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共同研究等

ドキュメント内 東北大学遺伝生態研究センター年報 1999 (ページ 45-89)

1平成10年度ワークショップ報告

ワークショップ「生物の生殖と遺伝的多様性」を終えて

東北大学遺伝生態研究センター 高橋 秀幸 本センターの重点共同研究として, 「遺伝的多様性を獲得するための配偶子形成における生物分子機 構」に関する研究がスタートした。生物が多様な環境に適応・進化してきた過程は,それぞれの生物 が独自の遺伝的多様性を獲得した結果であり,また,その遺伝的多様性の獲得機構は生殖過程にもっ

とも顕著にみられる。本重点共同研究は,減数分裂過程において高頻度に生じる遺伝子組換え機構, チェックポイント制御機構,雌雄の配偶子形成機構,性分化,自家不和合性などの自己非自己認識機 構を解明し,それによって生態系を構成する生物種の多様性と変異性,それらに対する環境変動の影 響を考察することを目的としている。このような研究活動を背景に,平成10年度ワークショップ「生 物の生殖と遺伝的多様性」が平成10年12月4‑5日の2日間にわたって本センターにおいて開催され

た。

1日目は「減数分裂と遺伝子組換え」, 「花器官形成」, 「自家不和合性」について話題が提供された。

まず堀田民らは,ユリ花粉母細胞を用いて,減数分裂期に特異的に発現する遺伝子群の解析を展開し, これまでにそのアミノ酸配列から相同的な遺伝子が兄いだされていない新規の減数分裂特異的遺伝子

群, Lim5, 13遺伝子ファミリーとLim7ならびにLim16の解析結果を中心に報告した。なかでも Lim5,13ファミリーは,その抗体を用いた解析から,減数分裂前期の対合している染色体上にそれら 遺伝子産物が存在することが確かめられ,さらに酵母のツーハイブリッド系により,ヒストンH2Aと Lim13は蛋白質一蛋白質の直接的な相互作用を示すことを明らかにした。このことは,新規のLim5, 13遺伝子ファミリーの産物が,減数分裂期の染色体構造のダイナミクスに深く関わる可能性を示唆し ている。また, Lim7ならびにLim16は核移行シグナル配列を持ち, Lim14はグリシンに富む細胞壁 蛋白質であることが報告された。これらの成果は,特に新規の遺伝子についての系統的な研究のアプ

ローチ,分子レベル,細胞レベル,組織レベルでの研究方法の指針として,他の様々な研究に応用で きる事例を提唱し,実に有意義な内容であった。次に東谷氏は,生物が多様な環境に適応し進化して きた過程を考える上での,子孫における遺伝的多様性獲得の機構として,有性生殖サイクルとその減 数分裂過程での高頻度にみられる相同染色体間遺伝子組換えについての研究を発表した.このなかで

東谷氏は,線虫(Caenorhabditis elegans)やオオムギを実験材料に用いて,減数分裂過程での遺伝子 組換え機構とその制御系,ならびに生殖細胞形成に対する高温ストレスの影響についての最新の研究 現状を紹介するとともに,生殖細胞形成における分子マーカーの作成の可能性と意義,ならびに生殖 細胞形成の生物種での多様性と普遍性について報告した。

「花器官形成」では,雀氏らがアスパラガスを用いたこれまでの研究成果を報告し,詳細な核型解析 から性染色体を明確にし,両性花植物から単性花を着生する雌雄異株植物への系統進化を分子レベル で証明するとともに,アスパラガスの花の性分化の様相を明らかにするためにABCモデル関連の遺 伝子を単離していることを明らかにした。つづいて土本氏は,このABCモデルについて詳細に解説 し,多くの表現型を紹介しながら花の器官形成機構の普遍性と多様性を示した。また,土本氏は突然 変異体の例からABCモデルが花の雌雄性を制御している可能性も報告した。最近は,これらABCモ

デルと植物ホルモンの関係も明らかになりつつあるという。これまでは花の性表現と植物ホルモンの 関係は示きれていたが,これらのアプローチはその分子機構を知るための大きな糸口となるものと考

えられる。

自家不和合性は,まさに種内の遺伝的多様性を保持し,多様に変化する環境に適応するために植物 が獲得した巧みな戦略である。渡辺民らと西尾氏は,それぞれアブラナ科植物の自家不和合性認識反 応を制御するS遺伝子に関するこれまでの研究を紹介した。 S遺伝子産物として同定されたS糖蛋白

質(SLG)に関するパイオニア的な研究成果,その遺伝子(SL,G)とS‑receptorkinase遺伝子(SRK) の解析から,とくに柱頭側の自家不和合性の認識機構が解明されつつあるが,最近は,花粉側の認識 特異性を明らかにするための研究も進められているということであった。一方,神山氏は,ヒルガオ 科とナス科の自家不和合性に関する研究結果を紹介し,胞子体型自家不和合性を示すサツマイモ近縁 野生種において,自家不和合性を支配する約50種類のS複対立遺伝子を伺定し,その分子生物学的解 析を行なっていることを報告した。これらの研究で,配偶体型自家不和合性を示すトマト野生種にお いては,雌蕊におけるS複対立遺伝子産物としてS‑RNaseを同定し,ナス科の自家不和合性反応には このS‑RNaseの酵素活性が不可欠であることが明らかにされた。

2日目は, 「性分化と環境ストレス」に関する話題が提供された。はじめに,山崎氏らがキュウリの 花の性分化に対するエチレンの作用機構について発表した。キュウリではエチレンが花の雌性化因子 であると考えられているが,山崎氏らは, ACC合成酵素遺伝子のCS‑ACS2に加えて,キュウリから 初めてエチレンリセブタ‑遺伝子(CS‑ETR2/CS‑ERS)を単離し,それらの遺伝子発現と花の性分 化の関係を解析した.その結果,キュウリの茎頂では, CS‑ACS2の発現量が雌花形成に必要な内生エ チレン量を制御し,さらに,エチレンによって制御されるCS‑ERSおよびCS‑ETR2の発現が花の雌 性化を調節し,それらの違いが花の性表現を異にするキュウリの品種間差異を説明しうることが示さ

れた。

次に阿部氏は,雌雄異株植物のアスパラガスの花芽形成と性分化に関するこれまでの研究を総括し, 阿部氏らが開発した花成誘導法および生理活性物質を用いた分子・生化学的研究の結果を報告した。と

くに雌雄異株植物の花芽形成・性分化と関連して発現する遺伝子のクローニングやブラシノライド阻 害剤の花芽形成に対する影響などが注目された。性分化の研究も遺伝子発現の解析や生理・生化学的 研究によって,著しい進展を遂げていることを感じさせる。

最後に,西山氏が「環境ストレスに対する生き残り戦略としての花粉数」と題して,イネの冷害の 中でもっとも激甚な被害を与える穂ばらみ期不受精の問題が花粉数にあることを突き止め,この研究 がイネの冷害問題を解決するだけでなく,植物の環境ストレスに対する生き残り戦略などの遺伝生態 学的な面でも重要な展開になることを報告した。

ワークショップ会場は,講演者および遠方からこられた方も含めた多くの参加者で埋め尽くされた。

多くの若い学生たちが参加してくれたことはとくに嬉しかった。後日,参加者からいただいた感想を いくつか以下に紹介する。

「植物の生殖器官形成,配偶子形成,自家不和合性など,最近,分子レベルでの解析が進みつつある 研究分野を網羅した形でのワークショップであった。最近の流れとして,どうしてもテーマが細分化

されたモノになりつつあるところで, "植物の生殖全般"の様な形式でのワークショップであったこと に意義があったのではないだろうか。こうしたワークショップを通して,近くて遠い分野の研究者の

交流が活発になり,相互の"和合性"が高まればと思ったりもした。さらに,共同研究に発展できれば, 個々に咲いた花に,より大きな結実が得られるのではないだろうか。」

渡辺正夫(岩手大学農学部)

「多くの生物に的を絞って研究をしていることに気がついた。普段実験をしているときは何とも思わ ないが,その研究のbackgroundには必ず生物というものがあり,地球環境というものがあるのだと いうことを痛感した。今回,未熟のままこのワークショップに参加したため,理解の難しい内容のも のもあったが,この次行われる際には質問の1つや2つはできるように心がけたい。」

高田美信(岩手大学農学部3年)

「自家不和合性というテーマで研究をしているが,研究室に入ってからというものずっと自家不和合 性についてばかり勉強をしてきた。自家不和合性以外の研究にふれる機会も少なく自分の世界すべて が自家不和合性になりつつあったので,今回のような機会を与えていただいたことで,視野が広がっ たような気がした。」

二宮知恵(岩手大学農学部3年) これらの参加者から寄せられた感想にもあるように,個々の研究に関する議論はなされるが,生殖 をテーマに比較的幅広い分野の研究者が集まって議論する機会はほとんどないのが現状である。しか し,私たちが重点共同研究で目指す目標は,生殖機構の多様性の理解によって達成されるものであり, 今回のワークショップは,これからの私たちの研究に指針を与えるものとしても成果をあげたものと 考えている。もちろん,生殖機構という大変大きな課題を本ワークショップだけでカバーすることは できないが,十分な討論の時間を持つこともできて,充実したワークショップになったのではないか と思う。講演者をはじめ,参加者,ワークショップの準備に当ってくださった本研究センターの東谷 篤志氏,共同利用掛のみなさんに感謝します。

ワークショップ「微生物の共生戦略の分子機構と多様性」を終えて

東北大学遺伝生態研究センター 南洋  究 平成10年12月7日, 8日に東北大学遺伝生態研究センターの会議室において「微生物の共生戦略の 分子機構と多様性」というタイトルで,植物と微生物の相互作用を様々な側面から取り上げるワ丁ク

ショップを行った。おそらく,植物と微生物の相互作用の分子機構や共生微生物の多様性を広い範囲 で取り上げたワークショップとしては初めての試みではないかと思われる。そのためか,当日は話題 提供者以外にも,遠方から予想以上の研究者・学生・民間企業の方々に参加して頂いた。まずは,こ の分野に関心を持つ,様々なバックグランドを持った研究者間で,交流や情報交換ができたという点 だけでも大変意味があったと思っている。

本ワークショップでは「根粒菌とマメ科植物の共生機構」 「共生病原微生物の遺伝的多様性と適応進 化」 「共生微生物の多様性とその利用」という非常に広範な発展途上の分野を扱ったために,個々の話 題は大変興味深いものであったが,企画全体の意図が捕えにくい感があったので,今後のためにも若 干の感想も交えて本ワークショップの意図を紹介したい。

植物は微生物の充満した環境下で進化を遂げており,その過程で特定の微生物と寄生や共生の相互

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