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MLLF

4.2.2    先制投資均衡

L(

T )

> F(

T )となる T

の領域(

T

P

, T

F

)では,どの企業も先導者となるインセン

ティブを持つ。いま,企業iが開ループ戦略に従って(あるいは独占企業のよ うに),先導者のオプション価値を最大にするような閾値

T

Lで投資を試みたと する。このとき,企業jの追随者価値はF(

T

L

)となる。命題1より

L(

T

L

)

>F(

T

L

)

であり,Lは連続関数なので,L(

T

L

H )

>F(

T

L

)となる。それゆえ,企業

jは企業 iを先制して

T

L

H

で投資することで,価値を向上させることができる。企業i

の価値はF(

T

L

H )となるが,L( T

L 2

H ) > F( T

L

H )であるから,企業

jの先制投

資を予想した企業iは,

T

L 2

H

で投資して先導者になろうとする。このことを 予想した企業jは,

T

L 3

H

でさらなる先制投資をする。 このように,

T

>

T

P

ある限りL(

T )

> F(

T )となるので,両企業とも相手企業よりも先んじて投資し

ようとする。つまり,企業間で先導者となるための競争が繰り広げられ,オプ ション・ゲームは「先制ゲーム(preemption game)」の性質を示す。

一方,

T

<

T

PではF(

T )

>L(

T )となるので,先導者になるインセンティブを持

つ企業はいない。つまり,どの企業も相手企業による先制投資の恐れに直面す ることはない。これは,状態があまりにも低水準であるため,相手より先んじ て投資しても,投資費用Iを賄えるほどの採算が取れないからである。このと きは,状態がさらに良くなるまで投資を待つほうが価値は高くなる。つまり,

−58− 寡占市場のオプション・ゲーム:標準モデルの展望と産業組織分析への展開

オプション・ゲームは「消耗戦(war of attrition)」の性質を示す。

以上の議論から,先導者の閾値は先制閾値

T

Pとなる。

T

 (0,

T

F

)では

F(

T )

>

M(

T )となるので(性質8),先導者が T

Pで投資したときは,他の企業は

T

Pで同

時に投資するよりも,

T

Fまで投資を待って追随者となるほうが価値は高くなる。

均衡での先導者価値はL(

T

P

)となり,追随者価値

F(

T

P

)と同じ水準である。こ

れは,「レント均等化(rent equalization)命題」と呼ばれ,互いに先導者にな るべく相手企業を先制しようとして,先導者のオプション価値を最大化する閾 値

T

Lよりも早く,さらには先導者のレントが消滅してしまうほど早く投資する という現象である。

先制投資均衡についてより正確に述べると,初期状態

T (0)

=

T

0から始まる部 分ゲームに応じて,先導者の閾値は変わる。次の3つの部分ゲームを考えるこ とができる。

ϸ)

T

0d

T

Pのとき,F(

T

0

)

•L(

T

0

)であるから, D = 0

となり,どの企業も投資し ない。

T (t)

=

T

Pに到達すると,どちらかの企業が投資を実行する。L(

T

P

)

=F(

T

P

)

より,

D ( T

P

)

= 0となる38)。これより,pL= 1/2,pM= 0である。つまり,

T (t)

=

T

Pで,どちらかの企業が確率 1/2 で先導者として投資を行い,両企業が同時に 投資することはない39)

Ϲ)

T

0 (

T

P

, T

F

)のとき,

L(

T

0

)

>F(

T

0

)となるから,両企業とも先導者として投資

することを目指す。(111)式,(113)式,(115)式より,

) 0 ( ) (

) ( ) ) ( (

0 0

0

0 0

!

T T

T T T

D L C

F

L , (116)

―――――――――――――――――――――――――――

38) より正確には,TPよりもわずかに大きな値でD> 0となるので,この状態でどちらか の企業が先導者として投資をする。したがって,ほぼTPで投資すると見なしてもよい。

39) Dixit and Pindyck(1994)等の初期モデルでは,TPで両企業が先導者として投資する インセンティブを持つときは,(コインを投げるなどして)確率1/2で一方の企業にの み投資機会を与えると仮定している。これは,T0dTPのケースに限り正しい仮定であっ た。

寡占市場のオプション・ゲーム:標準モデルの展望と産業組織分析への展開 −59−

) 0 ( 2

) ( 1

0

0

!

T D

T D

p

L

, (117)

) 0 ( 2

) (

0

0

!

D T T D

p

M

. (118)

このことから,

T

0では両企業とも混合戦略に従って投資をする。先導者になっ た企業は

T

0で投資をし,他の企業は

T

Fで投資をして追随者となる。この事態が 発生する確率がpLである。また,pM> 0より,

T

0で両企業が同時に投資する可 能性がある。このときは,L(

T

0

)

>F(

T

0

)

>M(

T

0

)なので(性質8,10),同時に

投資してしまうと,両企業とも最も低い価値を得ることになる(協調の失敗

(coordination failure))。

T

0での価値の期待値は,

V(

D

i

( T

0

), D

j

( T

0

))

=pLL(

T

0

)

+pLF(

T

0

)

+pMM(

T

0

)

) ) ( ( 2

) )} (

( ) ( ) { ( 2

) ( 1

0 0 0 0

0 0

0

T

T D

T T D

T T D

T

D L F M

=

F(

T

0

). (119)

つまり,

T

0ですぐに投資しても,あるいは追随者として

T

Fで投資しても,期待 値で見るとどちらの価値も同じになる。

Ϻ)

T

0t

T

Fのとき,両企業とも

T

0で同時に投資をする。このとき,M(

T

0

)

=L(

T

0

)

= F(

T

0

), D ( T

0

)

= 1となる。

以上より,閉ループ均衡(

D *,

G*)は,

0

T < T

Pのとき)

D *( T )

=

( ) ( ) ) ( ) (

T T

T T

M L

F L

T

 [

T

P

, T

F

]のとき) (120) 1

T > T

Fのとき).

これより,

0

T < T

Pのとき)

1

T

t

T

Pのとき).

G*(

T )

=

−60− 寡占市場のオプション・ゲーム:標準モデルの展望と産業組織分析への展開

・先制投資均衡(

T

0d

T

Pのとき)

先導者は

T

Pで投資し,追随者は

T

Fで投資する。

追随者の閾値

T

F は開ループ均衡と同じなので,閉ループ均衡戦略は事前コ ミットメントされた投資のタイミングと変わらない。なぜならば,追随者とし て投資することは,オプションの占有者と同じであるので,相手企業の戦略を 考慮に入れず投資を決定するからである。したがって,戦略効果はなく,開ルー プ戦略と同じようにオプション価値が最大になる閾値で投資するのである。

これに対して,先導者の閾値は

T

P(<

T

L)となり,開ループ均衡よりも投資 時期が早まる。開ループ均衡戦略

T

Lには,オプション効果のみが考慮されてい るが,閉ループ均衡戦略

T

Pには,先制ゲームをプレイすることによる戦略効果 が含まれている。したがって,投資決定について戦略効果が支配し,オプショ ン価値を最大にする閾値よりも早く投資する。

オプション効果が強くなると投資時間は遅れるが,戦略効果が強いと投資時 間を早めることから,2つの効果は互いにトレード・オフの関係にある。また,

先導者価値は戦略効果が強く作用し,追随者価値はオプション効果が強く作用 することが分かる。

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