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第
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節 目的オ シ ョ ロ コ マ や ア メ マ ス ( イ ワ ナ 、Salvelinus leucomaenis) 、 ヤ マ メ ( サ ク ラ マ ス 幼 魚 、 Oncorhynchus masou)などの河川性サケ科魚類は、単独または混生にかかわらずマイクロハ ビタット内において摂餌のために定位する場所等を巡って争いが起こり、順位関係が生ずるこ とが知られている(Nakano, 1995a; Nakano & Furukawa-Tanaka, 1994; Nakanoら, 1992)。順位 関係の成立には様々な要因が考えられるが、体サイズが順位関係の成立の大きな要因である とされてきた(古川, 1978; 名越, 1980; Nakano, 1994; Nakano, 1995b; Nakanoら, 1991)。
同所的にサケ科魚類が生息する場合、その中で個体間に順位が生じ、食性に影響を与えるこ とが知られている(Nakanoet al., 1992; Nakano & Tanaka, 1994)。しかし、具体的な順位の成立 課程ついては解明されていない。
魚類においてその栄養状態はいくつかの器官や成分から推察することができる。例えば、
栄養状態の良さは腸壁の円柱上皮細胞が長さに反映することが知られている(McLees &
Moon, 1989)。また、ニザダイの仲間(Acanthurus nigrofuscus)の場合、腸長/体長比が摂食
中には3.0、2〜3日の絶食で1.4と約1/2まで低くなる(岩井, 1991; Montgomery & Pollak,
1998)。一方、脂質の内、特にトリグリセライドとリン脂質は運動エネルギーの貯蔵物質、細胞
膜の成分として重要であり(里見, 1969; Larry, 1987; 示野ら, 1996)、これらの含有量を栄養状 態の指標とすることが可能である(太田ら, 1974; 笠原ら, 1993; Zenitani, 1995; 野村ら, 2002)。現在までに、魚類の発育段階初期において、栄養状態を知るための指標として脂質
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含量を用いた研究は多くされてきた(例えば、鈴木ら, 1994; 東, 1996; 隼野ら, 1999; 虎尾,
2001)。しかし、サケ科魚類の成魚に対する研究はシロザケ(Oncorhynchus keta)やカラフトマ
ス(O. gorbuscha)に関するもので(坂田ら, 1985)、河川性のサケ科魚類についての研究はな い。
魚 類 の 組 織 中 の 核 酸 (DNA お よ び RNA) と タ ン パ ク 質 の 含 有 量 、RNA/DNA 比 、
Protein/DNA 比は栄養状態などの生理的な活性によって変動することが知られており(里見,
1969; 中野ら, 1985; 福田ら, 1986a; 福田ら, 1986b; Folkvord & Moksness, 1995)、栄養状態
を示す指標になり得ると言われている(Buckley, 1984; Bulow, 1987)。
第 3 章でオショロコマの天然餌料に対する餌の選択性について明らかにしたが、餌を選択
することによる影響について検討する必要があると思われた。そこで本章では、形態学、組織
学、生理学の観点からオショロコマの栄養状態を調べ、個体群内順位決定の第 1 要因と考え
られる体長または年齢および食性と栄養状態を比較することによって、個体群内の順位が栄 養状態に与える影響について考察した。また、カラフトマスの場合、トリグリセライドは海水適応 能の獲得の際に消費され、リン脂質は逆に増加することが知られている(太田・山田, 1974;
Wedemeyerら, 1980; 坂田ら, 1985; Takeuchi, 1990; 笠原ら, 1993)。本研究での調査河川は
過去に降海型のオショロコマの採捕が確認されており(馬谷, 2002; 小宮山, 2003)、今回の調 査でトリグリセライドが減少し、リン脂質が増加した個体の出現が見られれば、知床半島内の河 川におけるオショロコマの生活史の解明の糸口となることが予想された。
81 第2節 材料および方法
第1項 調査地
個体群内の順位と栄養状態の関係を明らかにするとともに、オショロコマの生活史の解明を 考慮したため本研究ではペレケ川で調査を行った。調査は北海道斜里町のペレケ川で行っ
た(Fig. 4-1)。ペレケ川は流程約10 km、約7 kmの河川でオホーツク海へ流れ込んでいる。河
口から100 mほどは、両岸にブロックで護岸が施され、河床も20 m間隔で落差工(床固工)が
見られた。河口から約100 m地点から 1号砂防ダムまではコンクリートによる3 面護岸が施さ
れており、幅約2 mの魚道状であった。さらに、数10 m間隔に落差工と溜まりが配置されてい
た。河床は、落差工下の溜まり部分にレキなどの堆積が見られたが、魚道状の流路はコンクリ
ートがむき出しになっていた。オショロコマの採捕は河口から第1砂防ダムと第2砂防ダム直下
までの区間(約1.3 km)で行った。ただし、第1砂防ダムより下流、河口までの区間では放流さ
れたと思われるサクラマス幼魚が多数生息することが知られているため(馬谷, 2002)、同所的 に他魚種と生息することによりオショロコマの生態に影響が生じていることが予想された。また、
1 号砂防ダムには魚道が設置されているが、馬谷(2002)によるとオショロコマに関してこの魚
道の利用率は低いものと推測している。しかし、今回の調査期間中に1号砂防ダム上流でカラ
フトマス(稚魚および親魚)を確認したことから魚類の遡上は不可能ではないものとした。一方、
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2 号ダムには魚道が設置されておらず魚類の遡上が不可能であること、ヒグマの出没の可能
性があり行政からの指導があったことから今回の調査区間から除外した。
第2項 供試材料
2004年5月28日から同年10月31日までの間に各月1回、ペレケ川河口から第1砂防ダ
ムと第2砂防ダム直下までの区間(約1.3 km)内で計89個体を電気漁具(エレクトリックショッ
カー、Smith Root社、10-b型)とタモ網および投網、補足的に釣りにより採取し、現場にて標準 体長、尾叉長、体重を測定し、氷冷して研究室に持ち帰り、分析まで-85 ℃で保存した。
第3項 食性および生態
保存していたオショロコマを解凍後、開腹し消化管を取り出し、内容物を含んだ消化管の重量を
mg 単位で計測し、消化管内容物を取り出した後に空の消化管重量を計測してそれらの差から消
化管内容物重量を算出した。その後、腸管を幽門垂直後から切り離し、そこから肛門までの長さを
腸管長として0.1 mm単位で測定した。また、開腹時に肝臓重量、生殖腺重量をmg単位で計測し
た。
得られた標準体長と体重から肥満度を、標準体長と腸管長から腸長/標準体長比を、体重と肝
臓重量から肝重指数を、体重と消化管内容物重量から胃充満度を、体重と生殖腺重量から生殖
腺指数を求めた。各式を以下に示す。
83 肥満度(CF、‰)=体重(g)/(体長(cm))3×1000
腸長/標準体長比(IL/SL ratio)=腸長(cm)/標準体長(cm)
肝重指数(LSI、%)=肝臓重量(g)/体重(g)×100
胃充満度(ISF、%)=消化管内容物重量(g)/体重(g)×100
生殖腺指数(GSI、%)=生殖腺重量(g)/体重(g)×100
さらに、各個体について、解剖時に原則として左側の耳石を採取し、Heiser(1966)の方法に従
って耳石の不透明帯の数を計数し(Plate 4-1)、さらに、背鰭後方と側線の中間付近の鱗を約20枚
採取し、Nakamuraら(1998)の方法によって鱗の透明帯を計数し、年齢を推定した。
解剖し、取り出した消化管中の餌生物は 10%ホルマリン溶液で固定し、肉眼および実体顕微鏡
下でできる限り種まで同定し、分類群毎に個体数および湿重量を測定した。なお、カゲロウ目の亜
成虫(subimagoまたはdun、脱皮途中も含む)や水生昆虫の成虫は陸上生活をすることから陸生動
物に、トビケラ目や水生ハエ目の蛹(pupa)は水生動物として計測した。餌生物の同定、分類は第2
章と同様に行った。
第4項 組織切片作成法
魚類の腸管には小腸(small intestine)や大腸(large intestine)といった区別はないが、しばしば
十二指腸(duodenum)、中腸(mid-gut)および直腸(rectum)の 3 部位に区別される場合や腸前部
(anterior intestine)および腸後部(posterior intestine)の2部位に区別される(小栗, 1977)。これら
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に明瞭な区別はないが組織の構造が異なることが予想されたため、保存していたオショロコマを解
凍後、内容物を取り出した腸管を3等分し、幽門垂側を腸前部、肛門側を腸後部としてそれぞれブ
アン氏液で固定した。その後、通常のパラフィン包埋法により5μmの連続組織切片を作成し、デラ
フィールドのヘマトキシリン-エオシン 2 重染色を施した。その後、光学顕微鏡下で腸前部と腸後
部についてそれぞれ円柱上皮細胞の長さを任意に3カ所測定し(Plate 4.2)、その平均値を円柱上
皮細胞長として使用した。
第5項 脂質含量測定法
脂質含量、すなわち脂質クラスとしてトリグリセライド(TG)とリン脂質(PL)について分析した。分
析に際して-85 ℃で保存していたオショロコマを解凍後、解剖し、肝臓約200 mg を取り出しエタノ
ール-エーテル混合液(3:1、v/v)と共に1,000 rpmで30秒間ホモジナイズし、これを2,500 rpmで
20分間円心分離し、その上澄み液を採取し分析に供した。トリグリセライド、リン脂質の測定は和光
純薬工業株式会社製の試薬キット、それぞれトリグリセライドEテストワコー、リン脂質Cテストワコー
を用いて測定した。
第6項 核酸、タンパク質量測定法
オショロコマを解剖後、筋肉約500 mgを0.25 M sucrose-1 mM EDTA-20 mM Tris-HCl(pH
7.5)溶液を入れたマイクロチューブに入れ、-85 ℃で実験まで保存した。核酸の抽出および定
量は、中野(1988)によるSTS変法に、タンパク質量の測定は、Lowry法(Lowryら, 1951)によ
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って行い、それぞれ組織1 g当たりの含有量あるいは含有率に換算して分析に使用した。
第3節 結果
第1項 食性および生態
各月における魚体を計測した平均値をTable 4-1に示した。標準体長(SL)は5月から8月
まで13.7-14.4 cmの間で変動し、9月に15.5 cmと高い値を示したが、10月には14.8 cmと減
少した。体重(BW)も標準体長と同様な傾向を示し、5月から8月まで42.9-52.2 gの間で変動
し、9月に71.8 gと高い値を示し10月に58.5 gと減少した。標準体長および体重に有意な季
節変動は見られなかった(Krukal-Wallis検定、標準体長: H = 2.5, p = 0.78、体重: H = 5.0, p
= 0.42)。胃充満度(ISF)は5月と9月がそれぞれ6.1、6.3%と高く、ついで6月、7月がそれ
ぞれ3.7、3.9%を示し、8月と10月はそれぞれ2.7、1.5%と低い値を示した。胃充満度には有
意な季節変動が見られた(Krukal-Wallis検定、H = 31.1, p < 0.001)。
各月におけるオショロコマの体長組成をFig. 4-2に示した。すべての月において10 cm未満
の個体は得られなかった。モードは5月の10.0 - 11.9 cmを除くすべての月で12.0 - 13.9 cm
に見られた。また、5月、6月および8月には16.0 - 17.9 cmにもピークが見られた。
Heiser(1966)およびNakamuraら(1998)の方法によって耳石の不透明帯の数および鱗の透
明体の数を解析して求めた推定年齢から、各月におけるオショロコマの年齢組成をFig. 4-3に