3.2 円管内サスペンション流れで見られる粒子集中現象
3.2.2 共存する二つの粒子集中位置
Fig. 29に1/10⩽β ⩽1/5の範囲で得られた粒子平衡位置の分岐図を描いた.横軸にRe数,
縦軸には球中心の存在可能領域で規格化した平衡位置の動径距離をとっている.管中央には,対 称性から,粒子平衡位置が必ず存在する.ただし正方形管の場合と同様で,本研究で調べた範 囲において管中央の平衡位置はいつも不安定であり,また粒子平衡位置の分岐現象に関与しな いことがわかっている.実線でつながれた○および◇印は安定な粒子平衡位置,つまり粒子集 中位置を表している.破線でつながれた×印は不安定な粒子平衡位置である.Fig. 29から,二 つの安定な粒子平衡位置が共存するRe数領域(図中の黄色領域)はそれぞれ黒および青色で描 いたサイズ比β = 1/10,1/7.5の場合に存在することが捉えられる.またそのようなRe領域で は,二つの安定な平衡位置の間に必ず不安定な平衡位置(×印)が存在することが見てとれる.
これらのサイズ比における○印は実験で観察された外側環に,◇印は内側環に対応すると考え られる.β = 1/6.7,1/5の場合(緑および赤色)には二つの粒子集中位置が現れるRe数領域は現 れないことがわかった.より多くのサイズ比の場合の分岐図を得る必要があるが,Fig. 29を見 るとRe数に関するre曲線は,βが大きくなるにつれて波の突っ立ちの逆再生のような変化を することが考えられる.粒子平衡位置のRe数に対して多価である領域はサイズ比が大きい場合 になるにつれて狭まるとともに低Re数側に移動し,特定のサイズ比を超えると消滅することが 示唆される.
0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
200 400 600 800 1000
Re
re (D/2)(1−β)
β= 1/10
β = 1/7.5 β= 1/6.7
β= 1/5
Figure 29. 粒子平衡位置のRe数変化.1/10⩽β ⩽1/5.実線でつながれた○または◇印: 安定 な粒子平衡位置,破線でつながれた×印: 不安定な粒子平衡位置.◇印は観察実験での内側環 に相当する.
二つの粒子集中位置が現れるRe数領域が存在する場合の分岐構造について,β = 1/10の場 合の揚力分布を例にあげて説明する.Fig. 30aにβ = 1/10の場合で100⩽Re⩽1000の範囲で 得られた揚力の動径方向分布を示す.図中のRe = 100,200,400の場合では,粒子平衡位置が動 径上に一つ存在することが見てとれる.これらはFig. 28の場合と同様の特徴であり,安定な粒 子平衡位置とわかる.この範囲ではRe数が大きい場合になるにつれて,平衡位置の動径距離が 大きくなる(管壁側に寄る)ことが捉えられる.Fig. 29からわかるように,この傾向はRe⪅600 まで見られる.
-6.0e-03 -4.0e-03 -2.0e-03 0.0e+00 2.0e-03 4.0e-03 6.0e-03
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-1.0e-03 -5.0e-04 0.0e+00 5.0e-04
0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
r/(D/2) r/(D/2)
Fr/(ρU2 d2 )
Re
= 10
0 Re
=200
Re= Re =400700 Re =1000
Re
= 600
Re = 700
R e
= 80
0 R
e
= 90
0
(a) (b)
Figure 30. 揚力分布のRe数変化.β = 1/10.○および◇印は安定な粒子平衡位置,×印は不
安定な平衡位置である.管中央の□印は不安定な粒子平衡位置を表す.(a) 100 ⩽ Re⩽ 1000.
(b) 600⩽Re⩽900の場合に得られた平衡位置付近の拡大図.揚力分布をつなぐ点は計算点で
ある.
Re = 700の場合(Fig. 30aの緑色の曲線)となると,複数(○,×,◇印)の粒子平衡位置が動径 上に出現する.粒子平衡位置が一つの場合(Re⪅600)から変化を詳細に見るために,Fig. 30b に600 ⩽Re ⩽900の場合の粒子平衡位置付近の揚力分布を拡大した図を描いた.図中のいず れのRe数の場合においても,揚力分布に極小点が存在し,それに伴って管壁側にもう一つの極 大点が現れる.この特徴はFig. 30aのRe = 100,200では見られないが,Re = 400の場合(黒 色の一点鎖線)には確認できる.Re = 600の場合からRe = 700の場合への変化を見ると,揚 力分布に現れた極小値が負となった際に,Re⪅600の場合で存在していた粒子平衡位置(○印) とは別の平衡位置が二つ同時に出現して合計三つとなることが捉えられる.加わった二つの粒 子平衡位置の内の管壁側の平衡位置(×印)は,その近傍管中央側の揚力が負であり管壁側が正 であることから,不安定な粒子平衡位置である.管中央側(◇印)は同様の見方から安定な粒子 平衡位置であることがわかる.分岐図を見てもわかるように,この変化はサドル・ノード分岐
である.Re = 700の場合の特徴はRe = 800の場合でも見られる.Re = 800からRe = 900の 場合となると,揚力分布にある管壁側の極大値が負になることで,○印と×印の粒子平衡位置 が消滅することが見てとれる.そのためRe⪆800では,前述のサドル・ノード分岐で出現した 安定な粒子平衡位置(◇印)のみが残る.この変化もサドル・ノード分岐と捉えられる.
0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
200 400 600 800 1000
Re re (D/2)(1−β)
Figure 31. 本数値解析結果(実線と破線)とNakayama et al.[5]の観察実験結果(○印)の比較.
β= 1/10.黄色の領域は二つの安定な粒子平衡位置が存在するRe数領域を表す.
本研究で得られた粒子平衡位置の分岐図とNakayama et al.[5]による観察実験結果の比較を
Fig. 31に描いた.Re⩽600における粒子集中位置,二つの集中位置が共存するRe数領域,お
よび内側環の動径距離(青色○印)がRe数の増加に従って減少する特徴に関して,観察結果と 本数値解析結果がよく一致していることが見てとれる.
最後に,二つの安定な粒子平衡位置が共存するRe領域をもたないサイズ比の場合の特徴を,
β = 1/6.7の場合の数値解析結果を用いて説明する.Fig. 32aに100 ⩽ Re ⩽ 800の場合に得 られた揚力分布を示す.サイズ比β = 1/10の場合と同様で,揚力分布は比較的低Re数領域 (Re⪅350)で一つの極大点をもち,高Re数領域(Re⪆500)においては二つの極大点と一つの 極小点をもつことが見てとれる.ただしいずれのRe数の場合でも,現れる粒子平衡位置の数は 一つである.複数の極値が現れる揚力分布となるRe数付近に注目するために,Fig. 32aでそれ ぞれ青色と黄色で示したRe = 350,500の間の詳細な変化をFig. 32bに描いた.350⩽Re⩽450 のどの場合においても,揚力分布に極小点が存在しない.450<Re <500の特定のRe数を超 えた際に,極小点およびそれに伴う極大点が揚力分布に出現するとわかる.ただし,その極小 値は負であり,それに伴って出現した極大点の値も負となると捉えられる.それゆえ,比較的 小さいサイズ比(β = 1/10,1/7.5)の場合のような二つの粒子集中点をとるRe数領域は現れな いことがわかる.
-1.0e-02 -5.0e-03 0.0e+00 5.0e-03 1.0e-02
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-1.5e-03 -1.0e-03 -5.0e-04 0.0e+00 5.0e-04 1.0e-03 1.5e-03
0.5 0.55 0.6 0.65 0.7 0.75
r/(D/2) r/(D/2)
Fr/(ρU2 d2 )
R e
= 10
0 Re
=200
Re= 350 Re=
500
R e
= 60
0 R
e
= 80
0
Re= 350 Re =400
Re = 450
R e
= 50
0
(a) (b)
Figure 32. 揚力分布のRe数変化.β = 1/6.7.(a) 100 ⩽Re⩽800,(b) 350⩽Re ⩽500 (拡 大図).緑色の一点鎖線: Re = 410,緑色の破線: Re = 420,赤色の点線: Re = 430,赤色の一 点鎖線: Re = 440.
4 結言
管内サスペンション流れで見られる浮遊粒子の多様な集中現象を系統的に理解するために,管 内流れに中立浮遊する球に作用する揚力の管断面内分布をさまざまなパラメーターの場合に数 値的に求めることで,断面内に出現する粒子平衡位置を探索するとともにその安定性を評価し た.また一部のパラメーターセットに関しては,管内流れに浮遊する球形粒子の観察実験を実 行して数値解析による予測の確認を試みた.
管断面形状が正方形管の場合に実験的に示された,粒子集中パターンのRe数による複雑な移 り変わりは,管断面内に現れる粒子平衡位置に関する分岐現象として捉えるとよく説明される ことがわかった.粒子径と管断面の幅の比βによる平衡位置の分岐構造の変化が明らかとなり,
現れる粒子集中パターンの種類やそれらの遷移の順序に違いが生まれることが示された.100 オーダーのRe数で見られる中間集中点の断面内位置のRe数変化に関しては,球中心の管断面 内での存在可能領域で規格化すると,それが出現する場合ではサイズ比βによらず動径位置お よび方位角ともにRe数の一次関数で概ね予測できることが示唆された.また,比較的大きいサ イズ比でのみ現れると数値的に予測された,対角集中点のみの粒子集中パターンは本研究で実 行した観察実験によって初めて示された.
円管の場合で見られた外側環と内側環についても,球に作用する揚力の管断面動径方向分布 のRe数変化を追うことで,粒子平衡位置の分岐現象として説明できることがわかった.さまざ まなサイズ比βの場合について調べた結果,二つの粒子集中位置が共存する現象は比較的小さ いサイズ比の場合にのみ見られることが数値的に確認された.
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