㈱命令ワークシ ョ ッ プ命令‑
【遺伝生態研究の台頭,発展,そして未来への展望】
「遺伝生態研究センター」は,平成10年3月に10年の存続期限を迎え, 4月からはまた新しく「遺 伝生態研究」の成熟と完成を目指して再出発することになっている。この重要な節目にあたり,平成 9年度の本センターのワークショップでは,11月7, 8日の両日,仙台市旭ヶ丘市民センターにおいて, これまで本センターで開拓し,発展させてきた「遺伝生態研究」の成果について総括するとともに, 今後この研究をどのように飛躍・完成させていくのか,また今日われわれを取り巻く環境や生態系が 大きく変化する中で, 「遺伝生態研究」がどのような役割と使命を担っているか,その重要性と将来 の展望とを,仙台市中央市民センターとの共催で,広く市民にも問いかけ,共に考える機会にするこ とを試みた。その結果,学内外および市民も含め約100名の参加を得て活発な討議がなされ,極めて 有意義なワークショップとなった。
一日目は, 「遺伝生態研究の台頭,発展,そして未来への展望」と遺して,本センターの亀谷寿昭 教授から「遺伝子のレベルからみた遺伝生態研究」,そして熊谷忠教授から「光環境生物学からみた 遺伝生態研究」についてそれぞれの研究分野の立場から,これまで行ってきた「遺伝生態研究」につ いて講演があった。次いで大摘巨センター長から次年度以降の新しい「遺伝生態研究センター」の研究 目標,内容そして抱負について紹介があった後,本センターの南洋究教授の司会で総合討論が進めら れた。この討論では,これまで本センターで行ってきた「環境要因の変化」, 「遺伝子発現の変化」そ
して「生物種の応答反応の変化」をキーワードとする研究の成果を,自然生態系での生物の営みに如 何に結びつけていくかなど,活発な討論が繰り広げられた。また,同じ会場の異なるフロアでは,本 センターで行われてきた独自の研究や,他の研究機関の研究者との間で行われてきた共同研究に関し, 合計35題の「展示発表」がなされ,趣向を凝らした色とりどりの展示や学生諸君による熱心な説明には, 市民からも「もっと討論の時間を長くして欲しい」などの要望がでるなど,高い評価を得ることがで
きた。
二日目は, 「地球環境が変わると生物の生活はどうなるか」という主課題の下に,広島大学の堀越 孝雄教授から「地球環境の変動と菌根共生系」,岡山大学の武田和義教授から「ストレス環境に対す る植物の適応と遺伝資源」,そして京都大学の河野昭一教授からは「植物はどのように環境変動に過 応しているか‥ その調節機能と分化のしくみを探る」と題する講演があった。講演の後,本センター の客員教授である東京大学の杉山純多教授の司会で,パネルディスカッションがもたれた。市民から
も多くの質問がだされ, 「遺伝生態研究」に対する力強い支援となった。午後は,東京大学の石弘之 教授から「21世紀の地球環境と日本」と題するグローバルな立場からの特別講演があった。これらの 講演は,いずれも自然科学の面だけでなく,人文科学の側面からも論じられたものであり,われわれ「遺
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伝生態研究」に携わる者,とくにこれからの「遺伝生態研究」を担っていく若手研究者や学生には, 極めて意義深いものとなった。これら二日間にわたって開催されたワークショップは,非常に盛りだ
くさんのものとなり,討論等に十分な時間が取れなかったことなど一部心残りな点もあったが,それ だけに会場からこのようなワークショップの再開催を希望する意見も出されたことは,われわれ研究 者にとって何よりの励みとなった。ノ
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噂埠‑埠共同利用研究命‑令
植物の形質発現と適応機構の分子遺伝学的解析(整理番号 972001)
河野昭一,芝地博幸(京都大・院理)平塚明(東北大・院理) 大瀧保,石栗義雄(東北大・遺生研)
日本産野生シロイヌナズナ8系統を用いて開花に見られる表現型の変異を遺伝子レベルの変異で解 析する試みを行った。 (1)低温処理(8hr短日/5C)との組合せの下に制御環境条件下(明16hr/25C
;暗8hr/20C)での正確な開花までの日数を測定した。 (2)花成時期決定遺伝子FRIおよびFLCの遺 伝子型が決定しているCorとLerを用い野生8系統との交配を行いその後代における開花までの日数 の分離を解析した。 (3)上述の両遺伝子座の近傍に位置するマイクロサテライトマーカーを用いてF
2個体の遺伝子型を決定し開花までの日数との対応を検討した。その結果, 8系統の開花までの日数 には20から110日までの変異がみられ,いずれも低温による短縮を示したことから日本産野生系統は FRI対立遺伝子を保有することが示唆された。 Fl世代ではCorとの交配の結果両親より開花が延長 されるグループ(FRIFRI/flcflc)と同じか幾分短縮されるグループ(FRIFRI/FLCFLC)が兄い出され
た。 Lerでは(FRIfri/flcflc)と(FRIfri/FLCflc)の二つのグループが考えられた。 F2世代では各グループの代表系統(KT,NG)を対象とした。 Cor xKTにおいて, KTあるいはColに由来するflcの ホモ接合をもつ個体はFRIを持つにも関わらず開花を短縮し, Ler x NGでLerに由来するflcのホモ 接合をもつ個体も同様であった。しかし, KT由来のFRIかつCol由来のFLCを一つ以上もつ個体は 花成が抑制され, NG由来のFLCをもつ個体はFRIとは無関係に花成が抑制された。さらに,戻し交 雑を含めた詳細な検討によってFLC遺伝子の役割を明らかにした。
高等植物における浸透圧ストレス耐性機能の解析と耐性遺伝子の導入(整理番号 97声001)
高畑義人,和久井健司(岩手大・農),亀谷寿昭(東北大・遺生研) ァブラナ科植物の小胞子由来肱はアブサイシン酸により乾燥耐性を獲得する。乾燥耐性を誘導した
ナタネ(B,assica naPus)の小胞子肱から単離したLEA遺伝子ME‑leaN4が乾燥耐性に関与している かどうかを明らかにするため,本遺伝子を大腸菌で発現させ,大腸菌の浸透圧ストレス耐性を調査し た。発現ベクターpKK223‑2にME‑leaN4を導入し,大腸菌を形質転換した後, 9%NaClおよび 36.4%Mソルビトール下で生育させた。どちらの条件下でも野生型はほとんど増殖できなかったが, ME‑leaN4を発現させた大腸菌は増殖し,ストレス耐性を示した。また,本遺伝子の翻訳産物に対す
る抗体を作成し,タンパク質の発現を確認した。以上の結果は, ME‑leaN4遺伝子が浸透圧ストレス 耐性に関与していることを示唆している。
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草地の実験個体群における群落構造に及ぼす近紫外光の影響(整理番号 973002)
寺井謙次(秋田大・教育),熊谷 忠(東北大・遺生研) これまで,草地の実験群落構成種は近紫外光に対して異なる感受性を示し,それによって,無処理 の場合との比較において,種間関係や種内の個体間相互関係が著しく異なってくる可能性を指摘して
きた。そのなかで,個体のレベルでの動向について,これまでは,各個体の重量成長を平均値による 等質の値として扱ってきた。しかし実際には,感受性が強いマメ科草では個体の枯死が多く観察され たにもかかわらず,成長にともない個体識別が困難になることから個体数の低下を捨象し,現象を説 明してきた。
本年度の実験では,感受性が強いホワイト・クローバの各個体について,平面成長におけるストロ ン伸長の分散構造変化を追跡し,個体識別をもとに枯死の過程ともあわせて検討した。その結果, (∋
群落レベルではこれまでと同様に,マメ科草が無処理区に比べ, UV‑BとUv‑Cの処理区で不利性が 拡大した。しかし, (参これらの処理区では個体数が,純群落で20%‑25%,混合群落では実に45%〜
65%も低下していることがわかった。前年度までの試験では,個体間の補償的な成長を前提にして, 個体の成長量を過小に評価してきた。また,個体群内の死亡の過程が,一般にみられる過程とは異なり, 死亡が個体群成長の初期の段階に集中していることなどが注目された。
水環境に対する根の適応機構の解析(整理番号 973003)
平沢正・大川泰一郎(東京農工大学農学部), 高橋秀幸・藤井伸治(東北大学遺伝生態研究センター) 伸長しつつある根の細胞の膨圧をpressure probeで直接測定するための実験系を前年度確立した。
本年度はこの実験系でエンドウの突然変異株(ageotropum)を用いて水分屈性によって屈曲しつつあ る根の伸長細胞の水の透過係数を比較した。その結果,偏差生長時に伸長速度が大きく異なる表皮に 近い皮層細胞では,根の低湿度側にある細胞は高湿度側にある細胞に比較して水の透過係数が大きい ことがわかった。本研究によって根の水分屈性は根端からのシグナルによって細胞の水の透過性が変 化して偏差生長がおこるというこれまでの推察が確かめられた。
アカバンカビにおける光信号伝達の遺伝学的研究整理番号(973004)
村山肇子,望月優子(関東学院大・工),官署 厚,大瀧 保(東北大・遺生研) アカバンカビでは,青色光照射後, cAMPレベルが低下することが報告されている。 cAMPcas‑
cadeを経る光信号の伝達と応答の経路を観るべくCAMP cascadeに関与すると思われる遺伝子の突然 変異体の解析を行った。その結果から,青色光照射によりcAMPレベルが低下し,信号伝達経路を経 て信号が伝わり,気中菌糸先端での分生子形成とcarotenoid形成が促進されるものと考えられた。
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ドキュメント内
東北大学遺伝生態研究センター年報 1998
(ページ 39-50)