4-1 問題点①:日本型福祉国家の性質と新しいタイプの貧困との関連の問題
・問題の所在
先行研究では,日本の生活保障システムの機能は脆弱であるため,逆機能をもたらしてい る(大沢 2014),社会移転の貧困削減効果がきわめて小さい(駒村ほか 2010)等,日本型福 祉国家の機能の脆弱性により,貧困がもたらされているとされている.だが,筆者は,日本 型福祉国家の機能が脆弱であるというより,日本型福祉国家の機能そのものが,格差を縮小 したり貧困への対策をしようとする際に逆の効果を持ってしまっているのではないか,と 考える.すなわち,日本には近年の社会状況の変化により,新しいタイプの貧困が生じてお り,それは従来の日本型福祉国家が対応するものとしての想定を超えたものであるため,そ れに対応しきれない,また,ある一定の場合においては,逆の効果をもたらし貧困を生じさ せているのではないか.その新しいタイプの貧困と,日本型福祉国家の性質は強く関連づく であろうし,それを関連づける段階において,日本型福祉国家がどのような経緯で,また,
どのような前提でその制度を作ってきたか,ということが浮き彫りになるだろう.そのため には先行研究のなかで,日本型福祉国家の性質について,および日本における貧困の原因に ついてどういった見解が述べられているか確認する必要がある.福祉国家と貧困に関する 先行研究の調査からは,次のようなことが分かる.
関連する先行研究は,大きく 2 つに分かれる.1 つは,アンデルセンやカザ,ウイレンス キー,宮本,埋橋等による,いわゆる福祉国家研究である.福祉国家研究は,福祉国家とは そもそもどういうものか,その定義や意味を考察する,それぞれの福祉国家の特徴や性質を 知るために分類する,といった研究を行う.そしてもう 1 つは,貧困に陥っている実際の事 例をもとに,貧困の実態や貧困に陥ってしまった経緯や原因を分析する,調査データをもと に貧困の規模を測定する,などといった貧困研究である.こちらの研究も大沢,駒村ほか,
岩田等によって行われている.
福祉国家研究は福祉国家の誕生時からはじまっており,各国で様々な研究がなされ,今日 まで発展してきた.一方貧困研究の方も,産業化とともにはじまり,貧困対策のための政策 決定に貢献する研究として発展した.日本においても,戦後とくに福祉の見直しの時期に入 ってからは,福祉国家研究,貧困研究ともに盛んに行われるようになってきた.しかしその 2 つの研究は,いわば別々に行われており,2 つの研究を合わせ福祉国家と貧困との関連を 明確に示した研究はほとんど行われていない.この点が福祉国家と貧困に関する先行研究 の問題点であると考える.
・解決のために行うこと
筆者は,福祉国家,特に日本の福祉国家としてのあり方,すなわち「日本型福祉国家」の
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性質と,日本において社会状況の変化とともに急激に拡大している「新しいタイプの貧困」
が強く関連づくのではないか,と考えている.そこで,本研究において,日本型福祉国家の 性質を福祉国家類型論と福祉国家の発展経緯の研究の立場から明確に示し,同時に貧困研 究の立場から,日本において新たに生じている貧困リスクや,貧困の起こる経緯や原因を明 らかにする.その上で,その 2 つの事柄,すなわち日本型福祉国家の性質と日本における新 しいタイプの貧困との関連を示すことを試みる.それはすなわち,2 つの分立している研究 である,福祉国家研究と貧困研究を結びつける試みである.
具体的には,福祉国家類型や日本型福祉国家の発展経緯から読み取れる日本型福祉国家 の性質を再度,分析,検討し,日本型福祉国家の性質を明確にする.また国際比較データに よる日本型福祉国家の性質の再分析を行う.そして実際の貧困事例から読み取れる,貧困に 陥ってしまう過程や原因の分析を行い,いくつかのパターンに分けた上で,両者がどのよう に関連するのかを示す.
4-2 問題点②:日本型福祉国家の機能が逆に働くことで起こる貧困の問題
・問題の所在
先行研究では,日本型福祉国家は市場経済が生み出す富の格差を是正し,また貧困に対す る対処をすることを期待されているが,その機能が機能不全で脆弱なため,格差や貧困に対 応しきれていない,ということに言及している(岩田 2007,駒村 2010,大沢 2014).ほか にも福祉のシステムから排除されることによって貧困に陥る人々がいる,ということも,先 行研究では述べられている(大沢 2014,2015).
しかし,筆者は実際には,日本において急激に格差や貧困が拡大しているのは,日本型福 祉国家の機能が脆弱なためというよりは,日本型福祉国家の機能そのものが,ある種の貧困 を生み出し,ある一定の不利な人々を貧困に陥れているのではないか,と考えている.つま り,日本には以前には存在しなかった新しい種類の貧困リスクや貧困が生じており,日本型 福祉国家の機能でそれに対応しきれていない.そして,その機能が一定の場面では逆に働き,
新しいタイプの貧困を生じさせてしまう場合があるということである.しかしそのことを 示した先行研究はなく,実際に日本型福祉国家の機能を受けることで貧困に陥っている事 例を検証したものもない.この点が福祉国家と貧困に関する先行研究の第 2 の問題点であ ると考える.
・解決のために行うこと
そこで,本研究では,新しい貧困の存在を確認し,日本型福祉国家の機能が逆に働くこと によって,そういった新しいタイプの貧困に陥ってしまう事例を検証したい.例えば,その 機能として予想されるのは,保険の強制加入による保険料の負担である.国民健康保険料や 国民年金保険料の強制徴収により,低所得者にとっては生活費が足りなくなり,貧困に陥る
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こういったケースは,しばしば日本型福祉国家の「脆弱性」や「機能不全」による貧困で ある,とされるかもしれないが,そのような見方で片づけてしまってはならないと考える.
なぜなら,貧困が日本型福祉国家の機能の脆弱性やのためであるとすると,今後,政治や世 論の動きが,現行の福祉制度や社会保障制度をそのまま強化することによって,貧困に対応 しようとするだろう.そうすると現在,現行の制度が逆効果となり,貧困に陥っている人の 生活はますます苦しくなる恐れがあるのだ.それゆえ,今後の福祉国家研究および貧困研究 においては,「日本型福祉国家の機能が逆に働き,貧困に陥る場合がある」ことを強調する 必要がある.また,どういった場面でそのような逆機能が起こるのか,その具体的状況を示 す必要がある.本研究での検証によってそのことに焦点を当て,今後の福祉国家研究および 貧困研究の課題として提示したいと考えている.
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