の少ない女性では,1.0〜1.5 gという投与量の 選択も十分に理解できるところである.

 日本化学療法学会口腔外科委員会では,アモキシシリ ン大量投与による下痢の可能性,およびアンピシリン2

g

点滴静注とアモキシシリン500 mg経口投与で抜歯後 の血液培養陽性率がともに約20%程度で大差なかった,

という論文を踏まえて,リスクの少ない患者に対しては,

アモキシシリン500 mg経口投与を提唱している229),230. また米国のガイドラインにあるセファレキシン,セファ ドロキシルは近年

MIC

が上昇しているとの判断で省い ている229

 米国の

AHA

ガイドラインも十分に科学的根拠がある ものではなく,2007年にその予防対象が大幅に変更さ れたくらいである.このように抗菌薬による予防は,科 学的根拠に基づくというよりも,いかに医療従事者ある いは対象となる患者に疾患について周知普及させるかと いうことに重点が置かれるべきであると考える.

 よって,一律の投与量を設定することが,疾患の知識 の普及に有用であるという当ガイドライン委員会の考え 方に変更はない.今回のガイドラインでも,2.0 gとい う数字のみを表に掲載し,投与量の調節については主治 医の裁量を認める形で付記をつけることにした.わが国 では,欧米の2.0 gの単回投与と薬力学的に同等になる ような投与法についての十分なデータはない.経口投与

が不可能な患者では,アンピシリンナトリウムが推奨さ れる.

 ペニシリン(アモキシシリン,アンピシリン,ペニシ リンなど)にアレルギーのある患者には別の経口抗菌薬 を使用する.クリンダマイシンはその1つである.第1 世代セファロスポリン(セファレキシンまたはセファド ロキシル)に耐えられる患者では,ペニシリンに対する 局所の,または全身の

lgE

による即時型アナフィラキシ ー反応の既往がない限り,これらの薬剤を投与してもよ い.

 アジスロマイシンとクラリスロマイシンも,ペニシリ ンアレルギー患者に使用できる薬剤であるが,他の薬剤 を用いた場合より高価となる.ペニシリンアレルギー患 者に非経口投与が必要な場合には,クリンダマイシンが 推奨される.また,患者がペニシリンに対して全身また は局所の即時型アナフィラキシーを示さない場合には,

セファゾリンが投与できる.以上をまとめ,表15に示 した.

 さらに,菌が抗菌薬に耐性を有しているか否かも重要 である.わが国のように抗菌薬が多用されている医療現 場では,耐性菌が多いことが予想される.1979年時点 でも,わが国は,咽頭フローラの

Streptococcus viridans

の72%がエリスロマイシン耐性であると報告231されて いることは認識すべきである.

表 15 歯科,口腔手技,処置に対する抗菌薬による予防法

対   象 抗  菌  薬 投  与  方  法

経口投与可能 アモキシシリン 成人:2.0 g(注1)を処置1時間前に経口投与(注1,2)

小児:50 mg/kgを処置1時間前に経口投与 経口投与不能 アンピシリン 成人:2.0 gを処置前30分以内に筋注あるいは静注

小児:50 mg/kgを処置前30分以内に筋注あるいは静注

ペニシリンアレルギー を有する場合

クリンダマイシン 成人:600 mgを処置1時間前に経口投与 小児:20 mg/kgを処置1時間前に経口投与 セファレキシンあるいはセファドロキシル

(注3)

成人:2.0 gを処置1時間前に経口投与 小児:50 mg/kgを処置1時間前に経口投与 アジスロマイシンあるいは

クラリスロマイシン

成人:500 mgを処置1時間前に経口投与 小児:15 mg/kgを処置1時間前に経口投与

ペニシリンアレルギー を有して経口投与不能

クリンダマイシン 成人:600 mgを処置30分以内に静注 小児:20 mg/kgを処置30分以内に静注 セファゾリン 成人:1.0 gを処置30分以内に筋注あるいは静注

小児:25 mg/kgを処置30分以内に筋注あるいは静注 注1)体格,体重に応じて減量可能である(成人では,体重あたり30 mg/kgでも十分と言われている).

注2) 日本化学療法学会では,アモキシシリン大量投与による下痢の可能性を踏まえて,リスクの少ない患者に対しては,アモキシ シリン500 mg経口投与を提唱している(本文参照)

注3)セファレキシン,セファドロキシルは近年MICが上昇していることに留意すべきである.(本文参照)

ドキュメント内 GL改訂版_宮武班_O.indd (ページ 30-33)

関連したドキュメント