第 5 章 計算例 24
5.3 例題 3 .ダイナミクスの変化による分割数の増加
例題1,例題2では離散抽象化による分割が停止するシステムを用いて,離散抽象化を 行うための実際の手順や計算結果の説明を行った.しかし,一般的にハイブリッドシステ ムの離散抽象化では停止性が保障されておらず,本研究で用いている確率ハイブリドシス テムの場合も同様である.
この節では(5.1)式の確定的ハイブリッドシステムに異なる連続ダイナミクスを追加し,
それぞれ離散抽象化を行い領域数の変化について考察する.
例題2で用いた確率的に状態が変化しない例をCase ➀として,以下のCase ➁,Case➂ に示す連続ダイナミクスを(5.1)式に追加する.
Case ➀:入力によらずx(k+ 1)がx(k)から変化しない Case ➁:入力によらずx(k)の第1要素の正負が切り替わる
Case ➂:元のダイナミクスとは逆の回転方向に遷移する.回転角度は元のダイナミクス よりも小さい.
Case ➁の式は
x(k+ 1) =
0.8
[
cos(π/3) −sin(π/3) sin(π/3) cos(π/3)
]
x(t) + [
0 1 ]
u(t)
with the prob. pr(1,1) = 0.8 [−1 0
0 1 ]
x(t) + [
0 0 ]
u(t)
with the prob. pr(1,2) = 0.2 if x(k)∈ S1
0.8 [
cos(−π/3) −sin(−π/3) sin(−π/3) cos(−π/3)
]
x(t) + [
0 1 ]
u(t) with the prob. pr(2,1) = 0.9 [−1 0
0 1 ]
x(t) + [
0 0 ]
u(t)
with the prob. pr(2,2) = 0.1 if x(k)∈ S2
(5.6)
Case ➂の式は
x(k+ 1) =
0.8
[
cos(π/3) −sin(π/3) sin(π/3) cos(π/3)
] x(t) +
[ 0 1 ]
u(t)
with the prob. pr(1,1) = 0.8 0.8
[
cos(−π/27) −sin(−π/27) sin(−π/27) cos(−π/27)
]
x(t) + [
0 1 ]
u(t)
with the prob. pr(1,2) = 0.2 if x(k)∈ S1
0.8 [
cos(−π/3) −sin(−π/3) sin(−π/3) cos(−π/3)
] x(t) +
[ 0 1 ]
u(t) with the prob. pr(2,1) = 0.9 0.8
[
cos(π/27) −sin(π/27) sin(π/27) cos(π/27)
]
x(t) + [
0 1 ]
u(t)
with the prob. pr(2,2) = 0.1 if x(k)∈ S2
(5.7)
とした.それぞれの式で表される振る舞いを図5.9に示す.
例題1,例題2と同様の初期分割を与えて離散抽象化を行った.拡張状態空間や入力の 範囲,モードの領域などは(5.1)式と同様である.結果として得られた領域の分割数を以
図 5.9: 各Caseでの振る舞い
下の表に示す.初期分割として4つの領域を与えているため,どの式もk = 0では分割数 が4つである.図5.10に,得られた結果を片対数グラフで示す.
表 5.1: 抽象化回数と領域の分割数 ステップ数 領域の分割数
k Case ➀ Case ➁ Case ➂
0 4 4 4
1 8 8 12
2 8 14 26
3 8 34 77
4 8 131 3273
Case➀は前の節で示した通り,分割が停止する.そのため初期分割以降は,領域が8つ から変化していない.Case ➁,Case ➂ではk = 4時点では分割の停止は確認できなかっ た.ステップ数に対して分割数が指数的に増加しているため,この後も領域数は増加して いくと考えられる.
Case ➀,Case ➁,Case ➂ の領域数の増加を見比べると,複雑なダイナミクスを持つ システムであるほど領域が分割されやすいという傾向が見て取れる.確定的なハイブリッ ドシステムであっても一般的な離散抽象化では停止性が保障されていないが,確率ハイブ リッドシステムではさらに領域の分割数が増加しやすいと考えられる.
得られる離散ダイナミクスは有限時間区間内の物となるが,確率ハイブリッドシステム
の離散抽象化にはk-有界双模倣が適していると考えられる.
図 5.10: 分割階数と領域の分割数の変化